ヤーレンズ・出井隼之介さんが物事の良し悪しを綴る連載『可否伝』。出井さんセレクトの「今月のコーヒー」情報とともに、心が揺れた“良し悪し”を語ります。
今月の可否
2023年も半分以上過ぎ、そういえば今年自分が年男だったなと思い出す。
干支三周目。あびる優、後藤祐樹と同い年、盗賊世代の36歳(早生まれ)。かなり良い年齢。
最近、周囲の同年代から聞こえてくる“加齢報告”に辟易している。
「昔ほど食べられなくなった」「酒が弱くなった」「記憶力が落ちた」などがそれに当たるのだが、
総じて「お前がザコなだけ。黙れ」と言いたい。
ガタガタうるせえなしかし(©︎カントリーズえざお)で、ある。30代でそんなこと言ってたらこの先どうすんだよ。
かく言う私、加齢全然余裕。報告事項特になし。
家系ラーメンに行けば、大盛り・硬め・濃い目・多め+ニンニク乗っけてご飯も食べる。その翌日はお腹の調子悪いけど全然食べる。
記憶は明瞭だし、酒は元から弱い。
ちょっと太ってきた。
なんだ。文句あんのか。
つまりなにが言いたいかと言うと、多少年齢を感じることがあったとて嘘でも口先では「OK、余裕」って言っとかなきゃダメだろ。口から先に老けていくぞということである。
そもそも、年を経て体が変化するのなんて自然なことだ。夏に日が長くなったり、冬に木々が葉を落とすのと同じ。そんな自然の出来事を話題にすんなよ。葉書の冒頭かよ。木の葉の色に秋の深まりを感じる昨今いかがお過ごしでしょうかじゃないのよ。
おじさんの大多数は、この加齢報告に代表されるように「いや〜、おじさんになってきたよ」なんてことを自分で言うことには抵抗がないのだが、他人から明確なおじさん扱いを受けると機嫌を損ねるから厄介だ。
しかし、世の中はおじさんが幅を利かせている「おじさん社会」なので、なるべくおじさんが機嫌良く過ごせるように仕組みができている。
どういうことかというと、みんな本当はおじさん達に「臭っ!!」「汚っ!!」と言いたいところをグッとこらえて「お若いですね〜」とか「〇〇歳なんですか!?見えな〜い!」みたいなおべんちゃらを言うということだ。
ただの疲れて枯れ果ているおじさんにさえ、かける言葉の無いあまり「落ち着いてて素敵」みたいなことを言ってしまう社会なのだ。
そしてそれらの言葉をしっかり間に受けて、自分を青年と勘違いしているおっさんが日々生産され、今日も無自覚に跳梁跋扈するという社会の悪循環が起きている。恐ろしい。
そんなおじさん一人ひとりの肩を叩いて「気持ち悪いですよ!風呂入って出直して下さい!」と言いたくなるところだが、それは叶わない。
これから容姿いじりなんて今よりできなくなるのだから、今後より一層事態は悪化していくことが予想される。
しかし、いつの時代も反逆者は現れる。
ショーン・ストリックランドという格闘家をご存知だろうか?彼はアメリカのUFCという世界最高峰の総合格闘技団体に参戦しているファイターなのだが、彼こそ今のポリコレ全盛時代の反逆者だ。
彼はインタビューなどで、他人の容姿はおろか、ジェンダーから個人の趣味嗜好に至るまで(人種差別はしない)他人をいじり、こき下ろし続けるスタイルで一部の格闘技ファンから人気を得ている。
(彼の発言は一部抜粋するのも気が引けるほど下品なものが多いので、もし興味がある方はXなどで調べてみよう)
そんなストリックランドは、中ランクの名物キャラとして扱われていたのだが、なんとこの度ミドル級のチャンピオンになってしまった。
しかも、イズラエル・アデサニヤという今後語り継がれるであろう名王者を倒してのけたのだ。これには世界中の格闘技ファンが驚いた。
ストリックランドのファイトは普段の言動とは違い粗暴さは一切なく、堅実で、スマートで美しかった。5Rに渡ってチャンピオンに良いところを出させず、完封した。金網の中の男は、あんな下品な発言をする人間には見えなかった。
「こういうの好きだな」と思ってその戦いに見入っていた。
フロイド・メイウェザーJr.などもそうなのだが、ビッグマウスであったり、粗野な発言をする格闘家のファイトスタイルが実は堅実というギャップが、この世で一番好きかもしれない。
チャンピオンベルトを巻いたストリックランドは言った。
「このチャンピオンベルトにはなんの価値もない。これを得るまでの過程に価値があるんだ。応援してくれてありがとう、みんなの為に戦った。愛してるぜ!」(要約)
土壇場で無茶苦茶良いこと言うんかい。人生の土壇場でこそその人の本質が出るのかもしれない。自分の土壇場も近い。自分がどんな人間なのか、楽しみだ。
~今月の可否~
可→ ビッグマウスだけどファイトスタイルは堅実な格闘家
否→年取った系の報告、おべんちゃらを間に受ける汚いおじさん
今月のコーヒー【SCAJで買い漁った数々の豆】
アジア最大規模のコーヒーの祭典『SCAJ』(Specialty Coffee Association of Japan)に遊びに行ってきた。
専門業者によるコーヒー機材の販売ブースに加え、名うてのコーヒーショップが全国から集まって試飲ブースを出店しているという、我々コーヒーラバーにとって年に一度のお祭りだ。
東京から遠めの店を中心にそこそこ買い漁った。まだ全部飲んでないが、楽しみ。今のところ熊本のCoffeedotの豆が無茶苦茶美味しい!
PROFILE
ヤーレンズ・出井隼之介
ケイダッシュステージ所属
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・note:https://note.com/yarlens_dei/
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文:ヤーレンズ・出井隼之介
構成:堀越 愛
写真&サムネイル:ヘンミモリ