僕の渋谷事変 ~日曜、42型テレビ、ハチ公前~【「ゲイニンマンガ」7月号(漫画&文 畠山達也)】

芸人兼漫画家として活動する畠山達也さんが、独自の視点で「芸人」を見つめる連載『ゲイニンマンガ』。漫画とコラムで、畠山さんから見た「芸人」を描き出します!

集合はテレ公前

「42型のテレビ」を「電車」で「日曜」の「渋谷」に運ぶ

こんにちわ。ゲイニンマンガ7月号のテーマは「大道具運び」です。

前回の「小道具運び」で持ち運んだものは人形3体とローションでした。

物としてはまぁまぁヤバめでしたが、「持ち運び」に関して言えば小さいのでリュックに入れてしまえば簡単です。

しかし大きいものになるとそうはいきません…。
では今回、自宅から劇場に運ぶものを紹介します。

テレビです。

もう一度言わせてください。

テレビです。

42型のテレビです。

今回は、「42型のテレビ」「電車」「日曜」「渋谷」に運ぶという、すべてがしんどい工程となっております。

このテレビをネタで「モニター」として使用するのは、今年4月に行われた劇場に所属するためのライブ「ムゲンダイドラフト1次選考」になります。

3ヶ月に1回しか開催されない大切なバトルイベントです。

エントリーをした100組ほどの芸人が25組に分けられ、順位を競います。そして25組中点数の高い上位5組が2次選考へとコマを進めることができます。

モニターを使ったネタをする芸人はほとんど見かけず、芸人の数も大勢なライブなのでこれは目立つのでは…?という算段もありました。

しかし、運ぶ途中でテレビがぶっ壊れてしまってはネタが出来ません。

というか今後の生活にもめちゃくちゃ関わるので壊れるのはだる過ぎます。

もしそうなった場合、本番でぶっ壊れたテレビを撫でながら『今までこのテレビで観た面白かった番組ベスト10』を泣きながら話すかもしれません。

そんな地獄にならないようライブ前日に入念な準備をします。

まずはネットで『テレビ 運び方』で検索。
すると予測検索で『テレビ 運び方 車』と出てきました。
そう出来るならそうしたいわ!と憤りながら、緩衝材の代わりになるものなどを調べました。

液晶を守るにはプチプチが最適なようでしたが「少しでも安く、さらに工夫してより安く、っていうか出来るならタダで」の精神で、段ボールを使うことにしました。

という訳でさっそく近所のスーパーへ向かいます。

なぜスーパーかというとコントで小道具を作る際、いらない段ボールを貰えるのを知っていたからです。

店に着くとタイミングよく段ボールから商品を出している店員さんを発見!

僕は心の中で(アダシねぇ…毎日ねぇ…ここを7年ほど使わせてもらってる者なんですけどねぇ…)の前置きをし「すみません、その段ボールって頂けたりしますか?」と声をかけました。

すると店員さんは快く譲ってくれました!

お礼と買い物をした私は家に帰りさっそく作業へ。

段ボールを切り貼りして……

この様になりました。
見栄えは悪いですがこれで液晶を多少の衝撃から守れるはず。

そして今度はテレビの側を守るために

毛布で包みました。

そしてこれを抱えて歩く訳にはいかないので、

趣味のキャンプで使う台車に乗せました。
これで完成です!!

……

これを運ぶのか…。

ネタのためとはいえ…

正直……

めんどくさい……。

っていうかこれ見た目からして結構怪しくないか…?
なんだこの四角い毛布は…。

女の子3体はリュックの中に入っているので顔さえ爽やかにしておけば職質はされません。

しかし今回は見た目からして怪しい気がしてきました…。
なにを包んでいるか分からなさ過ぎる…。

それなら例えばこうしてみてはどうか。

怪しい。

これはこれで「本当に中身テレビか…?」と思われそう…。

それなら社会的にみんなが知っていて信用のある名前を書けば怪しくないのでは…

怪しい。
手書きの「吉本興業」は嘘っぽいし、なによりなんか会社にも迷惑かけそう…。
これはもう変な細工はせず今までの小道具運びで培った爽やかフェイスでカバーしよう。

さて、問題はまだあります。
まず電車にテレビを持ち込んでもいいのか?

調べたところサイズなどは規定内。
駅員さんにも聞いたところ大丈夫とのことでした。

次は日曜日という人が多いであろう電車をどうするか。

経路は
阿佐ヶ谷→(総武線)→新宿乗り換え→(山手線)→渋谷

となります。時間は約30分。

他のお客さんの邪魔にならないよう空いている時間に乗り込み、車両も先頭、もしくは一番後ろにします。

そしてここからが一番重要。

渋谷駅の出口。

いつもなら「ハチ公改札」から出るのですが、あのスクランブル交差点の人ごみを越え、その先のセンター街を進むのは大変そうです。
調べた結果ハチ公改札から少し離れた「南改札」を使うことにしました。

一通り準備と下調べを終え、とにかく無事を願ってその日は眠りました。

そして迎えた当日。
僕の渋谷事変の日です。

テレビを家から持っていくという緊張からかアラームより前に起床。

なんかもう「ウケて上位5組に入る」から「テレビを無事に持って行って帰ってくる」が目的になってる気もしますがとりあえず家を出ます。

玄関の扉を開けるとまだ4月だと言うのにめちゃくちゃ暑い…この中を運ぶのか思っているとすぐに第1の難所。

家の階段。
わかっていたことですがこれはもう普通にダルい。
テレビを両手で抱え込みゆっくり一歩ずつ降ります。
途中、漫☆画太郎先生の鉄板オチが脳裏をよぎりましたが無事階段をクリアー。

あらかじめアパート前に待機させておいた台車にテレビを乗せます。

顔が爆弾運びになっていたので

切り替えて出発です。

そこからはちょっと拍子抜けするくらい予定通りでした。
電車も混んでおらず、乗り換えもスムーズに。
割と楽に渋谷駅と到着しました。

そして南改札から駅を出ます。

ここから東出口の方に進むと思惑通りハチ公改札と比べてほとんど人がいませんでした。

「ほれみたことか!」と意気揚々と歩く僕。
色々と不安はありましたがここまでくれば目的地の∞ドームはあと少し!

…あと少し…

なんですが……

しばらく辺りを見渡し、思いました。

「ここから…∞ドームへの行き方がわからない…」

何度も来ている渋谷だったので改札変われど∞ドームには行けるだろうとたかを括っていました…。

行き交う大人たちの中、迷子の少女のように茫然と立ち尽くす39歳のおじさん。
うさぎのぬいぐるみではなく42型のテレビを抱きしめ立ち尽くす39歳のおじさん。

いや、実際はマップを見れば着くのでしょうが、マップを見ても『センター街』をなるべく避けて行く方法が分からなかったのです。
クソォ…南改札からの人が少なさそうなルートも調べるんだった…!
なにが「入念な準備をします」だよ…!

…で…ここから…どうする……。

早く家を出たので入り時間にはだいぶ余裕があるのに謎に焦る僕。

目の前は知らない景色…

とにかく1秒でも早く∞ドームに着きたい僕は、とりあえずここから見たことがあるビルの方へと歩き始めました。

道を進むと少しずつ人も増え始めました。
僕は人にぶつからないように、テレビが落ちそうになってないか後ろを確認しながらゆっくりとゆっくりと歩きました。

そして5分ほど歩いたでしょうか。
ようやく見慣れた場所へと辿り着きました。

ハチ公前でした。

どうなってんだよ!!
人ごみのハチ公前避けて南改札から出たのに気付いたらハチ公前にいたよ!!
どうなってんだよ!!

……いや…それもそのはずです…。
見たことがあるビルは、ハチ公前にあるビルなんだから…。

…なんなんだ…僕は一体なにをしているんだ…。

ちゃんと調べていない自分のせいとはいえ、たくさん準備したのにこれはあまりにも不憫だよ…。

これはもう今日の僕の銅像を南改札前に建ててくれないと今日の僕が報われないよ…。。

訳のわからないことを考えながら、結局避けるはずだったスクランブル交差点を渡り、センター街を突っ切り、∞ドームへと辿り着きました。 

とりあえず…とりあえずドームには着いたので安堵する僕。

そこから練習などをして出番順のクジ引き。
なかなかいい順番。

テレビの電源を付けて壊れてないかを確認し、コントのリハーサルも無事終わりました。

僕は客席に座り、ここまでの道中を冒険してきた相棒のテレビと共に、他の演者のコントリハーサルを見ていました。

モニターを使う演者が他に2組いました。

どうなってんだよ!!
他の芸人より目立つと思ってたのに!
普段モニターを使う芸人は1公演でいても1組、っていうか使う芸人がいない方が普通なのに今日に限って3組!?

こうして僕の算段は脆くも崩れ去りましたが

「きっと大丈夫…!俺のモニターが一番デカい!!」と全然なにも大丈夫じゃない切り替えをしました。

そして迎えた本番。

モニターを使うのは今回が初めてでしたが、トラブルもなく無事にやり切りました。

ライブ後、先輩のしらんやつらさんにラーメンをご馳走して頂き、一緒にライブの結果をスマホで見て、しらんやつらさんは通っていて僕は落ちたのを確認したあと帰りました。

家に着き、テレビの電源を入れて何も故障もしていない事を確認。
朝から動いていた疲れもあり、その日は早々に眠りに付きました。

そして翌朝。
ライブ終わりに飲んだお酒がまだ残っているのか、なかなか布団から出られない僕。
目をつぶったまま、その辺にあるであろうアイコスを手だけで探します。

タバコを本体へ装着しひと吸い。

7時間ぶりのニコチンが体内を巡るのを感じながら僕は思いました。

「テレビ持って行って落ちるんかい」

漫画・文:畠山 達也
編集:堀越 愛
協力:秦 法爾
サムネイル:つるみ32

PROFILE

畠山 達也

・X(@hatatatsu1124
・Instagram(hatatatsu
・note:https://note.com/hatatatsu112429/
・YouTube:ハタタツチャンネル


~作品情報~

●読切りマンガ『凡太は普通に生きている』(少年ジャンプGIGA 2016 vol.4)
●読切りマンガ『しろすぎ!アクノソシキ』(週刊少年ジャンプ/2016年11月)
『未読無視してんじゃねぇよ』(原作:畠山達也、作画:杠憲太)
●『山田夢太郎、外へ行く』(原作:畠山達也、作画:修行コウタ)
『カスミの地味な未確認生物的返済生活 1巻』(原作:クロスバー直撃・前野、作画:畠山達也)