「ネタが楽しい場所に連れて行ってくれる」浅井企画発!すこやかほがらかピンコント〈GEININ DATABASE file.5 さとなかほがらか〉

編集部が「次のスター」として注目するお笑い芸人に話を聞く新連載『GEININ DATABASE』。

芸歴や事務所に制限を設けず、今注目したい芸人さんを取り上げる新企画です。お笑い専門メディアを掲げるWLUCK PARKだからこそ、いち早く次のスターに注目したいと考えました。

第5回に登場していただくのは、浅井企画所属のピン芸人・さとなかほがらかさん。

さとなかほがらかさんが芸人になったのは、2018年。最初はコンビでコントをしていましたが、2021年に解散後ピンで活動を開始します。2022年5月に浅井企画に所属後、めきめきと頭角を現し『THE W』決勝に進出。ダークホースとして、活躍を期待されています。

また『フットンダ王決定戦2023』では、応募総数約300の中から予選会メンバーの18名に選出。表舞台で戦う機会が急激に増えたさとなかほがらかさんの、“基礎”となる話を聞いてきました。

「お笑いに関わる仕事がしたい」裏方志望が、芸人へ

———芸人になる前は社会人として働いていたそうですね。どんな経緯で芸人になったんですか?

大学卒業後、図書館や公民館が併設しているような施設の職員になったんです。1年働いたタイミングで、大きな施設の立ち上げスタッフになって。それが忙しすぎたのか、顔から血が出て止まらなくなるみたいな謎の時期があって……で、1度働くことをストップしたんです。その時期にのんびりラジオを聴いたりお笑いライブを観に行ったりしているうちに、「お笑いに関わることをなんでも良いからやってみたい」と思ったんですよ。最初は作家さんとか制作スタッフとか、裏方をやろうと思ってました。でもそのタイミングで、中学の同級生の男の子に誘われたんです。「芸人をやりたい」って言われて、コンビを組んだのが芸人のスタートですね。

———最初から芸人を目指したわけでなく、根本にお笑いファンとして「お笑いに関わることがしたい」という気持ちがあったんですね。

そうですね。当時はいろんな事務所のライブに行ったり、ラジオが好きなので『マイナビラフターナイト』を聴いたりしてました。『マイナビラフターナイト』には、名前は知らなかったとしても「なんでこんなに面白いの?」って思うような芸人さんがたくさん出ていて。その方の事務所を調べて、いろんなライブに足を運びましたね。で、観ているうちにだんだんと「なにかしらで関わってみたい」と思うようになって。タイミングが合って、裏方ではなく芸人になったという感じです。

———当時はどういうライブに行ってたんですか?

満遍なく、いろんなライブに行ってました。人力舎さんの『バカ爆走』とか、浅井企画の事務所ライブにも行ったし……。新宿界隈に行くと、どこかしらでなにかやってるじゃないですか。あの辺に行ってました。あと、ラジオもよく聴いてました。TBSの0時台の番組とか、山里さんの『不毛な議論』(水曜JUNK 山里亮太の不毛な議論)とか、安住さんの『日曜天国』(安住紳一郎の日曜天国)とか……。で、少しずつ投稿もするようになって、「考えたり送ったりするの楽しいぞ」っていう気持ちが段々と蓄積されていって。それもあって、「お笑いに関わりたい」という欲が大きくなっていきましたね。

———裏方になることを考えていたのに、いきなり表舞台に立つことに戸惑いはありませんでしたか?

性格的に表舞台に立つのは向いて無いんじゃないかと思ってたんで、作家になろうと思ったんですけど、作家のなり方ってよく分からないじゃないですか。でも、芸人はライブに出ちゃえば芸人なので(笑)。だから、始めやすかったというのもあります。お笑いに関わりたいなら、芸人が1番、野良からでも始めやすかったんですよ。

———そもそも、芸人になるのに怖さはありませんでしたか?仕事で体調を崩してしまったとはいえ会社員をしていたところから、未来の見えづらい世界に入るのに躊躇はなかったのかなと思って。

美大出身ということもあって、ふわっとした世界に飛び込んでいく子がまわりに多かったんです。絵を描いて食べていきたいとか、作家になりたいとか。だからなのか、抵抗は無かったですね。親も「楽しいなら良いんじゃない?」みたいな感じだったので、「やってみよう」と。

———それで、2018年7月に同級生とのコンビ「コンコンパレード」を組んだんですね。初舞台は覚えてますか?

中野にある、視聴覚ホールだったと思います。舞台でもない特設の板みたいなところでネタをやったんですけど、床板が弾む“バインバイン”って音にセリフが負けちゃって……始めたは良いものの人前に立つのはやっぱり恥ずかしいというか、振りきれてない部分があって。床の音に負けちゃうぐらい、声が出てませんでした(笑)。

———当時はどういうネタをやっていたんですか?

コントで、私が相方を振り回すタイプのネタが多かったです。間接キス狙いでタバコを食べちゃうとか、猟奇的なことをしてタジタジにさせるみたいなネタが多かったですね。

自分のネタで「こんな笑いが起きるんだ」

———2019年8月に『他力本願ライブ』で空気階段さんにネタを採用してもらったそうですね。

※一般のラジオリスナーが投稿した漫才やコントのネタ台本から、選ばれたネタを芸人が披露するライブ。2019年8月24日にヒューリックホール東京にて『他力本願ライブ5』が開催され、南海キャンディーズ、アルコ&ピース、うしろシティ、ハライチ、空気階段が出演した。

そうなんですよ。結構なキャパ数だったと思うんですけど、そこで自分が書いたネタを空気階段さんがやってくれて。そのときに、会場全体に“ドドドドドッ”っていう笑いが起きたんです。自分が書いたネタでこういう笑いが起きるんだっていうのを目の当たりにしちゃって、そこで「絶対にいつか自分が舞台に立つ側で、これを浴びたい」って思いました。芸人をやっていこうっていう覚悟は、このときに固まったと思います。この直前の5月に事務所に所属したこともあって、「自分が笑いを浴びる側になるまで辞められないな」ってすごく思いましたね。

※ニュースタッフプロダクション。2022年1月に退所

———決意を固めたのは良いものの、コンビでの活動は長くは続かなかったんですね。2021年4月に解散。

解散したときは、「もう終わりかな」と思いました。年齢的にも28歳になってたし、野良から始めたので「相方と一緒にネタを作る」というやり方しか知らなかったので……でも「辞めないほうが良い」と言ってくれたり、ライブオファーをしてくれる人がまわりにいて。これだけ言ってくれる人がいるならと思って、もうちょっと1人で続けてみようかなと。

———コンビとピンでは、ネタの作り方もだいぶ違いますよね。

受け手がいるのといないのとでは、ネタの作り方はけっこう変わりますね。なので、当時はライブに出たら必ず動画に撮ってもらって、いろんな先輩たちに「これどうですか?」と聞いてまして。はじめましての芸人さんにも、「すいません、ネタ後ろで見てもらっても良いですか?」とかお願いして。独りよがりになってないかとか、違和感ないかっていうのはだいぶ見ていただきました。そこから少しずつ掴んでいって……という感じですね。

———これまでの活動を振り返ると、この頃はかなり追い詰められた時期なのではないでしょうか。

そうですね。解散してピンになって、「頑張ってみよう」と思えて最初に出た『R-1』で、1回戦落ちしてしまったんです。このときは、泣きながらいろんな先輩に電話して「辞める」とか「もうやだ」とか言ってました(笑)。ピンでも納得いく面白いものを作ろうと決めていっぱいライブに出て、いざ「これで挑もう」と『R-1』に行ったのに、1回戦で落ちてしまったので……。でも、いろんな人に話して、寝て、起きたらスッキリしてケロッとしてました(笑)。

———落ち込んでもすぐに復活できるタイプなんですね。

すっごい下がって「もうやだ!うわー」ってなるけど、寝て起きたら元気になってます(笑)。そういうのをずっと繰り返してますね。一瞬ダメージ受けて、その後は平気っていうタイプです(笑)。

浅井企画は、ほんわかのんびり

———2022年5月に浅井企画に所属されました。なぜ浅井企画に入ったんですか?

女性のピン芸人で活躍されている方がすごく多いのと、あとは“ほがらか”さ。アットホーム感があって、良いなと思って。ガツガツ前に出ていくことはしないけど、ネタはしっかり仕上げてくるようなタイプの方が多いので「居心地良さそうだな」と思ったんです。入ってみたら、やっぱり居心地良かったです。芸人さんも優しくて穏やかな人が多いんですよ。所属する前に事務所ライブに出たとき、私なんてどっから来た人間なのかも分かんないのに、袖で「楽しんでね!」「行ってらっしゃい!」とか言ってくれるんです。そのくらい、優しい事務所ですね。

———他事務所の芸人さんが、ライブかなにかで「浅井企画には優しい人が多い」とお話しているのを聞いた記憶があります。

本当に、ほんわかのんびりしている人が多いと思います。女性芸人だけで集まっても誰もピリついてないというか(笑)。本当に本当に穏やかなんです。バイト先全員、このメンバーだったら良いのにと思う(笑)。

———事務所に所属したくらいの時期から、この半年ほどで急激に結果を残している印象があります。事務所ライブでの優勝をはじめ、『THE W』はファイナリストに選出されました。なにか、ターニングポイントになるようなことがあったんでしょうか?

OLの衣装を手に入れてから、調子が良い気がします。コップのフチ子さんみたいな衣装なんですけど、これを着てからコールセンター、館内放送、エレベーターガールとか、お仕事系の設定コントができるようになって。自分が普段はコールセンターでアルバイトしてるんで、それを踏まえていつもやっていることをちょっとずらしてコントにしてみたり、元々やっていた声の出し方を使ってみたり……あの衣装を買ってから、自分の見せ方が分かってきたのかな。

———ターニングポイントは、衣装だったんですね。

そうですね。私、衣装や小道具からネタを作ることが多いんですよ。ネタに合わせて小道具を買うんではなく、先に買ってそれに合わせてネタを作ったらできた、とか、けっこうありますね。あと、自分で軽く絵コンテを描いたりもしますね。

———美大卒だからこその作り方かもしれませんね。

そうかもしれないですね。大学生のときも、課題を作るときは先に絵とか図を描いて、そこから派生して作っていくことが多かったです。先に全体図を描くというクセがついてるのかもしれないですね。

フェルトを刺しながら、自問自答

———よくご一緒する芸人さんで、「すごい」と思う方はいますか?

自分と系統は違うんですけど、元祖いちごちゃんさんが強すぎます。今、事務所ライブで誰も勝てないですよ。元祖いちごちゃんさんは、自分たちの雰囲気とかムードにピタっとハマるネタをつくるのがすごいお上手だと思います。同じくコントをやる身として、意識しますね。元々自分が持っているムードをうまく活かして、あれだけ毎回面白いネタを作ってくるって「どうなってるんだ?」と思って見てます。

———では、いつかこの人に「面白い」と言ってほしい憧れの芸人さんはいますか?

空気階段さんには、いつかネタを見てほしいですね。「あのときの者です!」と言いたい(笑)。あと、シソンヌさんも大好きで。特にじろうさんって女性役をよくやるじゃないですか。そういう方から女コント師ってどう見えてるんだろう、とかも気になります。

———今もっとも手前にある叶えたい目標は、やはり『THE W』優勝ですか?

そうですね。優勝。やっぱり、どうしても2本ネタをやりたいです。

———今までテレビでネタをやったことはありますか?

それが、無いんですよ。ショートネタがちらっと流れるとかはあったんですけど、しっかり地上波でネタをやるのは初めてです。

———決勝進出が決まってからは、どういう過ごし方をしてるんですか?

ライブに出て少しずつネタを修正するとかもしてますけど、なにより「平常心でやろう」って思っていつも通り過ごしてます。家でフェルト刺したり、のんびり。

———昔から、フェルト作家としても活動してるんですよね。

フェルトは学生のときから続けていて、「うちに納品しませんか」ってお誘いをいただいたお店に置いてもらってます。今は東京駅の中にある店舗や、吉祥寺のお店にたまに納品してますね。針でチクチクチクチクやってると、落ち着くんですよ。私、ぼんやりしている時間が1日の中でものすごく長くて。ただ座っているだけだと無意味すぎるんで、なんとなく手を動かしながらボーっとしてるんです(笑)。この時間、けっこう大事ですね。私、脳内のひとりごとがすっごい多いタイプなんですよ。自問自答しながら戦略を考えたり、今日あった面白いことを思い出したり、ネタを考えたりしてます。だいたい深夜にやるんですけど、無意識で口にも出てるみたいなので家族は怖いと思います(笑)。

———これから芸人の仕事が忙しくなっても、フェルトはずっと続けますか?

続けたいですね。フェルトを刺してる時間がすごく大事なので。歯を磨くくらいの感覚で、日常に必要な時間です。

———『THE W』に続き、『フットンダ王決定戦2023』でも予選会メンバーに残っていましたね。令和ロマンさんやエルフさん、さすらいラビー中田さん、ストレッチーズ高木さんなど、すごいメンバーです。

そうなんです。『THE W』もそうなんですけど、最近そうそうたるメンバーの中に「1人だけ誰?」みたいな機会が増えてきて。なんとなく、自分が「面白い」と思ったネタが、そういう楽しい場所に連れて言ってくれている感じがありますね。「ネタがいろんな場所に連れてってくれる」っていうことを、実感してます。

いつか、なんの肩書にも当てはまらないような存在に!

———1年後までに、どんな仕事ができていたら良いなと思いますか?

『オールスター感謝祭』、『ネプリーグ』、『逃走中』、『フレンドパーク』とか、参加型の番組に出てみたいです。あと、お散歩番組!いろんな商店街に行って、おじいちゃん・ばあちゃんとお話するような番組にも出てみたいですね。

———誰と一緒にお散歩するのが理想ですか?

阿佐ヶ谷姉妹さん、ずんさん、もう中学生さん。このメンバーでお散歩番組できたら……ちょっとヤバいですね(笑)!

———究極の質問になるんですが、「これが達成できたら芸人を辞めても良い」くらいの目標はありますか?

芸人を辞めるというか……フェルトはもちろん、ナレーション、お芝居とかいろんなことをやって、「この人の肩書、芸人だっけ?」みたいになるのが究極の理想ですね。いろんなことをやっているうちに、なんの肩書にも当てはまらないような存在になれたら究極だと思います。

———いろんなことに興味があるんですね。

興味がそのときによってポンポンと湧いちゃうタイプなんで、いろんなことをやってみたいですね。ナレーションだと、『激レアさんを連れてきた。』のルシファー吉岡さんの立ち位置がめちゃくちゃ良いなと思って。バラエティのナレーションとか、いろんなことに興味があります。

———では、最後の質問です。芸人になる前夜の自分に、ひと言かけるとしたら?

人前に立って声出せるかな?って不安に思ってると思うけど、その不安は寝たら飛び越えます。やってみたら楽しさのほうが勝っちゃう。だから「飛び込んだら、絶対楽しいよ!」って言いたいですね。

取材(文・写真)、編集:堀越 愛

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