【WESTANTSストーリー-vol.9 ハノーバー-(前編)】「売れている人が身近にいるってありがたい」東京芸人との交流で気付いたこと ~西の地下で轟く、新たな笑いの息吹~

2021年4月、大阪のライブシーンで活動する9組18人の芸人によるユニット『WEST ANTS』が誕生しました。発起人は、大阪・西心斎橋で「BAR舞台袖」を営む加藤進之介さん。大阪のお笑いを盛り上げるべく、本当に「面白い」と思う芸人を集めました。(加藤さんインタビュー:大阪を「芸人が飯を食える場所」にしたい

松竹芸能所属、2016年結成のハノーバーは、ボケの井口バツ丸とツッコミの良元カルビによるコンビ。『キングオブコント2021』では準々決勝進出、そして『ABCお笑いグランプリ2022』で決勝進出など着実に結果を残し、今後のブレークが期待されています。インタビュー前編では、コンビ結成の経緯や東西の芸人との交流による刺激など、様々なお話をお伺いしました。(インタビュー後編はこちら

【WEST ANTS ストーリー -vol.0-】大阪お笑いに、新たな息吹!芸人ユニット『WEST ANTS』とは

ハノーバー(左:井口バツ丸、右:良元カルビ)

おかんがNSC1期生

———ハノーバーさんは同級生コンビということなのですが、いつ頃に出会われたのでしょうか。

井口バツ丸(以下、井口): 中学1年生くらいかな。でも、1回も同じクラスになったこと無いんですよ。

良元カルビ(以下、良元): 地元でお祭りをやってて、だんじりとか。それでずっと一緒やったんですよ。

———当時のお互いの印象はどうでしたか?

井口: なんか似たようなヤツやなと思ってましたね、ずっと。

良元: まあ……ゲスそうなヤツやなと(笑)。

———なぜ芸人になろうと思われたのですか?

良元: 僕は元々芸人に憧れがあって、高校生くらいから意識し出しました。人前に立ちたいというか、人を笑わしたいなみたいなのがあって。僕が芸人を始めたとき相方は社会人やったんですけど、「社会人辞めて一緒に芸人になろう」ってずっと言ってたんです。僕はちょっとだけNSC行ってたんですけど、辞めて東京行こうかなってときに(相方が)偶然仕事辞めて、大阪に帰ってきて。で、あらためて「芸人やろう」と。

最初は嫌がってたんですけど、相方のおかんがNSC1期生という珍しいパターンで(笑)。親が「芸人やり! やりなさい!」って言って、こいつ(井口)は嫌やって言ってるんですけど「あんたは芸人や! 芸人やるしかない!」って。親に無理やりお笑いやらされてました(笑)。

———珍しいですね(笑)。

井口: 親に反対されたことは1回も無いんです。なんやったら、ABCの最終予選決まったじゃないですか。あれの観覧チケットも、ファンの人より誰よりも早く応募しとって(笑)。「絶対行くからね!」って連絡来るくらい応援してくれてます。

※取材時は『ABCお笑いグランプリ2022』の予選中で、この時点で決勝進出は決まっていなかった

良元: だから、僕は高校生くらいから芸人になりたかったんですけど、彼は無理やりって感じです。

井口: 最初は半ば嫌々でしたね。

———結成後、松竹芸能に入ったのに理由はありますか?

良元: 松竹入る前に、別のちっちゃい事務所に入ってたんですよ。でも結局、ちっちゃい事務所ってやっぱりなかなか生き残れないんだなと思って……。いろいろ思うことがあって、やっぱ大手の事務所に入りたいなって思ったんです。松竹と吉本と迷ったんですけど、吉本に入るためにはどうしても40万(養成所の受講費)がいる。「40万払えるかあ」って思って松竹にお願いして、オーディション受けて入らせてもらったんです。

———コンビ名の由来は何ですか?

良元: 元々前の事務所では「ハネウマ」っていう名前でやってたんですけど、松竹に入るなら心機一転変えたほうがいいって先輩に言われて、先輩が付けてくれたんです。ハネウマから語感そのまま、ハノーバー。語感が似ている名前っていうのと、あとこれちょっと恥ずかしいんですけど、昔アメリカの競走馬かなにかで「ハノーバー」ってヤツがおって。それが障害を乗り越える馬で……

井口: 障害レースっていう、柵乗り越えたりとかするレースに出てて。最初はめちゃくちゃ弱かったけど、品種改良していくうちに物凄い強い血統になったから……っていう由来もあります。

良元: 最初弱かったんかい。なんやおい、急に嫌になってきたわ! 最初弱いと思われとったんかい(笑)。

井口: 最初は全然勝てへんかったけど、いろんなレースに出たりいろんな血統を組み合わせることによって、ハノーバーって馬がめっちゃ強くなったんで。「だんだん飛躍していく」みたいな意味で、名前をもらったんですよ。

良元: 最初は弱かったって全然知らなかったです(笑)。障害乗り越えるっていうのは聞いてたんですけど。

———前のコンビ名のハネウマも競馬から来ているのですか?

良元: これは全然関係ないんです。僕が中学生のとき、ポルノグラフィティの『ハネウマライダー』って曲がすごい好きで、よく聞いてて。中学生の同級生やから……ぐらいの感じで、そっからとったんです。

井口: 携帯の着信音にしてたんです、『ハネウマライダー』を。それがずっと耳に残ってて。

良元: おもろい話みたいに喋らんといて。

井口: 相方の携帯電話の番号がずっと中学時代から変わってないんですけど、暗記してます(笑)。

良元: 非常時には嫁より僕にかかってきます。

良元100:井口0

———お二人のコンビ内での力関係はどうですか?

井口: 100:0です(笑)。

良元: そうですね、(井口は)ほんまになにもしないというか、できないんですよ。例えばですけど、ライブのエントリー任したら忘れとったり。漢字もあんま書けない。もう全部、自分がやるしかない。

井口: コンビ組んで一発目の『M-1』のエントリーも、「僕が出すわ」って言って忘れて出れへんとか。

良元: もう全部俺がやらなあかんって気付きました。

井口: 気楽っすね、僕は0なんで(笑)。「0や」って振り切ってからおもろなってきた気します。で、「0や」ってなってきてから(良元が)体壊すようになったと思います(笑)。もうほんまに、おんぶにだっこですね、申し訳ないですけど。

———じゃあ、良元さんがネタも書いてるんですか?

良元: そうですね。僕がネタ書いてる横でスマブラとかしてるんですよ。良いねんけど、ない? もっと「ありがとう」みたいな姿勢は……っていう。

井口: いや、できひんことはね、考えてもしゃあないじゃないですか。

良元: すごいんですよ。やっぱ振り切ってるんすよ。

井口: 野球とサッカーの選手がめっちゃ仲良かったとするじゃないですか。でも野球の選手が必死にバッティング練習してる横で、練習を見学に来たサッカー選手は、練習しないじゃないですか。

良元: 例えめちゃくちゃ下手やん。

井口: こういう例えの下手さとかも、「出来ない」に含まれてるんで。

良元: お前嫌われるんちゃう? この取材で。

井口: まあ、考えてないからこんな感じなるんちゃうかなあ、俺(笑)。でも喋るのは好きなんで、喋りたいはいっぱい! そんな感じです。

パーン! シューン!

———ネタに対して、こだわりはありますか。

良元: ネタは漫才を主にしてて、たまにコントもします。漫才は、他人があんまやってなさそうなテーマを見つけて、そっからちょっと素の喋りみたいな感じです。あんまりネタネタしてない感じにすることを意識してますね。コントはこいつ(井口)のキャラ全開のコントにしたりします。

井口: このインタビューでは「良元が100ネタ書いてますよ」って言ってて、裏では僕が書いてる可能性もありますね。

良元: どう思われたいん? さっきから。お前がなんか喋る度に二人(ライター&カメラマン)が困ってるから。考えて喋ってくれ。ボケでもないし。どう思われたいん?

井口: 帰りに二人で、「なんか井口さん、もしかしたらかっこいいかもな」って言うてくれたら良い。俺ちょっとかっこいいかもってなるやん。

良元: 一番かっこよくない(笑)。

———意識している“キャラ”みたいなものはありますか?

井口: バカなんで、前に出るしか能無い。でもビビりな部分もあるんですよ。メンタルは強いと思うんですけど、いつ前に出るかとか、ここや! みたいな勘がない。だから、後ろから(良元に)ガッて押されるんですよ。出んかったら怒られるんで、出るしかないじゃないですか。で、出たからにはウケへんかったら怒られるじゃないですか。

良元: 「ここ出ていったら良いのに」っていう場面がよくあるんですけど、ほんまに馬鹿すぎて分かってないんです。僕が(井口の)お尻パンって叩いたら、ロケット鉛筆みたいにシュンって(笑)。

井口: そう。前に出てウケるまで帰られへんというか。ウケんと帰ってきたら、「ウケてこいよ」って怒られるから……

良元: そんな、お父さんみたいにやってない(笑)。ウケんかったらウケんかったでしゃあないから。嫌やったら出んで良いのに、押されたらそのままシューン! って行くから(笑)。

———競馬みたいですね(笑)。

良元: パーン! って鞭叩かれたら、シューン! って行く(笑)。

井口: 前に出ていくことが、僕の出来ることやと思ってるんです。

街で後ろ指さされたい!

———直近だとABCの最終予選、昨年は『キングオブコント』の準々決勝に進んでいる実績がありますよね。賞レースに対する想いについて教えてください。

良元: 松竹の社員が振り向いてくれるためには賞レースで結果出すしかないので、去年よりは絶対1個は上に行きたいですね。去年『キングオブコント』で準々決勝に行けたんですけど、当日くらいに「あ、これや!」っていうネタが降って来て勝てたんですよ。だから今年もなんか降ってきてくれ! 頼む! って思ってます(笑)。

井口: 『キングオブコント』のとき、俺が体壊しちゃってギリギリまで会われへんかって。で、やっと当日に会えたときに渡されたネタで準々まで行ったんで、僕はなんか「やったー!」っていう(笑)。こっちは体治すために必死で、治って会うたら、考えてくれてたから(笑)。

良元: 元々、僕らはネタで評価されることが無かったんですよ。だから意識は変わりましたね。「うわ、賞レース狙えるんや」というか。

———ハノーバーさんにとって「売れる」というのはどういうことでしょうか。

井口: この質問は難しいですね。

良元: 僕らは結構、メディアに出たいタイプなんですよ。劇場で食べていくのもめっちゃ良いと思うし、それができたら僕らも理想なんですけど、やっぱりメディアに出たい。具体的なことは言えないですけど、「メディアに出続けられるようになる」のが僕らにとって売れるですね。

井口: 僕ね、街歩いててね、人に指さされたいんですよ。

良元: 顔さされるでええけどな。指さされるは後ろ指とかやから(笑)。

井口: それでも別にええやろ。

良元: 後ろ指さされるのは嫌やろ。なにがええねん。

井口: 有名やから後ろ指さされる……?

良元: 後ろ指の意味分かってないやろ(笑)。

井口: 全然意味わかってないけど(笑)。テレビ出てはる人とか、売れてる人と交流させてもらう機会が多くて、すごい可愛がってもらえたりとかもしてて。そういう人たちと一緒にいると、街で指さされるんです。でもその人たちの後ろにいる僕は、多分認識されてないんやろなって。売れたら、指さされたとき一緒に認識してもらえるんやろうなって僕は思ってるんです。やっぱり知名度上げて、メディアにずっと出て、指さされるとこまでは絶対行きたいなって思ってますね。

1回だけ、梅田のラウンドワンで顔さされたことがあるんですよ。「ギャグ1個見してもらえませんか?」みたいなん言われて、嬉しなって。声かけてくれた人が「もういいです!」っていうくらいギャグして(笑)。自分から「もう1個ギャグあるんですけど!」って……

———「ギャグしてください」でも良いんですね(笑)。

井口: 全然大丈夫です。「プリクラ記念に撮りませんか?」って聞いたら断られました(笑)。「お金も出すで」って言うたんですけど(笑)。

———メディアとしては、昨年『ネタフェス」に出演されましたね。出演できるとなったときはどう思いましたか?

良元: 出演できるってなったときはもう……。

井口: ピリッてなったよな。やっぱり、そもそも「出れる」って思ってなかったから。いざ出るってなったらめっちゃ考えたというか……

良元: グループLINEに社員さんから「ハノーバー出演決まりました」って来たのを見て、「いーや、なにがやねん、嘘つけー!」みたいになったんめっちゃ覚えてます。で、時間経ってから「なんかとんでもないもん決まったんちゃうん!?」って。そのときは嬉しいより、「嘘やん!」が勝ってましたね。

井口: 僕は、嫁のおかんが一番はしゃいでました(笑)。まわりの人に喜んでもらえる材料としても大きかったなと僕は思ってます。

———そのとき、井口さんのお母さんはなにか言われてましたか?

井口: 家賃代を貸してくれました。頑張ってるからって(笑)。

———ハノーバーさんがこれから目指す先は、メディアということになるんですね。

良元: そうですね。でも、一番近い目標で言ったら、バイトを辞めることですね。

井口: バイトを辞めたいな。

良元: 営業であったり、舞台であったり、MCの仕事であったり、仕事はなんでも良いんで。とにかく一番直近の目標は、バイト辞めることですね。

0.3ストレッチーズ、0.3さすらいラビー、0.1サツマカワRPG

———大阪で活動することにこだわりはありますか?

井口: 家族もいるんで、離婚せんと東京行くのが僕は無理ですね。一人で単身赴任とかも多分無理やし。

良元: 離婚したら行けるみたいな言い方してるけど(笑)。

井口: みんな「売れるか・売れへんか」の二択で東京行くけど、僕は「売れるか・売れへんか、離婚するか・せえへんか」って4択になるんで、考えたくない。

良元: 元々大阪が好きなんと、今はWEST ANTSがあるので東京進出とかは別に考えてないですね。加藤さんとか、にぼいわ(にぼしいわし)さんとか風穴(風穴あけるズ)さんとかにも大分お世話になってるんで、恩を返さないと。

———最近だと、ストレッチーズさんなど東京の芸人さんなどとも交流することが多いと思います。交流するようになって受けた刺激はありますか?

良元: 東京行く度に、刺激はすごい感じてますね。あの人らって、なにも疎かにしないんですよ。僕らはストレッチーズさんと仲良くさせてもらってるんですけど、あの人たちはライブだけで月30本くらい出てはって。『ツギクル芸人』で優勝したんで、メディアの仕事も増えてる。その中で新ネタも書くし、人付き合いもするし、遊ぶときは遊ぶし。なんにも妥協してないんですよ。1個1個のライブももちろん全力だし、やっぱすごいなと思いましたね。

僕らはいろいろ言い訳して、ライブで新ネタやらなかったり同じネタやったりしてたんですけど、それじゃあかんなと。ネタもちゃんとやるし、忙しくても後輩と飲みに行くし、全部全力でやらなあかんなって思いました。僕も最近後輩よく飲みに連れて行くんですけど、金がもう……(笑)。

井口: でもこれ、原因わかってるんですよ。ストレッチーズは二人とも考えがあって、しっかりしてるしかっこいい。でもうちは良元だけなんです。僕がなんもしてないんですよ。だから正直、1人ストレッチーズなんですよ。

良元: 1人ストレッチーズじゃないから(笑)。0.3ストレッチーズ。

井口: ストレッチーズさんはすごく仲良くさせてもらってるんですけど、僕は0ストレッチーズやから、あんまガンガンいけない。

良元: 0.3ストレッチーズくらいや、二人で。

井口: 0.3ストレッチーズ。0.3さすらいラビー。で、平場はサツマカワ(RPG)さんにアドバイスもらって、僕は0.1サツマカワ。

良元: ありがたいですね、ほんまに。売れてる人が身近にいてくれてるというのは。

【後編を読む】ユニットの“なんでも屋さん”「エースじゃなくても良い、なんでもすんで~」

文:なかにし、写真:藤田うな
編集:堀越 愛


<ハノーバー|プロフィール>
松竹芸能、ユニット『WEST ANTS』に所属

左:井口バツ丸
右:良元カルビ

★公式プロフィール:https://www.shochikugeino.co.jp/talents/%E3%83%8F%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC/

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