キュウの実験的サロン『研Q室』は二人が「帰って来れる」場所。今までもこれからも、足跡をともに

『M-1グランプリ2020』の敗者復活戦を機に、その独特の世界観が広く知られるようになったキュウ。2021年5月に第6回単独ライブ『トルマキハトオ』を成功させ、勢いに乗るキュウが実験的サロン『研Q室』を6月1日にスタートさせました。このサロンでは、ネタ作りの過程や過去台本のほか、二人の日常も垣間見ることができるそう。サロン開設に込めた想いや、二人の今後の目標について聞きました。

★キュウの実験的サロン『研Q室』はコチラから

誰もやっていない笑いを求めて

――定期的に単独ライブを開催しているイメージがあります。お二人にとって単独ライブはどのようなものなのでしょうか?

ぴろ: 単独ライブは1番のホーム……というか、売れる前に「帰る場所」をちゃんと作っておくという目的で開催してます。「キュウのアイデンティティ全てを発揮できる場所」を確立しておこうと思って。どんなことがあってもここ(単独ライブ)では確実に自分たちのやりたいことができる、っていう場所を作っておけば、道に迷うことはなくなるんじゃないかなっていう。

――ネタづくりで賞レースを意識することはありますか?

清水誠(以下、清水): こないだの単独(5月開催『トルマキハトオ』)は意識しましたね。

ぴろ: 意識しているときもありますけど、基本的には意識したくない。しない方が新しいネタを作れると思っているので、本当はしたくないんですけどね。

清水: 『M-1』を卒業できたら、意識しないネタが増えていくと思います。

ぴろ: (単独ライブの)第1回から3回までは、あんまり意識していなかったんです。でも去年みたいに準決勝までいっちゃうと「吹いてる風を逃してはいけないな」っていう気持ちが出ちゃうので。今回はやっぱり、意識せざるを得ない部分もありましたね。

――キュウさんのネタは、「ゴリラであいうえお作文」や「めっちゃええやん」など特徴的なフレーズが印象的です。ライブに出るときなど、ネタをリクエストされることはありますか?

ぴろ: ランジャタイさんとツーマンライブ(2月13日開催『ごちゃごちゃ言わずに 理屈なんて後から考えて ランジャタイとキュウを見て!』)をやったときは、2020年の敗者復活戦でやったネタを何本かやるうちの1本に入れてくださいと言われました。

清水: 『M-1』の敗者復活戦のときに、銀シャリの橋本さんが「ランジャタイとキュウのツーマンが見たい」って言ってくださったのがきっかけで開催されたライブなので、「M-1のネタをやってくれ」っていう要望はありましたけど、それ以外は特にないですね。「ゴリラであいうえお作文やれば、ちょっと喜んでもらえるかな」っていう意味で勝手にやったりすることはありますけど。

ぴろ: サービスでやることはありますね。ここはやっといたら盛り上がるかな、みたいなときは。

――リクエストライブ 『この囲碁将棋がすごい!』を観ました。そのときも平場で「ゴリラであいうえお作文」の話題を出していましたね。

ぴろ: 囲碁将棋の根建さんが、楽屋で「あのネタはマジで名作だよな。俺も『ゴリラであいうえお作文すんなよ』って言いたい」って言ってくださって。「じゃあなんか放り込みましょうか」って言ったらすごく喜んでくれて(笑)。本番が始まって、実際に言ったら根建さんもマックスでツッコんでくれたし、お客さんもめちゃくちゃ盛り上がってくれました。ウケ半分、ただの盛り上がり半分みたいな感じで(笑)。終わってから文田さんが「久しぶりに客が嬉ションしてるとこ見たわ」って言っていましたし、こういうのも良いもんだなと思いました(笑)。

※2021年5月25日に開催されたライブ。「囲碁将棋のことが好き」な三四郎・小宮、ニューヨーク、キュウ・ぴろ、ママタルト・檜原が、囲碁将棋にネタをリクエストするライブ(MC:マヂカルラブリー・村上)。ネタ披露後には、囲碁将棋を含む芸人たちで徹底分析トークを繰り広げた。

――代名詞があるということですね。

清水: 「めっちゃええやん」のときもやってくれることが多かったですね。

ぴろ: 特に(フレーズを有名にしようと)意図して作っているわけではないんですけどね。

清水: 今回の「ゴリラであいうえお作文」に関しては、特に意図してなかったです。

ぴろ: でも振り返ってみたら、結構フレーズが残るネタが多い気がします。たまたま「ゴリラであいうえお作文」とか「めっちゃええやん」とかを話題にしてもらったりしてますけど、他のネタもわりと言いたくなるセリフが多いんじゃないかなと思います。

―― ネタ中のフレーズも然りですが、「どのように作っているんだろう」と感じるネタが多いです。今まで影響を受けた芸人さんなど、ネタ作りで参考にしている方はいらっしゃいますか?

ぴろ: 参考にしてる人は……いないかもしれないです。本当に好きで見てたお笑いと、今実際に自分がやってるお笑いはちょっと違うので……。結果的に、形は違えど、(かつて見ていたお笑いに)含まれてるエッセンスを集めてやってるのかもしれないですけど。好きだったのは、笑い飯さん、おぎやはぎさん、千鳥さんとか。個性の強い方が好きです。

清水: 好きな芸人で言ったら、ほぼ一緒ですね。でも……キュウのネタを作るときは、誰も参考にしてないと思います。

ぴろ: 逆にその人たちじゃないものを作りたいから、好きな人たちがやっていない「裏の手法」を探すっていう意味では参考にしてるかもしれないです。周りの芸人でも「さすがにこれはやってないだろう」っていうことを探して作っています。

―― キュウさんのネタは緻密で、「作品」のようだと感じます。ネタ作りには、どれくらいの期間をかけているんですか?

ぴろ: ネタにもよりますけど、1~3週間くらいですかね。1本に2〜3週間かかってたら「もうダメだろ」って思って、無理やり完成させたりします。

清水: 作るのはそれくらい。そこから合わせます。

ぴろ: 単独とかで急いでネタをたくさん作るときは、「流れとセリフでこの部分は合わせながら作ろう」というところまで持っていっちゃうときもあります。

清水: 終わり方とかを合わせながら決めることが多いよね。

ぴろ: 「オチは合わせながら決めよう」ってしちゃったりとか。遅くても2〜3週間で作る。普通に考えたらかかりすぎですけどね。

「僕らの実験に付き合ってもらっている」

―― 6月1日から開始したオンラインサロン『研Q室』は、どのようなきっかけで始まったのでしょうか?

ぴろ: 「どこか遠くに行っても帰って来られる場所を作る」という目的で、単独公演に力を入れていました。それに加えて、「自分たちのことを応援してくれる家族」というか、ファンクラブのようなものは作りたいなと前から思っていたんです。去年の12月、『M-1』終わりくらいに、事務所から「ファンクラブをやらないか」っていう話をもらったんですよ。それで紹介してもらったのが、フォーマットの決まったファンクラブでした。

でも、そこで「ちょっと待てよ」となって。もちろんすごくやりたいと思ったし、動き出すのはいい。けど、いざ始めるとなったとき、既にあるフォーマットなので「やれることが決まっている中で選んでいくのはどうなのかな?」と思って悩みました。それで、年明けに作家の川上(潤也)さんと食事に行ったときにそれを相談したんですよ。そこで「ジャルジャルさんは0からサロン(ジャルジャルに興味ある奴)を作った」という話を聞いて。俺らの芸風的にも、どうせ作るなら0から作っていった方がぴったりだろうなと思って、フォーマットを使わずに作ることになりました。

――「ネタ作り配信」や台本を見ることができる「資料室」がありますよね。なので、ネタ中心のサロンかと思っていました。でも、家族のような「ファンクラブ」でもあるということなんですね。

ぴろ: 家族って言うとね、白ひげ(『ONE PIECE』の登場人物)みたいになっちゃいますけど(笑)。家族というか、仲間というか。信じてついてきてくれる人というか。

清水: サロンを作ったきっかけは、「ファンクラブを作りたい」というところだよね。

ぴろ: ネタだけでなく、裏側も気になってもらえるような人間ではありたいですね。

清水: まあ、まだどうなっていくのかは俺らもわかんないっていうか。

ぴろ: 本当に挑戦ですよね。

清水: どういう風に化けていくのか、我々も「実験」している感覚です。

――どのようなサロンになっていくのか、とても楽しみです。

清水: そうですね。とりあえずやってみて、今後どうなっていくか。

ぴろ: メインコンテンツの「ネタ作り配信」も初めてなんで。どうなるかわからない。

※取材は6月26日。1回目の「ネタ作り配信」の直前だった。

清水: まずはやってみて、考えながら変えたり付け足していくっていう感じですかね。

ぴろ: どういうネタの作り方しよう……意見を集めてネタを作ったことがないので、「ネタ作り配信」は探り探りになるだろうなって思ってます。それもちょっと楽しみなんですけどね。

―― 「実験的サロン」という名前通り、二人も「実験」しながらという感じなんですね。

ぴろ: 今のところは、「僕らの実験に付き合ってもらっている」という感じですね。もっとサロンの人数を増やして、できることを増やしたいですね。コロナじゃなかったら大きい会場にサロンメンバー全員を集めて、なんかやったりとかも楽しそうだし。できることを膨らませるためにもっと有名になって、どんどん僕らに興味を持ってくれる人を増やせたらなと思います。

――サロンのデザインもとても素敵です。デザインに対して、なにかこだわりなどはありますか?

清水: 一緒に動いているスタッフさんが何パターンか提示してくれて、そこから選びました。

ぴろ: 僕はシンプルが好きなので、無駄なものを極力排除した、おしゃれなデザインが良かったんです。それに加えて「ポリシー」があるやつがいいなと思って、今のデザインを選びました。

清水: 単純に、一番「研究室」っぽかったよな。

ぴろ: そうね。ピンポイントに「研究室」って感じのやつ。

清水: サロンを作るにあたっての思いとか、全部にこのデザインが当てはまりました。

不採用となったデザイン案。「街の中に出現した不思議な研究所」をイメージ

――『研Q室』という名前は、どのように付けたんですか?

清水: 悩んだよね。

ぴろ: これがね〜……結構悩んだ結果、単純に『研Q室』っていいなっていう話になりました。

清水: Q(キュウ)も入ってるし。

ぴろ: 作家の氏田さんが、「『研究室』の“究”を“Q”にしたら?」っていう案を出してくれて。この名前でデザインをぱっと描いてみたときにその場の熱が上がって、「それだ!」ってなって突き進んだ感じですね。

――名前が決まったことでコンセプトも決まったんですね。

ぴろ: そうですね。ちょっとアカデミックなニュアンスは欲しかったですね。ただ、意味わかんないタイトルにはしたくなかったです。例えば『蛇とピアス』みたいな(笑)。

清水: なにやってるかが分かりやすい方がいいかなとは思ってましたね。

ぴろ: 比較的イメージしやすい方がいいよなと。

清水: まあなんとなく、なにやってるかは分かるもんね。

ぴろ: なんか「らしいこと」やってそうだなみたいな。

清水: 『蛇とピアス』はわかんないもんね。

ぴろ: キュウのオンラインサロン『蛇とピアス』。やばいでしょ(笑)。

清水: ちょっと入りたくないよね(笑)。

ぴろ: 入りづらいでしょ……なんか怖いですよね(笑)。

――たしかに(笑)。「実験的サロン」とついているのもすごく良いなと思っています。

ぴろ: それは僕らの考えもありますし、一緒にやってくださってるメンバーの方々の経験に色々助けられてますね。「オンラインサロン」っていう名前でいくかどうかということも投げかけてくれて。「あ、そこも変えて良いのか」っていう。

清水: そこの感覚がなかったもんなあ。やっぱり経験者がちゃんといてくれるっていうのはありがたいですね。

ぴろ: わかりやすく前を照らしてくれる。

全部頑張る2021

――サロンを始めてから、心境の変化はありますか?

清水: 始めてからそんなに経っていないので、今は楽しみが大きいです。

ぴろ: もっとメンバーを増やしていくために何したらいいかなとか、他のSNSとはどういう差別化したらいいかなとか、どうしたら喜んでくれるかな、っていうのも考えています。『M-1』で優勝して、僕らを知ってもらう、興味を持ってもらう機会を増やすことも大事ですし。サロンのクオリティを保ちつつ、新たなことにも挑戦していくというのを続けたいです。

清水: あとは、サロン会員限定のイベントを成功させるとかね。「入ってて良かった」って言ってくれる人が増えれば、「あ、じゃあ私も入ろうかな」っていう人が増えていくと思うんでね。

――サロン内だけでなく、賞レースなど外の活動も重要ということですね。

清水: もちろんそうですね。結局、全部頑張るっていうことですよね。

ぴろ: 単独ライブは他と違うことやりたいし、みんなと同じ場所(賞レースやテレビ、ライブなど)でも活躍したいっていう思いがあります。やっぱりそういう人の方がすごいなって思うし。全部頑張る。

清水: 結局ね(笑)。

――2021年の目標はありますか?

ぴろ: 『M-1』優勝です。優勝すれば全てがうまくいくので。

清水: 本当にそうです。それしかないと思っています。

ぴろ: このタイミングでサロンを作ったのは、「出発させておきたかった」という意味もあるんです。賞レースで結果を出したときには、すでに「作品」が完成している状態にしておきたかった。だから単独ライブも、そんなに知名度が無いときから作りこんでましたし。今からサロンに入ってもらえたら、キュウの「過程」も一緒に共有できます。

清水: (サロンにはネタ作りの過程や台本が残るので)サロン内に足跡が残るっていうのもいいですよね。

ぴろ: 過去につけてきた足跡も、これから付ける足跡も、全部サロン内で見れるようにしたいと思っています。

――2021年は、キュウにとって大事な年になりそうです。ちなみにお二人にとって、「売れる」とはどういう状態だと思いますか?

ぴろ: 「売れたい」じゃなく、「有名になりたい」って言葉を使いたいですね。今は自分の才能でお金を稼ぐ方法がたくさんあるので、昔のように「テレビに出る=売れる」ではなくなってきてますから。有名になるってことは、その人に価値があるってことだと思うので。

清水: 有名になってからが勝負やな、って思ってます。そういう野心めいたものは持ってますね。

ぴろ: 有名になったらやれることが増えるので、とりあえず有名になりたい。(キュウという)ブランドの価値が上がったら成功なのかな。自分たちのこだわりを守って活動をして、その上で有名になれたら良いですよね。

――最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。

ぴろ: 「サロンに入っていないからファンじゃない」とかは、全くないです。でも、サロンはワクワクをたくさん共有できる場所になっていく予定なので、キュウに興味がある方は入ったら絶対楽しいと思います。

清水: 過去の単独の台本も上げます。それだけでけっこう価値のあるものだと思いますし、プラスαで僕たちの日常も見ることができます。

※サロンでは配信や台本閲覧のほか、「清水の娘の観察日記(動画)」や「ぴろが執筆する会話劇」を楽しむことができる

ぴろ: みなさんの生活の楽しみのひとつに、僕らのことを組み込んでくれれば嬉しいです。人生で色々な娯楽がある中のひとつとして。

清水: キュウの単独が好きなら絶対いいもんな。

ぴろ: ただ、単独が終わった後の舞台裏とか台本は見せる予定ですが、「単独自体を作る部分」はどこにも見せないつもりです。単独は当日ですべてを知ってもらいたいので。

清水: 単独ライブとサロンは、「決して侵されることのないキュウの神域」だと思ってます。なのでここを覗いた人は、キュウの「表面じゃない部分」が見れるでしょうね。

ぴろ: たしかに。「キュウのコア」が見れますね。

インタビュー・文:くきまりこ
写真・編集:堀越 愛


<キュウ|プロフィール>
タイタン 所属

左:ぴろ
1986年5月4日生まれ。愛知県出身。特技はイラスト、ポテトチップスをいい音を立てて食べる。

右:清水 誠
1984年2月23日生まれ。愛知県出身。特技は空手、瞬時に涙を流せる。

★公式プロフィール:https://www.titan-net.co.jp/talent/q/

★YouTube「キュウ お笑いオフィシャルチャンネル」:https://www.youtube.com/channel/UCDishZFfEEFw_TRee8w4WRg

PERFORMERS

WLUCK CREATORS