2022.10.27
真空ジェシカ・ガクが語る妖怪の魅力。川北は「髪切り」、僕は「座敷童子」【偏愛 × 妖怪】-芸人の偏愛 vol.2-
「偏愛」とは、“特定の物事を特別に愛する” こと。他人には理解できない優先順位で時間やお金を使い、熱く語り、独自の哲学で行動する……“趣味”の一言で片付けるには違和感があるほど何かを愛し、貫く人は面白い。そう考え、芸人の偏愛を聞く連載を始めることにしました。
「芸人の偏愛」に深く切り込むインタビュー、第2回に登場していただくのは、妖怪に愛情を注ぐ真空ジェシカ・ガクさん。
ガクさんのプロフィールを見ると、「趣味・特技」の欄に【妖怪の知識】と記載されています。過去には、バラエティ番組で妖怪の知識を披露したことも。
しかし、ガクさんが自ら“妖怪愛”を語った機会はあまりありません。好きになったルーツや理由など、“ガクさんの妖怪愛”の基礎を教えてもらいました。
妖怪好きのルーツは『ゲゲゲの鬼太郎』
———妖怪を好きになったきっかけを教えてください。
好きになったのは、小学生のときです。入学したくらいの頃だと思うんですけど、テレビで『ゲゲゲの鬼太郎』4期がやってたんです。そこからビデオを借りて昔のアニメを観たり、関連本を買ってもらったりして。それでどんどん好きになっていきました。
———妖怪好きのルーツは鬼太郎なんですね。
そうです。1番好きなのは3期ですね。期によって、鬼太郎の性格が全然違うんですよ。3期が1番鬼太郎の“ヒーロー”っぽい部分が出ていて、主人公感が強いというか。4期はちょっと鬼太郎が暗くて、逆に5期は子ども向け感が強くなります。『ゲゲゲの鬼太郎』という作品自体、全体的にちょっと暗めなんですけど、その中でも3期はちょっと明るくて観やすいんですよ。分かりやすくユメコちゃんっていうヒロインもいて。
———小学生から今にいたるまで、ずっと鬼太郎好きなんですか?
中高は妖怪に対してそんなに思い入れは無くて、芸人になってからあらためて観直しました。芸人になると“特技”を求められるんですよ。武器にしたくて、妖怪の検定にチャレンジしました。
———検定はいつくらいの時期にチャレンジしたんですか?
芸人になって1~2年目だと思います。『境港妖怪検定』という検定で、めっちゃむずいです。
———私も例題を拝見しました。付け焼刃ではなく、ちゃんと勉強しないと答えられないような問題ですよね。
そうなんですよ。テキストがあるので、それを丸暗記しました。
———深大寺にある『鬼太郎茶屋』でバイトしていたことがあるそうですが、それはいつくらいの時期なんですか?
芸人になって、4~5年目だと思います。お正月や夏などの繁忙期だけ短期バイトを募集していて、当時は暇だったのでやってみようと思って。バイト仲間は、みんな妖怪マニアでした。僕が鬼太郎Tシャツを着て行くと、「それは今売ってないヤツだよね」とか言われたり。店長がもう売ってないTシャツをくれたこともあります。でも僕は人見知りなんで、誰ともほぼ交流せず、仲良くならず終わっちゃいました。
———鬼太郎以外の妖怪ジャンルに関しても、興味はありますか?
基本は鬼太郎が好きです。あとは、柳田国男さんという民族学者が出した『妖怪談義』や『遠野物語』という本があって。そういう分かりやすいのは見てます。
日常で起きる不思議なことは、すべて妖怪で説明できる
———ガクさんの推し妖怪を教えてください。
僕が好きなのは「泣き婆(なきばばあ)」ですね。関係ない人のお葬式に突然現れて、参列者の誰よりも号泣する婆の妖怪です。めちゃくちゃ泣いてる人がいるとみんなつられて泣き出して、葬式が盛り上がるんですよ。それで、泣き婆が現れたら謝礼を渡すという風習があったらしいです。
———泣き婆のどんなところが好きなんですか?
こんなこと言ってしまうとアレですけど……多分、葬式に故人と遠い関係性のお婆さんが来て号泣しているのを見て、「誰だあいつは?」ってなったときに「あれは泣き婆だ」って言った人がいたんだと思うんですよ。それが現代まで伝わって、妖怪になってる。そう考えるとすごくお婆さんが可哀そうだし、発想が面白いし可愛いなと(笑)。
———お葬式で誰よりも泣く……そういうバイト、現代もありそうですよね。
そうですよね。泣き婆にも謝礼を渡してますし、当時もそういうバイトだった可能性はあります。「泣いてください」って頼まれた人を勝手に妖怪にして、今まで語り継がれているという……そういう“おかしさ”みたいなものが好きですね。
———ほかに推しの妖怪はいますか?
シンプルにキャラクターが好きなのは「油すまし」ですね。鬼太郎の準レギュラー的妖怪で、ただただ造形が可愛くて好きです(笑)。油すましは、子どもに「ここに昔、油すましっていう妖怪が住んでいたんだよ」と言うと後ろから「今もいるよ~」って出てくるという妖怪です。なんだか可愛くて好きですね。
———生活していて、「妖怪の仕業かな」と思う現象に出会ったことはありますか?
さっき、急にドアがしまりましたよね。あれは妖怪です。「保存したはずのデータが消えてる」とか、説明ができない現象は全部妖怪にできると思います。家で「リモコンが無くなった」とか「耳かきどこ置いたっけ」みたいなことがよくあると思うんですけど、これは「ぬらりひょん」の仕業ですね。ぬらりひょんは、人の家に勝手に入ってきてくつろぐ妖怪なんで、コイツが場所を変えちゃったのかなと。あと、道にくぼみとか無いのに転んじゃったときは「すねこすり」です。足にまとわりついて転ばせてくる妖怪なんですよ。日常的に、妖怪で説明できることはいっぱいあります。
———妖怪好きが、自分の言動や思考に影響を与えたことはありますか?
怖いとかキモイとか、そういうのがめっちゃ好きなんで、大喜利がキモくなっちゃったりとか(笑)。存在しないものを生み出そうとしてしまうというか。僕のピンネタで「にんにょう」っていうネタがあるんですよ。これは「しんにょうと人間のハーフ」みたいな存在なんですけど、これも多分妖怪だし。そういう面で、もしかしたら影響を受けているかもしれないですね。
現代の「芸人」にも通ずる、昔の人の発想力
———芸人で妖怪好きの仲間はいますか?
キュウの清水さんもけっこう鬼太郎が好きで、一緒に『鬼太郎茶屋』に行ったり展示を見に行ったりしました。あと、検定のために一緒に勉強したこともあります。普段誰かに「こういうことがあったんだよ」と言われたとき、僕は「それは家鳴り(やなり)の仕業では?」とか思ったりするんですけど、そんなん言っても普通は伝わらないじゃないですか。でも清水さんがいると、「これって家鳴りですよね」「そうだね」って会話ができるので、楽しいです(笑)。あと東京ホテイソンのたけるも妖怪好きで、一緒に展示会に行ったことがあります。
———ラジオなど、メディアでガクさん自ら妖怪の話をしている印象がありません。それはなぜですか?
なんというか、説明することが多いんですよ。「こういう妖怪がいるんだよ」って言っても、「いないじゃん」って言われたら終わっちゃうというか(笑)。「本当はいたんだよ」って言ったとしても、「本当はいないでしょ」って返されたら「はい……」ってなっちゃう。だから難しいですね。まだ妖怪をお笑いにできてないです。
———川北さんは、ガクさんの妖怪好きに対してどんな反応なんですか?
オーディションで特技披露系のものがあると、「お前、妖怪のなんかやれ」って言われます。川北はそういうのやりたくないので(笑)。妖怪の知識を50音で言うとか、人を妖怪に例えるとか。でも例えたところで誰も正解が分からないので、まったく笑いにはならないです……。
———ちなみに、川北さんを妖怪に例えると?
川北は「髪切り」っていう髪を切る妖怪ですね。けっこうシャープなくちばしを持ってて、鋭い感じ。で、髪切りは発動条件が難しいんですよ。動物とかモノとか、人外のものと結婚しようとすると、夜中トイレに行ったときに髪を切られるという(笑)。「そういうことはしないほうが良いよ」という警告のために出てくる妖怪で、そういうところに川北っぽさがあるなと。
———真空ジェシカさんと深い関係値がある方でいうと、『真空ジェシカのラジオ父ちゃん』(TBS Podcast)のディレクター越崎さんはいかがでしょう。
越崎さんは、「いそがし」っていうとり憑かれると忙しくなっちゃう妖怪です。次から次へといろんな仕事をやってて、めちゃくちゃ忙しそうにしてるんで。
———ガクさん自身を例えると?
自分を例えるのが一番むずいですね……おかっぱなんで、「座敷童子(ざしきわらし)」ですかね。
———今後、妖怪知識が豊富という特技を活かしてどんな仕事をしてみたいですか?
荒又博さんや京極夏彦さんのような、水木しげる先生と親交があった方と話す仕事はしてみたいです。「現代において妖怪をどう考えてるか」とか。あと「好きな妖怪」とか聞くと思います。
———妖怪関連で、行ってみたい場所はありますか?
遠野※は行ってみたいですね。あと秋田のナマハゲとか、地方のお祭りは行ってみたい。それと、ブルガリア。
※岩手県遠野市。柳田国男が執筆した『遠野物語』の舞台。河童や天狗といった妖怪をはじめ、座敷童子やオシラサマなど神様の伝承が残っている。
———ブルガリア?
ブルガリアのお祭りで、「クケリ」っていうのがあるんです。モンスターの衣装を着て子ども達を驚かすというナマハゲみたいなお祭りで。衣装がモフモフとかいろんな姿があって、めっちゃ面白いし可愛い。
———最後の質問です。ガクさんの思う「妖怪の魅力」を教えてください。
昔の人の想像力の可愛らしさと、それがずっと面白がられて今まで伝わってきていることに良さを感じます。妖怪って、子どもに教育するために想像された教訓みたいなところもあるんですよ。靴をちゃんと揃えて家に入らないと「化け草履」が出るよとか、傘をちゃんと扱わないと「傘化け」になって出てくるよとか。あと、夜に川沿いを歩いていたら変な音がして、めちゃめちゃ怖かったとき、それを誰かに伝えるために「小豆を洗ってるみたいな音がしたんだよ。あれは『小豆洗い』に違いない」と言ったり。そういう昔の人の“想像”が妖怪になって記録に残ってるって、良いですよね。今で言うと、芸人にも同じようなことを言えると思うんです。芸人も、日常でちょっと変な人に出会ったとき、それを膨らませてネタにしたりするので。
分かんないことがあったときに勝手に妖怪の姿やバックボーンを想像して、怖くなく、おかしくする……「それで思いついたのがこんなヤツかい!」ってのもあるし、「昔の人ってこういう発想してたんだ、面白いな」って楽しみ方を僕はしてます。本当には存在してなかったとしても、口に出せば妖怪は“いたこと”になるのかなと思って。だから、そういう意味で僕は「妖怪はいる」と思ってます。
<PROFILE>
ガク(真空ジェシカ)
Twitter:@gakegakegake
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★ラジオ:真空ジェシカのラジオ父ちゃん
★連載:真空ジェシカの冠位大喜利