どうやって放送作家になるか。企画の仕事はそこから始まっている。【放送作家・長崎周成 インタビュー(前編)】

「笑いをつくる仕事」にスポットを当てて紹介する本コーナー。記念すべき第1回目は、放送作家の長崎周成さん。”なんとなくは知っているけれど、なんとなくしか知らない”放送作家という仕事について、お話を伺いました。

 


 

1.長崎さんは、どうして放送作家になったんですか?

漫才をして気付いた、考えることの面白さ。

ー学生の頃、高校の同級生とコンビを組んで漫才をされていたそうですが、そのまま演者の道ではなく、作家の道に方向転換された経緯を教えてください。

学生の頃から、ラジオをよく聴いていたので放送作家という仕事があることは知っていたし、興味もありました。でも、18歳とか19歳で裏方として今すぐ活動する術を知りませんでした。演者か裏方かジャッジする材料すらなかったです。なのでまずお笑いに向き合うために出る側から挑戦しました。

そしてやっていくうちに徐々に気付き始めてくるんです。漫才を演じるよりも、おもしろいことやネタを考える方が楽しいってことと、表現者としての能力がないことに。自分が考えたネタを自分で演じると、いちばんつまらなくなるなって。そこからですね、放送作家を目指すようになったのは。

それと当時、学生才能発掘バラエティ『学生HEROES!』という番組に出演していて、そこで放送作家をはじめ、ディレクターやプロデューサーの仕事を垣間見れたのも大きかったですね。自分はやっぱり、企画や構成を考える放送作家になりたいなって。とは言え、新卒で放送作家を募集しているわけでもないので、まずは足がかりとして制作会社に入ったんです。出る側も制作側も全部知ったうえで放送作家になった方がいいだろうという考えもありました。

【長崎さんが学生の頃に聴いていたラジオ番組】
魁!!ランディーズ
キングコングのほにゃラジオ
くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン(全159回を10周以上聴いているそう)

―放送作家になるために、ADを辞める前に放送作家と肩書きを入れた名刺をつくって配り回っておられたそうですが。

よく知ってますね(笑)。そんな誇れるような話ではないのですが…。ADを辞めるとなったときに、放送作家になるためのファーストアクションとしてやるべきことを考えました。そして、思いついたのが名刺だったんです。

ただ、今だから笑い話として語れることであって、オススメはできません。会社に所属しながらADが、そんなことをするのは生意気なので。当時はこっそり渡してました。「企画書でもリサーチでもなんでもやります。あ、でもこれ内緒にしといてくださいね」って(笑)。幸い良い方ばっかりで、辞めた後も声をかけていただきました。

 


2.どうすれば、放送作家になれますか?

企画でメシを食いたいなら、なり方から企画せよ。

―放送作家へのファーストステップとしてオススメの方法はありますか?

ググれば答えは出てくると思うんです。【 放送作家 なり方 】で検索すると、養成所のホームページが出てきたりだとか。でも、個人的には自分なりの『いちばんおもしろいなり方』を考えて実践するのがいいと思います。「なんで放送作家になった?」「どうやって放送作家になった?」はなってから絶対に聞かれる質問。必修課題です。「あなたの放送作家のなり方」をひとつ目の企画として動いて損はないかと。

すみません、ここまで、かなり丸投げなアドバイスになってしまっているのでひとつ具体性のある話を。今オススメなのは、シンプルに「DM」です。SNSを駆使し、自分の嗅覚を信じて、この人だって作家さんにDMを送ってみてはいかがでしょう。ぼくにもたまに送ってくださる方がいますけど、どの作家さんも一読はしていると思います。

―たくさんDMが寄せられる中で、目に留まるのはどんなDMですか?

文面をみて「やべぇな」って人はスルーしちゃいます(笑)。おもしろいかどうかの前に、ビジネスメールとして、ちゃんとマナーができている人には返信していると思います。自分が何者かも名乗らずに、「放送作家になりたいです。よろしくお願いします!」って2行くらいのメールを送ってくる熱意先行型の人とかもいますからね。DMというライトな連絡手段だからこそちゃんとする。思いをちゃんと言語化してもらえると助かります。あとは正直、ぼくは直感です。

―実際に採用された方もいらっしゃるんですか?

DMがきっかけで、今うちの会社で一緒にお仕事をしはじめた子が二人います。一人はAD時代の先輩からの紹介で、経歴もちゃんと書いてあるし、文章もしっかりしていて、やりたいこともあったので返事をして、最終的にお願いすることになりました。

もう一人は、企画書を50本くらい送ってきたんです。内容自体も、とりあえず出した50本ではなくて体裁も整っていました。その時すぐにリアクションしてあげられなかったんですが、めげずにその翌週もまた30本くらい送ってきて、次の週も20本くらい送ってきて。話を聞いてみると、ぼくのラジオを聞いて放送作家になりたいと思ってくれたらしく、動機もしっかりしているのでお願いしました。


3.向いている人って、どんな人?

優秀な放送作家は、優秀な社会人でもある。

―送ってこられた企画がしっかりしていたことも採用に至った条件のひとつだと思うのですが、そもそも放送作家って、おもしろくないとなれないんですか?

狂った面白いやつが正直好きではあるのですが(笑)あえて言わせてもらうと、ぼくは、真面目な人がなればいいと思います。「放送作家になりたい!」って衝動に駆られている時点で少し変なので。その時点で素養はあるんじゃないでしょうか。その中で真面目な人が仕事をちゃんともらえるようになっていくんです。

結局は、社会人としてちゃんとしているかどうか。〆切を守るとか、言われたことちゃんとやるとか、求められたことにもうひとつプラスαを乗っけるとか、番組が終わったら「ありがとうございました。またなんかあったら呼んでください」ってメールを送るとか、当たり前のことをできる人が残っている気がします。

今、第一線を走っておられる30代40代の先輩方は、どの世界でも一流になれるデキる社会人です。

―第一線で活躍されている放送作家さんに共通することは何ですか?

みなさんに共通するのは、社会人としての真面目な面と、なんか狂ってるなという面のバランス感覚が優れているところですかね。みなさん、真面目という基本を押さえていながらも、地で考えていることが変なんです。

例えば、歯がないおっさんを見ておもろいなと思ってるとか。そういう普通の感覚とはちょっと違った変な目線を持ちながら生活してると思うんですよね。だから出てくる企画も狂ってたりするんですけど、真面目がベースにあるから説得力があるんですよね。ちゃんと仕事ができる人が言うからなるほどってなるというか。

―長崎さんが放送作家として大切にされていることはありますか?

うーん、確固たる何かがひとつあるというわけではないですが、強いていうなら「苦手な仕事をひとつする」ということ。自分が天才だと思うなら、好きなことだけを突き詰めればいいと思います。ぼくは自分のことを天才だと思ったことは一回もないし、感覚だよりで生きていけるほど強い人間でもありません。

だから、苦手な仕事も常に一つは受けるようにしています。そうしないと、自分が欲しい情報しか入ってこなくなるので。以前、情報番組を担当していたことがあります。当時の自分にとっては得意なジャンルではなかったので企画を考えるのも苦痛で。でもやってるうちに世の中が気になってるニュースの話とか、日本人として知っておくべき話とかが入ってきて、今ではそれが血となり肉となって、他の仕事にも生かされています。

あとは、普段からいろんな情報に触れるようにしてますね。例えば、話題にはなってるけどなかなか飲み込めないものってあるじゃないですか。歌い手さんとか。そういうのも積極的に見にいって勉強するようにしています。昔は仕事に繋がるからという理由で情報を取りにいってたんですけど、もともと広くいろんなことを知りたいという欲求が強いのもあって、今では習慣というか、当たり前のことになってますね。

<長崎周成さん|プロフィール>
1991年生まれ。29歳。兵庫県神戸市東灘区出身。株式会社チャビー代表。高校生のときにM-1に衝撃を受け、同級生と漫才コンビを結成。大学卒業後はテレビ制作会社を経て、放送作家に。テレビを中心に活動しながら2018年にはYouTubeで「フワちゃんTV」「フワちゃんFLIX」を開設。ワラパーの母体である笑いをつくるオンラインサロン「WLUCK」の発起人の一人でもある。 

★後編へ続く★

ライター:ことばのラジオ、撮影・編集:堀越愛宮下若葉

WLUCK CREATORS