2025.07.31
【中山功太 単独公演『last rust lust 10th』直前インタビュー】自分を追い込んでネタをつくり、ひとりで笑いを取る90分。「すごく面白いことをやっている自負がある」
『R-1ぐらんぷり2009』王者の中山功太。優勝以降もネタと向き合い続け、歌ネタから「対義語」を代表とする言葉遊びのネタなど、様々なジャンルに挑戦している。

中山は、2025年8月3日に単独公演『last rust lust 10th』を開催予定。本単独は、2024年に毎月開催していた公演の10回目だ。まもなく節目を迎える単独公演を前に、インタビューを実施。ネタとの向き合い方からライブへの思いまで、話を聞いた。
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ネタは今も模索している
———中山功太さんといえばR-1王者で、個人的にはネタのイメージが強いです。中山さんにとってネタとはどういうものだったのでしょうか?
最初はコンビで、相方が「4年で家にお金を入れられなければ辞める」と言っていて。きっちり4年で辞めたんですよ。突然ひとりになったので、なにをやって良いかわからなかったですね。ネタ帳を読んで、自分が面白いと思った部分だけ印をつけて……ひょっとしたら、最初は“やらなくてはいけないもの”だったかもしれないです。ピンネタを知らなくて、漫才もあまり見ていなかったので、つくり方もわからなかったですね。
———その状態から、どうやってネタを学んだのでしょうか?
『爆笑オンエアバトル』(NHK総合テレビジョン)を観て、「フリップこう使うのか」とか「こういうピン芸人さんがいるのか」ということを知りましたね。あとは、吉本でピン芸人と言えば陣内智則さんですよね。ピンネタでツッコミを入れるかたちにすると、陣内さんにどんどん近づいていくので、そこをいかに避けるかという作業でした。勉強すればするほど、誰かがすでにやっていたりするし、自分のオリジナリティをなかなか確立できなくて。思いついたことをやっているんですけど、定まらないなというのはあります。今も、探している途中やなと。
———まだ模索中なんですね。
そうですね、全然見つかっていないです。「芸人やめてぇな」という歌ネタは番組のために送ってみてスタッフさんが選んでくれたんですけど、人に「これが良い」って言ってもらってわかることもありますね。自分の好みで変な方向に行くときもあるので、軌道修正してもらって。
———最初に手応えをつかんだネタはどういったものでしたか?
2004年にR-1決勝に行かせていただいて、運良くその年からR-1がゴールデンの全国放送になりました。そのときにやった「DJモンブラン」というネタ、最初は“あるあるコント”だったんです。居酒屋で調子に乗っている男にナレーションでDJがツッコミを入れるというネタで、これは一番手応えがありましたね。お芝居だと、友近くらい面白くないと笑いを生むのは難しいと思うんですね。僕にはできないので、わかりやすくしました。
———それが結果に結びついていくんですね。
準決勝のネタ中に「受かったな」と思いました。そもそも、このネタでつかった曲が面白すぎたんですよ。フリーマーケットで買ったCDのユーロビートに入っていたんですけど、最初家で聞いたときにゲラゲラ笑って。本気でつくられた曲なので失礼なんですけど、これがおっきい音で流れたら笑うよという自信はありました。
———そのネタが、R-1で優勝するネタの礎にもなっているのでしょうか?
いや、結局、全然違うほうに行くんですよね。2008年にやった「対義語」というネタは前からやっていたんですけど、僕のファン以外の方もわりと笑ってくださっていて、わかりやすく楽しんでいただける初めてのかたちやったと思います。でも2008年のR-1は順位が優れず、4位だったんです。正直、優勝できると思っていたんですけど。
———ただ、その翌年に優勝ネタである「時報」ができますよね。
また“あるある”に戻りました。「時報を流しながらネタをできないか」と言ってくださる作家さんがいて、その方のおかげですね。時間以外になにをお伝えしたらいいのかとなったときに、「あるあるネタやな」と思って。手数少ないので怖かったんですけどね。
———明確な笑いどころがあるだけに、ハードルが上がりますよね。
めちゃくちゃ怖いので、とにかく数を考えているんです。「対義語」に関しては8000個ぐらい、「時報」に関しては9000個ぐらい考えているんですよ。死ぬほど舞台に出て、お子さんとかお年寄りが笑ってくれる部分だけを残しましたね。R-1に関しては、そうしないともう無理やなと思って。僕は受験勉強と言っているんですけど、そのやり方が大会には合っていたのかなと。今は少し違うと思うんですけど。
———中山さんのネタは、批評っぽい斜めからの目線が持ち味だと思います。でも当時は、万人に伝わることを考えていたんですね。
そうですね。DJのネタは意地悪やったと思いますけど、むちゃくちゃ万人受けを狙っていました。
———それが今の『芸人やめてぇな』みたいなネタに変わってきたのは、元々の自分なのか、時代に合わせてなのかどっちなんですかね?
元々ですね。僕は別に毒舌だと思っていないんですけど、風刺とか直接的な悪口が好きなんですよね。悪口は誰でも言えるんですけど、「どれくらい相手を傷つけるか」だと思っています。この場面でこの人になにを言ったら食らうか、ということに重きを置いているし、そこに工夫が生まれると思うんですよね。だから『芸人やめてぇな』にしても最初はもっとライトやったんですけど、このままやったら全然面白くないなと思い、作り直してもっと強くしました。でも、個人名言ってないからなに言っても良いんじゃないかと思うし、割とクレームも少ないんですよ。

自分が笑えるネタは即採用
———ネタを考えているとき「先に笑わせたい」が来るのか、「これを言いたい」が来るのかどっちなんでしょうか?
僕は「言いたい」が先に来ます。あとは、自分が笑うかどうか。ネタを書いていて自分が笑ったら即採用にしていますね。
———中山さんにとって“良いネタ”とはどういうものですか?
最高なのは「面白いやろう」と思ったネタで、かつ、ウケることですよね。でも僕の場合、そんなネタは極端に少なくて、数えるほどしかない。『芸人やめてぇな』は5年くらい前からやっていて、皆さんのおかげでギリギリ火が消えないように保ち続けていると思います。
———単純に「ウケれば良い」というわけでもないんですね。
いや、ウケるだけのネタも素晴らしいと思います。それまでは設定にこだわったり、伏線を張ったり頑張っていたんですけど、初めて『学校の先生』というベタなネタをつくったんです。作文を読むというネタなんですけど、意外にもウケて。当時はベタすぎるし、誰でもできそうと思っていたんですけど、まわりから見たらそんなことないみたいで。「ああいうのもっとやれば良いのに」って言ってくれた人もいました。
———中山さんの感覚とまわりとの感覚に、微妙に差があったんですね。
今もネタはひとりで作るんですけど、絶対、作家さんに「このネタ誰かやっていないか」とか単純に「面白いか」と聞くんですよ。付き合いも長いので、「全然意味わかんない」と言われたらやめます。シンプルな設定であっても、結局、自分の色が出てくるんですよね。ほかの芸人さんも同じで、コンビニというシンプルな設定でもダイアンがやったらめちゃくちゃ面白かったりする。あそこまではいけないですけど、自分の色が出せていたら、設定もそこまで凝らなくていいのかなと。単独ライブは審査されているわけでもないんでね。

———様々な経験を経て、中山さんはどんなネタをやっているときに楽しいと感じますか?
ちょっと変わってきていて、全然ウケないんですけど漫談が楽しいです。元々経験もなくてできなかったんですけど、街裏ぴんくという強烈に面白い漫談ができる芸人が出てきて、僕からお願いして7年くらいずっとライブをやってるんですよ。あんな嘘の漫談は僕にはできないんですけど、『台無し』というテーマの漫談はすごく好きです。コントにしても崩れ去っていくのが楽しいんですよね。
———元々自分の好きなことだからこそ、そこまでウケなくても楽しいんですね。
楽しいですね。もちろんウケればなお楽しいので、試行錯誤しているんですけど。あとはエレキギターに挑戦してます。コードを覚えて曲をつくっているんですよ。素人がつくって、自分の歌のキーもわかってないから、本当に良くないんです。それで思いついたのが、「カッコ悪い曲ならつくれるんじゃないか」と。今は集中して、嫌な音楽をアプリでつくってやっていますね。
———歌ネタというより曲ネタみたいな?
そうですね。先に「今から聴いてもらうのは一番嫌な歌です」と前フリで説明がいると思うんですけど。
———そういった漫談や曲にしても、いろんな経験があったからこそつくれるんでしょうか?
本当にそうだと思います。基本的に「面白い」と思われたくて、僕みたいにお笑いが好きやからお笑いをした人って、はじめに絶対躓くと思う。「芸能界で売れて女優さんと結婚したい」みたいなマインドの人のほうが売れやすいと思っていて。明確に意欲があるので、テレビ出てもうまいですしね。途中で気づいたんですけど、ウケても「なんか違うな」みたいに思ってしまい、「じゃあなにがしたいねん」と自問自答する時期は長かったですね。
———ゴールにたどり着いたという感覚はありますか?
ゴールはないですね。ただ「気取ってないかな」と思います。お客さんに感謝していますし、テレビのスタッフさんの気持ちもやっとわかってきた。ネタにしてもお客さんは電車に乗って見に来てくれているので、本気で楽しんでもらいたいですよね。

針の穴を通すようなネタ
———トーク番組やMCの仕事もあると思うんですけど、今の中山さんにとってネタはどういう存在なんでしょうか?
大阪の劇場やテレビ番組でMCをやる仕事ももちろんお笑いのお仕事なのでうれしいんですけど、使っている脳みそは違うと思います。かつ、自分がMCとかトーク番組に出るときって事前準備もいらないし、めちゃくちゃ楽なんですよ。でもそういう仕事ばかりしていると、大事な部分が腐っていくと思っていて。だから、しんどいですけど、ネタをきっちり考えるようにしている。僕はネタを書くのも遅いんですけど、無理矢理でもこっちをしとかないと、トークや即興でぱっと言い返せなくなると思うんですよね。情けないことですけど「元々おもんないくせにこれ以上おもんなくなってどうすんねん」と、怒りみたいな気持ちです。必死で抗ってます。
———ネタで自分自身を追い込むような感覚ですね。
そうですね。めちゃくちゃしんどいんですけど。あと、仕事は緊張しないんですけど、新ネタは緊張する。あれを味わいたいというのもめっちゃあります。
———やはり舞台に特別な思いがあるんですね。
でも、「舞台でネタをやっていないから芸人じゃない」みたいなことは一切思わないです。僕はケンドーコバヤシさんが大好きなんですけど、元々やっていたネタがむちゃくちゃ面白かったんですよ。それをやらなくなったからといって、コバヤシさんの面白さは全く変わらないので。単純に「寄席に出ない」という選択をしただけで、そこは全然問題ないと思います。
———今後ネタで証明したいことはありますか?
言いたいことを言うだけではダメやと思うんですけど、その言いたいことが、ぐうの音も出ないくらいガシッとハマるところに行きたいんですよね。もちろんウケれば良いんですけど、そういう針の穴を通すようなことをやりたいなとはずっと思っています。

最近のピン芸人に思うこと
———中山さんは王者でありながら、R-1にも挑戦し続けています。昨今の大会やピンネタのレベルについて感じることはありますか?
レベルが上がっていますよね。昔のR-1は、1回戦だと当日休む人がめちゃくちゃ多かったんですね。アマチュアの方で「怖くなった」とか風邪とかいろいろあると思うんですけど、今はそういうことがほとんどないんです。みんな面白いし、レベルが上がってるどころの騒ぎじゃないですよ。今年優勝した友田オレは元々好きで、本当に面白かったですね。歌ネタが多いですけど、普通はボケが一個くらいハマんなかったりするんです。それが一個もない。街裏ぴんくにしても、ずっと嘘つく漫談なんて不可能やと思っていたんですよ。あんな難しいこと、僕やったらできないんでね。
———友田オレさんの面白さはなんとも説明が難しいですよね。
想像もつかないこともないのが、すごいというか。真っ当に歌ネタだけど、誰とも被ってないし、わかりやすい。あの若さでネタに一か所も穴がないんですよ。平場も強いし、男前で清潔感もあるし、すごいですよ。あの人を見てピン芸人に憧れる人がめっちゃ増えると思います。スタイリッシュで、ひとりで笑いを取るかっこよさを再確認させてくれたというか。
———新世代でいうと、粗品さんもいまだに舞台でピンネタを続けていますよね。
粗品も大きいですよね。R-1って危ない時期もあったと思うんです。それを運営の方の努力で続けてきて、粗品みたいに憧れられる芸人が出てきた。すごい時代になっていますね。

身体が持つ限り続けたい単独ライブ
———単独公演についてもお聞かせください。中山さんにとって『last rust lust 10th』はどのような位置づけにあるのでしょうか?
脳みそが腐っていくのが辛くて、「ちゃんとネタをつくる」というのを、昨年9か月連続でやったんです。でも少し間が空いたうちにヨシモト∞ドーム・ステージ1という思い入れがある劇場が閉館になっちゃいました。今回は60分から90分に伸びて、過去に9回やってきた失敗も考えながら、やりたいことをやろうかなと思っています。

———すべて新ネタということですけど、やりたいこととウケることのバランスはどんな感じでしょうか?
そこが読めないんですよね。優先しているのは「やりたいこと」なんですけど、自分の中ではストッパーはあると思うんです。だから、いくら自分が気に入っていても、お客さんはチケット代払って遠いところから幕張まで来てくださるので……ウケることもちゃんと優先したいですね。
———タイトルに「ラスト」とありますが、ライブは通過点なのか、集大成なのかどちらでしょうか?
ラストとは言ってますけど、「100」くらいまで、限界までやりたいなと思っています。本当にラストにしようかと思ったときもあったんですけど、いざやってみたらやりがいのほうが大きくて。身体が持つ限りは続けたいですね。
———見に来る方、来るかどうか迷っている方に向けてメッセージをお願いします。
初めて見に来てくださるお客さんは、僕にネタのイメージがない方が多いと思うんです。YouTubeやテレビで見ただけだったり、「芸人やめてぇな」だけ知っていたりとか。すごく面白いことをやっている自負はあるので、それを体験してほしいです。「ほかの人のピンネタも見てみようかな」と思ってほしくて、その上で「中山功太のほうが面白かったな」と思ってもらえれば幸いですね。損したと思わせない内容に絶対します。

文, 撮影:まっつ
編集:堀越愛