根っからの田舎もん。大阪で起きた、東北出身芸人の悲劇【「ゲイニンマンガ」3月号(漫画&文 畠山達也)】

芸人兼漫画家として活動する畠山達也さんが、独自の視点で「芸人」を見つめる連載『ゲイニンマンガ』。漫画とコラムで、畠山さんから見た「芸人」を描き出します!

久しぶりのピンネタ

東北人の悲劇

また前歯取れたよ!

あの……すいません、前歯って消耗品でしたっけ?
何ヶ月かに一回前歯に金を払っているので、もう前歯はサブスクだと思うことにします。

さて、今回のゲイニンマンガのテーマは『訛り&早口』です。
私は出身が岩手で、22歳から大阪に住んでお笑い活動をしていました。

大阪に10年住みましたが最後まで訛りが消えることはありませんでした。

そんな僕なので普通に話していても言葉のイントネーションがおかしく、話の途中で「なんて!?」と言われることがよくありました。

その訛りに加え私は早口です。たまに猫ミームのヤギのスピードで話してしまいます。
これは今でも割とそうで、「は?」の顔をされます。

ネタで緊張するともうそれはそれはヤギで、練習のときは「2分4秒」だったタイムが本番が終わり香盤表に書いてあるタイムを見ると「1分40秒」とかになっています。

そのヤギが一番訛りと早口のせいで焦ったのは、baseよしもとに所属していたときのことでした。

冒頭のマンガではなに言ってるか分からない話でしたが、これからする話は訛りと早口が起こした誤解の話です。

東北人が関西で活動した故の悲劇……。

ある日のライブのコーナー中、今は引退をされている女芸人の山本さんに僕が強めの口調でツッコミをするくだりがありました。

僕は訛り丸だし早口で山本さんに「オメェコノヤロウ!」と大きな声で叫びました。

すると他の芸人さん、お客さん共に一瞬だけ張り詰めた空気になりました。

スベったとも違う、なんとも言い難い空気……その後、舞台上の芸人さんがクスクスと笑い始め、お客さんも数名クスクスし始めました。

「ん……?時間差でウケてる……のか?」と思っている僕に山本さんが「アンタなに言ってるのよ!!」と言ってこられました。

それはどこか田嶋陽子さんの言い方に似ていまいした。
そして僕はすかさず「うるせぇ!テメェコノヤロウ!」と叫びました。

その叫びを聞き、さらにクスクスしてる者、(なにを言ってるんだコイツは)の顔をする者、腕で口を隠しながら笑う者……。

(……一体……なにが……なにが起きてるんだ…)

のちにわかったことの真相はこうです。

周りの人には僕が訛っていて早口なため「オメェコノヤロウ!」と「テメェコノヤロウ!」の「ェ」が省略され……女性に向かって……関西の方言でその……

とんでもないデリケートな言葉を叫んでいるように聞こえたのです……。

つまり、女性の、山本さんに、向かって、僕が

「オ◯◯の野郎!」
「テ◯◯の野郎!」

と言っているように聞こえたのです……!!

ヤ、ヤバ過ぎる状況!!!!!!

大セクハラ中の大セクハラ!!!!!!!!

山本さんの「アンタなに言ってんのよ!!」が田嶋陽子のそれに似ていたのはそのせいでした!!

っていうか当然僕にそんな意図はありません!!!

僕は「オメェこの野郎!」「テメェこの野郎!」と言ったんです!!

みなさん信じて下さい!!

頑張ってネタを作り、深夜の寒い公園で凍える手を擦りながら相方とネタ合せをし、何度も何度も劇場に入るオーディションで負け、それでもなんとか勝ち上がってようやく立てたbaseよしもとの舞台……
その憧れの舞台で「オ◯◯の野郎!」って言うわけないでしょう!!?

「お前オ◯◯言うために今まで頑張ってきたんか?」
「はい!!」
な訳ないでしょう!!?

……もしここが大阪ではなく東京であればこんなことは起きなかったでしょう……。
では話を戻します。

「オ◯◯の野郎!!」
「アンタ何言ってんのよ!!」
「うるせぇテ◯◯の野郎!!」

とんでもない応酬が行われているbaseよしもと夕方公演。

ずっとクスクス笑いが続く会場。その状態がしばらく続きようやく僕は気づきました。

「これは『笑わせている』んじゃあない……なにか……別の『なにか』で僕は今『笑われている』……!!」

ジョジョ風に気付いた僕はテンパリ「え!?なんでみんな笑ってるんですか!?」と言いましたが、叫び虚しくクスクス笑われるのみ。

そして舞台上の誰かから「ほらコイツ!ね!東北人で訛っとるから!」とのフォロー。

「東北人だからなんなんですか!!」とまだ気付いていない僕。

そのとき、半笑いの先輩が舞台上で僕に耳打ちをしてきました。

先輩「畠山……オメェコノヤロウ、テメェコノヤロウ……」
僕「え!?オメェコノヤロウがなんなんですか!!!」
山本さん「だからアンタなに言ってんのよ!!!」

混乱の中、終演時間が来たためライブは終了、一斉に礼をする出演者。閉まる緞帳。
僕は床を見つめながら言われた言葉たちを思い返していました。

「コイツ東北人で訛っとるから!」
「畠山……オメェコノヤロウ、テメェコノヤロウ……」
「あんたなに言ってのんよ!」

緞帳が閉まるまさにそのとき、全ての点と点が星座のように線で繋がり、真相が分かったのを今でもはっきりと覚えてます。

床に浮かび上がったその星座はオ◯◯座でした。

一瞬で汗が噴き出し、幕が閉まると同時に「違います!!」と叫ぶ僕。
痴漢の冤罪で腕を掴まれた人のような「違います!!」を連発する僕。
そして緞帳が閉まった舞台上で弁明しましたが、もちろん先輩方は僕が意図的にそんなことを言ったとは思っておらず、山本さんを始めとする先輩方にたくさんイジっていただき、なんとか落ち着くことが出来ました。

あの悲劇から13年、東京にきて早8年。

なぜかいまだに訛っている僕。

関西にいたから標準語にならなかったと思ってましたが、どうやら僕は根っからの田舎もんだったようです。
なのでまた同じ悲劇が起きないとも限りません。

今後、女芸人とまたあのときの様な絡みがあった際は「アナタコノヤロウ!」と言うようにします……。

漫画・文:畠山 達也
編集:堀越 愛
協力:秦 法爾
サムネイル:つるみ32

PROFILE

畠山 達也

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・Instagram(hatatatsu
・note:https://note.com/hatatatsu112429/
・YouTube:ハタタツチャンネル


~作品情報~

●読切りマンガ『凡太は普通に生きている』(少年ジャンプGIGA 2016 vol.4)
●読切りマンガ『しろすぎ!アクノソシキ』(週刊少年ジャンプ/2016年11月)
『未読無視してんじゃねぇよ』(原作:畠山達也、作画:杠憲太)
●『山田夢太郎、外へ行く』(原作:畠山達也、作画:修行コウタ)
『カスミの地味な未確認生物的返済生活 1巻』(原作:クロスバー直撃・前野、作画:畠山達也)