結成21年の漫才師・三拍子が、仕掛け続ける理由「自分で動かないと、芸歴と年齢が上がっていくだけ」

2022年8月5日、三拍子結成20周年記念単独ライブ『ラストチャンスと言わないで』を開催する。会場であるよみうりホールの座席数は、1,100。これまでの単独ライブは「200席キャパが最大」という三拍子にとって、大きなチャレンジとなる。

2001年に結成し、『オンエアバトル』や『THE MANZAI』で結果を残した三拍子。その実力は折り紙付きであったが、『M-1グランプリ2016』はラストイヤーで準々決勝敗退。漫才師の登竜門と言える大会で結果を残すことはできなかった。芸人仲間やお笑いファンからは長年「面白い」と太鼓判を押される一方、現在は「思い描いていた理想の売れっ子漫才師とはほど遠い」(CAMPFIREより)状況。1,100人キャパの単独ライブは、三拍子にとって“現状打破”するための挑戦だ。

三拍子(左:高倉 陵、右:久保 孝真)

今回の単独ライブに留まらず、2026年に「武道館で単独ライブ開催」を目標に掲げる三拍子。その原動力とはなんなのか、そして“今”チャレンジするのはなぜなのか、話を聞いた。

日本トップクラスの漫才師になるために

———今回の単独ライブは、2026年に武道館で単独ライブを開催するための“第一歩”として企画したそうですね。そもそも、武道館でライブをやりたいと思ったのはなぜですか?

高倉 陵(以下、高倉): 芸歴15年制限で『M-1グランプリ』に出られなくなって、目標をどこに置いたら良いのか考えたのがきっかけです。それまでは『M-1』で優勝してテレビにどんどん出ていきたいと思ってネタをたくさん作ってたけど、出場資格が無くなったとき「あれ、なにを目指してやってるんだろう」と。「売れたい」という気持ちはあるけど具体的な目標が無くなってしまったので、なにかひとつ、おっきな目標を決めて、そこに向けてやっていきたいと思ったんです。

そのとき、芸歴5~6年頃にやってた単独ライブのサブタイトルに「武道館への道」と付けていたのを思い出して、また武道館を目指しても良いんじゃないかと。武道館の1万4000人を埋められるってことは日本でもトップクラスの漫才師になっているはずですし、その過程で売れることができているだろうという。2026年は僕が45歳の年なんで、それ以上先になると体力的にも難しいかなと思って、期限と会場を勝手に決めております。

———武道館が最終目標というより、その規模を埋められるくらいの漫才師になっていくために……ということなんですね。

高倉: 今まで通り変わらずやっていくことも大事ですけど、なにか一つ、目指す目標を持たないとダメかなと思って。漫才師をやってる身としては漫才で飯を食いたいし、根本的にはスターになりたい。このままなにも変えずに終わりたくないな、という想いですね。

———高倉さんから武道館の話を聞いたとき、久保さんはどう思いましたか?

久保 孝真(以下、久保): 小学校のときに、剣道の大会で行ったなと思い出しましたね。

高倉: 良いなぁ。行ってるんだ。

久保: 僕はもう武道館には1回立ってるんで、「やっぱ立ったことなかったら、立ちたいよね~」って。気持ちはすごく分かります。

———これまでの単独ライブは、最大でもキャパ200名くらいの劇場だったそうですね。徐々に広げていくのではなく、このタイミングで、1,100名規模のよみうりホールでの単独ライブをやると決めたのはなぜですか?

高倉: もともと、結成20周年のタイミングで1,000人規模の単独ライブをやりたいと思ってたんですよ。本来の20周年である2021年はコロナの影響でできなかったので、今年こそはやろうと。今の段階で普通にやって1,000人お客さんが入るとは思ってなかったんですけど、動かないでいてもこのまま芸歴と年齢が上がっていくだけなので。自分で一歩動き出さなきゃと思って、今やろうということになりました。

———武道館ふくめ、よみうりホールでの単独ライブもすべて高倉さんが決めているんですか?

久保: そうですね。でも、本当にやりたくなかったら「嫌だ」って言います(笑)。

高倉: 僕は、こういう理由でやりたくて~……っていう想いを、長文で送るんですよ。でも返信は「了解」の二文字(笑)。

久保: 納得したので、「了解」です(笑)。

漫才をやる意義を考えた

———「三拍子20周年記念単独ライブを成功させたい!」という名目で実施したクラウドファンディングは、最終的に249人の方から支援がありました。応援してくれた人の数や金額が可視化されて、率直にどう感じましたか?

高倉: こんだけの方に応援されてたんだなと分かって、「動いて良かった」と強く思いましたね。こうやって応援してくれる人がいるから僕たちが続けられているんだってことを、しっかり感じ取れました。自分のために続けるのはもちろんですけど、応援してくれる人達にもっと楽しんでもらいたい、だから面白いことをやろうと。そう思うのと同時に、「応援してくれる人数をもっと増やしたい」とも思いました。売れっ子の人たちは、こういう人がすごくたくさんいるんだろうなと。

———クラウドファンディングをしてくれた方は、昔からずっと応援してくれている方が多いんでしょうか。

久保: 20年もやってるんで、途中で離れた方も多いと思います。でも単独に向けていろんな動きをしたことで「まだやってるんだ」と気付いてくれた方もいて、「久しぶりに行きます」という言葉をかけていただいたりもしましたね。

高倉: 「オンエアバトル観てました。まだやってたんですね、単独行ってみます」とか。『M-1』に出られなくなって、自分たちでいろいろ仕掛けるようになってからファンの方がついてきてくれるようになった気がします。毎週YouTube配信したり、単独ライブをコンスタントに開催したり、時事ネタを定期的に作ったり。それまでも口では感謝してたけど、しっかり感じられてなくて……

久保: 俺はずっと感じてたよ。

高倉: お前、出待ち対応そんなに良くないだろ。“スン”だろ。

久保: “スン”ではない。

高倉: まぁ、あんま来ないか。

久保: あんま来ないって言うな(笑)。ちゃんと喋るよ。

———単独ライブに向けて動いたことで、あらためて三拍子の存在に気付いてくれた方も多かったんですね。

高倉: ありがたいですね。この間、YouTube生配信のゲストでランジャタイが出てくれたんですよ。ランジャタイのファンの方からも、「三拍子さん、まだやってたんだ」という意見がけっこうあって。こうやって動くって大事だなと感じてます。

YoutubeLive三拍子の『生漫DAY』#137

———三拍子さんの歴史を振り返ると、『M-1』のラストイヤーである2016年頃が転機になっているんですね。

高倉: それまでも自分たちで単独ライブやったりしてましたけど、それはなんのためかというと「M-1グランプリで優勝するため」だったんですよね。もう出られないってなったタイミングで、久保から「あと1年頑張って、ダメだったら俺もう辞めようかな」と言われたんですよ。その場ではカッコつけて「あぁ、分かった」みたいに返したんですけど、けっこう衝撃を受けて。そこからの1年は、『M-1』は無いけどなにか仕掛けていかなきゃと必死でした。若手が出るようなネット投票の大会で優勝するために必死に投票を呼び掛けたり、毎月単独ライブをやったり、無料単独をやってみたり……そういうことをやり続けて1年経って、「来月も単独ライブ入れたから」と言ったとき「分かった」と返ってきて。「あ、大丈夫だ」っていう。

———久保さんが「あと1年頑張ってダメだったら辞める」と言ったのは、『M-1』という分かりやすい目標が無くなったのが大きかったんでしょうか?

久保: それもありましたし、『M-1』が無くなって「なんのために漫才やるんだろう?」って思ったんですよ。漫才をやる意義を考えなきゃいけない、と。漫才は好きですけど、「好きだからやる」なら別にプロじゃなくても良いし。

高倉: 今回もそうですけど、自分で動くとお客さんが応援してくれるのが分かるし、楽しくなってくるんですよね。自分らで仕掛けたことでファンの方が楽しんでくれて、それが嬉しい。『M-1』が無くても楽しかったのが、辞めなかった理由ですね。

———『M-1』に捉われず、お二人が今も攻めの姿勢でいることは若手芸人さんにとっても希望になりそうですね。

久保: 希望では無いです、間違いなく(笑)。『M-1』に出て世に出るほうが、希望なんです(笑)。

———『M-1』ではない道を切り開いているというか……

高倉: そこを示せれば良いかな、と少し思ってます。ライブで飯食えるっていう。別に後輩のためと思ってやってるわけでは無いけど(笑)。自分たちのためにやったことが結果的にそうなるなら良いなと思います。僕らも先輩を見てここまでやってきているので。

芸歴20年を越えても、目が死んでない

———少し気が早いですが、単独ライブが終わった後のことは考えていますか?

高倉: イメージだけ考えてます。「1,000人をすぐに集められない」という今のポジションを踏まえても、2026年の武道館ライブは絶対やりたい。じゃあどうするかと考えたとき、個々の能力を高めなきゃと思ってます。今までは「三拍子の漫才をどうにかしたい」と思ってたけど、それだけだと頭打ちになるかもしれない。なので、久保は久保、高倉は高倉で明確な力をつけて、これまでの「三拍子の漫才」から「久保と高倉がやる漫才」にパワーアップできたらと。個々の力をつけた上で漫才をしたら、今までと違う化学反応が生まれるんじゃないかなと漠然と思ってます。

久保: 活動休止ってことですか?

高倉: 活動休止じゃない(笑)。ライブは出続けるけど、漫才以外でも引っかかるようなものを作りたい。今までは毎週時事ネタ作って、単独ライブやって……とやってきたけど、今後はプラスαで引っかかるようなことを。

久保: 今だって、音楽やって味噌やって蕎麦やって……忙しいだろ。

高倉: やってはいるけど(笑)。これからはもっと狙いを定めて、いずれは「あの二人の漫才!」っていうくらいになりたいですね。

———三拍子としてだけでなく、個々の知名度を上げるということですね。

高倉: 今までは三拍子だけに力をつぎ込んでるような感覚だったんですけど、個々の力もつけないと。そうじゃないと武道館は遠いなと思います。

———最後に、寄席では感じられない、単独ライブだからこその見どころを教えてください。

久保: よく、三拍子は安定感があると言っていただけるんですよ。でも単独ライブだと、そんなことも無いです(笑)。荒波の三拍子を、是非一度観に来ていただきたいですね。この夏は三拍子の波に乗りに来てください。

高倉: この芸歴なのに目が死んでないな、こいつらまだ「やってやるぞ」感あるな、というところを見てほしいですね。20年間でブラッシュアップしてきたネタは間違いなく笑えるし、新ネタもあります。「まだこいつら引っかかろうとしてるな」というところも、楽しんでもらえたら良いですね。

文・編集:堀越 愛


<三拍子|PROFILE>

サンミュージックプロダクション所属

左:高倉 陵 
右:久保 孝真

★公式プロフィール:https://www.sunmusic-gp.co.jp/talent/sanbyoshi/
★公式YouTube:三拍子official channel
★三拍子 情報:https://lit.link/sanbyoshi

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