ヤーレンズ・出井隼之介さんが物事の良し悪しを綴る連載『可否伝』。出井さんセレクトの「今月のコーヒー」情報とともに、心が揺れた“良し悪し”を語ります。

7月の可否
葉加瀬太郎さんは、趣味の釣りをメインにツアーの場所を決めている。どうも、ヤーレンズ出井です。
移動の新幹線や飛行機では基本的に寝ているか、ラジオを聴いているのだが、機内で「よし!なんか見るか!」と思い立つこともたまにある。
そんな時はデデン!とネットフリックスなんかを開いて、まだ見た事のないアニメを観てみるのだが、結構な確率で気持ちがシケて観るのを途中でやめてしまう。
まず、キャラクターの私服が異常にダサかったり、口調がインターネット過ぎたりするとその時点でちょっと冷めてしまうのだが、それは目をつぶれる。しかし、無駄にグロかったり、やけにスケベだったりするとさすがに大人なので閉口してしまう。
明らかにオタク層を刺しにきて萌え盛っているキャラクターの登場、無自覚・自覚的問わずスケベキャラによる、明らかに本筋とは無関係なスケベシーン(女湯を覗きに行くなど)が平気で入ってくる。
だ、断じて僕がそういう作品を選んで見ているわけでなく!一般的に売れている作品でも入ってくるのだ。あれは一体なんなんだ?せっかく話が面白いんだから次進めてくれと思ってしまう。
アニメに限らず、今世の中に溢れているコンテンツの多くは刺激的になり過ぎている。これは先月の話ともリンクするが、極端なことをしないと人の心に刺さらない問題がそこにはある。
売れている楽曲がどんどんイントロが短くなって、転調を繰り返す様を指して「ドーパミン中毒のガキ向け」なんて切り捨てるコメントがバズったりしていた。
これこそまさに刺激過多の時代の象徴に感じる。確かにそれは傾向として認められるのだろうが、時代にフィットして売れているものを、とにかく苛烈な言葉で切って捨てる。これも一種の刺激的コンテンツだ。
最近目にするのが何かに激昂している大人の映像だ。個人的には堀江貴文さんがブチギレている様子が切り抜きで流れてくることが多い。まあ、この人の場合こっちの方がバズると思ってやっている可能性もある。野菜。
そんな熱を帯びた敵意だけでなく、冷笑も昨今の流行りのひとつだろう。先日のサッカークラブW杯で、敗退して涙する浦和サポーターに対しても心無いコメントが投げつけられて、それもそこそこバズっていた。冷笑ここに極まれり、といった感じだ。
論破ブームなんてのもある。議論の中身が建設的か、先鋭的か、正しいか。そんな事よりも論破している様子を人は見たがる。論破しようとすれば一歩踏み込まなくてはならない。常にKOを狙う井上尚弥がカウンターを被弾することがあるように、論破したい人は多少間違っていても言い切ってしまう。本末転倒、言い切ったもん勝ち。あまりに相手がアホ過ぎて絶句したとしてもダウン扱いされてしまう。本来、よほどどちらかが間違ってない限り、論破なんて起こり得ないし、討論はしりとりみたいにぼんやり終わるものだろう。
とかく現代は刺激優先世界。先述の僕のアニメに対するコメントだって具体的に作品名を出してもっと鋭い言葉で批判すれば少しはインプレッション数を稼げるかもしれないが、しない。それは迷いがあるから。
アニメに造詣が深くないから、何か意図を見落としているのかもしれない。そんな刺激的なシーンなしでバズっている作品もたくさんあるだろう。それに、明確に作品名を出したらその作品に関係する人が嫌な気持ちになるかもしれない。
そんな葛藤が、逡巡が、今の刺激過多時代には意味をなさない。逡巡は効率や刺激の敵かもしれないが、それでこそ人間なのではないだろうか?
なんの迷いも葛藤もない、真っ直ぐな言葉は、それが危険でも間違っていても、構わず人の心に飛び込んでくる。
現代では例えばショート動画でお手軽に侵入してきて、アルゴリズム解析で似たような情報にどっぷりと漬け込まれてしまう。
昔著名なミュージシャンが「刺激が欲しけりゃバカになれ」と歌っていたが、そんな時代が本当にやってきた。バカから順番に、刺激に飲み込まれる。
果たしてどうやって、どこまで、この時代に正気を保っていられるか。これからは迷いがある奴がマイノリティになってしまうのか。俺たちと刺激の勝負は始まっている。これからもたくさん葛藤していきたい。
~7月の可否~
可→人間らしく、様々なことに迷いながら強刺激を回避すること。
否→刺激に飲み込まれてバカになること。
今月のコーヒー【HAZERU COFFEE】
HAZERU COFFEE (富山)


富山といえば、まず名前があがってくる名店。ようやく行けた。

PROFILE

ヤーレンズ・出井隼之介
ケイダッシュステージ所属
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文:ヤーレンズ・出井隼之介
編集:堀越 愛
写真&サムネイル:ヘンミモリ