芸人兼漫画家として活動する畠山達也さんが、独自の視点で「芸人」を見つめる連載『ゲイニンマンガ』。漫画とコラムで、畠山さんから見た「芸人」を描き出します！
単独ライブ前日
ギリギリ
あけましておめでとうございます。
初夢はバイト先でレジの金マイナス出す夢でした。
起きて舌打ちしました。
本年もよろしくお願い致します。
さて、このコラムを書いてる現在、故郷の岩手に帰省中です。元日に実家のリビングでこのコラムを書いております。
若手芸人は年末年始、劇場やテレビに出演して働いてるほうが良いのですが、コラムを書いているので働いているとします。
今回のゲイニンマンガ、テーマは「ギリギリ」で書かせて頂きます。
ギリギリとは舞台前日までネタが仕上がってない、もしくはなにもできていない状態です。
芸人は……というと「主語がでけぇんだよ！俺は違うわ！」と言われそうですが……舞台前日ギリギリまでネタができてない人が多いと思います。（「主語がでかい」を最近覚えました）
私もそのひとりです。
新ネタを数本するライブ前日の夜中、楽屋でケンシロウくらい眉間にシワを寄せ「あと1本白紙状態……」「まだ仕上がってない」という芸人をちらほら見かけます。
そしてこのときは、もうこんな目に遭いたくないので「次こそは早く取り掛かろう！」と思うのですが、次の新ネタライブの前日もケンシロウになっています。
なぜこうなるかというと単純にサボってた……という場合もあると思います。が、多くの場合は一応ネタの案はあるがそれに納得していないためにギリギリまで他の案を考えている、ということが多いと思います。
恐らくこのギリギリ現象になる芸人はみんな「なんとかなってきた」という成功体験があるはずです。
結局、なんとかなるのです。
と言うかなんとかしなきゃならないので脳がフル回転しエンジンがかかってなんとかなるのです。
そしてこのギリギリにできたネタが一番ウケたりするのです。
そう！！この一番ウケたりするという成功体験が良くないのです！！
この成功体験のせいで「次こそは早く取り掛かろう！」に失敗するのです。
成功のせいで失敗するのです！！
でも勝負ネタになったりするのでまたギリギリまで考えてしまうのです！
そうは言ってもライブの前日とか２日前になるとほんと焦りまくって、「相方、風邪引いてライブ延期になったりしないかなぁ」などと考えるのです！！（自分ではなく相方が、というところがクソですね！）
まぁ……良い言い方をすればギリまで面白いネタを作りたいという芸人の意地なのですが、もっと早くやっておけば……と毎回後悔します。
そして私の中で今まで一番ギリギリだったのは、ガスマスクガールというコンビを組んでいたときの第2回単独ライブだと思います。今回のマンガのときです。
新ネタは6本くらいあり、当日の朝までネタを作っていました。
コント単独は漫才単独と違い、照明、音響、小道具、衣装などスタッフさんにお願いすることが多いです。
なので単独の約一週間くらい前に「このセリフを言ったら照明が暗転する」、「この小道具を用意してここに置いてほしい」などが書いてある「キッカケ台本」というものを提出します。
つまり一週間くらい前にはやるネタを決めておかなければなりません。
じゃあ当日までだいぶ時間あるじゃんとお思いでしょう？
設定だけで中身はほぼなにもできてないのだよ！！
中身はこれから作るのだよ！！
この第2回単独は全部コントで手作りの小道具も多く、それらを準備しながらネタの中身を詰めていく感じでした。
そしてこの単独が本当にギリギリだった理由は、タイトルだけが決まっており中身が本当になにも決まってないコントが1本あったからです。
そのタイトルは
「ヤクザ」。
「ヤクザ」という設定だけがあり、やることが決まっている状態。
タイムスリップしたヤクザとか具体的な設定がある訳でもない、まっすぐなヤクザ。
もはや設定でもなんでもないまっすぐなヤクザ。
ネタ前に舞台の後ろのモニターにコントタイトルを出すのですが、「ヤクザ」というタイトルの静止画はスタッフさんにすでに作ってもらっているのでタイトル変更もできません。
しかもキッカケ台本には【⚪︎明転（中略）オチ台詞⚪︎暗転】という「出さなくてもいいよこれなら」なシンプルなものを提出しているので、途中音を入れたりなどもできないという状況。
こうして単独前日に僕と当時の相方ヤマゲン（現ネコニスズ）、そして作家さんの3人で多分この先二度とないであろうヤクザ縛りでネタを作ることになりました。
あれこれ悶々と考え、時刻は深夜3時ごろになった頃。
「鳥だ！飛行機だ！いやUFOだ！」から着想を得てなんとかネタが浮かびました。
⚪︎暗転中、ヤマゲン板付き
⭐︎影マイク、畠山「鳥だ！飛行機だ！」
⚪︎明転
ヤマゲン、パンチパーマのヅラを被りお客さんを睨みつけている。
⭐︎影マイク、畠山「いや、ヤクザだ！！」
というネタの入りでした。
ほら！！できた！！
ギリギリでもなんとかなった！！！！
夜中にネタが浮かんで安堵する3人。
そしてそこから内容を詰め、ついに開演となりました。
「ヤクザ」のネタは2本目。
曲が流れる中モニターには「ヤクザ」の文字。
暗転中にヤマゲンが板付きします。
影マイク、畠山「鳥だ！飛行機だ！」
明転。
ヤマゲン、パンチパーマのヅラを被りお客さんを睨みつけている。
影マイク、畠山「いや、ヤクザだ！！」
めちゃくちゃスベリました。
今日の元旦の朝くらい静かでした。
でも空気は澱んでいました。
あれですよ？
クスクスとかもないヤツですよ？
自分たちの単独で自分たちのネタを見に来てくれたお客さんがひとりも笑ってないんですよ？？？
あれですよ？
ここから4分間「〇〇だ！〇〇だ！いや、ヤクザだ！！」の連続ですよ？？？
今思えば「鳥だ！飛行機だ！いや、ヤクザだ！！」ってなんですか？？？？？
僕は影マイクでずっと喋るネタでしたがヤマゲンは何度も舞台からハケ、ヅラや小道具を変え、また違うヤクザになりお客さんを睨みつけてスベるの繰り返し。
僕がヤマゲンだったら途中で「どうも！ありがとうございました！！」と終わらせるかもしれません。
やり切ってくれたヤマゲンありがとう……。
この大スベリヤクザが尾を引いたのか、後に控えるネタもほぼほぼスベッた記憶しかありませ
ん。
このとき僕は「なんとかならないこともある」「ギリギリにできたネタだからと言って良いネタにはならない。むしろ冬の朝を迎えることがある」という教訓を得ました。
それからはあの第2回単独のときのようなことはほとんどありません……。今思い返しても本当に身の毛がよだつので……。
そして今回のゲイニンマンガ第2回。
締切ギリギリなのです。
「なのです」じゃねぇよ！！
結局ギリギリじゃねぇか！！
帰ってくる前に東京で書けよ！！！
元日に実家のリビングでコラム書いてる芸人いんのかよ！！！！
元日に実家のリビングで「コラム書いてるので働いているとします」じゃねぇよ！！！！！
結局帰省中には書き終わらず、東京戻ってきてからも書いてます……。
12月の上旬にワラパーの担当さんが優しさで「年始ですし締切もう少し先にする事できますよ」とおっしゃってくださった時（12月中に終わらせるから大丈夫っ☆）と思って先にしてもらわなかった自分の秘孔を突きたいです。
結局、あのときからなにも成長していない僕。
しかし今年で40歳になるので流石にちゃんとします。。
余裕を持って締切やネタライブに取り組むことを今年の目標とさせて頂きます。
というわけで今回のコラムはこれで終わりです。最後まで読んで頂きありがとうございました。
よし
なんとかなった。
漫画・文：畠山 達也
構成：堀越 愛
協力：秦 法爾
サムネイル：つるみ32
PROFILE
畠山 達也
・X（@hatatatsu1124）
・Instagram（hatatatsu）
・note：https://note.com/hatatatsu112429/
・YouTube：ハタタツチャンネル
～作品情報～
●読切りマンガ『凡太は普通に生きている』（少年ジャンプGIGA 2016 vol.4）
●読切りマンガ『しろすぎ！アクノソシキ』（週刊少年ジャンプ／2016年11月）
●『未読無視してんじゃねぇよ』（原作：畠山達也、作画：杠憲太）
●『山田夢太郎、外へ行く』（原作：畠山達也、作画：修行コウタ）
●『カスミの地味な未確認生物的返済生活 1巻』（原作：クロスバー直撃・前野、作画：畠山達也）
