『御何様』は、芸人・南翔太による写真×文章の連載。
編集部が南に27枚撮り使い捨てカメラを渡し、1か月かけて自由に撮影。撮れた写真から想起する文章を綴る連載である。

使い捨てカメラは、スマホやデジカメとは異なり「現像するまでなにが撮れているかわからない」のが持ち味。どこでなにを撮るのか、そしてどの写真を選ぶのか、何枚選ぶのか、なにを書くのか……すべてを南に委ねてみた。
今回の『御何様』は、特別編。10月13日(月・祝)に開催されるお笑いイベント『会う、飲む、笑う、』に先駆け、南が主催会社・奈良醸造を視察。その際の経験をもとに書き下ろした1本である。
鹿と大仏と感謝
奈良出身の芸人を集めたトークライブの仕事をいただいた。奈良醸造という会社から、クラフトビールの差し入れまであるらしい。呑んで喋ってチャリンとな、学童には描けない将来の夢のような仕事である。
今もクラフトビールを嗜みながら文字を打っている。このあと薬効かんくなってからのチャーリーみたいになったらすまん。まだ、ほぼノンアルジャーノン。
帰省も兼ねて、奈良市にあるビール工場を見学した際に持たせてもらったものだ。元々大学院の研究で、絶滅危惧種の糞をゲトるために森を駆け回っていた従業員に施設を案内してもらい、友達の兄貴の元カノの友達の従業員がビールを試飲させてくれた。のちに終電を逃し、俺を家に泊める羽目になった社長は、自力で作ったビール版インベーダーゲームのバグ復旧作業に終始していた。 これどうやって旨いねん。


実はこの仕事を受けるにあたって、二つ致命的な欠陥を抱えていた。
一つは、どれだけ鯨飲しても平気なくせに、なぜかビールだけは急に酔うという体質。
もう一つは、奈良という場所に明るくないということだ。出身なのに、土地の湿度のようなものをほとんど思い出せない。

出身を聞かれたら「奈良です」と答えたあと、「鹿と大仏と感謝しかないです」と続けることが多いが、ほんとうのところは全部なかった。
というのも、奈良公園や東大寺のある奈良市は、縦長の奈良県の最上部に位置するため、中部に住む自分が足を運ぶ機会はないのである。
工場見学のあと奈良公園を訪れたが、やはり初めてきたようだった。銭湯の床のタイルに踵をつけられない自分にとって、この鹿のフンを踏まないためには、あの鹿のフンを踏むしかない道のりは耐え難かった。
不満を露わにぼてぼて歩いていたら、ふいに鹿と目が合った。咄嗟に「いえ、違います」と口をついて出たとき、目を逸らされ、少し虚しくなった。
奈良公園の鹿は信号を守ると聞かされていたけど、全然信号無視するんだな。そんなことを思うぐらいには、東京の茜色の夕日に染まっている。

自分にとっての地元はアルルだった。アルルとはイオンモール橿原の旧称だ。
TOHOシネマズで映画を観て、フードコートでペッパーランチを食べ、ビレバンに寄ってからゲーセンでプリクラを撮る。
高校生になると、レストラン街の寿司屋でアルバイトを始めた。パウチ化された青春の中身は、停滞感と閉塞感の空気に満ちていた。はっきりと申し上げて嫌いだった。
地元を抜け出したい一心で、小学校の卒業文集に「寮のある高校に入りたい」と綴ったほどだ。
そんな感情さえ、アルルから飛距離のないアルアルで、今のアルルになら包み込まれてしまっていたかもしれない。土地が安いからか、帰省するたびに甥っ子のように大きくなっているのだ。
この間、とうとう世界最大の無印良品が建てられ、ヒカキンに来られていた。舐められるのも大概にしてほしい。アアルアルルル。
全国各地に点在する地元を愛すのは、当時の自分にとっては難しいことだった。
Tohjiという友人のラッパーがMall boyzというユニットを組んでいる。Tohjiは、特定の地元と呼べる場所を持てない生い立ちから、ショッピングモールが地元であると定義しているが、まさにそのような感覚だ。
共有できる地元があるのは、この時代特有のことで、それはそれで強みになりうると、今は理解しているつもりだ。

雑談の中で社長が、地元に対してアンビバレントな感情がある、というのが奈良県民の特性かもしれませんと言っていた。
地元が嫌いな自分は、紛れもなく奈良県民であると言えるだろう。
やくるとのあじするやつと、にほんしゅのあじするやつとくになんかすごく、うまい。
PROFILE

南 翔太
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《ニートと居候とたかさき》
・公式YouTubeチャンネル:ニートと居候とたかさき
・書籍:嫌なこと全部逃げてみた
文・写真:南 翔太
編集:堀越 愛
サムネイル・プロフィール写真:つるみ32
INFORMATION

『会う、飲む、笑う、 Batch #2』概要
・日時: 2025年10月13日(月・祝)
・会場: LOFT9 Shibuya
・開場/開演: 18:30 開場/19:30 開演
・出演:
【1部】ガクヅケ、ジグザグジギー 、Gパンパンダ、鈴木ジェロニモ、ヒロ・オクムラ ほか
【2部】ガクヅケ木田、ヒロ・オクムラ、南翔太、ジグザグジギー池田(MC)
・チケット料金:会場チケット ¥3,500 ※飲食代別・要1ドリンク/配信チケット ¥1,500
🌟配信チケット購入URL https://ponycanyon.zaiko.io/e/anw02
※配信日時:10/13(月) 19:30 ~ 10/27(月) 23:59
※配信チケット購入者特典:奈良醸造オンラインストア10%OFFクーポン
🌟会場チケット購入URL https://eplus.jp/batch2/