芸人兼漫画家として活動する畠山達也さんが、独自の視点で「芸人」を見つめる連載『ゲイニンマンガ』。漫画とコラムで、畠山さんから見た「芸人」を描き出します！
鬼スランプ
盛り塩時代のネタ帳
はじめまして。
芸歴17年目の芸人、畠山達也（39）です。
NSC大阪29期生で、同期には見取り図・金属バット・吉田たち・ヘンダーソン・石井ブレンド・ヤーレンズ出井・ファニーなどがいます。
『ガスマスクガール』『シチガツ』というコンビで大阪で活動、現在は東京でピン芸人として舞台に出たりマンガを描いたりしています。
そしてこの度、Xやinstagramに掲載している自分のマンガがきっかけでワラパー様にてコラムを連載させて頂くことになりました。
とても嬉しいです。
これは余談ですが、このコラムを書いている今、前歯の差し歯が取れています。
連載『ゲイニンマンガ』では、芸人をテーマにしたマンガを描きます。
最初は、同期のもりすけが酔っ払ってヘンダーソン中村のソファーにションベンをした話を描こうと思ったのですが「まずは自分のことを書いてくれ」ということだったので『ネタ』をテーマにすることにしました。
僕はコンビの頃からネタを考える担当でした。量産できるタイプではないのですが、それでもなんとかライブに向けて作って来ました。
そんな中訪れた、2012年の鬼スランプ。
スランプなんて大袈裟な……鬼までつけちゃってさ！と思われるかもしれませんが、ここではそう言わせてください……。
もう本当に、なにも浮かばなかったです。
この前年「ガスマスクガール」を解散しました。そしてその翌年の2012年に「シチガツ」を組みました。
つまり結成１年目。
前のコンビのときは割と早い段階でそれなりの結果を残していましたが、シチガツでは劇場に所属するためのオーディションライブの１次予選で落ちるなど結果が伴わず、そのことに焦っていたのだと思います。
「相方が変わればネタも変わる」ということをちゃんと考えず、ただただ「新しい」とか「見たことない」とかそんなネタを考えることに固執していました。
いろいろ要因はあると思いますが、つまりは自分のせいです。
そんな状態なので何時間考えてもネタが浮かびません。それでも次のオーディションライブ１次予選はやってきます。
「新しい……勝てるネタを作らなければ」
「早く結果を出さなければ」
このとき、相方や周りの人に相談する、作家さんと相方の三人でネタを作るなどいろいろ対策はあったと思います。もう本当にどうしようもないときは人に頼れば良かったんです。助けを求めれば良かったんです。
でも僕にはそれが出来ませんでした。自分でなんとかしたかった。
というか自分でなんとかしなければ自信を取り戻せないと思い込んでいたんだと思います。
そんな状況のなか、僕が取った対策は、
それは突然のスピでした。
もう無理だって。人に頼れって。
盛り塩の前で人を笑かすネタ考えるのは無理だって。
自分の力で……とか言っておいて思いっきり風水的なものに頼っていました。
今回このコラムを書くにあたって過去のネタを見てみようと思い、今までのネタ帳を引っ張り出しました。
捨てたノートもあるかもしれませんが、これが17年分のネタ帳です。
そしてこのネタ帳達の中で、一つだけ異彩を放つノートがありました。
２０１２年、盛り塩時代のネタ帳です。
特級呪物のような雰囲気を醸し出しているこのノート。
正直このときどんなネタをしていたかほとんど記憶に残っていませんでした。今回はこのネタ帳の中身を皆様にご紹介したいと思います。
果たして盛り塩を置いた効果は現れていたのか……ではノートを開きます。
1ページ目……
全然効果ねぇじゃん。
1ページ目から「引きこもりAV男優」じゃん。
ただただ山みたいにした塩を机に置いてるだけでした。
さてそのネタの続きが書かれている2ページ目へ。
紙飛行機と思われる物体から出される弾の落書き。その擬音が「ピュピュピュ」。
AV男優のネタのページに「ピュピュピュ」とか書くなよ。
もはや集中力も底をついていると思われる盛り塩時代。
さらにページをめくると出てきました。女力士。
新しいとか見た事ないに固執してたのに、結果出来たネタは
「おっぱい出てる」でした。
このコラムを書くにあたって当時の記憶を思い出すため、元相方の浮田に電話をしたところ
「女力士はホンマにスベった」
と言っていました……。
ちなみ女力士役は相方がやってくれました。
※ネタの内容はマンガに合わせ、乳首出してる女力士という設定以外セリフなど改変いたしました。当時の内容を覚えている人は0人でしょうけど一応書いておきます。
他にもノートには台本だけではなく、アイディアやネタの設定などが書かれていました。盛り塩効果0のそれらの一部をご紹介致します。
ヤマダと家電で私立を挟んだ小学校の意味不明すぎる設定
「近畿地方のある場所について」を読んだ人の適当なレビューのような設定。本当にヤバイ奴は山ではなく家にいる本人だとは気付いていない様子。
どこを切り取っても鬼スラの27歳の僕。
本当にこの頃ヤバかったんだなぁと思っているとノートも残り2ページ。そのページにはあるネタの流れが書かれていました。
それは『暗号』というネタでした。
端的に言うと、出来そうな見た目の奴がずっと暗号の問題ミスりまくるというネタ。
この『暗号』がシチガツ結成以来、初めて「ウケた」と実感することが出来たネタで、手前味噌ですが我々の代表作のようなネタでした。
『引きこもりAV男優』から始まったこのノート。
書くネタは全部スベるデスノートと思われたこのノート。その最後の最後に『暗号』が出来ていました。
このネタが「新しい、誰も見たことがないもの」かどうかは分かりません。
ただ、恐らくこのノートの最後ら辺から少しずつ調子を取り戻していったんだと思います。
そして現在。
もがき苦しんだ2012年から11年後。
僕は今年からピンで劇場のオーディションライブに出るようになりました。
いまだに1次予選で落ちてばかりですが、ピンで勝ち上がるためにここまでネタを作ったのは初めてです。
そんなこともあり、2023年が僕のピン芸人1年目だと勝手に思っております。
そんな今年の6月から使い始めたこちらのノート。中身を見てみましょう。
『火葬場から出てるケムリは人を焼いているケムリ』
再び机に盛り塩を置く日が近そうです。
漫画・文：畠山 達也
構成：堀越 愛
協力：秦 法爾
サムネイル：つるみ32
PROFILE
畠山 達也
・X（@hatatatsu1124）
・Instagram（hatatatsu）
・note：https://note.com/hatatatsu112429/
・YouTube：ハタタツチャンネル
～作品情報～
●読切りマンガ『凡太は普通に生きている』（少年ジャンプGIGA 2016 vol.4）
●読切りマンガ『しろすぎ！アクノソシキ』（週刊少年ジャンプ／2016年11月）
●『未読無視してんじゃねぇよ』（原作：畠山達也、作画：杠憲太）
●『山田夢太郎、外へ行く』（原作：畠山達也、作画：修行コウタ）
●『カスミの地味な未確認生物的返済生活 1巻』（原作：クロスバー直撃・前野、作画：畠山達也）
