【これまで編】R-1アナザーストーリー「日本一への夢が潰えた日」。5大会連続決勝進出、ルシファー吉岡のこれまでとこれから。

2020年11月25日。2002年から続いてきた「R-1ぐらんぷり」が、2021年より「R-1グランプリ」へと生まれ変わることが発表されました。同時に参加規定も「芸歴10年以内」に変更。これにより、ピン芸人日本一を目指してしのぎを削ってきた多くの猛者たちが参加資格を失うことになりました。2016年より5大会連続で決勝に進出し続けてきたルシファー吉岡さんもそのひとり。毎年、フジテレビのゴールデンタイムに下ネタで挑み続けてきたルシファー吉岡さんに、これまでとこれからについて伺いました。

はじめてつくったネタも下ネタだった

ールシファー吉岡さんと言えば「下ネタ」のイメージが強いですが、そのスタイルはどのタイミングで生まれたんですか?

マセキ芸能社の養成所に入って、最初の授業がネタ見せだったんです。ネタをつくれる人はつくってきて、先生や作家さんに披露をしてダメ出しをもらう形式です。そこでつくったのが、“エレベーターの中でうんこを漏らしてしまうネタ”だったんです。白紙の状態でつくったネタがそれですから、潜在的にそういうのが好きなんだと思います。本能ですね。今でも何も考えずにネタをつくると、ぼくの統計上8割方が下ネタになります。意識的に避けようとしないと、そうなってしまいがちです。

1年間の下ネタ封印により覚醒

ー下ネタって演じる場所の空気によっては、ハマることもあれば、ハマらないこともあると思うのですが、そのスタイルで手応えを感じ始められたのはいつ頃からですか?

いつだろうな。マセキに入ってずっと下ネタでやってたんですけど、最初の頃はウケたりウケなかったりで。ほんとハマるときはハマるし、ハマらないときは全然っていう。それで一度、マネージャーから下ネタを辞めるように言われたことがあるんです。その後、1年くらい下ネタを封印してたんですけど、それでもウケたりウケなかったりで。自分の中でも何となく面白みに欠けるなと思いながらやってたんですけど、そうこうしているうちに事務所ライブのランクがどんどん下がっていって……。

最終的にはいちばん下の「ジャンピングイエロー」になってしまって、そのときに吹っ切れたんです。もう知らんと。下ネタをやるなと言われてるけど、もう関係ないと。それで、自分が本当に面白いと思えるネタをやろうと思ってつくったのが、「護身術講座」っていうネタです。“変質者に護身術から身を守るための護身術を教える”ってネタなんですけどね。ほんと最低なネタだなって思うんですけど、それをやったときにすごいウケたんです。下ネタどうこうよりも、自分が面白いと思ってることをやっているので、迫力が違ったんでしょうね。

マネージャーもそのウケを見て、「下ネタでもいいよ」って解禁してくれました。そこからは下ネタでいくと決めたわけじゃないけど、自分が面白いと思ってることをネタにするようになりました。そこからですかね、手応えを感じ始めたのは。そのあとに「張り込み」「研究者」「生徒の悩み」ってネタがポンポンポンとできて、それが自分で言うのもなんですけどとんでもないウケ方をしたんです。自分でも、そのときになんか掴んだなって感じがして、周りからも掴んだなみたいなことを言われましたね。

ルシファー吉岡『護身術講座』(MASEKIGEINOSHA)

●張り込み … https://www.youtube.com/watch?v=92Lf0VQ_S2Q
●研究者 … https://www.youtube.com/watch?v=me7KIpaNlBM
●生徒の悩み … https://www.youtube.com/watch?v=y-prIx4lhiw

ー下ネタは事務所的にNGだったんですか?

マセキ芸能社は伝統的に下ネタをしない事務所ではあったように思います。でも、そういう理由でマネージャーから下ネタを辞めるように言われたわけではありません。そればっかりやってると、僕が成長しないんじゃないかという判断だったと思うんです。下ネタに頼ってると思われたんでしょうね。あのときを振り返ってみると、確かにそうだったのかもしれません。だから一度辞めたことは無駄じゃなかったんです。封印中も一生懸命ネタと向き合ったものの、なんかしっくりこない。ウケてはいるけれど、これじゃないというか。一度、その感覚を経験したからこそ、自分の方向性がしっかりと定まったんだと思います。

ー下ネタを封印する前と後で変わったことはありますか?

今思えば、いろんな変化があったと思います。例えば、演じ方もそうですね。それひとつでお客さんが引くか面白がってくれるかが変わってくるんですけど、そこまで考えて演じることができるようになってきました。台本についても、ただただエロいとか、ただただ下品とか、嫌悪感があるような押し出し方ではなく、バカバカしさを全面に押し出せるようになってきたんだと思います。もともと“バカバカしさ”のある下ネタが好きだったので、そこに気付けたのは大きかったですね。

『R-1ぐらんぷり』決勝での苦悩と葛藤

ーそこから『R-1ぐらんぷり』の決勝には、すぐに進めた感じですか?

手応えを掴み始めたのが2013年頃のことです。その後、2014年に「お笑いハーベスト大賞」をいただき、2016年に初めてR-1の決勝に進むことができました。

ー2016年から5年連続でR-1の決勝に進出されています。2020年の大会後にオードリーさんのオールナイトニッポンに電話出演され、「何をやったらいいかわかんないですよ」とつぶやかれていたのが印象的でした。毎回、下ネタの力加減に悩まれていたようですが。

そこは相当難しかったですね。2016年に初めて決勝に進出したときは、「キャンタマンクラッカー(ホームルーム)」ってネタをやったんです。自分としてはすごく好きなネタで、面白いとは思うんです。出番順がハリウッドザコシショウさんの後だったので焼け野原みたいだったとは思うんですけど、それにしてもウケなかったなあと。決勝の舞台って、思っていたよりも“公共の場感”がすごいんだなあということを痛感したというか。閉ざされたライブ空間とは全然違うことを肌で感じたんです。

それで下ネタは難しいのかもしれないと思って、2017年は「大化の改新」っていう下ネタ要素のないネタをやったんですね。やってみてその方がウケやすいんだなってことは感じたんですけど、ただあまりにもスッと終わっちゃった気がして。もうちょっと僕らしさがあった方がいいんじゃないかって思って、2018年は「生姜」ってネタをやったんです。息子がエロ画像というフォルダの中に生姜の画像を入れてるネタなんですけどね、これがいちばん苦情というか、文句がきたんです。めちゃくちゃ炎上すれば、おいしい部分もありますよ。でも、SNSに上がっているすべての文句に目を通せるくらいの量で。プチもプチ炎上ですよ。マックス傷ついたけど、話題にもならないという。2018年はトップバッターだったんですけど、サザエさんのすぐあとの日曜19時台だったというのもよくなかったのかもしれません。

ルシファー吉岡『ホームルーム』(MASEKIGEINOSHA)

●大化の改新 … https://www.youtube.com/watch?v=HnIb-Mzo9ds
●生姜 … https://www.youtube.com/watch?v=7YWo363aupw

ー下ネタを封印すると自分らしさが失われる。だからと言って下ネタ全開でいくと苦情がくる。どちらを取っても思った結果を得られない中で、2019年のネタの選択はさらに難しかったと思いますが。

2019年は下ネタでいくにしても、もう少し抑えようと思いました。それでつくったのが“男子校と女子校が合併して共学になる”というネタです。これはできたときに、いいぞって思いましたね。ピンク要素がものすごく薄くて、僕の中では限りなく透明に近いピンクって呼んでるんですけど。これなら僕らしさもあるし、エロくもないし、かわいらしさもあって、みんなが笑える。そう思ってやったんですけど、結果は振るわずで。このあたりからどうすりゃいんだろうという感じがずっと続いてて、今年もそれと同じ方向性の“缶コーヒーの間接キス”を題材にしたネタをやったんですけど、またダメで。それを受けて、オードリーさんのラジオで「何をすればいいかわかんない」って言葉が出たんですよね。

ーオードリーの若林さんがラジオで、「神宮球場にデリヘル嬢を集めるネタをやってほしかった」と仰っていました。そのときは「サザエさんのあとなんで無理ですよ」と返答されていましたが、実際のところはどうだったんですか?

神宮球場のネタは正直頭の中になかったですね。成金がデリヘル嬢を神宮球場に集めて演説するみたいな設定なんですけど、さすがにフジテレビのゴールデンでやるネタじゃないなと。若林さんも「あれでよかったじゃん」と本気で言ってくださったのか、ボケとして言ってくださったのかはわからないですけど、今となってはあれでもよかったのかなと思う部分もありますね。ただ、二本目にまあまあきつめの下ネタを用意していたので、それで神宮球場のネタが浮かばなかったというのもあります。

ー若林さんは陰謀論のネタも見たかったと仰っていましたね。

陰謀論のネタは、僕の単独ライブを若林さんが観に来てくださって、そのときにやったんです。元は15分のネタなんで、R-1用に3分にするのは無理で。でも、ラジオで取り上げてもらえたおかげで、『爆笑問題&霜降り明星のシンパイ賞!!』(テレビ朝日)で披露する機会をいただけました。そのときは5分くらいに短縮したんですけど、それでもギリギリだったんで。

<プロフィール>
ルシファー吉岡

マセキ芸能社所属。
1979年10月13日生まれ。東京電機大学・大学院修了。マセキタレントゼミナール出身第1号。第5回(2014年)「お笑いハーベスト大賞」優勝。R-1グランプリにおいては、2016年から5大会連続で決勝に進出。テレビ朝日系列「激レアさんを連れてきた。」にてナレーションを担当。

★公式サイト:https://www.maseki.co.jp/talent/lucifer_yoshioka

インタビュー:ことばのラジオ、撮影:秦 法爾、編集:堀越 愛

PERFORMERS

WLUCK CREATORS