人生をやり直せるとしたらどうする?「この不十分さを、じゅうぶん気に入っている」「青春を奪われることもまた青春」《春とヒコーキ「VIP ROOM HARUHIKO」第25回》

『VIP ROOM HARUHIKO』は、春とヒコーキがバーのVIP ROOM で本音を語るような、そんな場所。

‟語りつくされた、でも正解はなく、各々で考え方が異なる”普遍的なテーマについて、ぐんぴぃと土岡がそれぞれの視点で綴ります。

今月のテーマは、「人生をやり直せるとしたらどのタイミングに戻りたい?」。


★春とヒコーキが読者のお悩みに答える連載「VIP ROOM HARUHIKO ~秘め問い~」はコチラから

theme.人生をやり直せるとしたらどのタイミングに戻りたい?

ver.ぐんぴぃ

人生をやり直したいと思ったことが一度もありません。

不思議です。誇れるわけないめちゃくちゃな経歴だし、いっぱい失敗したし、おまえの人生になるくらいならソッコー自殺するわ、と言われたことがあります。それでも微塵もやり直したくありません。

でも、そんなこと言ったらせっかくいただいたエッセイ仕事の文字数が埋まらないので考えてみます。エッセイはやっぱり憧れるじゃないですか。みんな書いてますから、ひとかどの芸人は。この流れに乗り遅れるわけにはいきません。

街頭インタビューで「バキバキ童貞です」と答えなければどうなっていたでしょう。ターニングポイントとして分かりやすすぎるし。人生をやり直すならあの時でしょうか。

『バキ童』になっていなかったら。芸人にはなっているだろうけど、キッカケがなくて全然芽が出ず、コロナ禍ぐらいで辞めていたかもしれません。稀にバキ童事変がなくてもいずれ世に出てたはず、なんてありがたい声もいただきますが。いやいやそんなに甘くないよと思ってますし、なにより僕はあの件をバキ童事変と呼んでいます。

もし違う道を選んでいれば、元々自分たちがなりたかったお笑いコンビ像に近づけていたかもしれません。コントやネタなど作品で食えるコンビになりたかったので。シティ派のコントを得意とするような実力派。でもきっとダウ90000の登場に心を折られていたでしょう。本当にダウ90000に入りたいデブになっていた可能性があります。

最近ようやっと「バキ童になってよかった」などと言えるようになりました。5年かかりました。そりゃYouTubeであんなに登録者数がいたらそうでしょう、なんて読んでる貴方はお考えになるのでしょうか。

SNSフォロワーの多寡はあくまで結果でしかなく。たとえば、ピーター博士と会えたのが大きいです。博士はバキ童インタビューの元になった論文を発表したスウェーデン人です。僕がバズったあと何度かコンタクトをとり、友人になり、かなり変わり者なので一緒に住んだりもしました。時を重ねるうちに一児のパパになり、その息子セサルくんの成長を僕が勝手に楽しみにしている現在であります。「バキバキ童貞です」と答えていなければ絶対になかった奇妙な縁。僕は友人が少ないからそう思うのかもしれないけれど、彼のような親友がいるなら、まぁまぁ悪くないじゃないかと思える瞬間がある。彼が代表するように、この生き方でなければ得ていなかった人・モノ・経験があまりに多い。もちろん逆に、手放している縁も無数にあるのでしょうけど。だからこそ、今の人生が尊い気がするのです。

僕は確かにエロい経験はできていないけど『エロい経験の欠損』という経験はできている。屁理屈に聞こえますか。でも誰だってそうでしょう。パートナーがいなくても、たとえば子どもがいなくても。勝った経験がなくても。それらの『欠損』という経験は、自分だけのかけがえのないものだし、人間は不完全な生き物だから誰かに分かってもらえる普遍性もある。辛いときもあるけれど、それで繋がれることもある。バキ童チャンネルは欠損だらけの人間が映っているし、欠損だらけの人たちが見てくれている。それでいいじゃありませんか。僕は人生を微塵もやり直したくありません。この不十分さを、じゅうぶん気に入ってます。


ver.土岡

人生をやり直せるなら、戻るべきポイントは高校1年生だ。理由は二つあって、成績が落ちて勉強が苦手になってしまったことと、友達ができなかったこと。

まず、高校1年生に戻れたら、すぐにメガネを買う。ぼくは高校1年生で目が悪くなった。しかし、入学したときの視力検査では目が良かったので、自分の目が悪くなっているという発想がなかった。ずっと裸眼で黒板の文字が見えないまま1年過ごした。席替えなしで1年間ずっと一番後ろの席だったが、「この席は遠すぎて黒板が見えない席なんだ」と思っていた。学校でそんな席あるわけない。1年でかなり成績が落ちた。

2年生に上がったときの視力検査で、全然見えていなくて、そこでようやく視力が落ちていたと理解した。2年生からは、追いつける科目だけを拾ってどうにかやったけど、目指せる大学や、脳みその範囲など、だいぶ狭めてしまったと思う。

そして、高校1年生でもう一つやり直すこと、天文部に入る

ぼくは高校で友達ができなかった。中学までは共学だったけど高校は男子校で、「男子しかいないならクラス全員と仲良くなれるじゃん!」と、入学前は思っていた。

でも、入学と同時に思春期がドカンと発動したのか、新規の友達の作り方が分からなくなった。何か月もずっと初対面くらいのよそよそしさでしゃべっていたら、1学期の後半にはぼくだけ誰とも距離が縮まっていなかった。そして、1年生の後半から卒業までは、誰ともしゃべらないまま下校する日がほとんどだった。

部活も入らなかったので、ますます人としゃべるチャンスがなかった。でも、入学してすぐの上級生による部活動紹介で、一つだけ覚えている部がある。天文部の部活動紹介で、一人の先輩が登壇した。「天文部です。部員はぼくひとりです。部室に天体望遠鏡があって星を見る部活ですけど、めったに星なんて見ません。そんな夜遅くまで学校いられないし。だいたいいつも部室で本読んだり、勉強してます。でも天文部です!ときどき星も見るけど、全然詳しくならないから、どれがなんの星かわかりません。部室という名目で、ぼくひとりの部屋が学校にあります!でも誰か入部してきたらそれが終わっちゃうのか。でも、しょうがないかぁ。部は残した方がいいし。天文部でした!」。

あの人のところに行っていたら、高校生活が違っていたんじゃないか。入部してもどうせ、その人から友達の輪は広がらないし、なにかを頑張りはしなかっただろうし、地味な3年間ではあっただろうけど。それでも、やり直せるなら、あの人に頼る。

ちなみに、ダイヤモンドの野澤さんと鈴木ジェロニモが、ぼくと同じ高校の出身だ。野澤さんは5学年上、ジェロニモは3学年下なので在学期間はかぶっていないけれど、近い世代で3人も芸人が出ている。特に野澤さんは、楽屋でお話したらぼくと同じく友達ができずに3年間過ごしていたと分かった。他人が高校時代に友達できなかった話は、笑えて仕方なかった。

青春を奪われることもまた青春。


文:春とヒコーキ
編集:堀越 愛、サムネイル:つるみ32

PROFILE

タイタン 所属

左:ぐんぴぃ
右:土岡 哲朗

★公式プロフィール:https://www.titan-net.co.jp/talent/haruhiko/
★公式YouTube:春とヒコーキバキ童チャンネル【ぐんぴぃ】