バビロン・ノリが挑む、魅せる「筋肉芸人」の道【偏愛 × 筋肉】-芸人の偏愛 vol.1-

偏愛」とは、“特定の物事を特別に愛する” こと。
他人には理解できない優先順位で時間やお金を使い、熱く語り、独自の哲学で行動する……“趣味”の一言で片付けるには違和感があるほど何かを愛し、貫く人は面白い。そう考え、芸人の偏愛を聞く連載を始めることにしました。

「芸人の偏愛」に深く切り込むインタビュー、第1回に登場していただくのは、筋肉を愛するバビロン・ノリさん。

ノリさんが筋トレに出会ったのは、高校時代。芸人になってからは身体を活かした芸を貫き、以前より“筋肉芸人”として活動していました。

2022年、ノリさんは初めての挑戦をします。それは、ボディビル大会への出場。筋肉芸人の枠を超え、ボディビルダーとして一歩を踏み出したノリさんに話を聞いてきました。

MUSCLE HISTORY

———筋トレをするようになったのは、いつ頃ですか?

高校からですね。アメフトをやってたんですけど身体が大きくないと当たり負けしちゃうんで、身体作りとケガ予防のために始めました。僕は当時から筋トレが好きで、部活が終わってからもジムに行ったりしてましたね。身体が出来上がっていくのが楽しいし、(上げられる)重さが上がっていくのも嬉しくて。ただ、当時はただ「デカくなりたい」という一心だったんです。太らないといけないポジションだったということもあって、とにかく食って筋トレ。筋肉だけじゃなく脂肪も乗せて、とにかく太るという鍛え方でした。

———大学卒業後、2010年にNSCに入るんですね。この頃も筋トレは続けていたんですか?

いや、お笑いに集中しようと思って、半年くらい止めました。でも、なんかウズウズするというか……市営のジムに行ったりもしたんですけど、足りなくて。結局、またジムに入会しました。あと、自分はお笑いを“考えてできるタイプ”ではないと気付いたっていうのもあります。自分をアピールするためにはキャラがあったほうが良いかなと思って、また筋トレをし始めました。

———バビロンさんの過去をさかのぼると、2013年(結成3年目)にはすでにTシャツを破る芸をやっていました。当初から「パワー系トリオ」だったと思うんですが、この頃はまだ“マッチョ”と言うほどではないですよね。

そうですね、ガタイの良い三人という感じです。この頃はアメフトの延長線上で筋トレをしてたんで、脂肪もあるし、そんなに細かいトレーニングはしてませんでした。

———「筋肉芸人」というキャラをちゃんと付けようと思ったのはいつ頃か、覚えていますか?

3年目くらいのとき、『needs』っていう若手のコーナーライブがあったんですよ。その中に、マッチョな若手が一人ずつ脱いでジェスチャーゲームをする「マッチョジェスチャー」っていうのがあって。やっぱり、身体がプヨッとしてるとあんまり盛り上がらないんですよね。たぶんそれが「見せる筋肉を付けなきゃ」と思ったタイミングで、そこから筋トレに力を注ぐようになりました。

———「マッチョジェスチャー」は、ほかにどんな方が出ていたんですか?

ネルソンズ青山さんとか、インポッシブルさんとか……。かなり大盛り上がりで、ライブの大トリでやるくらい人気のコーナーだったんですよ。みんながそれに出たがるような、大人気コーナーでした。マッチョジェスチャーの頃から、筋肉芸人としての意識が出てきましたね。

———ただ鍛えるだけでなく、脂肪を落としたり食事にも気を遣ったり、ということですか?

そうです。脂肪を落として、腹筋も見えてないとダメだと思ったりして……でも、本当に探り探りでしたね。今考えたらダメなやり方なんですけど、ひたすら糖質を抜いて、プロテインばっかり飲んで、カロリーを減らすような食事をしてました。

———2017年にフィジークの大会に出場したのは、なにかきっかけがあったんでしょうか?

(筋肉芸人の先輩である)にしだっくすさんに、「どうせ鍛えるなら絶対大会に出たほうが良い」と言われたんです。大会に出て学ぶことは多かったですね。どのくらい痩せたらどのくらい腹筋が出るのか……とか。ただ、このときはあんまりハマらなかったんですよ。笑いのネタになれば良いかなくらいのモチベーションで、「優勝したい」みたいな意欲もそんなに無く。

※ハーフパンツを履いて肉体美を競う競技で、ボディビルとは異なる。下半身はあまり審査されない。ノリいわく「簡単に言うと、海に似合う人を決める大会」。誰もが憧れる肉体を要求されるため、過度な筋肉量は減点対象となる

フィジーク挑戦の様子(2018年)(バビロン監視チャンネルより)

———今年2月に『マッスルゲート関東新人戦』(ボディビルの大会)に挑戦することになったのはなぜですか?

クリスタルジムで、自分が教える側になったことが大きいですね。教える自分がだらしない身体だったら意味無いし、説得力が欲しいと思って。

———クリスタルジムで教えるにあたって、もっと極めようということですね。あらためて筋トレを学んだりもしたんでしょうか?

個人的にパーソナルジムに通ったりしました。(ジムのトレーナーに)「大会出ましょう」と言われたのも、出場を決めたきっかけの一つですね。「自分の筋肉をより理解できるようになるし、教える技術も上がるから」と。

———ボディビルに出場するためのトレーニングをして、どんな変化がありましたか?

大会に向けてトレーニングする中で、自分の弱い部位と強い部位が分かりました。僕は意外と足が絞れていて、今まであまり見せていなかった割に、太くて強いことが分かったんです。それで(ボディビルは足も見せるので)向いてるのかな? とも思えて。大会当日も含めて、全部が楽しかったですね。筋トレの本当の楽しさを知りました。

———大会当日はどんな感じだったんでしょう?

出場したのが僕ひとりだけだったんで、受付で「優勝」と言われて、そのまま優勝しました(笑)。決勝では、自分の好きな曲を流して「フリーポーズ」ができるんです。自分ひとりだけのステージで、みんなが見てる中ポーズを決める、という。それがいつものお笑いの舞台とは全く違ってて、快感でしたね。

———『マッスルゲート関東新人戦』が終わった1ヶ月後くらいに、5月に再度ボディビルに挑戦することを発表していましたね。

※note 「ボディビル一年生入学。

2月は出場者ひとりで優勝だったんで、誰かと並んでみたいと思ったんです。5月の『東京ノービスボディビル選手権大会』は賞を獲ったことのない新人が集まる大会だったんで、これに出てどれだけいけるのかを試してみたかったんですよ。

———2月と5月では、素人目でも分かるくらい身体が違いました。

2月に大会出て、そこからさらに絞りました。(ただ痩せるのではなく)1個1個の筋肉を付けながら絞り切るので、トレーナーにも細かく相談しましたね。朝に写真送って、「もうちょっと塩を摂ったほうが良い」とか微調整してもらって……ただ、当日はちょっと失敗しちゃったんですよ。水と塩を抜き過ぎて、身体に張りが出なかったんです。大会が終わって食事したら、血管がバーッと走って良い感じになって……試行錯誤ですね。

2月(Twitterより)
5月(Twitterより)

———身体に入れるもので、そんなに変わるんですね。

いや~、学びですね。ボディビルの難しいところであり、奥深さでもあり……。楽しいし、芸術ですよね。マジで人体実験です(笑)。先日なかやまきんに君さんにお会いする機会があったんですけど、(筋肉は)「人によって全然違う」と言ってました。筋肉を張らせるために、どれだけ水を入れるかとか、塩を抜くとか、ご飯食べるとか……一人ひとり調整の仕方がまったく違うんですよ。

東京ノービスボディビル選手権大会出場の様子(「クリスタルジム.ch」より)

———大会を終えて、今はどういうトレーニングをしているんですか?

今は、めっちゃ食べて身体をでっかくする作業ですね。体重を増やしつつ、筋肉も発達させてます。次にまた大会に出るとしたら、時間をかけて脂肪だけ減らして、どれだけ筋肉を残せるかですね。マジで難しいですけど。
今が一番筋トレ大好きです。今までは1日に2回ジムに行くことは無かったけど、今は2回行っちゃったり(笑)。「でかくなったね」とか言われると、テンション上がります(笑)。

バイトがある日のスケジュール例

筋肉とお笑いの両立

———大会に挑戦することに対して、相方さんたちになにか言われることはありますか?

「賞レースが無いときは良いよ」っていう感じです(笑)。(フィジークのときは)10月だったんで、ガッツリ『M-1』予選にかぶってたんですよ。減量中ということもあって、三回戦の日もリンゴかじってたりして……そういうの見てらんないし、やめてくれみたいな(笑)。あと頭が回らなくて、大喜利もまったく答えられなかったりしました。

———時期を間違えると、お笑いに支障が出てしまいますね。

そうなんですよね。減量中って、自分ではできてると思ってても意外と声が出てなかったりして。あと、1回1回のライブがめっちゃ疲れるんですよ。飴1個で1ステ頑張るみたいな感じだったんで、1日3ステあると、もうギリギリでしたね……(笑)。本当はお笑いに支障出ちゃダメですし、やり方を学び中です。

———大会で学んだことも多そうですし、どんどん知識が増えてますよね。

マジで増えてると思います。常にYouTubeやボディビル雑誌見てるし、常におにぎりと鶏ムネの筋肉弁当を持ち歩いてるし……それやるようになってからは、先輩に誘われなくなりました(笑)。

筋肉弁当(おにぎりと鶏ムネ肉)、バナナ、卵、ボディビル雑誌を常に持ち歩いている。おやつは干し芋

———芸人さんって先輩付き合いを大事にするイメージがあるんですが、良いんですか?

僕も最初は大事にしてたんですけど、筋肉芸人としてやっていくってことは、そういうことなのかなと……。きんに君さんやHGさんも言ってたんですけど、(筋肉芸人は)先輩よりマッチョの人達と仲良くなるみたいで(笑)。しょうがないのかなと思ってます。飲み会に行ってもお茶飲んでササミしか食ってなかったら、先輩も嫌がると思うし。でも(お酒を)飲むのは好きなんで、時期によっては行くこともありますよ。「今日はそういう日じゃない」と思ったら行かないけど。

———そういう日じゃない、というのは?

ご飯しっかり食べて、その日のカロリーが足りてるときですね。タイミングが合えば行きますけど、飲み会の数はマジで減りました。

———カロリー量まで管理するんですね。かなり自分に向き合ってますね。

そうですね、常に食べたものはチェックしてます。あと、どんな筋トレをしたかもメモ帳に細かく記録してますよ。

———後から見返すんですか?

見返します。過去2年分くらいデータが残ってるので、「こういう食事したら体調が良い」とか「お酒飲んでどのくらい増えたか」とか、大体分かるんですよ。

芸人と筋トレ

———「筋肉芸人」というキャラが、芸の邪魔をすることはありませんでしたか?

僕らは繊細なネタをやるタイプじゃないんで、逆に筋肉があればあるほど良いって思います。なんなら、もっとでかくしたほうが笑いに繋がるかなと。

———筋肉芸人だと、なかやまきんに君さんという偉大な先輩がいますよね。なかなか越えられない壁だと思うんですが、葛藤はありませんか?

いや、きんに君さんは神の領域です。これだけお笑いと筋肉を融合させて、広めてくれた。本当に日本のシュワちゃんというか……。きんに君さんは、越えられないですよね。

———自分が後継者になりたい、という想いはありますか?

なりたいですけど、なれないっすね……でも、「筋肉を広めたい」という気持ちはあります。今、筋トレする芸人が増えてるじゃないですか。マッチョというほどではないけど、健康のために筋トレする人が増えてる。それはめちゃくちゃ良いことだと思ってます。

———芸人さんって生活が不規則で、ちょっと不健康なイメージがありました。

そうなんですよ。(マヂカルラブリー)野田さんも言ってますけど、マッチョの芸人を増やしたい。健康な人を増やすという意味で僕も大賛成です。

———ノリさんが芸人さんをトレーニングすることもあるんですか?

ZAZYはジムに通ってるんですけど、僕もここ(クリスタルジム)でやり方を教えたりしてますね。あと、鬼越トマホークの金野さんとか。金野さんは元が太いしゴツイので、マッチョになれる素質があると思います。

いつでもできる筋トレ講座①「しっかり足を踏み込んで、階段を一段抜かしで登りましょう!お尻を鍛えることができます」

———筋トレで変わってきたと思う芸人さんはいますか?

男性ブランコの平井とか、だいぶ筋肉付いてきたと思います。あとダンビラムーチョの大原も筋トレにハマって、だいぶ痩せましたね。

———みなさん健康になって、良いですね。

じじいが増えてるってのもありますけどね(笑)。無限大で、健康の話めっちゃしてますからね。うちの相方二人が、無限大で一番ヤバいと思います(笑)。

———相方さんをトレーニングすることは無いんですか?

1回教えたことあるんですけど、「もう一生やりたくない」って言ってました(笑)。相方だから、より厳しくしちゃうんですよね。

いつでもできる筋トレ講座②「お腹に力を入れて、足を浮かして座ります。腹筋に効きますよ!ライブを観ながらでもできるトレーニングです」

———ここ数年、芸人さんに限らず身体作りをする人が急激に増えました。それまでは「プロテインを飲むなんて」「脳みそまで筋肉なのか」……など、筋トレが一般的に受け入れられない期間も長かったのではと思います。筋トレの見られ方に対し、変化は感じますか?

最近は、いろんなカッコいいマッチョがYouTubeをやったりしてることもあって、“筋トレをバカにする”みたいな見方はされなくなりましたね。むしろリスペクトする人も多いと思います。でも僕自身は根がバカだし、キャラの一つでもあるから、いじられても全然良いと思ってます。バカやりたいですし、何事も全力で挑みたいので(笑)。

———クリスタルジムや吉本マッチョ部など、筋肉芸人としての活動が増えていますよね。マッチョ仲間がいることは、励みになりますか?

情報交換できるので、良い刺激になりますね。僕が知らないマッチョのことをめちゃくちゃ知れるし。どういう筋トレやってるかとか、サプリメントや、プロテインのこととか……。あと、今どんな鍛え方が流行っているかとか。お笑いだけやってても絶対そんな情報は入ってこないので、楽しいっすよ、本当に。

———今ライバル視しているマッチョ芸人はいますか?

1年目に青木マッチョってやつが入ってきたんですよ。そいつがとんでもなくデカいし、まだ若い。これからどんどん成長すると思うんで、怖い存在ですね。でも、話がめちゃくちゃ合うんですよ。海外のボディビルダーの話とかもできるし。

マッチョ・芸人、それぞれの目標

———芸人ではなく“ひとりのマッチョ”として、今後の目標はありますか?

きんに君さんが(吉本から)いなくなって、ボディビルに出る人が僕とにしだっくすさんしかいなくなったんですよ。今はにしだっくすさんに負けてるので、今後は“ボディビルダー・金波憲幸”として名を上げたいです。芸人の中では「筋肉芸人」として知ってもらえてると思いますけど、マッチョ界にも知られる存在になりたいですね。

※にしだっくすは、『東京ノービスボディビル選手権大会』65kg級で銅メダルを獲得している(Twitter参照)

———芸人としての目標はいかがですか?

バビロンとしての目標になりますけど、もっとキャラクターを付けてテレビに出られるようになりたいです。パワー系トリオなんで、僕ももっとパワーを付けなきゃいけないなと。

———あとの二人も、もっと大きく……

いや、あいつらはあのままで大丈夫です(笑)。今までは僕がちょっと小さかったので、バルクアップして迫力を付けたら、もっと行けると思うんですよ。

———ネタを頑張るというよりは、パワー系トリオとしてキャラを濃くしていくということですか?

そうですね。賞レースで売れるタイプのトリオでは無いと思うので、三人それぞれのキャラクターを活かして、テレビに出たいです。身体張る系にガンガン出たいので、『イッテQ!』(日本テレビ)とか。(オードリー)春日さんみたいに、身体を使って実験したりしたい。僕らを実験台に使ってもらいたいですし、ロケに行くの大好きなんで。無限に身体張ります

文・編集:堀越 愛
写真:さくらの


<PROFILE>

ノリ(バビロン)

Twitter:@norimaro0623
Instagram:nori_0623

★公式プロフィール:https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=6567
★公式YouTube:バビロン監視チャンネル

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