生きるためのお笑いライブ

お笑いライブの出演は、芸人にとって重要な活動のひとつ。エントリーライブや事務所ライブなど、日々たくさんのライブが開催されています。出演チャンスが多くあるにも関わらず、一部の芸人は自ら「主催ライブ」を開催しています。彼らは、なぜ労力をかけてライブを開催するのでしょうか?『WLUCK PARK』では、彼らに「主催ライブ」についてコラムを書いていただく連載をはじめることにしました。不定期で行うこの連載、第1回はレッドブルつばささん。事務所に所属せずフリーで活動しており、多数のライブを主催するほか、noteにもファンが多いピン芸人です。彼にとって、「主催ライブ」とはどういう存在なのでしょうか。

はじめまして。一人でお笑いをやっているレッドブルつばさと申します。

ピン芸人で事務所にも入っていないので本当に一人でお笑いをやっていますが、一人でお笑いをするのはとても寂しいです。とても寂しいので主催ライブを沢山やっていたら、今回こちらのコラム執筆のご依頼を頂きました。ありがとうございます。一人でお笑いをやっていて久しぶりに得をしました。

主催ライブを始めたきっかけは「出るライブが少ないし楽しくない」という後ろ向きな理由からでした。

芸人になるために勤めていた会社を辞めたものの、出るライブはフリーエントリーのライブばかりで、楽屋では誰とも喋れず、しかも滑りまくっていて、全然楽しくなかったので「知り合いと一緒に楽しいライブに出たい」という気持ちで『始まりの町』というネタライブを主催しました。

ライブ『始まりの町』より。左から、XXCLUB・大谷小判♀、レッドブルつばさ、徳原旅行

大学のときにお笑いサークルに入っていたのと趣味で大喜利をしていたので、そこでできた知り合いを呼んで開催したのですが、それが本当に楽しくて「自分がやりたいことってこういうことなのかもしれない」と思い、そこから定期的に開催するようになりました。

そういう経緯で主催を始めたので、「このライブをやって自分が楽しいかどうか」という部分をとても大切にしています。芸人をやっていて一番生きていることを実感できるのは、楽しいライブに出演しているときなのですが、その機会もあまり多くないので自分で主催して自分で楽しいことをやろう、という気持ちだけでやっています。自分を死なせないためにやっています。

だからネタライブを主催するときは自分を早めの出番にして、終わったらすぐに客席の後ろに行って出演者のネタを見て誰よりも笑っています。自分が好きで面白いと思った人しかライブに呼ばないので、僕の主催ライブは本当に理想のお笑いライブなんです。楽しすぎます。

ライブ『健やかな夜』より。レッドブルつばさ

最初の方はシンプルなネタライブと大喜利ライブしか主催していませんでしたが、段々とテーマを設けたネタライブもやるようになっていきました。

24歳~27歳だけに照準を絞った『同世代だけを笑わせるライブ』や、小説をもとにネタを作りそれを披露する『文学ネタナイト』、全組がノックの音から始まる『ノックの音が』など、自分の中で、ただ面白いネタを見たいというだけでなく、「こういうテーマを設けたらこの人はどんなネタをやるんだろう?」という興味や、単純に自分がやってみたいと思うことを積極的にやるようになりました。

ノウハウも無いので、手探りでやることも多かったのですが、お客さんも含めて全員で作りあげていく感覚は他のライブでは絶対に味わえないので、いつも新鮮に楽しんでいます。

そして、企画ライブも主催するようになっていったのですが、これはほぼ全てが手探りで進んでいくので、途中「これはどうなってしまうんだろう?」と思う回数はネタライブの比ではありません。

特に印象に残っている企画ライブは『男女コンビに“付き合ってるの?”しか聞かない最悪MCをみんなでボコボコにする会』と『面白エンタメを紹介した後に、とにかく真面目なMC大谷小判に怒られないようにとにかく真面目に大喜利するライブ』です。何を言っているか分からないかもしれませんが、このタイトル通りのライブです。

『男女コンビ~』は、なんとなくの大枠だけ決めていて、オファーした段階では「最悪なMCが嫌なことを言ってくるのである程度まで行ったら反撃してください」とだけ伝えていたのですが、本番が始まると本筋とは関係ない部分で大きな笑いが生まれたり、予想していなかった方向に行ったりして、何回も笑い転げました。

ライブ『男女コンビに”付き合ってるの?”しか聞かない最悪MCを皆でボコボコにする会』より。手前から、XXCLUB・大谷小判♀、春とヒコーキ・ぐんぴぃ、ラランド・ニシダ、ラランド・サーヤ

自分の中でも「こういう流れにしよう」とある程度まではゴールを考えているのですが、出演者が面白い人ばかりなので、そこを逸脱しつつ面白いものを作ってくれると、「もうそこに乗っかろう!」と思って無理に軌道修正することはありません。自分の主催ライブですが、自分の作品では無いので、とにかく面白い方向に転がることを期待して見守ります。

『面白エンタメ~』は副産物的に生まれたライブですが、自分の企画の中では一番良いパッケージなのではないかと思っています。

最初に各々が好きなエンタメを紹介して、その後に普通のお題で大喜利をするのですが、先ほどのエンタメに登場した人物やフレーズを大喜利の回答に組み込んでいく、という構成になっています。

僕は常々「一番面白いのは内輪笑い」だと思っていて(結局学校の先生のモノマネとかが一番面白いです)、その理由を考えた時に「その場にいる全員が価値観を共有できているからこそ、深く狭い笑いを追求することができるから」なのではないかという結論に達しました。

しかし、例えば「同じような出演者が集まった別のライブで起きた面白いハプニング」的なものを、いきなりやったとしてもそのライブを見た人は笑えるかもしれませんが、知らない人は笑うことができません。だから、そのライブの中で起きたことをそのライブ中にやれば、誰も置いていくことなく、全員がわかる内輪笑いをすることができます。

全員が同じことで笑っている、だけどこのライブが終われば何が面白いのか他の人に伝えることができない。お笑いライブはそもそも「その瞬間面白ければそれでいい」というものだと思っているので、もしかしたら一番理想のお笑いライブを体現しているのかも知れません。

ライブ『徳原旅行×レッドブルつばさが◯◯な話』より。左から、レッドブルつばさ、村民代表南川、ひかるぶんどき、高橋鉄太郎

誰か一人を主役に据えて企画ライブを行うことも多いです。

その時は自分もMCなどで舞台上にはいますが、決して目立とうとせず面白い方向に行くように進行することだけを考えています。バラエティ番組でカンペを出すディレクターのような役割に近いかも知れません。カンペより舞台上で言った方が早いからそうしているだけで、本来は裏方でも構わないと思っています。

自分が主役のライブは単独ライブなどでできるので、それ以外では「自分も楽しくて出演者もお客さんも楽しんでもらいたい」という気持ちが大きいです。

全員でウケたり、全員で滑ったりすることもありますが、「好きな人たちと舞台上で同じ時間を共有できる」というのが、芸人でありながらも主催をやっていて良かったなと思う瞬間です。

あとはしっかりと収益を生み出し、自分のライブに出てくれる大好きな人たちに分配して、全員でずっと楽しいことをして生きていけるようになりたいです。楽しく生きるためにお笑いを始めたので、楽しく生きたいです。


<プロフィール>
レッドブルつばさ

1993年3月7日生まれ
2017年4月よりピン芸人として活動開始

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