2025.05.26
【濱田祐太郎×もも『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』インタビュー】「感情の揺さぶり」を体験してほしい。濱田祐太郎とももが語る、新しい形の新喜劇
2025年5月30日(金)に、なんばグランド花月で『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』が上演される。本公演は、蕎麦屋を舞台とした痛快な時代劇。

『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』で主演を務めるのは、盲目のピン芸人で『R-1グランプリ2018』王者(当時は『R-1ぐらんぷり』)の濱田祐太郎さん。脇を固めるのは大阪NSC35期の同期で、『M-1グランプリ2021』ファイナリストのお笑いコンビ・もも。三人に、公演の見どころや関係性について話を聞いた。
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寛平師匠に「杖でしばき合いをしたい」と直談判
———『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』はどんな物語なのでしょうか。
濱田 祐太郎(以下、濱田): 僕が演じる蕎麦屋の店主の「ゆう吉」が、実は腕の立つ剣士で、身の回りで起こるトラブルを解決していくお話です。ももの二人も出演します。寛平師匠はもちろん、辻本茂雄さんやレイチェルさんをはじめ、新喜劇の座員さんにも脇を固めてもらっています。

———どういった経緯で出演が決まったのでしょうか?
濱田: 寛平師匠が声をかけてくれたんです。2024年2月に開催された大阪マラソンの番組企画で、毎日放送の密着取材があって。僕は7.2kmのチャレンジランに挑戦して、まもる。に伴走してもいました。チャレンジランとは別企画で、寛平師匠も大阪マラソンに参加していたんです。マラソン終了後、寛平師匠が「濱田、すごいな。頑張ってるな」と声をかけてくれたことがきっかけで、寛平師匠と光代夫人の食事会に誘っていただきました。
マラソンに付き添ってくれていたまもる。も呼んで、さらに、新喜劇の若手座員も参加していて飲み会が盛り上がるなか、僕は冗談で寛平師匠に「杖を持って暴れる師匠に対抗して、僕も杖でしばき合いがしたいです」と言ったんです。すると、寛平師匠が「それめっちゃおもろいやん」と乗ってきてくれはって。光代夫人も「濱田くんが新喜劇の舞台に立って、なにかやったらええんとちゃう」と後押ししてくれました。それで寛平師匠は、「ほんまにやる気あるんやったら、新喜劇で実現できるように動いてみる」とまで言ってくれました。その熱い言葉を受けて、僕も「ぜひお願いします」と答えたんです。
———寛平師匠がきっかけだったんですね。もものお二人は、どのような役どころなのでしょうか?
もも・まもる。(以下、まもる。): 僕は、濱ちゃん演じるゆう吉が切り盛りしている蕎麦屋さんでお店を手伝っている「マモ助」として出演します。
濱田: 同僚みたいな感じやろな。
もも・せめる。(以下、せめる。): 『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』のポスターもそんな雰囲気出てたわ。

濱田: 僕がそば打ちをやって、まもる。が配膳担当するとかね。
まもる。: そうやね。キッチンとホールみたいに、役割を分けて演じると思います。あと、僕が悪党に捕まって、濱ちゃんが助けにいく展開も、もしかしたらあるかも……?せめる。は瓦版屋を演じるんやろ?
せめる。: そう。僕は瓦版屋を演じることになってる。現代でいう、新聞記者のような立ち位置かな。
濱田: 江戸時代の週刊誌記者ってことか。
せめる。: 事件が起きたら、町のみんなに伝える役やな。トラブルが起きた際に、事件現場をリポートすることもあるかも。
濱田: まとめると、盲目の凄腕の剣士が切り盛りするお蕎麦屋の店主とその相棒、そして瓦版屋が登場する物語ですね。新喜劇の平山昌雄さんが悪役として登場します。そこで、僕は殺陣を披露する予定です。
まもる。: 公演は1時間〜1時間半くらいあるから、物語はさまざまな方向に展開しそうやんね。

濱田祐太郎とももの関係性
———みなさん、大阪NSC(吉本興業の養成所)35期ですよね。仲良くなったきっかけは?
まもる。: 濱ちゃんとは、NSC在学時に仲良くなりましたね。大阪NSCでは「授業の1時間前に来る」というルールがあったんですけど、僕と濱ちゃんは2時間前に来ていました(笑)。
せめる。: あかんねん。怒られてたやろ、お前ら早すぎて(笑)。
まもる。: 授業がはじまるまで2時間もあるので、自然と話すようになったんです。濱ちゃんと「ほんまは見えてるやろ」「見えてへんわ」みたいなノリをずっとやっていました。

———濱田さんにとって、まもる。さんはどんな存在なんですか?
濱田: たくさんいる同期のなかの、ひとりです。まもる。は誰に対してもフランクに接する人なんで。よく僕とセットで捉えられがちやけど、僕に対してだけというわけでもなく、誰に対しても、まもる。はフランクに接するんです。そのなかで「濱ちゃんは実は見えてる」っていじってくるくだりをいろんな場所で取り上げられて、コンビのように見られることがあるのかも?まもる。は、面倒見の良い人だと思っています。
まもる。: 僕は濱ちゃんを「手伝っている」とか思ってないし、濱ちゃんをどこかへ連れて行くとか、「舞台袖までお願いします」と頼まれてもなんとも思わない。僕にとっては自然なことで、日常なんです。

———NSCを卒業してから、濱田さんとももの接点はどうなったのですか?
まもる。: 卒業してからは少し疎遠になる期間もあったんですが、よしもと漫才劇場のメンバーになってからは、劇場で濱ちゃんとよく会うようになりましたね。
濱田: 僕がオーディション受けていたころは、ももの二人は別々で活動してたもんな。
まもる。: 僕はピン芸人をやっていて、せめる。も前のコンビ・タングステンで活動してたもんね。
濱田: そうそう。僕が漫才劇場のメンバーになってから、二人がももを結成してオーディションに参加するようになったんよね。
まもる。: その期間は濱ちゃんと絡むことも少なかった。劇場メンバーになってから会うようになって、今みたいに濱ちゃんと飲みに行くようになったよな。

———1度疎遠になるも、劇場入りが契機となって再会。みなさんの絆のようなものを感じました。せめる。さんと濱田さんのエピソードも聞きたいです。
せめる。: 大阪ミナミのコミュニティFM(YES-fm)の番組『オンスト』で濱ちゃんが誕生日の回があって、そこに乱入しました。「ブースに入らな声が聞こえへんねん」って怒られましたけど(笑)。
濱田: 乱入はええねんけど、せめる。が外でワーワーなんか言ってて、ブースではなんも聞こえへんかった(笑)。それで、誕生日プレゼントとして500円玉だけ置いて帰ったんです。
まもる。: 硬貨置いて帰ったんや。めずらしい。
せめる。: 500円は、硬貨のなかで一番金額が高いからな。

濱田: それ、一緒に番組出ていたシャルロットが持って帰ってたで。
せめる。: なんでやねん!濱ちゃんへのプレゼントやのに、なんで人にあげるねん(笑)。
———濱田さんとせめる。さんは、楽屋ではどんな話をするんですか?
濱田: せめる。はマジックが好きなので、マジック関連の話題が多いですね。劇場の出番の合間によく喋ってます。
まもる。: 濱ちゃん、この前、森ノ宮よしもと漫才劇場でせめる。のトランプマジックを見破ったらしいやん。「このなかから珍しいカードを1枚選んでください」ってせめる。がゆうて選んで、そのトランプがなんのカードかわかったんやろ(笑)。
濱田:たまたまや(笑)。

———濱田さんから見て、せめる。さんはどんな印象なんですか?
濱田: せめる。は、楽屋で先輩や後輩をつかまえてエロい話をしてますね(笑)。
せめる。: それは言うな!
濱田: ほんまにそのイメージしかない。
せめる。: やめろ!

濱田: 口を開けばエロ話しかしてない(笑)。
せめる。: 手品もやってるやんけ!
濱田: 手品もエロにつなげてるやろ。隠し技みたいに。
せめる。: そんなことしてへんわ!
濱田: 右と左の玉が入れ替わるとか……。
せめる。: それ病院行かなあかんやつや!
まもる。: 楽屋でそういう話してんねや(笑)。
せめる。: いつもこんな感じやね。
濱田: たぶん、江戸時代にもこんなノリはあったんやろうな。

令和の剣豪
———『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』本番に向けて、稽古はどれぐらいされてるんですか?
濱田: 2025年3月から定期的に稽古しています。稽古では僕と平山さんで、刀の持ち方や、基本のかまえ、動きをひたすら練習しているところですね。新喜劇全体としての稽古は、まだはじまってないです※。
※取材時点(4月28日)
まもる。: 本番までもう1ヶ月切ってるやん。あっという間やね。

———まもる。さんも、もう稽古に参加しているんですか?
まもる。: 僕は、スケジュールが空いているときに参加しています。
濱田: まもる。が見学にきたときは、稽古終わりで寛平師匠にお昼ごはんをご馳走してもらって、そのまま次の舞台へ行くパターンが多いですね。
———まもる。さんは、濱田さんの殺陣や動きを見ていてどのように感じますか?
まもる。: ほんまにすごい。最初のほうの練習で濱ちゃんを見たときは、“走る”動きひとつとっても、ケツが引けて怖気づきながら動いてる印象でした。でも木刀を握ってからだんだん成長して、今では二刀流の殺陣もできるようになって、走り回ってます。濱ちゃんの顔の迫力も満点で「こいつ、ほんまに人を斬るんちゃうか」って思うくらい立ち回ってます。成長速度はピカイチで、令和の剣豪と呼ばれる日も近いんちゃうかな……
濱田: なんやねん、その漠然とした称号(笑)。平成の剣豪も聞いたことないで。

———Xに濱田さんの殺陣の練習動画が上がっているのを見ました。「本当に見えてるみたい」といった声もありましたよね?
まもる。: 「見えてるみたい」ではなく、見えてるんです。
せめる。: 見えてたら「盲目の剣士」ってタイトルはおかしいやろ(笑)。
まもる。: 芝居ですからね。
せめる。: そうやとしたら、これは上手すぎる。
濱田: 見えてへんねん(笑)。

———動画を見ましたが、ピタッと止まるのがすごいです。それも平山さんとの稽古でできるようになったのですか?
濱田: そうです。腰が入った状態で回らないと上半身がブレてしまうので、常に腰を意識して動いています。
まもる。: 濱ちゃんはほんまにすごい。平山さんの言葉を聞いて、すぐに理解していました。俺にはようできひんわ。平山さんは、濱ちゃんに殺陣の動きを教えるとき、まず自分で体を動かして「こういう足運びをして、こうやって動かしたら良い」と実演してから濱ちゃんに説明していました。正直、僕は「これだけやったらわからんやろ」と思っていたんですが、濱ちゃんは平山さんの説明でちゃんとできるんです。言葉で平山さんの動きを理解して、自分のものにしているんですよ。

せめる。: 濱ちゃんは感覚が研ぎ澄まされているんやな。
濱田: それは、まもる。が持ち上げ過ぎ(笑)。平山さんに言われたことを何回も繰り返して練習して、あの動きができるようになったんや。
———濱田さんは稽古時、どんなイメージを持って練習に取り組んでいるんですか?
濱田: ゲーム実況のYouTube(ゆうちかゲームサークル)をやってて『ドラゴンクエストⅢ』をプレイしているんですよ。だから、剣のイメージは“勇者”です。殺陣の稽古のときも「ギガスラッシュ」って叫びたくなります(笑)。
まもる。: 叫んだらあかんって(笑)!
濱田: あとは『るろうの剣心』のイメージもあります。たとえば、刀を持って相手を斬るような動きをする場面では、平山さんが正面に立って「真正面はこっちですよ」と声で指示してくれるんです。その声を頼りに、平山さんがいる方向に向かって木刀を振る。まさに、主人公の剣心が、師匠である比古清十郎に奥義を教わるときの構図とそっくりなんです。剣心と平山さんの違いは、平山さんは比古清十郎みたいに、僕に九頭龍閃(くずりゅうせん)を打ってこないところですかね。
せめる。: そのくだりわからんねん(笑)。

———RPGの世界観と幕末の剣士から影響を受けて殺陣の稽古をされているのですね。稽古中、特に苦労している動きはありますか?
濱田: 一つひとつの動きが難しいです。なかでも、「まっすぐ進む」というのが本当に難しい。まわりが見えていないと少しずつズレて進んでしまうし、自分ではまっすぐ進んでいるつもりでも斜めになってしまうこともあります。1回転して構えるという動きも、真後ろを向くのが難しいんです。何度も何度も動きを繰り返して、慣れていくしかないので、ひたすら練習ですね。
——— 稽古でおもしろいと感じる部分は?
濱田: 「うまくなりたい」という欲求があることです。たとえば、「袈裟斬り(けさぎり)」という斜め上から斜め下へ切り下ろす動作があるんですが、難しい技なんです。でも、袈裟斬りがうまく決まったときに、平山さんから「今の動き良かったですよ」と言われるとシンプルにうれしいですね。
まもる。:濱ちゃんは、そうした「技」を一つひとつ覚えていくことに喜びを感じるんやな。

演者もお客さんもひとつになって
———あらためて、『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』の見どころを教えてください。
濱田: おそらく、これは世界初の舞台となりますよ。視覚に障がいのある人が本気で殺陣に取り組むのは、ほかに類をみないエンターテインメントになると確信しています。吉本新喜劇だからこそ成り立つ作品で、僕の大きな挑戦が形となって公演が開催されます。5月30日、ここでしか体験できない新喜劇を楽しんでほしいです。
———ほかに類を見ないエンタメ……もう少し聞かせてください。
濱田: 「おもしろい」という部分が根底にあることですね。今回は、新喜劇の舞台に殺陣を取り入れていて、本気で実践しています。僕の想像ではあるんですが、「新喜劇」という枠組みで考えると、劇中で感動するシーンもあるんじゃないかと。「感情の揺さぶり」がきっとあるはずです。笑いだったり、感動だったり、目の見えない人が殺陣をやるという衝撃だったり……そうしたさまざまな要素で、お客さんの感情がグッと動く舞台になるんじゃないかなと考えています。

———もものお二人はどうでしょう?
まもる。: はじめは、お客さんも不安な気持ちで見ると思うんですよ。「濱ちゃん大丈夫かな?」「目が見えてないのにどうなるんやろ」って。でも、新喜劇の舞台を見ているうちに、「殺陣すげえ!」「立ち姿かっこいい!」って気持ちが変わると思います。それで、最後には「濱ちゃん、ほんまは見えているんちゃうか」って思うくらいの演技が舞台で見れるはずです。
せめる。: 僕は、演者とお客さんが一緒になって舞台をつくりあげる……当日その場にいる全員がそんな感覚になれば良いなと考えています。濱ちゃんが殺陣に取り組む挑戦を通して、ひとつの舞台を完成させる、そんなライブ感が新喜劇から生まれる気がしています。

まもる。: せめる。がよく観る映画みたいに、観客も一緒に応援するやつな(笑)。
せめる: 応援してへんねん!
まもる。: ペンライトを振るやつね。
せめる。: 誰が行ってんねん! ペンライト振る顔ちゃうねん!
濱田: せめる。、キャラのコスチューム着てそうやもんな(笑)。
せめる。: 着てへんねん! ふたりとも詳しすぎるねん(笑)。……その場におるみんなで、一緒に舞台をつくり上げていけたら良いなと思ってます。ほかの新喜劇とはまた違う形になりそうで、ワクワクしますね。

———三人が舞台でどのように演じるのか、今からとても楽しみです。
せめる。: 目の見えない濱ちゃんと一緒に新喜劇に出るという意味では、全員が初めての体験になるよね。
濱田: こんなすごい舞台を実現させてくれた、関係者のみなさんに感謝せなあかん。
まもる。: 新喜劇の公演でなんばグランド花月の舞台に立つなんて、若手じゃなかなかないことやもんな。
濱田: ほんまそうやな。僕らが出演する、『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』ぜひ見に来てください!
PROFILE

左:もも・まもる。
中:濱田 祐太郎
右:もも・せめる。
★濱田祐太郎 公式プロフィール:https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=6293
★もも 公式プロフィール:https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=6824
『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』概要

●公演日:2025年5月30日(金)
●会場:なんばグランド花月
●チケット:【前売】大人 4,500円、小学生以下 3,500円 /【当日】大人 5,000円、小学生以下 4,000円
https://ticket.fany.lol/event/detail/1487
公演詳細はコチラから
文:南野義哉
編集, 撮影:堀越愛