「お笑いが安く見られるのが嫌」芸歴15年は一流だから、辞めなくていいと伝えたい【ねじ インタビュー(中編)】

2021年1月末、所属していた事務所を独立しフリーになったねじ。さらに、ササキユーキさんは単身秋田移住を発表しました。インタビュー中編では、「エンタメに対する価値観」や「芸人の新しいビジネスモデル」についてお話を聞きました。(前・中・後編の中編/前編後編へ)

秋田のエンタメが弱いのは、「知らない」から

―二人の活動拠点が離れてしまいますが、それぞれ一人ではなにをするんでしょうか?

せじも: 僕は一生懸命バイトと、配信ですね。申し訳ないですが、ピンでは(ライブに)出ません!

ササキユーキ(以下、ササキ): ライブ出なさいよ(笑)。

せじも: いやいや(笑)。土井さん(元・ゴールドラッシュ)とかとトークライブはやるかなぁ。でもライブが少なくなる分、動画撮ったりはしたいですね。

ササキ: リモートでネタできないかな。せじもさんが生で、俺がリモートで映像つないで。そういうネタ考えてもいいし、離れているからこそのことができれば楽しいかな。

せじも: 逆に俺も気になってた。ササキ君は秋田でなにをするの?

ササキ: 手探りなんですけど、まずはMCの仕事をしたいなと。求められる場面ってけっこう多いはずだから。あとはラジオ、テレビ。情報番組的なものでリポーターとかね。向こうでは、芸人というよりタレント活動みたいになると思うんですよ。ただ、これに関しては「やりたい」だけでできることじゃないんで、お話があればやりたいなと。あと、自分一人でできることって考えたら……カルチャースクールの講師とかやってみようかなと。

―カルチャースクールですか。

ササキ: 雑談力講座みたいな。オファーを待つんじゃなく、自分で動いて。

せじも: 最悪路上でね(笑)。

ササキ: やばいおじさんだ。路上で雑談をしてお金くれって(笑)。でも俺ら今フリーだから、自分で窓口作っちゃえばできるんですよね。……って思ったら、あれ?けっこうやれることいっぱいあるかもみたいな。俺がやろうと思えばやれるんかと。

―先日、ササキさんがnoteで「秋田に行ったら最初にするのは仲間集め」と書いていたのが印象的でした。これって具体的にどういうことなんでしょうか?

ササキ: 秋田と行き来してて思うのが、「秋田のエンタメが弱すぎる」ことなんですよ。直接ギャラ交渉をすると、僕らに付ける値段が異常に安かったり、そもそも「(芸人を)やりたくてやってるのに金取るの?場所を与えてるだけマシでしょ」みたいな感覚の人もいて。エンタメそのものの価値をあんまり分かってないんだな、と。

それってなんでかなと思ったら、多分「知らないから」なんですよ。そこを根こそぎ変えるのは相当大変な作業だし、たくさんの仲間が必要だと思ったんです。自分たちのギャラが安いことに不満を持ってると捉えられてしまうとそれは違くて、僕は「お笑い」が安く見られるのが嫌なんですよ。

秋田には「痛いやつ」がいない

―お笑いをはじめ、秋田ではまだエンタメの価値が知られていないってことですね。

ササキ: 演歌にはお金かけるけど、最近のバンドミュージックにはお金かけないとかもあるしね。それって結局、価値観の違いじゃないですか。でも、若いエンタメやお笑いを欲してる人たちはいるんですよ。そういう人たちに、「あるよ!」って言えればまた変わってくるんじゃないかなと。

せじも: そうね。

ササキ: 同じく不満を覚えてる人が、絶対秋田にいっぱいいるんすよ。エンタメに関わる人たちは、やっぱりどっかで不満があるんですよ、秋田の価値観に。そういう人たちと仲間になりたい。で、秋田には「お笑い屋さん」がいなかったんですよ。だから僕がそれになる。あとね、これは県民性か分かんないですけど、多分俺みたいに“痛いやつ”がいなかったんですよ。

せじも: (笑)。いないだろうな~。

ササキ: 痛いやつが足りないんですよ。だから、俺も大マジで、「秋田のエンターテイメントのリーダーになるんで、俺に協力してくれ」って言いに行こうと思ってます。

せじも: (笑)。

ササキ: 「誰かやりませんかね?」みたいな状態の人が多いから。

せじも: 人がいたとしても、そこに見合う実績というか箔がなかったりね。そういう意味では、単独ライブで1,000人集めたっていうのはちょっとパンチになるんじゃないかなって。

ササキ: ねじは秋田で1,000人集められますよっていう実績と、あと僕の詐欺まがいの話術があれば(笑)。多分同じように思ってる同志がいっぱいいるから。テレビ局やラジオ局にもいるし、イベンターさんとか音楽の分野にもお芝居にもいると思うんですよ。そういう人たちと「もう空気読まずにでかいことやりましょ」みたいな……そういう意味での仲間ですね。

―同じ想いを持った、エンタメの仲間ということですね。

ササキ: そうそう。価値観を変えることは正直できないから、新しい価値観を作りに行くしかないというか。同意してくれる人をどんどん増やして、一つの派閥にしちゃえば戦えるんじゃないか?と思って(笑)。何かを起こせると思うんですよ。自信があるんです。

「辞めるなら今だよ」

―せじもさんは、「あきた いざたん」アンバサダーに就任されたそうですね。

※秋田ゆかりのお店と人、郷土の食をつなぐコミュニティー。秋田の活性化を目指し、情報発信をしている

せじも: 「あきた いざたん」は、秋田出身のいろんなタレントがアンバサダーになってるんですよ。前に、仕事でたまたま事務局の方にお会いしたことがあって。「(アンバサダーに)ならせてください」とメールしたら、すぐ「良いですよ」って。アンバサダーってこんな簡単になれるんですね(笑)。

秋田料理の店で食べているところを自撮りしてYouTubeで紹介するとかなら、東京で一人でもできるじゃないですか。あと秋田のお酒を仕入れて、知り合いのバーでイベントやるとか。(相方と)別々で一人でもできることだし、お酒飲むのは自分の好きなことでもあるし。そういう活動をするために、ひとつ箔を付けたくて。

―アンバサダーになるために、自分から動いたんですね。

せじも: そうですね。バカな面して言っちゃうってのは、一つ方法としてあるなと思って。

ササキ: 大事。そういうのフリーだと動きやすいよね。

―こうやって考えてみると、お二人にとってフリーになったことはプラスしかなさそうですね。

ササキ: ちょっと別の話になりますけど、絶対今辞めたほうが良いと思うんですよ。僕ら、たまたまオリラジ(オリエンタルラジオ)やキングコングと同時期に辞めたけど、けっこう大ニュースだったじゃないですか。ライブシーンでは、僕らや虹の黄昏とかが辞めたりして。辞める人がポツポツ出てくると「あれ?(事務所に)いる俺らはなんなんだ?」と、辞めるラッシュが来る。そうすると、多分“事務所が辞めさせない”って時期が来ると思うんですよ(笑)。

せじも: (笑)。

ササキ: ある一定で「ちょっと待って」と(事務所が)言い出すと思うんですよ。そうなったら辞めたくなっても辞めらんない。「辞めるなら今だよ」って俺は芸人に言いたい(笑)。

せじも: オリラジとかは結構大御所というか、上の人じゃん。だから「辞めてもなんとかなる」って思うけど、俺たちが辞めたらちょっとリアルじゃないですか(笑)。

ササキ: ブームになってからだと遅いよ、ってね。YouTubeもそうだったじゃないですか。「今更始めたの!?」みたいになる。だから、今のうちじゃないかな。

せじも: そうそう。

運が無かったと諦めてほしくない

―これが、以前ササキさんが言っていた「芸人の新しいビジネスモデル」の話に繋がるんですね。

ササキ: そうです!良い一文を覚えてますね(笑)。それこそういろうプリンとか、「辞めんなよ」と思うんすよ。「いや大丈夫だよ」って。M-1だけじゃねえって、本当に思うんすよ。

せじも: それはそうだよね。

ササキ: これはね、いろんな人の代弁者になれると思うんです。お笑いって、誰かを笑わせたいわけじゃないですか。笑ってもらうことが嬉しいわけじゃないですか。目の前にいる人に笑ってほしくて始めるわけじゃないですか。でも、もっといろんな人に認めてもらいたいと思うがために賞レース特化型のネタとかやり出して、そこで折れて辞めちゃうじゃないですか。で、泣くのは結局、一番笑わせたかった人たち。「何してんの?」と思うんですよ。見失うなよ。この人達を笑わせたくてやってんのに、最後泣かせて終わるって。なんかもうね、意味分からんし。

せじも: 本末転倒だ。

ササキ: あと、そんくらい上手けりゃもう大丈夫だから(笑)。僕らの場合、地元が秋田っていう分かりやすいものがあるから、よく言われるんですよ。「良いよなぁねじは。地元が一緒だし、地元に特化したネタも持ってる。だから秋田で売りやすいよな」って。だけど関係ないと思うんですよ。

せじも: そうね。

ササキ: だって縁の無いところで大前(プリンセス金魚)も成功してるし、欲してる人がいるんですよ。ういろうプリンくらい面白い漫才師を求めてる人はいるんですよ。そこに行きゃ良いじゃん、って。なんでそんなもったいないことするんだろうと思って。

せじも: ほんとだよね。辞めるのが一番もったいないよね。

ササキ: お客さん3人しかいない地下の劇場で、アングラなお笑いやってる人と(ういろうプリンは)違うじゃないですか。賞レースでも惜しいところまで行ってるし、お笑い好きな人なら知ってるし。お笑い好きな人って目が肥えてるんだから、その人たちがある程度面白いと思ってくれる芸人なんですよ。それは一流ですよ。

せじも: そうそう。

ササキ: そういう意味で、僕らが秋田で一旗揚げてまた東京に戻ってこれたら、めちゃくちゃいろんな人の勇気になると思うんですよ。「辞めなくていいんだよ」って、それを見せたいんすよね。特に僕らの年代だとシビアだから。芸歴15年くらいって、ちょうどチャンスが無かった世代だし。それを運が無かったと思って諦めるんじゃなくてさ。

せじも: ちゃんと取り組んだ15年なんだから、それをお金にする方法を考えりゃいいよね。

ササキ: 日本食の料理人さんって10年修行するらしくて、世界一厳しい料理って言われてるんですって。それを(芸人として)15年やってんですよ(笑)!?一流じゃないわけないんですよ、俺らが。もっと自分達のお笑いの価値を信じてほしい。たまたま(解散したのが)最近だからういろうプリンを例に出したけど。そういう意味で「ビジネスモデル」になれればと思います。

お笑いは宗教

―ササキさんが(一部のファンから)教祖様と呼ばれる理由が分かりました(笑)。

ササキ: 信じたくなったでしょ。

せじも: 僕は横で見ていて、いつも「絶対信じるな、骨になるぞ」って思ってます(笑)。

ササキ: いやでも、宗教ですよ。お笑いは。

せじも: まぁ、文化は宗教ですからね。

ササキ: 好きな芸人さんがいたら、その宗派なんですよ。お笑い教の「ママタルト宗」だったり、「ランジャタイ宗」だったり。エンターテイメントは宗教だから……って思いますね(笑)。

せじも: そうね。

ササキ: だって、(ライブに)1,500円とか払って来てるわけでしょ。「面白いことやるよー」って言って、「分かりました!」って払ったんでしょ。だから信じてるんですよ。

せじも: まじで宗教となんら変わんないよね。宗教はありがたいお言葉、俺たちは面白いことをやってお金貰うってシステム。一緒なんですよ(笑)。

ササキ: 僕も信者だしね、お笑いの。

【後編を読む】ササキは夢を語り、せじもは現実を見る。最強のバランスで「売れる」

ライター:堀越 愛、撮影:宮下 若葉


<ねじ|プロフィール>
2010年結成。フリー。

右:ササキ ユーキ
1984年7月2日生まれ。176cm。B型。秋田県出身。秋田県立金足農業高等学校を卒業後、東京アナウンス学院に進学・卒業。趣味は格闘技、プロレス。柔道初段、少林寺拳法二段。ポケモンイベントオーガナイザーの資格を持つ。甘党。

左:せじも
1984年12月3日生まれ。B型。162cm。秋田県出身。秋田県立金足農業高等学校卒業。特技はギター、ラグビー。建設機械車輛(3t未満)の免許、山の知識検定(ブロンズコース)の資格を持つ。

★ねじチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCm1l0PwXh88CRosgx7V3Msg
★問い合わせ先:nejisasaseji@gmail.com

PERFORMERS

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  • ササキユーキ(ささきゆーき)/ねじ

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