全員、伏線。時空を超える群像劇をニュースターたちが熱演『みんな!みんな!みんな〜!6』をレポート【ネタバレあり】

2022年7日1日(金)、新宿バティオスにて事務所の垣根を越えたコントライブ『みんな!みんな!みんな〜!6』が開催された。各出演者がコントを演じ、合間合間にコントキャラクターたちの5年前が描かれる実験的なユニットコントだ。

コントとコントの間でキャラクター同士の相関性が次第に明らかにされていく奇想天外な設定で、3~4組のネタが終了したら5年前タイムに入り、ユニットコントが行われる。各組のネタのクオリティが非常に高く、終始会場は大爆笑。加えて5年前パートでは、コントとコントが鮮やかに繋がり、終演後はまるで一つの壮大なミュージカルを見たような感覚に襲われた。コントの無限の可能性を感じる革命的なライブであったことは間違いない。

あらゆるところに伏線が散りばめられた本公演は、完全にリピート推奨のライブである。配信チケットを購入し、ぜひ何度も繰り返し見て本作の奥深さを堪能して頂きたい。

ダウ90000忽那、中島、吉原の演技力が光る【シーン1】

開幕直後始まったオープニングコント「シーン1」。オフィスを舞台に、Excelに悪戦苦闘する忽那(ダウ90000)と出来の悪い後輩に戸惑いながらも優しく教えようとする先輩の中島(ダウ90000)、人事部の吉原(ダウ90000)が登場。あまりにもパソコン音痴な忽那と中島のリアルな掛け合いが笑いを誘う。中島、吉原が一時退出し忽那だけが舞台に取り残されると、佐野(牛女)演じるヒッピー風の男が登場。

Excelに苦戦する忽那を助け、去っていく謎の男。謎の男の退出後に戻ってくる中島と吉原。人事の吉原から、異動の内容が発表されるその瞬間に暗転する。

「Excelに食われる〜」と苦戦する忽那。行の挿入すらできないというあまりにもパソコン音痴な姿に笑いが起きる
佐野が演じる不審者。忽那を助け「Excelの神様」と呼ばれる。忽那に自身の存在を誰にも喋らないようにと告げ去っていく

オフィスで起きる意外な展開に会場が沸く

トップバッターは、即席コンビの「吉原怜那 vs 右手でグーパンチ」。この二人の関係は、東大落研の先輩・後輩だ。

「シーン1」でも登場した人事部の吉原とその上司役の右手でグーパンチが登場すると、突然社内のセクハラが解禁される。それまでおどおどしていた右手でグーパンチが、飛び跳ねながらここぞとばかりにセクハラを繰り出すが、ズレたセクハラばかり。セクハラ大喜利が積み重ねられていく中、突如として右手でグーパンチと吉原の不倫関係が発覚する。

「いつになったら奥さんと別れてくれるんですか?」

ヤザキとむらまつの絡み、翻弄される荻野

2組目に登場したのはゼンモンキー。『お笑いABEMA CUP2021〜ワタナベNo.1決定戦』王者にも輝いた、今ノリに乗ってるトリオコント師だ。

荻野演じるマジシャンが開くマジックバーに訪れたのは、会社の同僚風の男性二人。ヤザキとむらまつが演じる男性二人は、なにやらただならぬ雰囲気で……

荻野の不憫さと健気さの入り混じったツッコミの一つ一つに笑いが起こる

タモリの元付き人を自称する、怪しい中年の正体は……!?

普段は漫才に力を入れているフリーのお笑いコンビ、リンドバーグ。中山将吾と舛谷建からなる漫才師である。

コントの舞台は公園。中山が、公園でぶつぶつ言っている不審な中年役をリアルに演じる。「昔はタモリの付き人をやっていた」「ニコチンを吸うと涙が出る」など次々と持論を展開する中年の様子を、スマホで盗撮するサラリーマン役の舛谷。ギリギリなさそうでありそうな展開に観客は引き込まれた。

中山演じる中年役は、明らかに怪しいが、直接危害を加えてくるわけではないので扱いに困る雰囲気がリアルに表現されていた

3組のコント世界が見事に絡み合う【シーン2】

吉原怜那 vs 右手でグーパンチ、ゼンモンキー、リンドバーグの3組のコントを終えて、5年前タイムが始まる。

「シーン1」の会社の場面に戻り、忽那、中島、吉原の3人がいるところにヤザキが登場する。ここで、実はヤザキは忽那らと同じ会社に勤めていることが発覚する。「面白い動画を撮った」と言って、周囲にスマホを見せるヤザキ。その動画には、喫煙所でなにやら怪しいことを喚き散らす怪しい中年の姿が……。

スマホを見せるヤザキ。コントの世界が重なり合い物語に深みが出る

リンドバーグのコント、喫煙所の不審者と同一人物である。つまり、前半3組のコント世界は全て繋がっていることが発覚する。その画面を見た忽那は驚愕の表情でつぶやく。「お父さん……」。

中山が演じた怪しい中年は忽那の生き別れの父だったのだ。そして舞台は暗転する。

奇想天外生物、マナー蝶の破壊力

続いてはハチカイの出番。ハチカイは警備員、ニシブチ、こんぽんの3人からなるトリオコント師だ。大喜利の得意な警備員、主にツッコミを担うメガネのニシブチ、現役アイドルで華のあるこんぽん、と三者三様の個性が舞台上で化学反応を起こす。

この日のネタは、「マナー講師」。こんぽん演じる過度にマナーに厳しいマナー講師が、ニシブチのマナーを過度に正しているところに、警備員演じる謎の生物、マナー蝶が登場する。あまりにも強烈なビジュアルで登場の瞬間会場が大爆笑に包まれた。

ハチカイのコントは精巧な小道具でも知られる。ギリギリ笑える気持ち悪さのマナー蝶は秀逸だった

小学生の淡い恋模様

レインマンズはコンビ共に法政大学お笑いサークル出身で、グレープカンパニー所属。ライブ当日の7月1日(金)に改名した。以前のコンビ名はビデボーイズだったため、フライヤーにはビデボーイズの名前で掲載されている。

ネタの舞台は、小学校の給食の時間。赤瀬の演じる小学生の女の子のマイペースさ、堀越演じる小学生男子の、振り回されながらも好きな子に振り向いてもらいたくて健気に頑張る姿は、どこか懐かしい気持ちになる内容だった。

女役の中でも女子小学生という成人男性と対極に位置する役。難しそうだが赤瀬にはハマり役のようだった

思春期特有の暴走を中田がコミカルに演じる

さすらいラビーは、太田プロ所属芸歴8年目のコンビ。過去には『ABCお笑いグランプリ』(2021年)決勝に残るなど、確かな実力と華を持つ。

二人のキャラクターを活かした漫才が印象的な彼らだが、今回はコント。宇野が演じる高校の同級生の女の子の働く和菓子屋を舞台に、好意を寄せる男子高校生役の中田が訪れる。好きな子の前で上手く喋れずにずっとテンパっている様をコミカルに演じた。レインマンズは童心に帰る内容だったが、さすらいラビーは思春期を自然と思い出すような内容だった。

185cmの中田が舞台上を所狭しと挙動不審に転がり回る姿は迫力満点

5年前ならではの設定に唸る【シーン3】

ハチカイ、レインマンズ、さすらいラビーの3組のネタののちに、5年前タイムが発動。今回は、小学校1年生の頃のレインマンズの二人がいる場面に、小学校5年生の頃のさすらいラビーの二人が現れる。細かい学年の設定によって、整合性が取れて、物語に深みが出る。そこにハチカイのニシブチが登場し、レインマンズの小学校の先生だったことが明らかになる。

強烈なキャラクターの過去が描かれると、懐かしい友人に会ったような感覚になる

無職のダメ人間をサスペンダーズらしい視点で切り取る

サスペンダーズは、古川彰悟と依藤たかゆきからなるマセキ芸能者所属のコント師。東京03飯塚悟志が面白い芸人として名前を挙げるなど、注目度急上昇中のコンビだ。

ネタの舞台は、親戚の集まり。古川演じる無職実家住まいの男性と依藤演じる古川の義理の弟の会話を中心に展開される。古川が姪っ子から預かったモノを失くしてしまった責任を追求されるという日常のワンシーンを切り取った秀逸なコントで、古川のあまりの不憫さに笑いが起こる。

サスペンダーズの真骨頂である、古川演じるキャラクターがどんどん追い詰められていく姿が今回のネタでも大いに発揮されていた

帰りに必ず聴きたくなる!?アイドルソングと炊き出しのマリアージュ

竹内ズは人力舎所属のがまの助と竹内大規からなるコンビ。TBSテレビ『水曜日のダウンタウン』の不仲芸人企画で話題になった。

ネタの場面は炊き出し。明転し、舞台上に現れたのはホームレスに豚汁の配給をするがまの助のみ。ホームレス役の竹内が登場するが、まさかの展開に……。アイドルソングを用いた独特の構成は、まさに竹内ズワールド。

踊り出す竹内。のちに調べたところ、ダンスはとあるアイドルソングの完コピだった

会社と小学校と公園のそれぞれのシーンが繋がり出す【シーン4】


サスペンダーズ・竹内ズのネタ直後、5年前タイム。この場面では竹内ズは登場せず、主に依藤と中島を中心にした展開。二人は不倫カップルだったのだ。そこにレインマンズが演じた男子小学生と女子小学生がそれぞれ中島の息子、依藤の娘として登場する。そして中島の勤め先の会社が「蝶の口のビロビロをiPhoneのパーツに加工する」仕事をしていることも明らかになる。この蝶というのがハチカイの警備員が演じたマナー蝶のことである。このあたりから幕間のシーンが全て繋がり始める。

重なり合うコント世界。それにしても不倫しているキャラクターが多い

独特の柔らかい空気感で初のコントに挑戦する

テレビ東京『ゴッドタン』の出演など、柔和なキャラクターと独特な雰囲気の仲良し男女コンビとして脚光を浴び出した人間横丁。ツッコミの山田蒼士朗がボケの内田紅多の言動を優しく諫めるスタイルの漫才が主で、コントを披露したのはこの舞台が初めてだという。

場面は公園デート。人間横丁らしい人を傷つけない空気感で笑いを取る。キャラクターを生かした掛け合いでネタが進むが、彼女役の内田の正体は……。

人間横丁の真骨頂である仲の良い掛け合い。唯一無二のキャラクターだ

突如会場を包む爆音、これぞ牛女

牛女は、しらすと佐野からなるフリーのお笑いコンビ。彼らの魅力は、芸人としての純度の高さ。自身主催のライブでは火器や液体を使用し、ブログではバラエティを真っ向から批評する。そんな彼らの今回のネタの舞台は運転免許センター。

……のはずだが、舞台にはマイクを握りしめる佐野と、踊り狂うしらす。最初から最後まで、あまりにも荒唐無稽な牛女ワールドに観客は終始引き込まれっぱなしだった。

爆音の中、踊り狂うしらす、マイクパフォーマンスをする佐野。現実には起こり得ない状況なのに二人とも様になっているのが不思議だ

小学校【シーン5】&壮大なクライマックス「みんなの、5年前」

今回の5年前パートでは、さすらいラビーと人間横丁が登場。二組は小学校の図書室で調べ物をしており、その調べ物は「口元のビロビロがiPhoneのパーツになる蝶」に関するものだった。

そして、いよいよこのコントの全てが繋がるパート、演者全員登場のユニットコントが始まった。場面は大きく3場面。1.人事部の研修 2.炊き出し 3.エンディングに分けられる。それぞれ内容の一部を紹介する。


1.会社 ~無茶振りTwitter晒しコーナー~

場面は「シーン1」の会社。この会社は忽那、中島、吉原、右手でグーパンチ、ヤザキ、むらまつが所属していることがすでに明らかになっている。そして、この場面から、荻野、しらすが新たに会社の一員として登場する。しらすは人事部長、荻野は忽那の同期の新入社員だ。荻野と忽那がしらすと講師のハチカイこんぽんからマナー研修を受ける場面に展開する。

ここでマナー研修の一環として、「Twitterの使い方」というタイトルがスクリーンに映し出される。これは実際の演者のTwitterを晒す内容になっており、右手でグーパンチが演者のTwitterをいじるコーナーの時間になっている。前半は荻野、忽那、ハチカイなど舞台上の人物のTwitterがイジられるが、舞台にいなかったさすらいラビーが舞台に呼び出され、さすらいラビーのTwitterイジりが始まった。

Tweetをいじられることは、誰も事前に聞かされていなかったそう。そのためリアクションがリアルで、爆笑を生んだ。完成されたコントの流れの中で、違和感なくコーナーが差し込まれ観客を飽きさせない秀逸な構成だった。

今回の出演者の中では芸歴が比較的長いさすらいラビーも容赦無くイジられる。

Twitterコーナーが終わり、物語は本筋の研修に戻る。人事部のしらすにマナー講師のこんぽんが一目惚れし、二人は付き合うことに。

二人が退出後、ヤザキとむらまつが登場。むらまつがヤザキに抱きつこうとするもヤザキは「会社の中だからそういうことはできない」とこれを拒否、しばらく押し問答する。

すると突如社内に会社で愛し合ってもいいこととする旨のアナウンスが鳴り響く。ヤザキとむらまつは激しく抱き合い、暗転。

激しく抱きしめ合うヤザキとむらまつ。ライブ序盤の伏線がどんどん回収され始める


2.炊き出し ~ダメ人間オールスターズ&吉原、夢のダンスコラボ~

次の場面は炊き出し。舞台上には竹内ズの二人。竹内ズのコント・炊き出しと全く同じシチュエーションから始まる。

リズムに合わせて歩を進める竹内に続き、舞台袖から古川が登場。続けて佐野が登場。今回の物語に登場した無職、ホームレス、ノリだけ男らのダメ人間オールスターズが全員集合し観客席は大盛り上がり。

ダメ人間オールスター

するとそこに、唐突に吉原が登場。サビのアイドルソングに合わせて、キレキレすぎるダンスを繰り出し客席の盛り上がりは加速する。

吉原キレキレダンスに呆然

そしてさらに衝撃の展開。吉原に引き連れられてマナー蝶が現れる。吉原とマナー蝶は繋がっていたのだ。吉原はマナー蝶に竹内のマナーを吸い取らさせて暗転。ここに来て意外な繋がりが明らかになり、物語はクライマックスの様相を見せる。

ここに来てマナー蝶が登場

3.エンディング ~不意にはじまる無茶振り大喜利コーナーそして物語のゴールへ~

場面は依藤が中島と口論をしているところから始まる。何者かの手により、不倫の事実が流出しているようだ。緊迫する舞台上。

そこで唐突に「親が不倫を続けていたら子どもの未来はどうなる?」というお題がスクリーンに表示され大喜利コーナーが始まる。このコーナーもTwitter晒し同様に、一部演者には知らされていないドッキリ企画であった。マナー蝶の衣装のまま何食わぬ顔でハチカイの警備員が現れ、大喜利に参加し爆笑をかっさらう。大喜利コーナーが終わり、物語は不倫の口論に戻る。

大喜利に参戦する警備員。今まで見た大喜利で最もシュール

すると、中島の夫としてがまの助が登場。妻の中島が不倫していたことに怒り、暴れまわるがまの助。そこに、人間横丁内田の巨大化するタイプの魔法少女が現れ、一撃でがまの助を成敗し立ち去る。中島と依藤は去り、舞台上には成敗されたがまの助が横たわる。

激昂するがまの助

佐野、舛谷、吉原、マナー蝶が現れる。この4人が反マナー組織として繋がっていたことが明らかになる。長きに渡るこの物語の影で、マナー蝶を使役する反マナー組織が暗躍していたことが最終的に判明する。依藤と中島の不倫をバラしたのも反マナー組織の仕業だった。物語全体に共通する組織の存在が明らかになって5年前パートは終わりを迎える。

全てのコントの裏で、反マナー組織が暗躍していた

「シーン8」現在の、喫煙所 

そして場面は、現在へ。そこには喫煙所でタバコを吸う忽那の姿があった。そして喫煙所にあらわれる不審な中年。それは忽那が5年前に動画で見た姿と全く同じだった。

……そう、忽那は自分の父に5年越しに再会したのだ。不意の再会に涙が流れ、言葉の出ない男。やっとのことで「副流煙は涙の味がする」と言葉を絞り出した。リンドバーグのコントのセリフを見事に回収して。12組24名による時間と空間を跨ぐ壮大なスペクタクルがここに終幕したのであった。

不倫、ホームレス、無職などモラルのない人間を中心に展開した一つの物語が、最後のワンシーンでは親子の感動の再会を描く。大変なことがあっても最後の最後は希望が見える、というメッセージが込められているように見えた

今回、取材させて頂いた『みんなみんなみんな〜6』はユニットコントの中でも、筆者が初めて見るタイプの壮大なユニットコントだった。最高クオリティのそれぞれのネタはもちろん、各演者の台本をつなぎ合わせ編集し一つの物語を作り上げた、主催の右手でグーパンチ、補佐の吉原怜那には凄さを通り越して恐ろしいとすら感じた。

バラバラのコンテンツに連続性を持たせるためには、調和が必要だ。凸凹が生じてしまうといくらクオリティが高くても、どうしてもまとまりを欠いているように見えてしまう。しかし、『みんなみんなみんな〜6』からは一切それを感じなかった。100点以上の台本に100点以上のパフォーマンスで全演者が応える。喜怒哀楽の全てを表現しながら常に大爆笑。ライブシーンでまばゆい輝きを放つ才能たちの爆発、ユニットコントというお笑いの奥深さに触れた一日になった。

文:志賀
写真:堀越 愛

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