【WEST ANTS ストーリー -vol.2 にぼしいわし-(前編)】個で戦う厳しさを知っているメンバーだから、まとまれば強い ~西の地下で蠢く、新たな笑いの息吹~

2021年4月、大阪のライブシーンで活動する9組18人の芸人によるユニット『WEST ANTS』が誕生しました。発起人は、大阪・西心斎橋で「BAR舞台袖」を営む加藤進之介さん。大阪のお笑いを盛り上げるべく、本当に「面白い」と思う芸人を集めました。(加藤さんインタビュー:大阪を「芸人が飯を食える場所」にしたい

加藤さんがユニットを作るにあたり最初に声をかけたのが、フリーで活動する「にぼしいわし」。『THE W』では、2019・2020年に連続で決勝進出。2020年の『M-1グランプリ』では、準々決勝まで駒を進めました。東京のライブに呼ばれることも多いという「にぼしいわし」が、あえて大阪を拠点に活動するのはなぜか。そして、『WEST ANTS』で挑戦したいこととはなんなのか?たっぷりお話を聞きました。(インタビュー後編はこちら

【WEST ANTS ストーリー -vol.0-】大阪お笑いに、新たな息吹!芸人ユニット『WEST ANTS』とは

力を持ち寄ったら、みんな飯食えるんじゃないかなって

――今日はよろしくお願いします。

いわし: お願いします。

(にぼし、遅刻して登場)

いわし: ここ書いといてくださいよ、「にぼし遅刻して登場」みたいなん。

にぼし: こういう大事なときにだけ遅刻するんです(笑)。

――『WEST ANTS』主催の加藤さんから、ユニットを作るにあたり最初に声をかけたのはいわしさんだったと伺いました。ユニットの構想を聞いたときはどう思いましたか?

いわし: 大阪でフリーでやってくことは、私たちの中で決定事項だったんです。ただ、フリーでやっていくことは最重要やったんですけど「東京か大阪か」については、正直東京にほんのちょっと揺らいでました。東京の方がライブが多いし、名前が知れ渡りやすいと思って。でも加藤さんからお話いただいて、「大阪におろう」と思いました。

――東京に行くことも視野に入れていたんですね。

いわし: 学生時代に一緒にやってた子らが全員東京行ってもうて、マセキに入ったりとか、テレビ出たりして成功してて。いろんな人に「東京来た方がいい」って言われて、確かにそうやなと思ってたんです。もうちょっと頑張ってみるけど、「東京に行くという選択肢も入れないとあかんかな」って思ってました。

――『WEST ANTS』に入ることを決めたのはなぜですか?

いわし: 大阪はフリーから売れるのってだいぶ力がないと難しいんです。なので、「ひと組でやってくのは結構苦しいよな」ってちょうど思ってた時期で。『THE W』決勝に行って、『M-1』準々決勝に行っても、やっぱりライブとか仕事が増えなくて。まぁ、それは自分たちのパフォーマンス能力が高くなくて、「テレビで使いたい」って思ってくれる方があんまりいなかった、っていうのがもちろんでかいんですけど。でもやっぱり、賞レースで決勝に行ったとしてもあんまり変わらんな、って「個での限界」を感じ始めて……。

「風穴あけるズ」さんとか、同じように思ってる芸人が大阪にいるのも知ってたんで……。あの三人がそこまで考えてるかは分かんないですけど(笑)。まぁまぁ苦労してるっていうのは知ってたので、そこがまとまればけっこう面白いというか。お互いの力を持ち寄ったらみんな有名になって、みんな飯食えるんじゃないかなって。で、入ろうと。

――声をかけられて、すぐ決めたんですか?

にぼし: 即決でした。うちは、ラッキーと思いました(笑)。

いわし: ちょこちょこ、フリー芸人とかで組合みたいなんは作ろうって話は出てたんですよ。『WEST ANTS』のメンツではないですけど。ちょっと組んでいかなあかんよねっていう話をフリーの芸人たちと話をしていて、そのときにちょうど加藤さんから話が来たんで。

『WEST ANTS』の反響と東京からの声

――『WEST ANTS』での活動がスタートしましたが、反響はいかがですか?

いわし: 特に東京には、新しいことをしている若者を応援するというか、取り上げて話題にしてくれる人がいるんだなと思いました。「『WEST ANTS』ってなに?」じゃなくて、もうすでに調べてくれてたりとか。それは、芸人もスタッフさんもそうです。なので、大阪よりも東京の方が、よく声をかけていただけてるかもしれない。真空ジェシカさんとかは、ライブで会ったときに急に「なんか軍団作ったんでしょ。カナメさん(カナメストーン)とツーマンやるんでしょ」みたいな。で、そこから真空ジェシカさんにお話させてもらって、一緒にライブできるようになりました

※2021年6月21日に「BAR舞台袖」にて、ライブ『にぼしいわしの何卒何卒…!vol.2〜真空ジェシカ編〜』が行われた。

――想定と比べていかがでしたか?

にぼし: あー、名前(WEST ANTS)の告知をするのがちょっとだけ恥ずかしい(笑)。意外なことに(笑)。

いわし: なに自分の反響について言ってんの(笑)?なんで今、『WEST ANTS』をディスりに行ったん。質問とは別の角度で(笑)。

にぼし: え、そういうことじゃない(笑)?

いわし: そういうことではないですよね(笑)?

――そういうことではないですね(笑)。

にぼし: 遅刻したから悪いんか(笑)。

いわし: まぁ全ては(笑)。で、なんでしたっけ?

――反響は、当初の想定と比べてどうだったか……という質問です。

いわし: 全然ちゃうやん(笑)。『お笑いナタリー』さんとかに取り上げていただいて、想像していたよりは反響あるなって思いました。ただ、YouTubeの登録者数とかライブの集客面でいうと、注目度はあってもお客さんたちが行動に移すところまではまだ行ってない。そこは、現実を見た感じがしますね。「なんか面白い軍団できたから観に行ってみよう」みたいな、そんな簡単な話じゃなかったんやなって。それと、大阪のお笑い、特にインディーズライブを中心に観てた人たちは、結構「いいね」っていう感じで見てくれてると思います。

「東京」と「大阪のインディーズライブ」を繋ぐ存在として

――『WEST ANTS』として、これからやりたいことはありますか?

いわし: 東京との交流をもうちょっと増やしたいですね。今は大阪芸人が行くばっかりなんで、東京から呼びたいです。やっぱり、真空ジェシカさん、カナメさん(カナメストーン)のライブは、他のライブに比べて売れ行きが凄かったんですよ。……ってことは多分、東京で活動してる真空ジェシカさんとかカナメさんを注目してる大阪のお笑いファンがめちゃめちゃいるっていうことですよね。その層をやっぱ掴みにいきたい。『WEST ANTS』として。なので、知ってもらうために東京芸人さんの力をちょっとお借りしながら、ライブに来てもらえる機会を増やしていきたい。

――ネタのライブですか?それとも、企画ライブをしたいですか?

いわし: まぁ結局ネタ観てもらわないと、と思うので、私はネタライブがしたいですね。ただ、竹内ズとかのライブもそうなんですけど、東京のばかばかしい企画のライブがめちゃくちゃ好きで。「家の中で一番大きなもの持ってきた」とか、「女芸人に彼氏いるんですか?しか聞かない最悪MCのライブ」とか。でも、同じことを大阪でやってもあんまりお客さん来ないと思うんですよ。多分、大阪は寄席の感覚が強いから。大阪は「ネタありきの企画(コーナー)」なんで。でも、コーナーだけでも十分に面白いと思えるものができれば、企画ライブもやりたいですね。

――面白そうですね!ちなみに、にぼしいわしさんはネタや企画をどのように考えているのでしょうか?

にぼし: えっと……。

いわし: 答えるんや(笑)。ええやん、行こ行こ。

にぼし: 月一回、区の方から封書が届きまして、そちらを開けますと、中に書類が入ってるので、そちらを確認させていただいた上で、ハンコを押して返信用封筒に入れて、で「こちらにしました」と。

いわし: ネタの台本送り返してるやん。手元にないやん。

にぼし: 台本の方はですね、メールで送ってこられる。

いわし: メールで良かったんやん。

――なるほど、ありがとうございます(笑)。……いわしさんにも聞いて大丈夫ですか?

いわし: はい。えっと、一応私がネタを考えてるんですけど、「にぼしがやって面白いこと」をまず第一に考えます。プラス、変なやつが出てきても「変だな」としか思われないんで「どれだけ面白いこと言えるか」みたいなんも重要視してるので、設定はシンプルなものじゃなくって「ちょっと日常にありそうやけどない」くらいのラインを狙いながら。道歩いてて、「これがこうなったら面白いな」とか、人と喋って「この人がこうなってたら面白いな」みたいなとこから発想を出すことが多いです。

――企画はどのように考えていますか?

いわし: 最近『WEST ANTS』の企画を考える回数がすごい増えました。「この人はこういうボケ方するから、こういう企画の方が面白いんじゃないか」とか、その人がやりやすいようなことを考えてます。まぁ多分、基本的にはネタの考え方と変わらないんですけど。作家が作る企画と芸人が作る企画はちょっと違っていると思うんですよね。

以前、とある作家さんが「作家は大喜利のお題を考えるのにも、芸人さんが答えやすいようなお題を作る。大喜利のお題自体が面白くて芸人が答えられないとかじゃなくて、芸人が答えやすい、答えて楽しいと思えるみたいな企画を作る」って言ってたんです。これは結構『WEST ANTS』の企画を作るときに肝に銘じています。やってみて楽しそうとかじゃなくて、どういう風にしたらお客さんにウケるかなとか、この演者はこうボケるかなとか、想像して作るようにしてますね。

――ロジカルですね。

いわし: そうですね。全然発想とか富んでない (笑)。割と、方程式に当てはめないとできないタイプですね。

にぼし: 方眼紙に書くタイプ?

いわし: 方眼紙には書いてない(笑)。方眼紙じゃなくても書けるねん、方程式って。今のボケも区からきたやつですね、うろ覚えで(笑)。

にぼし: 全部送り返すから忘れちゃうんです。

――ありがとうございます(笑)。興味深かったです。

いわし: 『WEST ANTS』は作家がいないけど面白いやつらだけが集まってるんで、跳ねる企画にするためにどうしたらいいかはちゃんと考えるようにしてます。

――9組もいると、それぞれが面白いと思うことも違ったりすると思います。それをまとめるのって結構難しいのではと思うのですが、いかがでしょうか?

いわし: うちらはまとめてないんで分からないですけど、加藤さんがリーダーでやってくださってるので。めちゃくちゃ仕事できる人で、謙虚に周り見ながら、芸人が面白いと思うこと全部やりたいって言ってくださる方なので。その方向に芸人もまとまっていこうみたいな感じになってます。加藤さんの人柄のおかげでまとまっていってるような気がします。

――『WEST ANTS』は、芸人9組だけというより、そこに加藤さんがいて成り立っているんですね。

いわし: そうですね、芸人9組だけやったら、みんな喧嘩して終わってると思います(笑)。でも、個で戦うことに難しさを感じて集まったメンバーなので、割と協力しようっていう感覚が強いですね。こないだ初めて無観客のライブをしたんですけど、ちっさいボケの拾い方がかなり丁寧で(笑)。「ライブを盛り上げよう」というのももちろんあるんですけど、まとまろうとしてるって感じがします。

【後編を読む】「大阪」で、「ライブ」で食っていく

取材 ライター:藤田うな、写真:うはらほむら
編集 堀越 愛


<にぼしいわし|プロフィール>
フリー。ユニット『WEST ANTS』に所属。

左:にぼし
1992年6月13日生まれ。大阪府出身。ライブのフライヤーデザイン・グッズデザイン担当。特技は絵を描く、猫と話すこと、お笑い。趣味は骨董市巡り。ビートルズ、たまご、欅坂46が好き。

右:いわし
1992年7月2日生まれ。大阪府出身。ネタ作り担当。特技はタイピング、習字、球技、ピアノ。趣味は飲酒、水族館巡り、読書。エレファントカシマシ、アイドル、お茶が好き。

★公式HP「にぼしいわしの部屋」:https://niboshiiwashi.localinfo.jp/

★Twitter:@NIBOSHIIWASHI21

★YouTube「にぼしいわしの吹き溜まり」:https://www.youtube.com/channel/UCIorpM8Kr3xKVpbXvZS4MGg

★問い合わせ先:niboshiiwashi@gmail.com

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