「下北沢の飲食店や屋上でネタをやったら、どんな化学反応が起きるんだろう?」劇場を飛び出す実験的お笑いフェスに向けて【『下北www.2023』事前インタビュー】

2023年5月18日(木)~21日(日)に、ミカン下北を舞台に実験型お笑いライブフェス『下北www.2023』が開催される。下北沢を拠点に活動するお笑いライブ団体「下北GRIP」と京王電鉄株式会社の共催イベントで、普段は劇場でしか見られないお笑いライブを街中で見られるとあって開催前からジワジワと話題になっている。

『下北www.2023』は、「下北GRIP」が京王電鉄に企画を持ち込んだのがきっかけで始まったイベントだ。どんなプログラムを予定しているのか、なぜ劇場の外でライブをしたいと考えたのか、そもそも「下北GRIP」とはどんな団体なのか……?「下北GRIP」代表の和田祐さんと、運営に携わる構成作家の比嘉夢丸さんに話を聞いた。

★イベント詳細:下北沢の街に芸人が飛び出す!新感覚のお笑いフェス『下北www.2023』の開催が決定【5/18~21 ミカン下北にて】

フラットにネタを観るお客さんが多いライブ

———「下北GRIP」は、どのようなライブをしている団体ですか?

和田祐(以下、和田): 下北沢で、週5でお笑いライブを開催しています。芸人が駅前でお客様を呼び込みし、お客様は無料でライブを観ていただけます。なので、ライブに来るお客さんは「お笑いファン」というよりたまたま下北沢を歩いていた方が多いんですよ。芸人さん目当ての方や常連さんもいますが、ほかのライブに比べると“お笑いをあまり観たことのない方”がフラッとくることが多いです。

比嘉夢丸(以下、比嘉): お笑いファンはだいぶ少ないですね。お客様の多くは、お笑いライブを初めて観る方です。

左:比嘉夢丸、右:和田祐

———お笑いファン以外のお客様が多いことは、出演する芸人さんにとってどんな意味があるんでしょうか?

比嘉: 芸人さんを知らない状態で観るので、フラットにネタを受け止めてくれるお客さんが多いと思います。普通のライブは、お客さんはそれぞれ目当ての芸人さんがいるので、人によってウケやすい・ウケにくい環境ができてしまったりするんですよ。そういう意味で、「下北GRIP」のライブはネタの練習になると思います。あと無料ライブなので芸人さんの心理的ハードルも低いようで、初めて人前でやるネタでも試しやすいみたいですね。

———そもそも、なぜ無料ライブにしているんですか?

和田: お笑い目的ではない方にも、フラッとライブに来ていただきたいのがひとつ。そして、芸人がお客さんを呼び込むスタイルでやるためですね。

比嘉: 居酒屋の呼び込みがNGなのと同じで、有料ライブだと呼び込みしてはいけないんですよ。無料ライブだからこそ呼び込みができて、結果いろんな方に来ていただけるんです。

———フラットな目線で観てくれるお客さんが多いということで、芸人さんにとっては賞レース前の調整にも良さそうですね。

比嘉: 賞レース前にエントリーする芸人さんも、けっこういますね。賞レースって、上に行けば行くほど細かいところを直すんですよ。ちょっとした間とか、小さいボケを入れるかどうかとか。そういうとき、ネタに先入観を持たず観てくれる人がいるのは良いと聞いたことがあります。実は、『M-1グランプリ』のファイナリストになった芸人さんも過去にけっこう出てたりするんですよ。

下北GRIP ロゴ

———賞レース前に限らず、普段はどんな芸人さんが出ているんですか?

比嘉: 出演する芸人さんは幅広いですね。事務所ライブやオーディションのためにネタを試したい若手芸人さんや、ユニットを組んだのでお試しでネタをやってみたい芸人さん、それから本気で賞レース決勝を目指す方も、一般の方もいるし、だいぶ幅広いです。変わり種で言うと、学校の先生もいましたね。

和田: 授業で話す掴みをここで試して、生徒の前でやるのが本番っていう。

比嘉: あと、お笑い業界の現状を知るために舞台に立ってみるという取材記者さんもいました。それから、アダルトビデオの収録を兼ねてエントリーした方もいましたね。男女コンビがそういう関係になったら……という企画もので。ここではネタをやっただけで、やらしい撮影はしてませんけどね(笑)。

★「下北GRIP」詳細:https://www.shimokitagrip2020.com/

『下北www.』の読み方は大喜利?

———長年下北沢でお笑いライブを主催しているとのことですが、街を巻き込むのは『下北www.』が初めてだそうですね。どんなイベントになる予定なんでしょうか?

比嘉: 劇場を飛び出して、飲食店や屋上、大階段など、街でお笑いライブをやるというイベントです。劇場で行われるお笑いライブって、決められたセットが無いんですよ。基本的に机と椅子だけで場所を表現するんですけど、「街自体をセットにしてネタをやってみたらどんな化学反応が起きるんだろう?」っていう実験的なイベントになる予定です。

———なぜ、お笑いライブを街でやってみたいと思ったんですか?

比嘉: ずっと下北沢でお笑いライブをやってきたんですけど、街とのかかわりが全然無かったんです。狭いコミュニティーの中でやってきたけど、うちのライブはいろんな人に観てもらうことこそが大事なんですよね。そろそろ街に出て、もっと広い範囲で多くの方に笑っていただきたい、ということでイベントを企画させていただきました。
元々思っていたのは、下北沢にある音楽や演劇というカルチャーと一緒に下北沢を盛り上げたいということです。その第一歩としてお笑いが外に出てイベントを打つことで、ほかの団体さんとつながりを持ちたいという考えがあったんですよ。
きっかけは、昨年『東京都実験区下北沢』のインタビューで京王電鉄さんとつながりができたこと。最初は「ミカン下北に入っているテナントさんのどこかでネタライブができないかな」という軽い気持ちで相談して、打ち合わせをさせていただくうちに、どんどん話が大きくなって(笑)。1店舗だけではなくいろんなところでやったら良いのではという助言もいただいて、最終的に、飲食店・屋上・大階段・劇場の4か所でライブをするという盛大なフェスになりました。

タイムテーブル(詳細はコチラからダウンロードしてご確認ください)

———芸人さんにフェスの話をしたときは、どんな反応でしたか?

比嘉: みんなに「どんなイベントですか?」って聞かれます(笑)。学園祭や地方営業とかで劇場以外でネタをやることはあると思うんですけど、街の一角でネタをやる試みってなかなか無いと思うんですよね。しかも、ライブ用にステージを組むのではなく飲食店の一部をセットに使うということで、芸人さん自身もイメージができていないというか。新しい試みだし、我々としてもやってみないとどうなるか分かんないということで不安もありますけど、ワクワクしてますね。

★出演者情報:飲食店や屋上で芸人がネタ披露!お笑いライブフェス『下北www.2023』出演者が決定

———『下北www.』というイベントタイトルにはどんな想いが込められているんですか?

比嘉: お笑いのイベントなので、「笑い」の要素をタイトルにも入れたかったんです。ほかの作家と一緒にいろいろ考えたんですけど、ダイレクトに「笑い」を入れるとコテコテになっちゃう。それでずっと悩んでたら、和田さんが悩んだ末に、適当に言ったんですよね。

和田: 「www(ワラワラワラ)」って。

比嘉: そうそう。で、ニュアンスではありますけど「良いな」と。笑ってることは確実に分かりますし、HPのURLでも使われる「www.(ワールドワイドウェブ)」のように外に広がっていくイベントになれば良いなと思ってこのタイトルにしました。

———どう読むのが正解なんでしょう?

比嘉: 読み方はあえて決めてないんです。めちゃめちゃ考えたんですけど、全部しっくりこなくて。お笑いライブってお客さんに楽しみ方を見つけてもらうようなところがあるので、このイベントも主催者側が決めてしまうのではなく、お客さんに「読み方を決めるところも含めて楽しんでもらう」のをコンセプトにしようと。だから、フェス中も芸人さんに自由に呼んでもらおうと思っています。

———タイトルの読み方が無いって、新しいですね。

比嘉: 誰かがすごく良い読み方をしてくれたら、来年はそれに決まってるかもしれません。タイトル大喜利じゃないですけど(笑)。

お笑いが街に根付くきっかけに

———フェス中、1年目に限定した大会『スタートダッシュ!』を開催するそうですね。1年目の大会にしたのはなぜですか?

和田: 元々「下北GRIP」の前身は、養成所を出ても事務所に入れずライブに出れなかった、駆け出しの芸人のために作った団体だったからです。僕がワタナベエンターテインメントの作家コースにいて、そこの同期だった芸人とはじめたんですよ。

比嘉: 当時は、養成所を卒業しても出られる舞台が今以上に無かったんですよね。

和田: そうですね。舞台が無くて苦労した1年目の芸人さんたちから始まった団体なので、せっかく大会をやるなら“1年目”の方の賞レースをやって、スタートダッシュの後押しをできたらなと思っています。

———エントリーできるのは、【養成所を卒業して1年以内/芸人活動をはじめて1年以内/結成して1年以内】のいずれかに該当する芸人さんだそうですね。たとえば、大学お笑いを3~4年やってから養成所に入り、この春卒業したような方も対象なんでしょうか

※エントリー期限は2023年5月8日(月)中まで

比嘉: そうですね。大学生の舞台とプロの舞台って環境が違うので、やっぱり“1年目”には変わりが無いんです。地肩の違いはあるかもしれませんが、観ているお客さんにとっては関係ありません。なので、どんな方でも1年目であれば後押しをしたいなと思ってます。

———芸歴が何年でも、結成1年以内であれば出れるんですよね?

比嘉: もちろんです。実際、芸歴を重ねた芸人さん同士が最近組んだコンビもエントリーしています。

和田: 勢いのある若手と、すでに数年経験している方が戦うのも面白そうかなと。

比嘉: そういう方が1年目の方に負ける可能性もあるわけです。そういうのも注目いただきたいですね。

★『スタートダッシュ!』詳細:5/20~21に“1年目の芸人”が対象の大会『スタートダッシュ!』を開催!

———『下北www.』を経て、どんなことが実現できたら良いと思いますか?

比嘉: 一番は、多くの方に観ていただきたいということですね。イベントのことは知らずフラッと歩いていた方にも、立ち止まって見ていただけたら良いなと。というのも、うちの団体は普段から呼び込みをしてますけど、お客さんにとっては「面白いかどうか」って劇場に入るまで分からないじゃないですか。でもこのフェスでは、道を歩いていたらお笑いライブを観れるんです。全然興味が無かったとしても、その一瞬で面白いものを見せられれば興味を持っていただけるかもしれないですよね。多くの方に「お笑いって面白いんだ」とか「今度は劇場に行ってみよう」と思っていただけたら良いなと思います。それから、出演した芸人さんのファンが増えて、芸人さん自身も「やってよかった」と思えるイベントにできたらなと思ってますね。

和田: 僕は下北沢育ちということもあって、下北沢の街でなにかをやりたいって前から思っていたんです。でも、なかなか一歩踏み出せない感じがあって。だから、フェスが「下北GRIP」にとっても芸人さんにとっても良い機会になったら良いなと思います。このフェスを今後にも繋げて、より街に根付いていけたらうれしいなと思いますね。

比嘉: 1回で終わりじゃなく、来年も続けていきたいですよね。

———イベントのメインターゲットは、下北沢を歩いている方になると思います。でも、普段からお笑いライブに通っている方が来ても楽しめるイベントですよね?

比嘉: そうですね。普段劇場でやっているネタを街中でやったらどうなるのか?っていうのを楽しみにしていただきたいですね。あと、屋上でもライブをやるんですけど、エレベーターでも芸人さんのネタを楽しめるんです。20秒くらいの短い時間でなにをしてくれるのか僕らも楽しみなんで、そういうのも注目いただきたいですね。

和田: すべて無料で楽しめるので、有料のお笑いライブには連れて行きにくいお友達も誘いやすいと思いますよ。

———最後に、フェスに向けて意気込みをお願いします!

比嘉: 人目につく場所でネタをやっているので、1~2分でも良いので是非立ち止まって観ていただきたいです。ぜひ遊びに来てください!

文・編集:堀越愛 撮影:福田駿

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