【たくろう M-1優勝記者会見レポート】7年間の低迷期を経て「一番の正義は笑っていただくこと」と腹をくくれた。≪勝因は「翠星チークダンス・木佐を信じなかった」こと≫

12月21日(日)、ABCテレビ・テレビ朝日系で生放送された『M-1グランプリ2025』で、たくろうが優勝した。

大阪を拠点に活動するたくろうは、NSC大阪校36期生のきむらバンド・37期生の赤木裕が2016年に結成したコンビ。結成2年でM-1準決勝に進出するも、そこからは三回戦・準々決勝での敗退が続き、長い低迷期を過ごしていた。7年ぶりの準決勝、そして初めての決勝進出を経て、ファーストステージ2位の点数でファイナルステージへ。最終的には審査員9名中8名が「たくろう」を選び、圧倒的勝者となった。優勝が決まった直後に行われた記者会見の様子をレポートする。

★『M-1グランプリ2025』はTverで配信中:https://tver.jp/series/sryg1lm5fy

お笑いが観光資源の街・大阪で培った漫才

———『M-1グランプリ2025』王者となった今、率直な気持ちをお聞かせください。

きむらバンド(以下、きむら): 「王者」と呼ばれることに、まだなんにもしっくりきていなくて(笑)。ただ、終わった瞬間は、うれしすぎてしんどかったです。うれしさのキャパを越えて、すっごいしんどなるくらい、うれしかったですね。

赤木裕(以下、赤木): 僕も、ちょっとホンマに、現実味がまだなさすぎて。さっき『有働Times』(テレビ朝日系列)に出たんですけども、なんか、有働さんがホログラムに見えて……。

きむら: 実態がないんじゃないか、とずっと言ってて。

赤木: 斎藤さんだけはっきり見えてる状態でした。

きむら: トレンディエンジェルの斎藤さんだけは、はっきりいました。

———M-1一回戦は8月にスタートしました。そこから今日まで長い戦いだったと思います。これまでを振り返り、いかがでしょうか?

きむら: 僕らこの夏から、ほぼ1本目のネタで進んできたんですよ。二回戦は別のネタをしたんですけど、三回戦・準々決勝・準決勝とあの1本目のネタをずっとやってきていたので、僕は今日も「楽しくやれそう」という自信がありました。2本目はどうなるかなと思ってたんですけど、映像で観たらめちゃくちゃ笑っていただいてたので。今あらためて、ほっとしてる感じですね。めっちゃ楽しかったです。こんな夢みたいなところで漫才させていただいて。だから緊張より、楽しさが勝ってましたね。赤木は?

赤木: え~、なんでしたっけ?

きむら: あ、質問がね(笑)。

———これまでの戦いを振り返ってみて、いかがでしょうか?

赤木: 1本のネタで決勝まで勝ち上がったので、「2本目どうするか」みたいな話を、同期の翠星チークダンス・木佐に相談したんですよ。2本目のネタは11月にできたんですけど、「これにしようと思う」と言ったら、木佐は「絶対、過去にやった実績のあるネタをしたほうが良いよ」って言ったんです。

きむら: あぶな!!!

赤木: それを信じず良かった。

きむら: 僕は「2本目は過去のネタをするかも」と言われたときに、「いや絶対、ビバリーヒルズのほうが良い」と言って。木佐より俺を信じてくれたってことね?

赤木: そうですね。優勝した理由は、木佐を信じなかったこと。

きむら: これが我々の勝因かもしれません。

———過去のM-1を振り返ると、2018年の準決勝進出が最高戦績でした。そこから決勝に至るまで、なにが変わったと思いますか?

きむら: 2018年ぐらいから、なにが変わってると思いますか?

赤木: だいぶ長い間ね、準決勝にも行けない年が続いてたんですよ。

きむら: そうなんですよ、戦績が下がってたんで。

赤木: ある程度諦めというか。

きむら: 開き直り。

赤木: うん、厳しいぞ、この芸人人生……ってとこもあったんで、たまたま今回決勝に行って、どう転んでも良いというか。

きむら: そう。逆に言えば、ずっとお客さんの漫才をするという人生は続くし、僕ら「よしもと漫才劇場」で寄席出番をたくさんいただいておりまして、そこが主な活動場所になってますんで。とにかくもう、来てもらった人に笑っていただくという開き直りはあったかもしれないですね。

赤木: とにかく、笑ってもらえるネタをしましょうと。カッコいいボケとかカッコいい構成とか、エッジの効いたこととかやりたかったけど、それはもうできないと長年の感覚でなって、やったらむっちゃウケるものを2本出そうと。あと、木佐を信じなかったこと。

きむら: 木佐を信じなかった、これがデカい。

———お客さんに笑ってもらえることを続けたと。

きむら: それをしつつ、自分たちに一番合うように諦めていったというか。手の出せない設定はやらないし、エッジの効いたボケじゃなくても、とにかく笑ってもらえたら良いじゃないかという。「一番の僕らの正義は笑っていただくことだ」と、腹をくくれた。そこが大事だと思います。

———結成2年目の早い段階で準決勝に進出し、そこからしばらく足踏みの期間がありました。期間が空いた分、今はどんなことを思っていますか?

きむら: 優勝させていただいたから言えますけど、「いる7年やったかな」と僕は思ってますね。決勝に行けてなかったら言えない言葉ではあるんですけど、その間に自分らにとって大事なことを見つめ直してますし、ある程度いる時間やったかなと思います。

赤木: そうですね、たしかに、7年……長い。

きむら: 長かったよ。

赤木: 長い間ね、苦労はしたんですけど……。なんの7年やったかな。

きむら: いる7年じゃないかなと思いますよ。僕らが苦労していることを芸人たちも感じてて、大阪は特に応援ムードでいてくれたと思うんですよ。それが励みになりました。

赤木: 準決勝行った年に、バイトを辞められたんですよ。でもそこから段々、ゆるやか~に下っていって。

きむら: このまま俺たちは終わっていくんだ、ってね。

赤木: 僕はすぐクビになるので、バイトがすごい嫌なんですよ。

きむら: 向いてなくてですね。

赤木: すごい嫌で、それで頑張れたのかなってのがありますね。絶対にバイトはしない、もう!っていう。

———大阪芸人が優勝したのは、2019年のミルクボーイさん以来です。あらためて、大阪という地、そして「よしもと漫才劇場」で漫才を磨く良さを教えてください。

きむら: “大阪観光”の一個にお笑いが入っている街なんで、老若男女いろんな世代の方に来ていただける環境で漫才やれるのが良いですね。僕らを知らない人にもフラットに見ていただけるんで、漫才劇場は芸人のネタを磨くのに最適な場所かなと思います。

赤木: 漫才劇場は、同世代の頑張ってる、切磋琢磨している人たちの集まりですね。僕も、けっこうしんどいなっていう時期もありました。「芸人しんどいな、向いてないな~」みたいなね。向いてないな、はあれですけど。

きむら: あ、ごめんなさい、嘘ですか(笑)。

赤木: 「きついな」ってときも同期とか劇場メンバーがいて、同じように苦労してる人がいっぱいいる環境だったので、辞めずにすんだと思います。木佐とか。

きむら: 木佐がね、(赤木の)同期なんですよ。でも木佐の言葉は信じなくて良かったからね。

赤木: そうですね。

補足

たくろうが勝因を「翠星チークダンス・木佐を信じなかったこと」としたことに対し、木佐がアンサー動画を公開している。

文, 編集, 撮影:堀越 愛