「東京でガクテンソクの評価を確かめたい」代打ではなくスタメン、セカンドではなくファースト【ガクテンソク単独ライブ「百代の過客」直前インタビュー】

2023年4月。大阪漫才師の筆頭を走っていたガクテンソクが、東京に活動拠点を移した。

ガクテンソクは、2020年に『M-1グランプリ』ラストイヤーを迎え、その後はなんばグランド花月(NGK)やよしもと祇園花月といった関西を代表する劇場を中心に活動。大阪でキャリアを積んでいるように見えたガクテンソクは、なぜこのタイミングで上京したのだろうか?その背景や想い、そして6月に大阪・東京で開催する単独ライブ『百代の過客』について話を聞いた。

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M-1ラストイヤーを経て上京を意識

———上京することはいつごろから決めていたんですか?

奥田 修二(以下、奥田): 2020年が『M-1』のラストイヤーだったこともあって、言葉にはしてないですけど「2021年から東京どうかな~」という微妙な空気を醸してたんですよ。そしたら、大阪のマネージャーが察知したようで(笑)。スケジュールに、2021年の単独ライブツアーが入ってたんです。

———上京を止めるためということですか?

奥田: そんな感じです(笑)。まぁ、1年かけていろんなところ回って楽しくやらせてもらいました。で、2021年の秋くらいに「2022年は東京に行きたい」ってちゃんと言葉に出したんですよ。そしたら、マネージャーが「実は『伝説の1日』が2022年4月頭にあるんです」と言い出して。「NGKでやるんですけど、出演者の中にガクテンソクさんの名前も入ってるので、ちょっとこのタイミングで上京は……」みたいな。え!?その1日のために!?って(笑)。

———上京したら『伝説の1日』には出られない、ということですか?

奥田: なに言ってるのかよく分からなかったですけど(笑)。「いろいろあるんで……」みたいな感じやったんで、それやったらもう1年頑張るんで「2023年は行く方向」でやりましょうと。止められているのに跡を濁して上京するのも嫌ですしね。結局、マネージャーに理解してもらって気持ちよく送り出してもらうために、上京を意識してから2年ちょいかかりました(笑)。

よじょう: 気付いたら40歳過ぎてましたねぇ(笑)。

奥田: 30代のうちに上京したいみたいなこと言ってたんですけどね。結局41、ふたりとも(笑)。

———『M-1』のラストイヤーを待たずに上京する手もあったと思いますが、2020年のタイミングで上京を意識したのはなにか理由があったのでしょうか?

奥田: なんですかねぇ……。これまで、何度か上京のタイミングはあったと思うんですよ。例えば、2010年に1度『M-1』が終わったタイミング。同じ時期(2010年12月)に「baseよしもと」がなくなったんで、そこもひとつの転換点でしたね。そこから「やっぱり大阪で頑張ろう」となったけど、2014年くらいでまた「東京に行こうかな」と思いましたね。

———「5upよしもと」を卒業したタイミング(2014年2月に卒業公演)でしょうか?

奥田: そのくらいの時期ですね。でも、「2015年にまた『M-1』が始まるらしいぞ」と。それに挑む1発目の年は、東京じゃないよな……ということで、気付いたら2023年でした(笑)。

よじょう: だいぶ経ちました(笑)。

奥田: 早いっすねぇ。当時の出来事、昨日のことのように覚えてますよ(笑)。

コロナ禍で感じた「代打やなー」

———なぜ「東京に行こう」と思ったんでしょうか?大阪でもたくさん舞台に出ていたと思いますし、東京にどんなことを求めていたのかなと。

奥田: 良い聞こえ方はせえへんかもしれませんけど、コロナ禍で「代打やなー」って思ったんです。みんなが休むときに、代打でめっちゃ出たんですよ。アキナ、見取り図、ミキ、ミルクボーイとか、もう軒並み。1週間くらいアキナの代打でスケジュール埋まったこともありましたもん(笑)。アキナがMCやってる番組も僕らがやったりして、「アキナ忙しいなぁ、しんどいよなぁ」と思いながら(笑)。先輩の代打もしましたし「評価はされてんねやろな」と思いました。でも「代打やなー」と。あれ?いつスタメン落ちしたっけ?ピンチのときだけバッティングで出てくるみたいになってるけど、俺、まだ守備も走塁も行けるはずやねんけどな~みたいな感じです(笑)。鳥谷選手が、以前「他球団での評価を聞きたい」ってFA宣言したじゃないですか。あの気持ちが分かりましたよ。ほかのチームやったら、スタメンになれんじゃないか?という。

よじょう: そうやったんや。鳥谷の気持ちやったんや(笑)。

奥田: 「球団に愛があるんやったらFAせんでおりゃあ良いやん」と思ったけど、確かにチーム内での評価と外から見た評価は違うなって。だから、「東京という場所でのガクテンソクの評価を聞きたい」みたいな想いがありましたね。

———同じタイミングで上京し、無限大ホールに所属するコンビがたくさんいますよね。ガクテンソクさんは所属しませんが、慣れない新天地だからこそ「劇場に所属したい」と思いませんでしたか?

奥田: 所属している劇場への恩返しって、『M-1』や『キングオブコント』で結果を残すことだと思うんです。今でこそ『THE SECOND』がありますけど、上京を決めた時点では、僕らには劇場に恩返しする方法がなかった。所属は大阪でいっぱいさしていただいたんで、東京では違う形でやっていくのが良いんじゃないかなと思ってます。

———大阪のときは、どこが主戦場だったんですか?

奥田: NGKとか、よしもと祇園花月ですね。団体さんや一見のお客さんが来ることが多い劇場です。

———では、当時は老若男女にウケるネタを意識されていたのでしょうか?

奥田: 基本的にはそうでしたね。お客さんも毎回変わるんで、4~5本のネタを回してました。

———東京だと、同じお客さんがライブに来ている印象がありませんか?

奥田: そうなんですよ、それ感じました。劇場にお客さんがついてる感じがあります。しかも、東京は劇場によって微妙に年齢層が違いますよね。無限大ホールは若くて、有楽町は少し上みたいな。『M-1』が終わってからは基本的に老若男女向けのネタをやってましたけど、東京はそれじゃいけない。面白いですね。

———では、東京ではこれまでと異なるネタのつくり方になりそうですね。

奥田: そうですね。例えば有楽町だったら自分らの目線で見てる話をテーマにすると思うけど、無限大ホールのお客さんに笑ってもらおうと思ったら、おじさんである僕らの目線と若い目線の”差”をテーマにしないと伝わらないのかな、とか。そういうのは意識したいと思ってます。

———劇場の特徴を踏まえてネタのチョイスを変えること、たいへんではないですか?

奥田: 僕は楽しいですよ。はっきりと感じますけど、大阪のときよりウケてますしね(笑)。どこ行ってもけっこうウケんな~と思います(笑)。来て良かった。今まで何回もやっているネタでも、お客さんが違うとこんなに反応が違うんや、っていうんも楽しい。全部楽しいですよ。

———よじょうさんはいかがですか?

よじょう: 楽しくなくはないですね。

奥田: 嫌な日本語!(笑)

マシンガンズとの友情が芽生えた『THE SECOND』

———東京で約2ヶ月活動してみて、東京と大阪でお客さんの違いは感じていますか?

奥田: 全然ちゃいますよ。

よじょう: まだ慣れてないんで、あんまり分かんないっすね。

奥田: 慣れれないやん。だって国分寺住んでるから。

よじょう: 関係ない(笑)。

奥田: 遠いやんか。

よじょう: めちゃくちゃ遠いけど。

奥田: お笑いって、23区内で動いてるんやで。国分寺は、都内を眺める観客席(笑)。

よじょう: いや違う違う(笑)。みんなに遠いって言われるけど、国分寺も都内やろ。

奥田: まぁ大阪と東京、全部違いますよ。大阪の空気とはなんか違う。お客さんが明るいよね。

よじょう: それはほんま。確かに。

奥田: 大阪のお客さんは、多分ケチなんでしょうね(笑)。「金払ったんやから笑かしてもらうで」っていうテンション。東京のお客さんは「金払ったんやから楽しんで帰ろう」って感じ。大阪の人間って、元取って帰らな、ほんまに気ぃすまへんですよ(笑)。

よじょう: あと、大阪のお笑いはほとんど吉本一択っていうのもあるんじゃないですかね。「ここで絶対笑っとかんと!」みたいな。東京は他にもいっぱいありますもんね。

———そうですね。東京だと、他事務所の芸人さんと共演する機会も増えそうですね。

奥田: こっち来て思ったんですけど、東京って吉本以外の事務所のことを「他事務所」って言うんすよ。凄ないすか?これ(笑)。吉本か吉本じゃないかで、「他事務所」って。

———吉本以外の芸人さんも、自分たちのことを「他事務所」って言いますよね。

奥田: そうなんですよ。「自分か自分以外か」って、そんなん言うの吉本かローランドくらいですよ(笑)。

———ガクテンソクさんが今後、他事務所の方と共演するのを見れるのも楽しみです。

よじょう: それこそ、東京の単独ライブはゲストがマシンガンズさん(太田プロダクション)ですね。

奥田: ナイツさんのラジオにマシンガンズさんが出てるの聞いたら、「単独呼んでもらったんだ」って話してたよ。『THE SECOND』で戦ったら友情芽生えたみたいな(笑)。僕らもその場きりでお別れするのはアレやったんでお呼びしたんですけど、ライブ終わったら飲みに行く気満々やったよ(笑)。

———『THE SECOND』という新しい賞レースが生まれたとき、どう思いましたか?『M-1』のように、活動の指針になったりするものなのでしょうか。

奥田: 発表されたときは「いらんことしやがって!」って思いました(笑)。『M-1』が終わって、4分ではないネタをのびのび考えられてたのに。『THE SECOND』は6分とはいえ賞レースっぽいネタのつくり方をすることになるだろうし、そもそも「16年目以上」って、え?勝つまで終わらんやん!っていう(笑)。“セカンド”って聞いたときも、あれ?ファーストのつもりでやっててんけどな?って(笑)。でも、ごちゃごちゃ言いながらもやってみたら、結局楽しかったですよ。シャンプーハットさんとかがNGKの出番後に「あそここうして、ああして……」とか喋ってんの見んのも新鮮すぎて。「あー、詰めてる!すげえ!」と(笑)。でもやっぱり、『M-1』みたいな、負けて奥歯噛みしめて「グッ……」みたいな感じはないですね。

———『M-1』のように、1年かけてネタを仕上げていくのとは違いますか?

奥田: そうですね。それより、普段やっていることがそのまんま出る大会やなと思いました。『M-1』はネタ中に噛んだらお客さんもピリッとするけど、『THE SECOND』は普通に笑ってくれて。ほんま、めっちゃ明るい外の営業みたいでした。

今が芸人人生の頑張りどころ

———奥田さんのnoteで「僕たちは東京に行きますが、今回の移住には、関西の10年後にガクテンソクの居場所をつくるためという意味もある」と書かれていたのを拝見しました。これはどういう意図ですか?

奥田: 10年後はもう50歳ですから。50歳になったら、「地元の宝塚から車でNGKに通う人生になっておきたいですよね」って感じです。好きなことをやって生きようという無茶な仕事をやっているんで、どっかで”頑張りどころ”をつくらないと続けられないと思うんですよ。50超えてめちゃくちゃ頑張んのは多分無理と思うので、40代の今、無理して力を入れようと。そう考えると、やっぱり東京のほうが戦えるフィールドが多い。ここで“できる”ことを見せられたら、大阪に限らずいろんなところで需要が出てくると思うんですよ。そういう感じで、日本全国で楽しく過ごしたいよね。

よじょう: うん。

———これから東京で活動するにあたって、意識している漫才師はいますか?

奥田: 大阪時代から思ってましたけど、特に意識してしまうのは銀シャリさんと和牛さんですね。漫才師として、師匠クラスの迫力が出だしてる。ほぼ同世代なはずやのに、こんなに迫力出る?あと1~2年で、ガクテンソクにあんな迫力出るかな?って思います(笑)。今まで過ごしてきた漫才の時間が、ああさしたんやろうなと思いますね。すごいもん。

よじょう: この前営業でフットボールアワーさんとご一緒したんですよ。そのとき見たことないネタやってて、すげえなと思いました。単独ライブしてはる形跡もないし、ほんまにいつつくってんの?と。その姿勢がすごいなと尊敬しますね。

賞レースを意識しない、柔軟な単独ライブ

———単独ライブのタイトル『百代の過客』には、どんな意味があるのでしょうか?

奥田: ほんとのこと言うと、特に意味はない(笑)。意味あるっぽく言うと、「百代の過客」って『奥の細道』の冒頭に出てくる言葉なんですよ。『奥の細道』って松尾芭蕉が「死ぬほど旅に出たい」って言ってるだけの話なんです。冒頭でも「旅に出たい、出たい、出たい!去年我慢したけど、旅に出たい!」みたいなこと言ってて。松尾芭蕉も2年くらい我慢して旅に出るんで「一緒やな」っていう(笑)。僕ら、松尾芭蕉と境遇似てるやん、という感じです。さらに「百代の過客」って「永遠の旅人」って意味があるんで、ちょうど良いかなと。

———松尾芭蕉に重ねたタイトルだったんですね。

奥田: あちらは俳句を詠むけど、こちらは漫才をするっていうスタイルです。

———ライブではどんなことをやる予定ですか?

奥田: 基本的にはネタが軸になります。『M-1』に出てた時代は、良いテーマを思いついても全部無理やり漫才にしてたんですよ。でも、そういうときって「テーマは良いねんけどな~」って感じであんまりおもろないんです。で、2021年に「あれ?別に漫才にせんでもええやん、大会ないんやから」と気付いて。それでコントもつくるようになったんですよ。なので、漫才だけでなくコントもやる予定です。あと、ゲストのマシンガンズさんやギャロップさんにもネタをやっていただきますし、喋りたいなとも思ってます。

———4月に上京して6月に単独ライブ、けっこうスピード感がありますね。

奥田: マネージャーにやる気あるとこ見せとこ!っていう理由です(笑)。上京したころ『ソウドリ』に出たんですけど、チーフマネージャーが観に来てくれたのに2連敗したんですよ。いやいや、負けたけどやる気はありますよと(笑)。2連敗なんて、最近してなかったもんな。

よじょう: なかった。ちょっと勝ったと思ったしな。

奥田: 良くないな(笑)。あと『THE SECOND』の質や東京のお客さんの感じも分かったとき「新しくネタつくりたいな」と思ったんです。さっきよじょうが「フットさんいつネタつくってんの?」って言ってましたけど、宿題がない状態で新ネタつくるってすごいんですよ。銀シャリさんとかもいつも新ネタつくってるし、そういう芸人に近付くためにも、単独ライブに向けていろんなネタをつくろうと思ってます。

ガクテンソク単独ライブ『百代の過客』概要

■単独ライブ 大阪公演
[日程]6月2日(金)開場18:00/開演18:30
[会場]YES THEATER
[ゲスト]ギャロップ
[料金]前売3,000円/当日3,500円
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■東京報告会
[日程]6月2日(金)開場20:15/開演20:30
[会場]YES THEATER
[料金]前売1,000円/当日1,200円
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■東京公演
[日程]6月18日(日)開場15:00/開演15:30
[会場]紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
[ゲスト]マシンガンズ(太田プロダクション)
[料金]前売3,000円/当日3,500円
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※詳細:https://live.yoshimoto.co.jp/live/live-4279/

PROFILE

吉本興業 所属

左:よじょう
右:奥田 修二

★公式プロフィール:https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=2870
★YouTube:【公式】ガクテンソクチャンネル

取材(文・写真)、編集:堀越 愛
サムネイルデザイン:ヘンミモリ

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