『御何様』は、芸人・南翔太による写真×文章の連載。
編集部が南に27枚撮り使い捨てカメラを渡し、1か月かけて自由に撮影。撮れた写真から想起する文章を綴る連載である。
使い捨てカメラは、スマホやデジカメとは異なり「現像するまでなにが撮れているかわからない」のが持ち味。どこでなにを撮るのか、そしてどの写真を選ぶのか、何枚選ぶのか、なにを書くのか……すべてを南に委ねてみた。
G die
★★☆☆☆
「G die」というゴキブリが死んでいそうな店名が以前から気になっていたので来訪。
店内はウッド調。全席四人掛けのニス臭いボックス席で、ノイズキャンセルを貫く音量のテレビが壁に二台掛けてある。店員は外国人女性二人で、接客は無愛想でタメ口。
アイスコーヒーを注文したが、「つめたい?あったかい?」と問われた。提供が遅い。凝った淹れ方をしている訳ではなく、作り始めるまでが遅い。下請けに一報入れたら予想外に断りの折り返しがきて、自分たちで作る羽目になったとしか思えない。先方の折り返しを待つ間、二人は日本語でカタコトカタコトと私語をしていた。やがて湯気のたったコーヒーが慎重に運ばれてくる。
席で煙草が吸えるし空いてはいるが、少数精鋭といった客層で、今まさにこれを書いている間にも三人組の輩に絡まれ、このレビューが若干盛っていることをリークされる恐れまで生まれている。
一杯で虜になった。味ではなく、この店が醸し出す雰囲気に。
この居心地の良さの正体を「実家のような安心感」で片付けてしまうのは惜しい。そもそも俺の実家に実家のような安心感はなかった。京都で言うぶぶ漬けのように、いつどこから色の悪いリンゴが出されてもおかしくない緊張感を常に孕んでいた。
ひとつ心当たりがある。
俺の雰囲気や話し方は高圧的に映るらしく、なにか試されているような印象を受けるらしい。「それを注意するのは浅いのではないか」という自問自答は、やがて「許容しなければいけない」というプレッシャーを生み、そこにもたれ掛かることでまかり通してきた。得より損を被ることの方が格段多いので直したいが、意識しても訛ってしまう方言のように抜けない特性になっている。
誰にも共有できない自分だけのものだと思っていたそれはまさに方言と同じように発祥の地が存在したのだ。何を隠そうこの喫茶店がそうなのである。
テレビの音に掻き消されて気づかなかったが、いつの間にか店内は喧騒、空調が故障したかのような熱気に包まれている。見知った顔も多く、一世を風靡したのち思想の表出と共に海外を拠点に活動するようになったタレント、時代にそぐわない発言が目立つようになりSNSの中に閉じ込められたコメンテーター、犯罪者の如く炎上して表現の檻に入った芸人など様々。まだ何も乗っていないテーブルの前で唾を飛ばしあっている。
満席に近づくにつれ相席が増えていき、俺の目の前には我が地元、奈良県大和高田市のスター、モー娘の加護ちゃんが座った。
「ここに来ている人たちも含めてみんなほんとうはここ出身で、私たちの本当の地元もここ。でも私たちがここから離れた訳じゃなくてここが私たちから離れていった。そしてここは元々は喫茶店ではなくて」
そこまで話すと加護ちゃんは吸い終わった煙草を何故か携帯灰皿に捻り込むと、それが合図なのかすべてが白煙に包まれて消えていった。
寝心地は良いが、居心地は悪い。星2つ。
27歳 最年少老害
PROFILE
南 翔太
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《ニートと居候とたかさき》
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・書籍:嫌なこと全部逃げてみた
文・写真:南 翔太
編集:堀越 愛
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