《タモンズ60分漫才「詩芸」47都道府県ツアー 東京&兵庫公演 直前インタビュー》芸で生きるために極めた長尺漫才。2年間の全国武者修行を経て、ついにラスト公演へ!

2024年、芸歴16年以上の賞レース未優勝者が闘う『THE SECOND 〜漫才トーナメント〜』でベスト4となったタモンズ。

実力は折り紙付きの彼らだが、『M−1グランプリ』では苦汁をなめ続けた。2021年にラストイヤーを迎えたタモンズは、次なるチャレンジの舞台に「60分漫才」を選んだ。『M-1』は4分尺だが、その15倍の長さである長尺漫才を引っさげて、47都道府県をまわったのだ。

なぜタモンズは、長尺漫才に挑むのか。2年にわたる全国の旅が終わろうとしている今、大波康平と安部浩章に、60分漫才への想いを聞いた。

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「タモンズは長尺が面白い」

———タモンズは2023年7月から「60分漫才」で47都道府県を周るツアー『詩芸』(うたげ)を行ってきました。そもそもなぜ『詩芸』をスタートさせたんですか。

大波康平(以下、大波): 2021年に『M-1』のラストイヤーが終わり、それまで続けてきた「毎年賞レースに向けてネタをつくる」というルーティーンもなくなった。それじゃあこれからどうしようかってタモンズの15年を振り返ったとき「60分漫才」が一番手応えあったなと。漫才で生活していくためには、ここをもっと強化しないといけないなってことで、『詩芸』をはじめました。

安部浩章(以下、安部): 芸で食っていくためには、この方法しかないと思ってましたね。

———「60分漫才」を始めたのはいつ頃なんですか。

大波: 正確には覚えてないんですけど、1〜2年目から作家の山田(ナビスコ)さんに「タモンズは長尺のほうが面白い」と言われてたんです。当時はショートネタブームでしたから「お前らは逆に長尺や」と言われても、「10分、20分の漫才やらされて、なんの意味があんねん」と思ってました。

安部: でもたしかに、長尺のほうがウケてたんです。山田さんが、僕らとトンファー・井下好井の3組でよく「VSライブ」をやらせたんですよ。そこで3分ネタ、5分ネタ、10分ネタをやって、お客さん票で勝敗を決めると、僕らは10分尺だけ圧倒的に強かった。

大波: それでちょっと良い気になりつつ、言われるがままに続けてたら、いつのまにか60分まで尺が伸びてました(笑)。

———それを聞くと、『M-1』のネタ時間は4分ですから、長尺漫才が得意なタモンズが『M-1』にフィットしなかったのも仕方ないですね。

大波: 正直、タモンズは『M-1』には合わなかったなとは思ってますけど、単純に力不足も大きいですよ。2010年に『M-1』が一旦終わるまではほとんど遊び感覚で出てましたし。『M-1』に対して全然真剣じゃなかった。

安部: 意識が変わったのは2015年の『M-1』からですね。

大波: 『THE MANZAI』(日清食品THE MANZAI年間最強漫才師決定トーナメント!)のときに、いきなり華大(博多華丸大吉)さんとか千鳥さんたちと同じ舞台で勝負したらボコボコにされて。そこで初めてプロの凄みを感じて、やっと気合入ったんですよね。そこから2015年に『M-1』がまたはじまり、最初は準々決勝まで行けたんですけど……コンビ仲はだんだん悪くなっていったんです。

苦しくても芸人を辞めなかったワケ

———コンビ仲が悪くなっていた時期のことは、昨年公開された映画『くすぶりの狂騒曲』でも描かれていましたね。

安部: 2014年に、僕らの主戦場が渋谷の無限大ホール(現・渋谷よしもと漫才劇場)から大宮(大宮ラクーンよしもと劇場)に移ったんですよね。無限大のころは、お笑い好きのお客さんを相手にして、そこそこウケてました。でも当時の大宮は、家族連れとか酔っ払いとかがフラッと来てたから、今までのお笑いファン向けのネタが全然響かない。それで僕は目の前のお客さんを笑わせたほうがいいと思って「ちゃんとウケるネタやろうよ」と言ったんですけど、大波さんはむしろどんどん尖ったほうへ行った。

大波: 今でこそSNSとかYouTubeとかいろんな手段がありますけど、あのときは『M-1』しか光がなくて、「劇場でウケても、M-1で結果出ないと、どっちみち仕事減るねんで」と思ってました。でも安部は「出番もらってるから、ちゃんと仕事せな」と言う。

———賞レースに勝てないことで大波さんはフラストレーションが溜まっていった。

安部: その一方で、僕は子どもが生まれたばかりで朝から晩までバイトしなきゃいけなくて。だから当時はネタ合わせもしんどかったんですよ。そもそも僕と大波さんでは「ウケたい」と「尖りたい」で方針が食い違ってるから、そのケンカだけで時間がすぎる。ネタ合わせもろくにできんまま、またバイト行くみたいな感じで、ずっとしんどかった。もう疲れすぎて、バイク運転してたら意識が飛んだこともありました。気づいたら歩道に突っ込んでて。

大波: 2017年〜19年あたりの僕らはめちゃくちゃでしたね。もう解散するかって話にもなったんですけど、最後の2年だけとことん向き合って限界までやろうと決めて。最終的には「こんだけやって、なんで落ちるのかわからん」と思えるくらいまではできたんで、まぁ良かったですね。あのくらいの追い込み方をもっと早くできてたらまた違った結果になったかもしれませんが、それはもうタラレバなんで。

———そんなキツい状況でも、なぜ芸人を辞めなかったんですか?

大波: 単純な話で、仕事はもらえてたからですね。

安部: M-1準々決勝くらいの戦歴やと、普通は月1回のバトルライブしか劇場出番がないもんなんですよ。でも僕らは一番しんどいときも、週に1〜2日は大宮の舞台に立たしてもらってた。当時の支配人が仕事をいただいてきてくれて、営業もさせてくれましたし。

大波: 大宮セブンをつくってくれた初代支配人は、ずっと僕らを使ってくれましたね。多分僕らが辞めないように、頑張ってくれてたんだと思います。

安部: 僕は家族がいたんでめちゃめちゃバイトしてましたけど、男のひとり暮らしならお笑いだけでギリギリ生きていけるぐらいの給料をもらってました。だから大宮の劇場に恩返ししたいっていう気持ちがずっとあるんです。

裏道を行った「詩芸」

———『M-1』以降の道筋としてスタートした『詩芸』は、クラファンで資金を集めてスタートしたそうですね。

安部: そうですね、会場も最初は自分らで探してました。このツアー、最初は吉本が入ってなかったんですよ。だから、最初のころは地方にも車で行ってました。2泊3日で、1日目は60分漫才と45分のトークライブをして、そのあとはクラファンのお客さんと打ち上げ。翌日も隣の県で同じことをして、3日目に大宮に戻るっていう。

———過酷な旅ですね。

安部: 会場も自分たちで探してるから、ひどい場所を選んだこともありました。

大波: 空調が効かなくて、お客さんが気分悪なって倒れちゃったこともあって。あれは本当に申し訳なかった。

安部: とある地下の会場では、10分に1回地下鉄の音が聞こえてくるんで、そのたんびにそれをイジらなアカンかったし(笑)。カーテン1枚隔てて、横は居酒屋さんみたいなとこで。向こうでは丸鶏がくるくる回ってるんです。過酷な環境を弾丸ツアーでやってたんで、最初のころは大宮に戻ると体調を崩すことが多かった(苦笑)。

大波: 後半はそこまで体調崩さなかったよな。2024年に『THE SECOND』で決勝に出てようやく吉本がサポートしてくれるようになったから。

安部: 経費が潤沢になって、移動が飛行機とか新幹線になったんです。

大波: 飛行機と新幹線はやっぱすごいよ。しみじみありがたい。

漫才師としてレベルアップした日

———2年かけて全国をまわって、どんな収穫がありましたか?

大波: 漫才師としてめちゃめちゃ柔軟になりました。用意したネタを出してもいいし、出さなくても良いと思えるようになった。それは、愛知での公演がきっかけでした。

安部: 愛知は『詩芸』2回目の公演の地です。

大波: 僕の体感ですけど、60 分間ずっとスベり続けたんですよ。ひどすぎたんで、その夜は安部とめっちゃ話しあいました。

安部: そこで60分漫才への取り組み方がガラッと変わった。

大波: 準備したネタをやるだけやと、それは博打になる。そんなふうに一か八かに賭けるんじゃなくて、こっちからお客さんをウケさせにいかなアカンって。用意してるもんがアカンねやったら、手を替え品を替えウケさせようと。そしたら4回目の長野公演もヤバくて、「これ愛知や!」と。

———「愛知」が「スベる」という意味になってるじゃないですか(笑)。

大波: ホンマ、トラウマでしたから(笑)。でも20分経ったところで、あるくだりがちょっとウケて「愛知」から抜け出しかけたんですよ。そしたら安部がそのくだりをめっちゃ引っ張って。何気ないくだりを15分とか20分アドリブでやってたら、感じたことないウケ方したんです。

安部: これ、僕はあんま覚えてないんですけどね(笑)。普段の僕らは60分あったら5本くらいネタを用意して、それをのり付けして繋げるんですけど、あの日は3本くらいしか使わなかった気がします。

大波: あの愛知と長野で、僕らの漫才師としてのレベルはグッと上がりましたね。あの日はめっちゃ体調悪くて車での移動中ではずっと寝てたんですけど、その夜はさすがに飲みました。

———「詩芸」を経て、大きく成長したタモンズですが、そのツアーも残すところ3公演(取材時点)。埼玉の会場は大宮の劇場ではなく「お笑いバックスシアターThe rooF」になっています。これはなぜですか。

大波: 恩返しですね。「詩芸」で吉本にバックアップしてもらえないって落ち込んでるとき、ここの店長が手を差し伸べてくれたんですよ。「大宮セブン号」って車と、サンパチ(マイク)、スピーカーも用意してくれたうえに、「車も返すときはガソリンいれんで良いから」って(笑)。

———太っ腹ですね……!

大波: 関東の公演のときは、仕事を休んで運転手もしてくれた。

安部: 店長は僕らのために映像編集まで覚えてくれたんです。大宮セブン号を借りに行くと、スマホのカメラを構えて待ってくれてる。撮った映像はすぐに編集して、店のSNSで宣伝までしてくれるんです。

大波: あんなことしてたら、店長、車の仕事はほとんどできへんはずやで(笑)。僕らとしては店長のおかげで『詩芸』を続けてこれたんで、埼玉公演の売上は店長に全部渡したいくらいです。

———11月13日のルミネtheよしもと公演は、ゲストにマヂカルラブリーが来ますね。

大波: キャパ500なんで、ここは頼りました(笑)。

安部: 過去の『詩芸』でも10公演くらいはゲスト呼んでますけど、ゲスト回はその芸人目当てで来られる方もいらっしゃるんで、毎回どんな空気感になるかわからないんですよね。

大波: もしかしたら俺らがめちゃめちゃスベるかもしれん(笑)。でもここへきて、ルミネでできるっていうのは感慨深いっすね。

★タモンズ60分漫才「詩芸」47都道府県ツアー【東京公演】 チケットはコチラから

———最後は、12月27日に地元の兵庫県で開催ですね。

大波: 僕らが神戸出身で高校の同級生なんで、最後はそこでやろうと。会場自体は初めての場所なんですけど、ちょうど200キャパだったんでここに決めました。

安部: 普段から寄席をやってるところらしくて雰囲気が良さそうで、楽しみです。

———最後に、タモンズの60分漫才を見てみたいという人にメッセージをお願いします。

安部: 60分も漫才見んのしんどそうって思う人も多いでしょうけど、案外楽しいと思いますよ。

大波: 「想像よりあっという間に終わった」という声もけっこういただいてますしね。僕らの漫才なんてそんな敷居の高いものじゃないんで、軽い気持ちで見に来てもらえれば。サクッと笑えるはずですから。

タモンズ60分漫才「詩芸」47都道府県ツアー 情報

《公演日程》
■東京
11月13日(木)ルミネtheよしもと
タモンズ60分漫才「詩芸」47都道府県ツアー【東京公演】
 時間:18:30開場/19:00開演
 料金:前売・当日2,500円
 出演:タモンズ ゲスト:マヂカルラブリー
※トークライブの開催はございません
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■兵庫
12月27日(土)神戸新開地・喜楽館
①タモンズ60分漫才「詩芸」47都道府県ツアー【兵庫公演】
 時間:18:15開場/18:30開演
 料金:前売・当日2,500円
 出演:タモンズ
②タモンズトークライブ「劇場版超熟成ラジオ」in兵庫
 時間:19:45開場/20:00開演
 料金:前売・当日1,500円
 出演:タモンズ

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PROFILE

タモンズ

左:大波 康平
右:安部 浩章

★オフィシャルサイト:https://tamons-promo.themedia.jp/
★タモンズの超熟成ラジオ:https://stand.fm/channels/5ffd692afc3475e2c8a993dc
★公式プロフィール:https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=2741

文:安里和哲

編集, 撮影:堀越愛