「1個のジョークで爆笑と悲鳴が同時に起こる」……日本とアメリカで異なる、コメディの環境【ウーマンラッシュアワー村本大輔 独演会『Call me the GOAT at ニッショーホール』直前インタビュー】

2024年12月20日(金)に、ウーマンラッシュアワー・村本大輔による独演会『Call me the GOAT at ニッショーホール』が開催される。

村本は2023年にアーティストビザを取得し、活動の拠点をアメリカに移した。本独演会は、スタンドアップコメディアンとしてニューヨークで経験を積んだ村本による渡米後初となるトークライブである。
拠点をアメリカに移してから、村本はどんな日々を送っていたのだろうか?パフォーマンス場所を求めるストイックな日々、そしてアメリカで感じた日本のお笑いとの違いなど、話を聞いた。

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自ら機会を生み出す、ストイックな日々

———ニューヨークでは、どんな1日を過ごしているのでしょうか?

自分で予定を入れなかったら、1日中なんにもないんですよ。朝起きてネタつくって、それを英語にして丸暗記して、昼ぐらいにインターネット見て、オープンマイクっていうしゃべらせてくれるコメディクラブを探して、予約して、電車で現場に行って、お金を払ってネタをする……みたいな毎日です。プロの人たちが使っていない時間帯を使わせてくれるので、1日に最大3回くらい出ますね。多いときは15人くらい、少ないと1~2人の前で、その日つくったネタをやります。出番が終わったら次の場所まで、ぶつぶつネタを練習しながら向かい、またネタをやって……これをほぼ毎日やってます。出ない日は、「Comedy Cellar」っていうニューヨークで一番のコメディクラブに行きますね。そこでプロの芸人さんたちを見て、出てくるお客さんたちにネタを試します。

※オープンマイク:カフェやバーなどの店舗が店内を解放し、誰でもパフォーマンスができるイベント。

———出てくるお客さん?

コメディクラブを観終わったお客さんが出てくるのを、出口で待つんですよ。タクシーを待ったり外でしゃべったりしているところに行って「I`m Japanese comedian」と声をかけるんです。「Was tonight comedian , funny?」と聞いて「Funny」と返ってきたら、「Can I try my joke?」と言って、俺のネタをプロの芸人を見た後のお客さんに試すんです、外で。そして反応をもらって、作り変えて……そんな感じで、10ヶ月過ごしてますね。朝7~8時には起きれるように、家のカーテンは付けてません。ニューヨークって、めっちゃ太陽キツイんですよ。なので直射日光が顔に当たるようにベッドを配置して、それで早起きしてます。無職で昼まで寝てるなんて、地獄じゃないですか。起きたらカフェでネタつくって、丸暗記して夜に備えるって感じですね。

———お話を聞くと、10ヶ月修行のような生活を送っているように思います。どんなモチベーションで日々を送っているのでしょうか?

うーん、夢のなかみたいな感じですね。言語の問題で、たまにホームシックにはなるんですよ。lとrが入ってる単語が言えなかったりしたとき、「言えないのにコメディクラブに立つんだ……」とか思うとちょっと絶望を感じることもあります。それでホームシックになることはあるんですけど、一発爆笑を取ると全部チャラになっちゃうんですよね。こっちって、ウケるとすげぇ人が集まってきて、グータッチして「お前名前はなんて言うんだ?」とか「絶対素人じゃねぇだろ」とか言ってくるんですよ。ホームみたいな感じになるんで、安心して全部チャラになりますね。

———最初のウケを取るまでは、苦戦されたのでしょうか?

ウケるネタをつくるのは、そんな難しくないんですよ。20年日本でやってきてるから、「これやったらウケるかな」とかはなんとなくあるんで。でも日本でもそうですけど、ウケたとて誰もファンになってくれないネタっていっぱいあるじゃないですか。この前料理人としゃべったんですけど、たとえば料理にキャビアを乗せると、お客さんは「すごい!」って言う。でも、すごいイコール難しい料理、というわけではなかったりする。お笑いも同じで、簡単な笑いを取ることはできるけど、“自分にしかできないネタ”をつくるのがめっちゃ難しいんです。日本人がアメリカでネタをすることになったら、多くの人は「僕たちはマジメです」とか「アメリカのトイレは汚いけど日本はウォシュレットがある」とか、日本とアメリカの違いで笑いを取ります。つまり、ネタがけっこう被ると思うんですよ。だからこそ、自分にしかできないネタを考えるのがすごく難しいですね。

———ただ笑わすだけなら難しくないけど、自分らしいネタをつくるのが難しいんですね。

そうそう。「日本人だから」ではなく、「僕だから」できるネタ。こっちは漫才やコントと違って、ひとりのスタンダップコメディじゃないですか。だから今は、個人の性格をネタに出すための作業をしてる感じですね。

日本とアメリカで異なる芸人像

———ネタをしていて、日本とアメリカの違いを感じることはありますか?

日本だったらあり得ない経験をしてますよ。たとえば、しゃべり方を真似されたり、英語の発音をバカにされたり。あと、ネタをする場所によって反応が大きく変わります。ユダヤ人のお客さんが多い場所だとイスラエルのネタがセンシティブになってしまうけど、場所によってはすごくウケたりね。日本だと大体の人が同じ教科書で育って同じ情報を持ってるから、ウケるところって大体一緒なんですよ。でもこっちは、1個のジョークで爆笑と悲鳴が同時に起こることがあるんです。右側のお客さんは爆笑してるけど左側はすごい怒ってるみたいな景色って、ニューヨークじゃないと見られないと思うんですよね。ここで感じたおかしさや新鮮さを、自分のなかでネタにしていく感じがある気がしますね。

———ニューヨークでネタをするようになって、日本でネタをする際の変化はありますか?

アメリカに来てから、言葉がよりキツくなったかもしれないです。アメリカのコメディクラブって、基本的に21~22時からスタートするんで、子どもが入っちゃダメなんですよ。だから大人ばっかりなので、ネタもけっこう攻めないといけない。でも日本に戻ると、お客さんのなかに子ども連れもいるわけですよね。子どもからお年寄りまでがいる日本の寄席と、大人の男女ばかりが集まるアメリカのコメディクラブ、やっぱり環境は違います。だから言葉はちょっと調整したほうが良いのかなと思うことはあります。たとえば、こっちだと女性器の名前もダイレクトに言ったりするんですよ。でも日本で言ったら「とんでもないこと聞かされた」となる。アメリカの普通が日本だと狂ってることもあると思うんです(笑)。自分が自然と発した言葉が強すぎて、日本だとオチまで耳に入らない可能性があるのは怖いですね(笑)。

———日本とアメリカだと、芸人像がけっこう違うんですね。

そうですね。コメディアンの役割は、日本とは違うと思います。アメリカって、ホワイトハウスに毎年芸人が呼ばれるんですよ。記者クラブが主催する会で、政治家と記者が集められて、そこに一番過激なことを言う芸人が呼ばれて、大統領のことをめちゃくちゃディスって笑いものにするんです。それでアメリカの人は笑って、怒りやモヤモヤの溜飲を下げるみたいな時間がある。だからお笑いには、お客さんのガス抜きをするみたいな役割があったりするんですよ。でも日本の場合は、楽しい時間を過ごすためにお笑いを観に行く。アメリカは笑いを手段に、社会的な行動をしている感じですね。

“史上最高”

———12月20日に日本で開催する『Call me the GOAT at ニッショーホール』の見どころを教えてください。

もしかしたら、センシティブなテーマも多いかもしれません。ちょっと不快な気持ちになる可能性もある……(笑)。常識とか固定概念とか、そういったところを皮肉って笑いのターゲットにする可能性があるので、「え、私のことディスってる?」と思われるかもしれません。でもギリギリのところで、絶対に笑いは取ります。

———どんな方にライブを観に来てほしいですか?

僕のネタを観たことない人にも、観てほしいですね。昔テレビに出てたときはクズ野郎だったので、当時のことがトラウマのように残ってる人もいるみたいで……。僕が出るとチャンネルを変えたくなるって人もいるんですよ。実際、空港で飛行機を待ってるときテレビに僕が映って、隣に僕がいることに気付かず「こいつ見ると気分悪いわ」って言ってた人がいるんで……。テレビに出ていたころの罪がまだ残っていると思うので、そういった方にもちゃんとお笑いやってるところを見てほしいですね。あと、最近話題のインフルエンサー的な人にも来てほしい。たとえば、〇〇〇〇〇のSNSを手伝った方とか……あの方にライブに来てもらって、舞台袖から観てもらって、広めてほしいですね(笑)。

———ライブタイトルの『Call me the GOAT』とは、どういう意味ですか?

「史上最高」って意味のスラングです。昔やった「バイトリーダー」ってネタでファンができて、政治的なネタをやり出したらまた違ったファンの方がついて……過去のファンの方からは、「あのときのネタが良かった」とか言われることがあります。でも僕は、昔の僕を好きだった方を満足させようとは思ってません。どんどん先に進んで変わっていくので、44歳になった史上最高を見てほしいんですね。

取材:イトウ
文・編集:堀越 愛
写真:吉本興業 提供

PROFILE

ウーマンラッシュアワー 村本 大輔

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