芸人兼漫画家として活動する畠山達也さんが、独自の視点で「芸人」を見つめる連載『ゲイニンマンガ』。漫画とコラムで、畠山さんから見た「芸人」を描き出します!
リュックの中身
コント師の小道具
みなさんこんにちわ。
ゲイニンマンガ7月号のテーマは「小道具運び」です。
コント師は、あるときは家から劇場、あるときは劇場から劇場へと、ネタで使う小道具を運びます。
ときにはネタで必要なおもちゃの銃や、刺すと刃物の部分が引っ込む包丁なんかを運ぶ人もいるでしょう。
万が一職質されたとしても説明すれば理解はしてくれるでしょうが、こんなご時世ですしいらぬ疑いは掛けられたくないもの……。なのでリュックの中身は見られたくないのです。
今回のマンガの小道具は、ガスマスクガール時代にインディーズライブでやったネタ「書道家が口から女の子を吐き出す」に使ったものです。
なんだよそのネタ。
ネタがインディーズライブ過ぎるだろ。
このコラムを始めてからよく昔のネタを思い出しますが「なんだよそれ」が多いですね……。
そんなネタの小道具を、当時住んでいた西成の自宅から運びました。
場所も荷物もまぁまぁギリギリだったので、なかなかの緊張感がありました。
僕はこういう小道具を運ぶとき、警官に声を掛けられないよう「怪しさゼロ。休みの日は原っぱで草笛吹いてそうな好青年」の様な顔をして町を移動することにしています。
服装もなるべく黒を避け、堂々と前を向いて歩きます。
その日のライブのフライヤーを携帯に保存しておいて、芸人ということを証明できるようにしていたときもありました。
そんな万全の体制をとっているわけですが、今もし警官に声を掛けられたら……と考えるのです。
「お兄さん、ちょっと良い?」
「え?……僕ですか!?」
「うん僕。今からどこ行くの?」
「仕事です……」
「あぁお仕事。いや最近この辺で盗難が多発していてね。別に疑ってるとかそんなんちゃうんやけど一応、リュックの中身見せてもろていいかな?」
「リュックですか……?え…あ…は…はい……」
「ご協力ありがとう。じゃあ失礼して」
(中に入ってる人形とローションを警官が見るとほぼ同時に)「僕芸人やってまして今日使うコントの小道具です!!」
「……あ~芸人さんね。うんうん……。でこの女の子の人形とローションをコントで使うと……?」
「はい!!新ネタです!!」
「新ネタかどうかはまぁええんやけども……。あの、君を芸人と疑っとる訳ではないんやけど…一応ね、任意で聞くけど……これどんなコント?」
「……あ~、あれです……」
「うん」
「……書道家が……口から女の子を吐き出すコントです」
「本当にどんなコント?………まぁ…危険物とかではないからええねんけど、ええねんけど…一応署で話聞ける?」
「あっいや!!僕今からライブなんで!急いでるんで失礼します!」
(自転車を漕ぎ出す畠山と走って追いかける警官)
「ちょ、ちょっと待ちなさい君!聞きたいことが他にもあるんや!」
「いや本当に急いでるんで!!」
「夫の葬儀に来た夫の同僚に一目惚れした妻が、その夜に子供を◯した!その理由はなんやと思う!?」
「僕サイコパスじゃないです!!」
「やっぱりあれか!?答えは『あの人に葬儀でもう一度会えるから』か!?」
「いやだから僕サイコパスじゃないです!!……人とは違うネタをしようと思ってるだけです!若くて尖ってて、ちょっと変わったことをしたいと思ってるだけなんです!!口に出して言いたくなかったこんなこと!!」
「口に出して言わせちゃってごめん!行ってヨシ!!」
と、こんな想像をしながら劇場に向かうのです。
あなたの町にいるリュック背負った顔だけやたら好青年の人。
もしかしたらその人も劇場にまぁまぁヤバめの小道具を運んでいるコント師かも知れません。
□オフショット□
漫画・文:畠山 達也
編集:堀越 愛
協力:秦 法爾
サムネイル:つるみ32
PROFILE
畠山 達也
・X(@hatatatsu1124)
・Instagram(hatatatsu)
・note:https://note.com/hatatatsu112429/
・YouTube:ハタタツチャンネル
~作品情報~
●読切りマンガ『凡太は普通に生きている』(少年ジャンプGIGA 2016 vol.4)
●読切りマンガ『しろすぎ!アクノソシキ』(週刊少年ジャンプ/2016年11月)
●『未読無視してんじゃねぇよ』(原作:畠山達也、作画:杠憲太)
●『山田夢太郎、外へ行く』(原作:畠山達也、作画:修行コウタ)
●『カスミの地味な未確認生物的返済生活 1巻』(原作:クロスバー直撃・前野、作画:畠山達也)
INFORMATION
公式YouTubeチャンネル『はたたつチャンネル』
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