コントが趣味の会社員・どくさいスイッチ企画が仕掛ける、新しいアマチュア芸人のあり方

『R-1グランプリ2022』で準々決勝に進出し、大阪のアマチュア芸人界で一目置かれる存在のどくさいスイッチ企画。普段は社会人として働いており、独自のあり方でその名を広めつつある。2022年8月6日(土)9月10日(土)には、第二回単独ライブ『嘘嘘、ぜーんぶ嘘」を開催予定だ。

「どくさいスイッチ企画」とは、彼が一人コントをするときの名前。実はコント・落語・大喜利で名前を使い分けているのだ。インタビューでは、一風変わった活動をする彼のルーツやこの先の展望、単独ライブに向けた想いを聞いた。

「コントが趣味の会社員」を掲げる、どくさいスイッチ企画のこだわりとは?

ピンで芸人をやるほうが、自分にはメリットが多い

———お笑いを始めたきっかけを教えてください。

それを説明すると、2部構成になります(笑)。まず、どくさいスイッチ企画と名乗り始めたのは大学生の頃です。当時は落研(落語研究部)にいて、落語をずっとやってたんです。落語だけでなく漫才とかもやりたかったんですが、コンビを組んで活動する相手がいなくて。お笑いをやる人がいないという現状にイライラして、それなら「一人でもライブしよう」ということでこの名前を名乗ってコントライブをやるようになりました。社会人になってもそれが2年くらい続いてたんですけど、2014年頃に1回辞めてるんです。ただ落語は続けていて、2020年までは社会人落語をやってました。でも落語会っておじいちゃんおばあちゃんを集めてやるので、コロナ禍になると開催できないんですよ。
どうしようと思ったときに『ウェブンブンチャンプ』っていう大会があるのを知って……ここから第2部です。お笑いの動画を投稿して競う大会で、ここに昔の動画を投稿しました。これがきっかけでグリエルシャーベットの家本とうふさんに『MAIN THEME』というライブに誘ってもらって、このためにネタを書いて、2020年7月くらいから活動再開しました。

———2014年頃に1度辞めたのはなぜですか?

単純に、社会人やりながら「お笑いを趣味でやってる」人がいることを知らなかったんです。落語って、めっちゃ人口いるんですよ。社会人落語やってると大会も定期的にあるし、寄席もみんな開いてるし。この界隈にいると、落語以外のことが全然わかんなくて。

———ずっとピンで活動されていますが、コンビを組みたいと思ったことは無かったんでしょうか?

何回かコンビを組んだことがあるんですけど、全部うまくいかなかったんです。多分、コンビで活動することに合わなかったんですね。元々落語をやってたのもあるし、お笑いを続けるんだったらピンのほうが自分にはメリットが多いなと感じてます。趣味でお笑いをやるなら、ピンのほうが練習時間とらないし、機動力もあるかなと。

———今やっているネタには、落語経験が活きていたりするんでしょうか?

そうですね。お笑いやってなかった間にもずっと落語の台本書いていたので、それが繋がってるかなと思います。

———そもそも、落語を始めたのはなぜなんですか?

大学に入ったときにお笑いサークルがなくて、お笑いできるのが落研しかなかったんです。漫才がすごい好きだったんで、落研に入って相方探すつもりだったんですけど、いざやってみたら落語がうまくいって。なんか調子に乗ってやってるうちに……みたいな感じです。

———ちなみに、芸名の「どくさいスイッチ企画」の由来はなんですか?

「どくさいスイッチ」って知ってます?

———ドラえもんの……

そうです。ドラえもんの道具で、人の名前を言いながら押すと、その人が世の中から消えるんですよ。「どいつもこいつも消えちまえ」って言ってボタンを押したら、地球上からのび太以外の全員が消えるというすごい怖い話で。それを踏まえて「僕は1人でも頑張っていくんだ」という意味を込めて、どくさいスイッチ。それだけを名乗るのもあれなんで、後ろに「企画」をつけました。

———コントは「どくさいスイッチ企画」、落語は「銀杏亭魚折」、大喜利は「ウォーリー」と名前を使い分けているのはなぜですか?

それで通っちゃってるんで、もう変えようがないかなっていう……。「銀杏亭魚折」っていう名前でコントやると、ちょっと“落研すぎる”なって。大喜利は、最初どくさいスイッチ企画でやってたんですよ。でも大喜利って、司会者の人に当ててもらって答えるじゃないですか。「どくさいスイッチ企画さん」って言ってもらうの、長いんでめっちゃ申し訳なくて(笑)。

コントが趣味の会社員

———芸人一本ではなく、社会人をやりながらアマチュアでい続けるのはなぜですか?

僕はコントが趣味の会社員なんで、プロではないっていうことを常々心に刻んでやってます。芸人さんに対してすごいリスペクトがあって、「人生をお笑いにかけるぞ」って決意と覚悟を持ってその世界に飛び込むって、ほんとにすごいと思ってるんですよ。自分はそれができなくて、なんとなく流れに身を任せてたらこうなったっていうだけ。そこは分けて考えないとなって思ってます。ほんとは、「兼業芸人」って言葉もあんまり好きじゃなくて。芸人じゃなく、「趣味がお笑いの人」なんですよ。これはお笑いを頑張らないための言葉じゃなく、自分が頑張るために一つ持っておかないといけないと思ってます。

———アマチュアで活動する兼業芸人や学生芸人が最近増えていますよね。こうした状況についてはどう思いますか?

プレイヤーが増えてるのは、めちゃくちゃ良いことだと思います。趣味としてすごく新しい部類に入ると思うので、アマチュアお笑いシーンが盛り上がってきて良いなと。大会がどんどんできて、出られる場所も増えてという状況はすごく喜ばしいです。あと、トルクレンチガールズさんとかガーベラガーデンさん、女ガールズさんとか、結果を出す人も増えていて。全体的に盛り上がって来て、良いなと思います。

———他のアマチュア芸人さんと交流する中で、刺激を受けることはありますか?

僕より絶対忙しい人がめっちゃ面白いネタ作ったりするので、それを見ると「頑張らななあ」と思います。あと、社会人お笑いの人って話聞くと意外な仕事してたりするんですよ。公務員ですごいことしてたり、自営業で「そんな仕事あるんだ!?」っていうことやってたり(笑)。僕はずっと会社員で同じような仕事しかやってないので、お笑いどうこうというより、人間として頑張らないとと思うことが多いです。

———プロの芸人さんと関わる中で感じることはありますか?

やっぱり、プロの方はステージにかける熱量みたいなものが違います。当たり前なんですけど毎回のステージが勝負だし、これも当たり前だけど、プロの方が面白いですよね(笑)。
ネタや平場すべてをトータルで見たときに、絶対プロのほうが面白いと思ってます。アマチュアが一番ハネたライブってあんまり見たことない。

真剣に芸人をやっている人に負けないものを

———『R-1グランプリ2022』では準々決勝に進出していました。賞レースについては、どう考えていますか?

今年、R-1に8年ぶりくらいに出ました。今までは2回戦とかで落ちてたんで、今年もそんなもんだろうと思ってたんです。でも結果として準々決勝まで行かせていただいて、ここで繋がりができたのがありがたかったんですよ。大阪のアマチュアからは、福田八段さんと自分が準々決勝まで行けたんですけど、福田さんをお呼びしてライブをすると、福田さんのお客さんが観に来てくれたりするわけです。そうすると全然知らない人の前でネタができるという収穫があるんですよね。「賞レースの勝ち負けに対して同じ方向を向いた」という繋がりが得られるので、出たほうが良いんだろうなと思いますね。

———繋がりができると。

そうですね。大人になってから友達ができることってほぼないんですけど、お笑いを始めてから急に知り合いが増えたと思います。同じものを目指して頑張った人たちなので、話しやすいっていうのがあるかもしれないです。

———準々決勝まで進んだことで、心境の変化はありましたか?

やっぱり、真摯にやっていかないとなっていう気持ちは強くなります。もちろん趣味でやってはいるんだけど、ここに出てる人たちは全員真剣だし、それに負けないものを持ってないといけないなと。R-1終わってから思うようになりました。

———今年5月にできた「楽屋A」では、劇場メンバーのGakuyaAに選ばれていましたね。ここでやっていきたいことはありますか?

やっぱり、「楽屋Aに報いたい」って思います。舞台袖や加藤さんのおかげでこれまでやってこれたと思っているので。あと、落語や演劇、大喜利とか、別のジャンルの人を楽屋Aに呼べるようなイベントができたら良いなと常々思っています。いろんな人がここを知ってくれたら、僕が出てなくてもイベントが増えるだろうし。その間の踏み台になれたら良いなと思ってます。

※「舞台袖」は「楽屋A」の姉妹劇場。大阪の芸人ユニットWEST ANTS主催・加藤進之介がオーナーを勤める

———「どくさいスイッチ企画」として、これからの目標はありますか?

まずは『R-1』で結果を出したいです。出て得たものがめちゃくちゃ大きかったので。あと4~5回くらい出られるんですけど、フルで出続けようと思ってます。あと、アマチュアお笑いシーンがどうなっていくかは分からないですけど、出られる場所があるなら細く長く続けていきたいなと思っています。

前回よりも面白い単独ライブに

———もうすぐ、第2回単独ライブ『嘘嘘、ぜーんぶ嘘』ですね。このタイトルには、どんな意味があるのでしょうか?

最近よく思うことをタイトルにしました。変な言い方ですけど、今全部の調子が良いんですよ。お笑いも仕事も私生活も調子良いんですけど、全部嘘なんじゃないかなって思うことがあって。いつか誰かが出てきて、「全部嘘だよ」って言われるんじゃないかっていう恐怖が常にあるんです。それをライブのタイトルにしました。第1回単独は『どうせなにもなくなる』っていうタイトルだったんですけど、それも当時思ってたことです。

———それはどういう意味だったんですか?

お笑いを趣味でやって、いろんなとこ出たりしてたんですけど、どうせこれもあと5年もすれば「なにもかもなくなるだろうな」っていう(笑)。舞台もないし、自分が出てることもなくなるだろうし、今いる人たちとも仲良くやってるか分かんないなっていう。そのときは「どうせなくなるだろうな」って思ってたんですけど、今はなくなるのが怖いです(笑)。

———「なくなるのが怖い」と思うようになったのはなぜですか?

『R-1』で準々決勝に行ったり、楽屋Aができたり、そこに出させてもらったり。いろんな人から声かけてもらえるようになったのが大きいですね。人との繋がりが増えたので、それを失いたくないと思うようになりました。

———単独ライブに対するこだわりを教えてください。

単独ライブなんで、可能な限り1人でやることを心がけてます。ゲストを呼ぶのも楽しいと思うんですけど、自分はコーナーとか“人間の素”のところで楽しませられるタイプではないと思うので、そういうのはやらずにコントを8本だけやる。あと、普段やらないことをやったり、逆に普段やってるようなことを強化してみたり。

———今度の単独ライブ、見どころはありますか?

前回は今よりも知名度が無くて、“友達の友達”みたいな人を呼んでたんです。今度は会場が楽屋Aで前回よりちょっと大きくなるので、それに耐えうるようなコントを8本作ろうと思ってますね。できるだけ、第1回よりも面白くしたいと思ってます。まだ作ってる段階なので見どころという感じでもないんですけど、そういう気概は持ってます(笑)。

———単独ライブに向けて、意気込みをお願いします。

趣味でお笑いやってるので、「ここから売れよう」とかは一切思ってません。ただ、趣味でやってるので、それなりに本気ではやらせていただきます。会社員の本気を観に来てほしいですね(笑)。

———最後に、この記事を読んだ方へメッセージをお願いします。

(事前に書いてきた紙を見て)「平素よりお世話になっております。今後とも可能な限り、活動を継続してまいりますので、ご愛顧いただければ幸いです。ご拝読くださり、ありがとうございました」。

取材(文・写真):なかにし
編集:堀越 愛


< PROFILE >

どくさいスイッチ企画(銀杏亭魚折/ウォーリー)

Twitter:@dsatwalle

WLUCK CREATORS