【WEST ANTS ストーリー -vol.3 トルクレンチガールズ-(前編)】芸人、だけど会社員。結果を残して自信をつけたい ~西の地下で蠢く、新たな笑いの息吹~

2021年4月、大阪のライブシーンで活動する9組18人の芸人によるユニット『WEST ANTS』が誕生しました。発起人は、大阪・西心斎橋で「BAR舞台袖」を営む加藤進之介さん。大阪のお笑いを盛り上げるべく、本当に「面白い」と思う芸人を集めました。(加藤さんインタビュー:大阪を「芸人が飯を食える場所」にしたい

メンバーの中でも、ひときわ異彩を放つのが「トルクレンチガールズ」。昼は“会社員”、夜は“芸人”と「二足のわらじ」を履く、“社会人芸人”です。インタビュー前編では、大阪の社会人お笑いを牽引する二人に、“社会人芸人”として活動するきっかけや、コンビ結成の経緯などをお聞きしました。(インタビュー後編はこちら

【WEST ANTS ストーリー -vol.0-】大阪お笑いに、新たな息吹!芸人ユニット『WEST ANTS』とは

「僕はファンのままでいい」と挫折した過去

――お二人は高校で出会い、卒業後は別々の大学に通われていたと聞きました。大学卒業後、力学さんは大学院、うまこさんは就職したそうですね。最初から芸人を目指していたわけではないんでしょうか?

うまこ: 時系列順に話すと、2014年の年末(大学3年)に力学から「就活嫌やからNSC行こうや」と誘われました。誘った理由とかあんの?

力学: 高校のときからずっと、うまこはあまり周りにいないタイプのシュールなボケをするなと思っていて。組んだら面白いかなと思って誘いました。

うまこ: シュールちゃうで。めちゃくちゃベタやけどな。俺のツッコミがあれば、もっと自分が面白く活きるかもと思って?

力学: そこまでは考えられてないけど、楽しそうやなと思って。

うまこ: 僕たちは高校の同級生で、大学入ってもよく遊んでたんですね。僕はもともとお笑いが好きで、中学の頃、芸人になりたいと思っていた時期もありました。でも、「baseよしもと」でライブを観て、「こんなにおもろい人たちでもメディアに出られへんのや、恐ろしい世界やな」と諦めて……。

高校のときも大学のときも定期的にお笑いコンビを組んでてネタをやる機会はあったんですが、学祭の大会ですら優勝できなくて。「俺には突き抜けたものがないんだな」と挫折しました。そのときから、「もう僕はファンのままでいい」と思っていたので、就活のタイミングで芸人になるという考えは全く無く、そのときの誘いは断りました。

力学: 僕は、就活の時期くらいにやっと将来のことを考え始めて。昔から友達の前でふざけるのが好きやったから、人前に立って、ウケて、お笑いで生活したいなと。でも奨学金を借りてたんで、5年くらい働いて、ある程度返済してから芸人になろうかなとも思ってました。

うまこ: 僕は誘いを断った後、就職して会社員になって。力学くんは?

力学: 進学。

うまこ: 俺が断ったから大学院行ったんやったっけ?

力学: そう。進学するしかないと思って。

うまこ: なんでなん(笑)。5年働いてから芸人になろうと思ったのに進学?

力学: そうやな。そのタイミングでは僕は絶対就職できないと思ってたんで。お笑いへの熱は一旦スッと消えて、「うまことコンビを組まれへんのなら進学しよう」と思いました。漠然と考えて出した結論ではありました。

――そこからどういった経緯でコンビが結成されることになったのでしょうか。

うまこ: 社会人1年目の5月頃(2016年)に、Twitterで『ブンブンライブ』というアマチュアライブを見つけて。また趣味の範囲でお笑いを始めたいなと思って、力学を誘いました。NSCに誘われてたってこともあったし、組んでみたらどんなんねやろと思って。そのアマチュアライブに出た後に『M-1』に出て、今までコンビを続けています。

――アマチュアライブに出たいと提案したのはうまこさんからだったんですね。

力学: そうですね。

うまこ: 「こんなんあるけど出てみる?」って

――力学さんは、大学院を辞めているそうですね。

力学: はい。学校辞めて、半年くらいだけ東京に住んでました。

うまこ: 大学院1年目の3月、僕に「次の『M-1』で三回戦まで行ったらプロになろう」って誘ってきたんですよ。そんとき、僕は「まぁまぁ、三回戦行ってから考えよう」くらいで返したんです。

力学: でも待てなかったんで、そのまま4月に学校辞めて、東京に家見つけて……。

うまこ: 僕になんの連絡もなく。インスタのストーリー見て「なんか東京行っとんな」思って。ちょっと行ってるくらいかと思ったら、あぁ住んどるな~思って(笑)。

力学: 申し訳ない。

うまこ: 仮にも、僕を「プロになろう」って誘っていたのに。

力学: そのときはほんまに、周りが見えてなくて……うまこのことも考えずに行ってしまいました……。

うまこ: めっちゃ反省してるやん(笑)。

最近まで、お笑いは「あくまで趣味」だった

――ゆくゆくは、芸人か会社員どちらかに専念するのでしょうか。

うまこ: なんで今一本に絞ってへんかと言ったら、「自分に自信がないから」なんですね。奨学金があるからとか、自分で言い訳してしまっていて。最近まで、「あくまで趣味」としか思っていなかったっていうのもあります。社会人と芸人の「二足のわらじを履いている」とも思っていなくて。ただの一つの趣味だと思っていました。でも、一昨年くらいから段々とライブに誘ってもらえるようになって。お客さんはお金や時間を僕たちに割いて観に来てくれはるわけですから、最近は趣味だと思ってたらあかんなと思ってます。

――では、今は芸人も会社員も、どちらも本気で取り組まれているということでしょうか。

うまこ: そうですね……ただ、体力がなくて。芸人サイドにも会社サイドにも怒られそうですけど、「どっちも100%で!」というのは無理やなと思っています。やっぱり平日働いて帰ってきて「おもしろいこと考えよう」と思っても全く脳みそが動かん。今はほんま宙ぶらりんの状態なので、ちゃんと決めなあかんなとは思っています。

――ちなみに事務所に所属されるご予定は?

うまこ: 今のところは無いですね。

――事務所に入っていないと、賞レースやメディアのオーディションも出られないと聞きますが……

うまこ: そうですね。でも、そういうのをなくすために『WEST ANTS』を組んだというのもあるんで。とりあえず今のところはフリーなんかな、と俺ばっかり喋ってるけどなんかある?

力学: 納得です。

うまこ: 全く一緒?

力学: 全く一緒です(笑)。(持参のメモを読みながら)「芸人一本に絞れる見通しが立てば会社を辞める」と記載されています。

うまこ: 記載されているって、お前が書いたんやろ(笑)。でも芸人をやりたい気持ちはあるんで。1本に絞るためには、自分に自信をつけなあかんな。

今の仕事に執着はない。まずは結果を残したい。

――ちなみに、どんな変化が起こったら「見通しが立った」ことになりそうでしょうか。

うまこ: 賞レースで結果を出すことでしょうね。我々が出場できる賞レースは『M-1』くらいしか無いですけど。でも良い結果を残せたら周りの目も変わるでしょうし。もし僕が芸人一本でやっていたら、今の自分たちの状況は「片手間でやってる」と思っていたかも知れないので。実際に言われたことは無いですけどね。賞レースでちゃんと結果を残せたら、そんなこと言ってくる人はいないと思うので、まずは結果を残したいです。

力学: そうやね。でっかい結果を。“チックタック”でバズるとか。

うまこ: “ティックトック”な。

力学: 「SUZURI」でオリジナルグッズが売れるとか。

うまこ: そんなん考えてんの(笑)?初耳ですわ。

力学: そうやで。また話すわ。会社以外の収入で生計を立てられれば、ですね。今の仕事に執着はないので。

うまこ: なんで会社員をやってるかって言ったら、安定した収入を得られるから。生活のためなので、今の仕事にこだわりは無いですし……。僕は一度転職しているんですが、転職活動をしているときに「ひとつの会社にずっとおるこだわりはないな」と気づいて。なんなら正社員じゃなくても良いなと思ったり。今の会社でも、負担の少ない仕事ができたらいいなと思ってます。……これ会社の人が見たらどう思うんやろうな(笑)。

どっちもできるんすよ。うちの相方。

――お話を伺っていると、ネタ中とは違い力学さんがボケ、うまこさんがツッコミにまわっているように感じます。漫才では力学さんがツッコミ、うまこさんがボケですが、役割はどうやって決めたんですか? 

うまこ: なんで僕がツッコミじゃないのかに関しては、「声がへぼいから」です。自分で言うのも変ですけど、普段から変なことしてる人がいたらツッコみますし、ツッコんでくれる人がいたらめちゃくちゃボケるしって感じなんですよね。

――なるほど。二刀流なんですね。

力学: どっちもできるんすよ。うちの相方。

うまこ: 恥ずかしい相方やな。あと、高校のとき、力学が頻繁にツッコんでた印象があって。

力学: 高校のときはツッコミやらせてもらってて。情熱勢いツッコミを!

うまこ: あんま自分で言わんやろ、恥ずかしい。僕が、静かなボケと声デカいツッコみのネタが好きだからっていうのもあります。逆にしても良いのかも知れないですけど、かといって力学はボケでもないんですよね。

力学: 僕、スピード感がないんですよね。瞬発力がなくて。

うまこ: 僕がやりたいボケを力学がやるっていうのがあんまり想像できひん。

力学: そうですね。

うまこ: ネタ飛ばしたり練習通りに行かなかったり、イレギュラーなことが起こったときに僕がツッコミになってしまうので、お客さんが見ててどうなんかな、違和感あるんかな?とは思います。僕がやりたいことにならんから今の形になっているんですけど……これでほんまにええんかなとは思ってますね(笑)。

武器は見た目とキャラクター

――他の芸人さんに比べて、お二人の強みだと思うところを教えてください。

うまこ: 強みは、力学くんの見た目とキャラクターですね。見た目にインパクトがあるので、お客さんにも芸人さんにもすぐに覚えてもらえます。初対面の芸人さんにもめちゃくちゃいじってもらえるんですよ。ほんま大助かりで、その点はありがとうと思いますね。逆に怖がられることも結構あるので、ネタはできるだけポップに仕上げるよう心がけています。

――力学さんはいかがですか?

力学: それぞれ属性の違うお笑いアビリティを持っており、それぞれのお笑いアビリティが無造作に光る。

うまこ: なんやねんアビリティって。例えばどういうアビリティ?

力学: ボケでもツッコミでも対応できるっていうのと、お互い独自の能力を持っていて……

うまこ: みんなそうやけどな。

力学: みんなそうなんですけど、固定された役割があるというよりは、乱雑に、柔軟に対応できる。

うまこ: 二人のキャラが活かされてるとか、それぞれの”ニン”が出てるとか言われたときは嬉しいですね。

【後編を読む】「ほっとけない存在になりたい」僕たちのことを好きになって!

取材 ライター:サトミメイ、写真:ことばのラジオ
編集 堀越 愛


<トルクレンチガールズ|プロフィール>
フリー。ユニット『WEST ANTS』に所属。

左:うまこ
1993年7月7日生まれ。大阪市出身。会社員。
プロレス、プロ野球(カープ、バファローズ)、趣味、特技、特徴:ポケモン、スパイスカレー、人並み以上マニア未満の鉄道の知識がある、プラレール(改造して製品に無い車両を作る)、お笑い(吉本の劇場に通ってた経験あり)、旅行の行程を綿密に組む、昼休みにする20分の昼寝、ラジオを聴きながら靴を磨く、好きな中華屋でビールを飲む、1日で水を5L以上飲む、THE BLUE HEARTSのイントロクイズ、喉から美味しそうな音を出しながら液体を飲む、比較的地理が強い、お尻が小さすぎる、2機会連続で運転免許を失効した。

右:力学
1993年9月24日生まれ。大阪市出身。会社員。
趣味、特技、特徴:空を見る、反省する、その日良かったムーブ(ツッコミなど)をしがむ、会社のスキンヘッドの重鎮と共鳴する、学んだことを少しずつ身につけられる、でかい人とスポーツをしてもまあまあ活躍できる、ポッピンダンス、ヒトカラで8時間過ごせる、ボウリングがちょっとうまい、ワゴン車で狭い場所のカーブとか駐車を的確にできる、楽しそうに原付に乗れる、ビリヤード、ジェットコースター、パーティ、パチンコ(引退)、競艇(引退)。

PERFORMERS

  • うまこ/トルクレンチガールズ

    フリー。
    WEST ANTS所属。

    Twitter:@ashi_hosoi

    Instagram:ashi_hosoi

  • 力学/トルクレンチガールズ

    フリー。
    WEST ANTS所属。

    Twitter:@bakuretsu_head

    Instagram:rikigaku.br

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