一番好きな街《春とヒコーキ「VIP ROOM HARUHIKO」第45回》

『VIP ROOM HARUHIKO』は、春とヒコーキがバーのVIP ROOM で本音を語るような、そんな場所。

‟語りつくされた、でも正解はなく、各々で考え方が異なる”普遍的なテーマについて、ぐんぴぃと土岡がそれぞれの視点で綴ります。

今月のテーマは、「一番好きな街」について。


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theme.一番好きな街

ver.ぐんぴぃ

三鷹が一番好きです。好きが高じて最近まで住んでいました。

芸人同士で過酷なルームシェアをしており、押入れに住むなどしてきたのですが。そこから抜けて一人暮らしを再開した家が三鷹でした。ワンルームでユニットバス、手狭な部屋ではありましたが、押し入れに比べると途方もない開放感がありました。自由をつかんだ地です。そんな思い入れもあり、ちょっと偏って好きかもしれません。

何が良いって、とにかく散歩しがいがあるんです。

新宿駅から最短13分で着くのに、すごく落ち着いて良い雰囲気です。駅を出るとすぐ森や自然が溢れています。草木がのびのびと生い茂る、人の手が入ってない感じの川も流れています。

森の中には三鷹の森ジブリ美術館があります。入場チケットはすぐ完売してしまうイメージがありますが、三鷹の近隣市民なら特別に購入できる枠があります。散歩コースにジブリがある生活は実に豊かでした。

日常に文化が調和している空気感も好きです。たとえば太宰治の墓は三鷹にあります。彼の命日にファンが集うのは有名です。このおかげで街全体が太宰を推しています。

僕の地元は映画『おっぱいバレー』のロケ地になっていたので、「おっぱいバレーの街」として町おこしをしていた時期があります。「おっぱいバレー」の横断幕が堂々と掲げられていました。町おこしの題材ガチャ、太宰はだいぶ当たりではないでしょうか。

彼のお墓も僕の散歩コースの一つでした。文豪が眠る場所ってなんか嬉しいじゃありませんか。初めて足を運んだ時、太宰治の墓碑の斜め向いに森鴎外の墓があって驚きました。

「余ハ石見人森林太郎トシテ死セント欲ス」という遺言通りに、本名の「森林太郎 墓」としか書いてない質素なお墓。その素朴さが三鷹にピッタリな気がして好きでした。自分は死んだら「ぐんぴぃの墓」って書いてもらいたいですね。浮くから。花菱アチャコの墓みたいに落書きされたいです。

個人商店が多いのも歩いてて楽しいポイント。古い街並みですから、老舗の店も多いです。

歩いていたら、古民家風な佇まいの看板に「〇〇3年創業 和菓子屋」と刻まれているのがチラと見えて。お、と目を凝らすと「令和3年創業」って書いてあって。じゃあ書かないほうがいいのに。たまにぜんぜん老舗じゃなかったりします。そんなご愛嬌も楽しい街です。

あとこれは個人的な話ですけど。普段、外を歩いていると声をかけてもらえます。YouTube一辺倒な露出なため、若い方が多いです。とてもありがたい反面、家の近所で話しかけられると気まずかったりして。その点、三鷹は年配の方が主導権を握っている街なので、誰も僕のことなど目もくれませんでした。これも散歩ビリティが高いです。今は仕事の都合で都心に越しましたが、もう一度好きに住んでよければ三鷹を選びます。


ver.土岡

吉祥寺は心地よい。ぼくは3年間、吉祥寺に住んでいた。自分が住んでいた町、すなわち身内だが、何の恥ずかし気もなく褒められる。

落ち着くけど、寂しくならないにぎやかさがある。一つの町に、町の全パターンが揃っている。駅の北口にはアーケード街が広がり、商業ビルや映画館もある。南口は狭い範囲に飲み屋やファストフード店が密集したサラリーマン向けエリアの様相。さらに、高級で世田谷感のあるエリアもあれば、古着屋や雑貨屋のある下北沢的エリア、夜のお店が多くキャッチもたくさんいるちょい歌舞伎町的エリア。さらに、南に歩けば緑と水の広がる井の頭公園が待っている。ちょっと移動する度にジャンルの違ういろんな町の気分を味わえるのは、ディズニーランドのようだ。宇宙、ファンタジー、ジャングルと、エリアごとに違う世界が広がっているのと同じだ。そして、吉祥寺のオリジナルがちゃんとある。北口のアーケード街を中心としたメインエリアは、にぎやかだけど冒険ではなく暮らしを感じる。その雰囲気が吉祥寺オリジナル。

ぼくは吉祥寺に住む前にまず、吉祥寺の近くの町に2年住んでいた。その家で暮らしていた2年間はニートで、最後の方で芸人になったのだが、ずっと自転車で吉祥寺に通っていた。あらゆるチェーンの飲食店、映画館や図書館、ネタを書くために行くファミレス。すべてがある夢の町。こんなにほぼ毎日来るなら住んだ方がいいと思い、吉祥寺に引っ越した。

吉祥寺駅から徒歩12分、家賃5万5千円のワンルーム。風呂トイレ別、6畳、2階建ての2階の部屋。いいマンションだった。隣人が24時間壁を殴ってくることを除いて

住み始めて1か月くらい経った頃、夜9時にテレビを観ていたら、隣から壁ドンを食らった。テレビの音量は最大60あるうちの15くらいだったし、それほど壁が薄い感じもしないが、「うるさいくらい隣にも聞こえちゃう部屋の構造なのかな?」と思って音量を下げた。その日はそれで終わった。数日後、夕方に台所でお皿を洗っていたら、壁を思いっきり殴られた。「え?水道から水を出す音がうるさいの?」と思いながら一旦水を止めてみる。また水を出す。とんでもない勢いで壁を殴られた。

そこからは地獄だった。何をしても、何もしなくても壁を殴られる。壁から聞こえるドカンという音で朝起きることもあり、寝ていたのだからこちらは何の音も立てていない。それから、大きな音=敵意、と感じるようになってしまい、外にいても大きな音がするたびに心臓がキュッとなった。不動産会社や大家さんに相談するも、隣人は一切「こちらは悪くない」の一点張りだそう。

大家さんができる最大限の解決として、ぼくを2階から1階へ、ぼくが住んでいた部屋の真下の部屋へ引っ越しさせてくれた。それからもそいつは壁を殴り続けていたが、真横ではなく斜め上なのでこちらに届くボリュームはだいぶ小さくなった。「また壁殴ってるよ、むかつくな」と思えるようになった。

そいつの姿は一回も見ていないのだが、外の道路からそいつの部屋の方を見ると、ベランダから黒い管が出ていた。管の先端は道路に向いていて、ガラスのような素材が光っていた。たぶん、カメラのレンズだった。道を歩く人を見ていたのだと思う。そいつの部屋は角部屋で、ベランダとは別の面の外壁にそいつの部屋の通気口があった。そいつの台所の換気扇とつながっている通気口だ。その通気口からも黒い管の先端がキラリと光って外を覗いていた。

そのマンションには結局2年住み、芸人3人でルームシェアすることになって引っ越した。引っ越してから吉祥寺に遊びに行ったときは、嫌なことなく町の良さを満喫できている。実際、そんな目にあいながらも2年間住めたのは町が心地よすぎたからだ。とんでもない逆説だが、それで町の良さを証明することができた。また吉祥寺に遊びに行こう。ハンバーガーもラーメンも天丼も海鮮丼も美味い、のんびり過ごせる都会。


文:春とヒコーキ
編集:堀越 愛、サムネイル:つるみ32

PROFILE

タイタン 所属

左:ぐんぴぃ
右:土岡 哲朗

★公式プロフィール:https://www.titan-net.co.jp/talent/haruhiko/
★公式YouTube:春とヒコーキバキ童チャンネル【ぐんぴぃ】