56組の芸人が森で遊ぶ!? “芸人の可能性”を追求する劇場が仕掛ける、癒しの笑い【よしもと有楽町シアター・星座庸子さんインタビュー】

3月5日(土)~13日(日)、新感覚のライブ『東京森林浴』がよしもと有楽町シアターで開催されます。通常はネタに合わせて舞台をセッティングしますが、本公演は舞台美術が先行。「森」という共通の舞台で、全56組の芸人がネタを披露します。

このライブを企画したのは、星座庸子さん。2020年8月にオープンした「よしもと有楽町シアター」の支配人で、かつてはRUN&GUNや南海キャンディーズのマネージャーをしていました。星座さんは、なぜ『東京森林浴』を企画したのでしょうか。また、そもそも「よしもと有楽町シアター」とはどんな劇場なのでしょうか。話を聞くと、元マネージャーだからこその視点や芸人への深い信頼が伝わってきました。

星座庸子さん。『東京森林浴』直前の3月3日(木)、「森」作りの最中に取材を行った

芸人の“コア”を追求する劇場

———劇場HPには、「芸人たちの趣味・特技などといった本芸以外の分野における新たな才能が発掘・発信される場となることを目指す」と書かれていますよね。寄席ではなく企画ライブがメインですし、よしもと有楽町シアターは他劇場と比較して特殊な位置付けかと思います。

昔「ポストよしもと」っていう小さな仮設劇場があって、ネタ寄席ではなく “好きなことを好きなようにやる”ライブをやってたんです。そこは芸人たちの趣味をイベントにしていたので、有楽町シアターを作る際は「同じようなことをやれたらいいよね」という話があったようです。よしもとって、関東だけでも常設劇場がたくさんあるじゃないですか。全部で寄席公演をやるより、独自に企画ライブをやっていったほうがバランス良いんじゃないかと。芸人さんにはたくさん可能性があるので、(本芸以外の)“コア”な部分を追求するのは面白いですよね。

※よしもと西梅田劇場に併設されていた仮設劇場(2017年9月に閉館)

———毎日企画ライブを行うとなると、考えるのが大変そうですね。

オープンしたての頃は手探りでしたし、そもそもコロナ禍ということもあって「いつオープンできるか分からない」という状態からスタートしたんです。それもあって、毎日企画ライブをやるというのはけっこう酷な課題でしたね。なので、最初はマネージャーや芸人にアンケートに協力してもらって、「この人と話したことないから話してみたい」とか「こういうことを〇〇と話したい」とか希望をもらって。意図を説明するのも時間がかかったし、もうがむしゃらでしたね。

そんな状態で2ヶ月くらいやってると、「有楽町はけっこう立地が良い」とか「トークライブに向いてる」と芸人界隈で広まってきて、自ら「僕たちここでこういうことやりたいです」と言ってくれることがちょっとずつ増えてきたんです。今では、本人たちから「やりたい」と言ってくれることが多くなってきました。

———芸人さん発信の企画を作ることが多くなってきたんですね。

基本的にNOは言わないので、今後もやりたいと思ったことは言ってきてほしいですね。こっちから「一緒にライブやらない?」と持ち掛けるとアイディアを出してくれたりもしますし、すごくありがたいです。

———例えば、どんなライブが芸人さん発信で始まったものなんでしょうか?

ダイタクの即漫倶楽部』とか、『アインシュタイントーク』、『コマンダンテと漫才師さん』とか……たくさんありますね。『コーヒーのお供に』は、石井くん(コマンダンテ)から「関わったことのない職種の女性と話をしてみたい」という提案があってできたものです。長く続いてるのだと、『もう中学生の答え合わせ』はオープン当初からやってますね。これはスタッフからもう中に持ちかけたのがきっかけのライブなんですけど、彼の方から「毎月単独やりたいです」と言ってくれて。「毎月!? すごい!」と(笑)。ほかの仕事が忙しくなってからも「必ずやる」と言ってくれてます。

芸人も、自分たちで「この劇場ではこれをやる」とすみ分けてると思います。特に思うのがコマンダンテ石井くんですね。有楽町では“大人”な感じで、大宮や幕張とはめちゃめちゃすみ分けしてる(笑)。劇場によって芸人の違う顔があるので、そういう目線で見るのも楽しいかもしれません。

階段には、月替わりでライブ写真が飾られている。『東京森林浴』期間中は特別展示を実施するそう

芸人の感情を無視しないライブを

———星座さんは、アイドルや芸人のマネージャーとして働いていた期間も長いですよね。マネジメントと劇場業務はまったく違うと思うのですが、今の仕事にマネージャー時代の経験が活きていると思うことはありますか?

ライブを作るとき、勝手に決めて「はい、やってください」というのは避けたいと思ってます。舞台に立つのは芸人さんで、やっぱり“人間の感情”があるじゃないですか。マネージャーをやってたとき、「とりあえずPRしてくれ」「とりあえず出てくれ」みたいな仕事に対して、芸人が「どうやってやればいいの?」となることがめちゃめちゃあったんですよ。「仕事とはいえ嘘はつきたくない」と思う人もいるし、興味が無いものをPRするのは難しい。だから、(ライブを作るときは)なるべくちゃんと話をするようにしてます。これはマネジメントをやっていたからこその考え方かもしれないですね。

———芸人さんの感情を無視しない、ということですね。

やっぱり、舞台に立つ本人に疑問があると楽しめないし、お客様にも伝わるじゃないですか。自分もそうですけど、楽しいと思うことは人に伝えたいし、そうじゃないことは言いたいと思わない。それと一緒かなと思って。だから、一緒にライブをやりたいと思うときはその熱意をちゃんと伝えたいと思ってます。それでOKをもらえたら実行しよう、という心構えですね。

———企画側がどんなに「面白い」と思ったとしても、そのエゴを押し付けないというか。

そうそう。「ちょっと見えないな」って言われちゃったら、「そっか、違うか」と(笑)。ライブって生なんで、巻き戻すことができないですよね。その場で起こる、ナマモノの笑いが大事。ライブが始まったら私たちは無力で、表舞台に立ってる芸人さんと技術さんが作り上げるものですから。そこに至るまでのモチベーションを上げて、「やろうやろう、面白いもの作ろう」って囃し立てるのが自分の役目かなと思ってます(笑)。

———星座さんがライブに関わるときのスタンスは、どういう感じなんでしょう? プロデューサーとして、芸人さんの面白さを引き出そうという感じですか?

プロデュースするというより、「この人たち、こんなに面白いから見てください!」みたいな感じですかね(笑)。この劇場に立つのは、“お客さんの前に立たせて恥ずかしくないし、なんなら前面に押し出していきたい”人たちなんですよ。だからお客さんには決して損させないし、そこにプライドがあるという感じです。

だからこそ、「違う」と思ったらちゃんと言いますよ。「途中で諦めたでしょ」とか「あのエンディング、ダメだよ」とか。ネタを書けるわけでもないし偉そうなことは言えないですけど、気を抜いてるなと思ったりしたら指摘します。

———お客さん視点で見たときに「価値を提供できているか」ということですね。

お客さんは絶対気付きますもんね。劇場の経営って、やっぱりお客さんが足を運んだり配信を観てくれたりするから成り立つわけじゃないですか。ってことは、やっぱりお客さんファースト。それは常に考えてます。

有楽町駅や日比谷駅から近く、仕事帰りにも立ち寄りやすい立地(写真提供:よしもと有楽町シアター)

———有楽町には、ヨシモト∞ホールや神保町よしもと漫才劇場のように所属芸人がいるわけでもないし、大宮セブンのような存在もいませんよね。良い意味で色が無くて、フラットに公演を観れる気がします。

色が無い分、俳優班から「1週間公演やりたい」とか、アニメ事業部から「朗読劇やりたい」とかもありますし、『ツボミーティング』みたいにアイドル(つぼみ大革命)がトークライブするとかもあるし、あらゆるジャンルで遊べるのは良いですよね。

ただ、ほかは芸人が劇場自体を宣伝してくれるから、それは羨ましいと思います(笑)。「僕たちいつも無限大にいるから、来てください!」とか、「大宮セブンで盛り上げるぞ!」とか、“芸人が劇場を推す”のはうちに無いところですね。芸人のアプローチ力って半端ないし、私たちが「有楽町はこんなことしてます」って一生懸命伝えようとしても、劇場単体の発信だとそこまで強さが無い。でも、だからといって所属を作って間口を狭めてもよくないし、欲張っちゃいけないですね(笑)。

———『銭湯図解』の塩谷歩波さんとコラボして『よしもと図解』を作ったのは、劇場の特徴をもっと打ち出していこうという意図ですか?

そうですね。昔から塩谷さんの図解がすごく好きで、あの色合いやタッチが有楽町シアターの雰囲気にも合うんじゃないかとずっと思ってたんです。いつまでも劇場があるわけじゃないし、こういう場所があったんだということを残したいという想いもあって。だから、実現できたことはすごく嬉しいですね。塩谷さんのファンの方が「有楽町シアター行ってみたい」と思ってくれたり、お笑いファンの方が塩谷さんの絵を「素敵」って言ってくれたりもして。その相乗効果も新しいですよね。

#よしもと図解

有楽町に、癒しの森が出現

———『東京森林浴』では、森を舞台にたくさんの芸人がネタをするそうですね。なぜこのイベントをやろうと思ったんでしょうか?

メトロンズの公演(2021年10月『ミスタースポットライト』)がきっかけです。1つのセットで長尺のコント芝居をやっているのを観たとき、すごくその世界観に引き込まれたんですよ。本当に自分がその場にいるような感覚があって。しっかりしたセットがあるからこそ仕掛けで遊べたりもするし、本当に見え方が変わる。通常のコントって、無機質じゃないですか。舞台にパイプ椅子や机だけあって、風景自体は変わらない。寄席公演だったらいろんなネタがあって背景は変わらないのが当たり前だし、そのやり方が1番だと思うんです。でも『レッドシアター』みたいにセットが先に決まっている場所でネタをする、ということを生でやるのもありなんじゃないかと思って。

———そこから構想が始まったんですね。

舞台美術先行でライブをやることを思い付いて芸人たちに聞いてみたら、けっこう「面白そうじゃないですか!」と言ってくれる子が多くて。それが励みになって、やっちゃおうと(笑)。で、どんなセットにしようかと考えるんですけど、例えば“オフィス”だとあんまり設定が考えられない。無茶なこともできて、背景として邪魔にならなくて……と考えたときに出てきたのが、“森”だったんです。

そもそも、私は囲碁将棋の「絶景漫才」がすごい好きなんですよ。自然の中でやってる姿が好きで、なんならその場に観に行きたいくらい(笑)。このライブは元々コント師だけで考えてたんですけど、「森だったら絶景漫才できるじゃん!」と思ったんです。ということは漫才師もピン芸人も呼べるし、歌も歌えるぞと。芸人達には、「持ち時間を使って、森の中で好きなことをやってください」だけ伝えてます。だから、漫才でもコントでも楽器演奏するでも、お任せです。“森”のアイディアは、オフローズの宮崎くん発信です。最初は「ジャングル作ってください」って言われたんですけど、もうちょっと癒しの要素をいれたいということで“森”に(笑)。

構想時点で作られた模型。メトロンズの舞台美術を手掛けたスタッフが製作したそう

———この構想を話したとき、スタッフさんはどういう反応だったんでしょうか?

実は、最初から「有楽町シアターのスタッフでやり遂げたい」という目標があったんです。美術だけはメトロンズでお世話になっているところにお願いしてるんですけど、その他の音響や照明はすべて自分たちで考えて、自分たちでやってほしいと。だから最初に「みんながやれないならやらない」と言ったんです。その上でみんな「やりたい、面白そうです」と言ってくれたんで、じゃあ頑張ろうという感じです。

———これだけの規模の公演を劇場スタッフメインでやり遂げるって、すごいことですよね。

そんな気がします。だから社内の人にも是非来てほしいですね。これがうまくいって、芸人さんたちも「やりたい」と言ってくれたら、またやりたいです。今回はスケジュールが合わなかったメンバーにも出てもらいたいですし。

1日がかりで「森」を作り上げるスタッフたち

———今回は全部で56組の芸人が出るんですよね。すべて星座さんが選んだということですが、なにか基準があったんでしょうか?

「森で遊んでくれそう、楽しんでなにかやってくれるだろう」というメンバーです(笑)。森を使って、自分たちのネタをさらに面白く見せてくれるだろうと思った人たちですね。会えた人には、なるべく「こういうことをするんだけど、やってもらっても良いか」と直接確認しました。それで「是非」と言ってくれたメンバーです。

———お客さんには、どんな楽しみ方をしてほしいですか?

東京のど真ん中に森が出現したんで、癒されに来てほしいですね。笑うこともストレス解消になるし、自然の癒しもあります。疲れた体が一瞬でリラックスする公演になると思うので、物は試しと思って是非(笑)。

———大自然さんのトークライブ『焚火』は毎日行うそうですね。

真っ暗の中であの良い声で喋るので、寝不足の人は寝ちゃうかもしれない(笑)。トークが面白いので起きるとは思うんですけどね(笑)。照明さんがすごく凝って本当に焚火をしているように見えるので、その異空間を味わってほしいです。「有楽町に、まさか!」という感じなので、是非来てほしいですね。

都会の真ん中で最高の癒しを体験できる『東京森林浴』。公演は3月5日(土)~13日(日)(写真提供:よしもと有楽町シアター)

取材・編集 堀越 愛


『東京森林浴』、『焚火』公演情報

●東京森林浴 チケットはコチラ
●焚火 チケットはコチラ

※最新情報は、劇場Twitter(@Y_yurakucho)をご確認ください。


【出演者】

◆3月5日(土)
『東京森林浴#1』
17:30開場/18:00開演
出演:THIS IS パン、ネルソンズ、大自然、インディアンス、そいつどいつ、オダウエダ
『大自然トークライブ 「焚火」 1日目』
19:30開場/20:00開演
出演:大自然、THIS IS パン、ネルソンズ、インディアンス、そいつどいつ、オダウエダ

◆3月6日(日)
『東京森林浴#2』
13:30開場/14:00開演
出演:守谷日和、インポッシブル、TEAM BANANA、西村ヒロチョ、デニス、ダンビラムーチョ
『大自然トークライブ 「焚火」 2日目』
15:30開場/16:00開演
出演:大自然、守谷日和、インポッシブル、TEAM BANANA、西村ヒロチョ、デニス、ダンビラムーチョ

◆3月7日(月)
『東京森林浴#3』
17:30開場/18:00開演
出演:うるとらブギーズ、スパイク、カゲヤマ、男性ブランコ、オフローズ、プール
『大自然トークライブ 「焚火」 3日目』
19:30開場/20:00開演
出演:大自然、うるとらブギーズ、スパイク、カゲヤマ、男性ブランコ、オフローズ、プール

◆3月8日(火)
『東京森林浴#4』
17:30開場/18:00開演
出演:モノマネ三銃士(セブンbyセブン玉城、イチキップリン、こりゃめでてーなこう大)、相席スタート、ゆにばーす、サンシャイン、サンジェルマン、9番街レトロ
『大自然トークライブ 「焚火」 4日目』
19:30開場/20:00開演
出演:大自然、モノマネ三銃士(セブンbyセブン玉城、イチキップリン、こりゃめでてーなこう大)、相席スタート、サンシャイン、サンジェルマン、9番街レトロ

◆3月9日(水)
『東京森林浴#5』
17:30開場/18:00開演
出演:しずる、ライス、サルゴリラ、メトロンズ
『大自然トークライブ 「焚火」 5日目』
19:30開場/20:00開演
出演:大自然、しずる、ライス、サルゴリラ、メトロンズ

◆3月10日(木)
『東京森林浴#6』
16:30開場/17:00開演
出演:佐久間一行、バンビーノ、オズワルド、トニーフランク、ブラゴーリ、ピュート
『大自然トークライブ 「焚火」 6日目』
18:30開場/19:00開演
出演:大自然、佐久間一行、バンビーノ、トニーフランク、ブラゴーリ、ピュート

◆3月11日(金)
『東京森林浴#7』
17:30開場/18:00開演
出演:コマンダンテ、ダイタク、ダイヤモンド、コットン、マリーマリー、軟水
『大自然トークライブ 「焚火」 7日目』
19:30開場/20:00開演
出演:大自然、コマンダンテ、ダイタク、ダイヤモンド、コットン、マリーマリー、軟水

◆3月12日(土)
『東京森林浴#8』
14:30開場/15:00開演
出演:とにかく明るい安村、おいでやすこが、チョコレートプラネット、ZAZY、オフローズ、三匹
『東京森林浴#9』
17:30開場/18:00開演
出演:グランジ、ピクニック、ジェラードン(かみちぃ、アタック西本)、やさしいズ、世間知らず、オドるキネマ
『大自然トークライブ 「焚火」 8日目』
19:30開場/20:00開演
出演:大自然、グランジ、ピクニック、ジェラードン(かみちぃ、アタック西本)、やさしいズ、世間知らず、オドるキネマ

◆3月13日(日)
『東京森林浴#10』
16:30開場/17:00開演
出演:アイロンヘッド、大自然、ニッポンの社長、スクールゾーン、ぼる塾、ヨネダ2000
『大自然トークライブ 「焚火」 9日目』
18:30開場/19:00開演
出演:大自然、アイロンヘッド、ニッポンの社長、スクールゾーン、ぼる塾、ヨネダ2000

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