“東京”について《春とヒコーキ「VIP ROOM HARUHIKO」第42回》

『VIP ROOM HARUHIKO』は、春とヒコーキがバーのVIP ROOM で本音を語るような、そんな場所。

‟語りつくされた、でも正解はなく、各々で考え方が異なる”普遍的なテーマについて、ぐんぴぃと土岡がそれぞれの視点で綴ります。

今月のテーマは、「“東京”について」。


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theme. “東京”について

ver.ぐんぴぃ

大学進学で上京するまで、東京のことを何も知らなかったです。本当に知らなすぎました。

大都会というイメージだけが先行しており、東京都全域が歌舞伎町、センター街、原宿のような繁華街、もしくは銀座・大手町のようなオフィス街しかないものだと勘違いしていました。都内には住宅街が一つもないから住むことができず、全員が埼玉など他県のベッドタウンから通勤しているものだと信じていたんです。

新宿を自転車で走る人や、犬を散歩させている人を見かけたら「東京に住めるなんて大富豪に違いない」といちいち感嘆してました。うーん、頭が悪い。よくこの解像度の低さで上京できたものです。

なぜ上京したかったのか。地元の閉塞感、家庭からの脱出など色々あったはずですけど。思い返すと意外に大きかったかもしれないのが、地元のテレビ番組の雑魚さでした。

当時から爆笑問題さんのファンだったのですが、たとえば「サンデージャポン」は地元では放映されていませんでした。お二人のラジオでサンジャポの裏話を聞くたびに悔しかったです。僕の地域はぎりぎりポケモンのアニメが放送されていたけれど、お隣の市区町村ではテレ東系列のネット局がなかったりして。ポケモンを知らない同級生も割といました。

「ガキ使」が深夜のド深い時間に放送されてて、実家では容易に観れませんでした。親が寝静まった後に暗いリビングで笑い声を押し殺しながら、蚊の鳴くような音量のテレビ画面に張り付いていました。東京では日曜夜の見やすい時間帯なのですが、福岡ではその時間に「ナイトシャッフル」というローカル番組を放映していました。天下の「ガキ使」を追いやってローカル番組を流す地元、異常だろ、もうここには住めん、と真剣に腹が立ち、上京を決意するきっかけの一つになります。

他にも落語も寄席はほとんど東京にしかないし。話題の単館映画も地方では観れない。オタクの街 秋葉原も輝いて見えました。羨ましかった。

地元の文化やエンタメの僅少さに耐えられなかったのです。恋愛もしてなければ友だちもさして多くない僕には、そういったカルチャーが人生そのものを左右するような感覚がありました。カルチャーが生活より上に存在した。コンテンツを享受するために、人生を過ごしているのです。

先日、主演した映画「怪獣ヤロウ!」の舞台挨拶で全国を回らせていただきました。ご当地映画という性質上、都会の映画館だけでなく、地方にもたくさん巡業させてもらいました。そこで感触の違いに気づいたことがあります。

都会の方が、映画を愛している人がダントツで多い。「怪獣ヤロウ!」のような怪作ですら熱狂を持って迎えられるほど熱量が高い。楽しみきろうという気概を感じます。エンタメを大切にしている。僕のようにカルチャーを、生活より上に置いている人が多い。舞台挨拶としては大変心地よかったです。そしてどこか、不健全にも見えました。

そうでない地域は、エンタメへの熱量は少なかった。

働いて、家事育児をこなして、勉強などやることをやる。友人や恋人と過ごす。それでも余暇があれば映画館に足を運ぶ。運ばなくたって全然いい。生活があるのだから。そういった方が多い印象を受けました。

地方には、田舎には、まず生活がある。その下にカルチャーが存在している。コンテンツへの執着は薄い。僕が苦手だった空間です。でもそこで生きていける方が、幸せだろう。カルチャーに依存せずに済んでいるのだから。日常から楽しさを見つける力が育まれているのでしょう。

僕は東京じゃないと生きていけないでしょう。きっと田舎に戻れば退屈に取り殺されてしまいます。栄養のサプリメントを飲み続けると、吸収する腸の絨毛が弱まって、食物そのものから栄養素を摂りにくくなると聞いたことがあります。それと同じで、僕は生活から幸せを見つけられないのです。ガソリンスタンドの給油ノズルで、口からカルチャーをがぶがぶ飲んで動いているのです。でも僕にしかできない生き方だから、それでいいんです。東京を愛しています。


ver.土岡

18歳まで栃木県で育ち、東京は年に数回遊びに行っていた。夏休みに家族で出かけたり、高校生の頃はお笑いライブやM-1の準決勝を観に行ったりした。東京でしか観られないものを観るための場所。何か興味のあるイベントが東京であると言われても、中高生の自分からしたらWOWOWでしかやらない映画と同じだった。「お!この映画もうテレビでやるんだ!……なんだ、WOWOWか」。栃木から東京だったら割と近いんだけど、子どもの一存で行くことはできない。でも、頑張れば行ける。だから、よりリアルに壁がある。

大学受験をして、受かったのが青学と立命館だった。東京に行くか京都に行くか。栃木から近いし、どうせなら日本一の都会で暮らしてみたいし、東京にある青学に通うことにした。でも、最初の2年間は神奈川県の相模原キャンパスだった。淵野辺という駅にキャンパスがあり、そこに住んだ。「淵野辺」。3文字とも、何かメインの言葉が他にあってその周りにつく文字。それが3文字集まった、地名界のスーサイド・スクワッド。ここに住んだ経験があるから、大学って別に東京じゃなくてもいいな、と思っている。大学の人と遊んで勉強するのはどこの地域でも関係ないし。

大学の後半から渋谷の青山キャンパスに移動になり、東京に引っ越した。とにかく人が多かった。大学の授業でも、普通に席が足りてなかった。3人がけのテーブルで、真ん中を開けて2人が座っているところに入っていかないといけない。それができなくて帰っていく人を何人も見た覚えがある。というのは覚え違いで、自分が何回も帰ったのかも知れない。

大学卒業後は、東京のメリットを生かした暮らしをしている。東京で助かるのは、興味を持ったものをすぐ観に行けるところ。シルク・ド・ソレイユ、劇団四季、フリースタイル・ダンジョンのリリースイベント、築地のマグロ解体ショー。マグロの解体ショーは、1回目は寝坊して、骨だけになったマグロの残骸を見て帰った。でも、東京に住んでいるから数か月後にリベンジでもう一回見に行く気になれた。他にも興味はあるけどまだ行ってない場所がたくさんある。国会図書館とか、天文台とか、クイズバーとか、たくさん。まだ行ってはないんだけど、高い家賃を払って東京に住むことでそれらを選択肢に持つことができるというサブスク。「月額だけ払って実際行ってなかったら意味ないだろう」と思う人は、東京に住まずにたまに来ることで東京を利用したらいい。

東京じゃないとライブが観られないのではなくて、東京じゃないとライブが商売として成り立たないのだと思う。人口が多くないとお客さんが集まらない。どの地域でもたまにイベントがあれば喜ばれるだろうけど、それで生計を立てるほど日常的には開催できない。演劇もアイドルもそうだろう。感性を磨いている人が集まるとかではなく、とにかく人が多い場所。


文:春とヒコーキ
編集:堀越 愛、サムネイル:つるみ32

PROFILE

タイタン 所属

左:ぐんぴぃ
右:土岡 哲朗

★公式プロフィール:https://www.titan-net.co.jp/talent/haruhiko/
★公式YouTube:春とヒコーキバキ童チャンネル【ぐんぴぃ】