『THE W』は大いなる実験だった。漫才師視点から見る賞レース【ヤーレンズ出井隼之介「可否伝」34杯目】

ヤーレンズ・出井隼之介さんが物事の良し悪しを綴る連載『可否伝』。出井さんセレクトの「今月のコーヒー」情報とともに、心が揺れた“良し悪し”を語ります。

7月の可否

朝青龍とザキトワが飼っている秋田犬はいとこ。どうも、ヤーレンズ出井です。

相撲用語ってのはかなり味わい深い。例えば機嫌が悪くなることを「北を向く」と言ったりする。

中でも僕のお気に入りは「顔じゃない」だ。これは反ルッキズム的な言葉ではなく、「発言に地位や実績が見合ってない」との意だ。「誰が言ってんだよ」といったところだろうか。

その昔、横綱朝青龍の取り組み内容に対して当時解説者だった舞の海さんが苦言を呈し、朝青龍が「顔じゃないよ!」と語気を荒げていたと記憶している。以来、僕もそういうシーンがあれば使おうと思ってはいるがなかなか無い。

逆に自分に思うことはある。例えば、ここにテレビについて何か書くには活躍が足りない。「顔じゃない」と思う。

が、ネタの賞レースに関してなら少し書いてもいいのかな(筆者は前人未到のM-1グランプリ3年連続決勝進出男)と思い、少し書く。

『THE W』という女性芸人の賞レースが終了した。関係者の方の「一定の役割は果たした」との弁がネットニュースで流れてきたのを目にしたが、まさその通りだと思う。皆様お疲れ様でした。

僕はこの国の「面白い」の基準はいささか男基準すぎるのでは?と感じている。別にそれが悪とか、ましてや差別だとか蔑視だとか、声高に言うつもりはない。

そもそも志す人数の違いがあるし、面白さを測る物差しがあるとするなら、その物差しを作っているのはどうしても人数が多い男性だという認識だ。

一例をあげると、女性芸人がネタを披露した際「女性ならではの視点」を評価されているシーンを若い頃からよく目にしてきたし、それができていない芸人さんがダメ出しとして言われているシーンも何度も見た。しかし、僕は一度も「男性ならではの視点」を求められたことはない。

良いとか悪いとかではない。もし芸人界が女性だらけなら、僕は男性ならではのネタをやっていたかもしれない。

この様に、多人数の男性の中に混じるとどうしてもその「ならでは」という評価軸が浮かび上がるのなら、いっそ出演者全員女性にしてしまえば、純粋にネタの優劣をつける大会になるのでは?という意味で『THE W』は大いなる実験だったと思う。

その結果、バカ荒削りなネタが地上波のゴールデンタイムで流れてしまったことも事実だが、同業としては見ていて学びもあった。

漫才にしてもコントにしても、お笑い芸人が使用する独特の語彙というものがあるが、それに女性の言葉はフィットしないことが多い。

例えばツッコミひとつとっても、男性的な口語をベースに発展してきているので、僕は普段の言葉を使えるが、女性はそうはいかないケースがある。

「誰が言ってんだよ」を日常的に口にする女性はそう多くないだろう。

ツッコミの女性芸人は男性の言葉を使用したり、語尾を工夫したり、それぞれのアプローチをしている。我々は免除されているが、そういう戦いもある。この視点は少し楽しみ過ぎだろうか。

結果として、獲るべき人が獲ったし然るべき人が名を上げたし、この大会を目標に燃えた人がいて、努力を加速させた人がいて、目指す人がいたのならまさに「一定の役割は果たした」と思う。

ここまで書くとさすがに「顔じゃない」気がしてきたなぁ。「K-PROとは一体なんだったのか?」にしておけばよかった・・・


~7月の可否~

可→実験

否→固定観念

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PROFILE

ヤーレンズ・出井隼之介

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文:ヤーレンズ・出井隼之介
編集:堀越 愛
写真&サムネイル:ヘンミモリ