【WEST ANTSストーリー-vol.9 ハノーバー(後編)】ユニットの“なんでも屋さん”「エースじゃなくても良い、なんでもすんで~」 ~西の地下で轟く、新たな笑いの息吹~

2021年4月、大阪のライブシーンで活動する9組18人の芸人によるユニット『WEST ANTS』が誕生しました。発起人は、大阪・西心斎橋で「BAR舞台袖」を営む加藤進之介さん。大阪のお笑いを盛り上げるべく、本当に「面白い」と思う芸人を集めました。(加藤さんインタビュー:大阪を「芸人が飯を食える場所」にしたい

ハノーバーのコンビ結成から今に至るまで、そして東京芸人との関係を聞いたインタビュー前編。続く後編では、ユニット「WEST ANTS」や二人の今後について伺いました。”これから”のハノーバーは、どのように進んでいくのでしょうか?(インタビュー前編はこちらから)

【WEST ANTS ストーリー -vol.0-】大阪お笑いに、新たな息吹!芸人ユニット『WEST ANTS』とは

ハノーバー(左:井口バツ丸、右:良元カルビ)

土竜の火を絶やさない

———「WEST ANTS」の構想を聞いたときはどう思いましたか?

良元カルビ(以下、良元): 加藤さんにも直接言ったんですけど、話聞いたときは「バイト辞めれそう! すごいことしてる!」って思ったんです(笑)。僕らって元々は、多分WEST ANTSの構想に無かったんですよ。補欠合格みたいな。だから僕らが入った頃にはWEST ANTSっていう名前も出来てる状態だったんですよ。こういうユニットができるっていうのは噂では聞いとって、ちょっと拗ねとったんです。「入れてくれへんのかー」みたいな。

※加藤 進之介。「WEST ANTS」の主催者

井口バツ丸(以下、井口): 僕は「WEST ANTS入るよ」って聞いて、「うん」って言ってスタートしたんで、なにも思ってなかったです(笑)。

———WEST ANTSに入ることは、即決だったんですか?

良元: 加藤さんに言われたその日には、「是非とも」と。加藤さんは義理堅い人で、正直に「元々こうで、メンバーから外れてたんですけど、こういう理由で入ってくださいませんか」みたいな。話もらって、即答で「はい、お願いします」って。

———これまでユニットで活動してみて、変化はありましたか?

井口: まあ「土竜」っすね。

※WEST ANTSから生まれたアーティスト

良元: なんで一発目がそれやねん。土竜知ってますか?

———ラップの……

井口: ほら。

良元: それはお前らが有名になったんじゃなくて、調べてくれたから知っているだけ。お前らの名前が独り歩きしているわけじゃないから(笑)。

井口: お笑いのことは分からないけど、WEST ANTSに入ったからには大阪を盛り上げていきたいみたいなのがあるんですよ。やっぱ土竜みたいなことしたかったんで、僕は。WEST ANTSで土竜ができて、1番幸せですね。

良元: もっとあるやろ(笑)。

井口: ほんと、めっちゃ好きなんすよ、土竜。やっぱ最初は、なにやってんねんて……

良元: 止まれよお前! 土竜の熱そこまでいらん。

井口: “なにやってんねんコンテンツ”やったんが、今は結構「土竜の新曲まだですか?」とか楽しみにしてもらってるコンテンツになってる。だから僕らは土竜の火を絶やさないというか、これはもう、大阪ライブシーンに次世代の土竜ができていくまで、土竜を……

良元: 無い無い。J SOUL BROTHERSみたいにはならんから。ちょっと待ってください、土竜のせいで質問忘れた(笑)。

井口: 土竜についてはどう思ってんの?

良元: いや、まあ、別に。勝手にやってくれって感じ(笑)。なんていうんですかね、対立構造みたいなのがあるんですよ。僕らはダサいと思ってるけどこいつらはカッコいいと思ってるという。それをお客さんが面白がって、盛り上がってくれれば良いなと。

井口: なるほど。普段、土竜……

良元: 土竜もうええって! しつこなってるし! 相方が土竜を優先しすぎてる。単独に向けて、企画からVTRやらネタやらを僕が作家さんとやりとりして、全部考えたんですよ。で、「この日ネタ合わせするからあけといて」って言ったら「土竜あるから」って。めっちゃ腹立ちましたね。……質問なんでしたっけ?

———WEST ANTSに入ってからの変化です。

良元: ああ、変化はありましたね。WEST ANTSって、みんなやる気あるんですよ。僕らはその中でも劣等感があって。初めて遠征行ったとき、さすらいラビーさんと対戦したんですけど、もう圧倒的に負けたんですよ。120対40ぐらい。負けたときに、「もうこれじゃあかん」って意識がガッて上がりました。そっからはありがたいことに(キングオブコントで)準々行けたりとか、テレビ決まったりとか。芸人としての考えがぼっと変わりましたね。

すべてに感謝

———東京でライブをやることが増えたと思うのですが、それぞれでやってみてどういった感触や反響がありましたか。

良元: うまいこと言えないんですけど……言い方悪いかもしれないですけど、東京はお客さんが差別せんと見てくれるんですよ。東京の、上のレベルの人らと一緒にライブすると「なんやこいつら」って偏見じゃなく、ワクワクして見てくれるというか。「どういういう人なんやろ」みたいな。大阪の人は、ちょっと固定概念みたいなんがある気がして……うまいこと言われへんな。

井口: 東京の方が、ニュースターがぽんぽん出てくる感じがありますよね。だからなのか、「出てくる人はみんな面白いんやろうな」って目で見てくれてる感じはしますね。大阪は長くやってる人が強いイメージがあって、新しく出てきた人に注目してくれる感覚は薄いような気がします。

最近東京でライブしたときに、スピードワゴンの小沢さんが観に来てくださったことがあるんですよ。そこでご挨拶させてもらって、ご飯連れてってもらって。そこから何度かご一緒させてもらってるんです。なんか、東京だと、見てもらえる機会があるとそういうのに一気に繋がるなって思って。そうすると、これまでやったら直接聞かれへんかったこと……「こういうのどうしたほうが良いですかね」ってアドバイスもくれたり。売れてる人とか、テレビ出てる人とか、作家さんとか……そういう人の意見を聞けるタイミングを、東京だと作れるんやなって実感しました。

良元: 東京というか、K-PROさんや加藤さんのおかげ。

井口: そういう機会を作ってもらえたのが、やっぱWEST ANTSのおかげなんで。ほんまそういう意味では、……すべてに感謝してます。

良元: 浅っ。長々喋っとったけど、浅~っ! なんて言うんやろって思ったら、「すべてに感謝してる」(笑)。

———東京遠征でハノーバーさんが出ていたライブを観た方が、「めちゃくちゃ面白かった」と言ってました。ネタだけじゃなく平場がすごくて、特に井口さんのギャグは東京芸人を抑える勢いだったと。

井口: いや、たまたまなんすよ。僕、平場はあんまり自信なくて。でも東京の舞台やし、普段関わってるライブの人少ないから「もう行ったれ」って。出てみたら良い結果になって、自信になって、また前に出れて……っていう。脳みそ1個も無いですよ。たまたまです。追い込まれないとダメなんです。

良元: (東京遠征をするようになって)「ビビっててもしゃあないな」って思えるようになったところはありますね。今までも、上の人がおったら遠慮してもうとったんです。自分らの身の丈に合うてないから、みたいな。ちょっとビビってる部分あったんですけど、東京行ったらアピールせなもったいない。WEST ANTSも東京芸人もみんなおもろいから、スベっても誰かがなんとかしてくれるっていう気持ちではありましたね。

WEST ANTSのなんでも屋さん

———WEST ANTSの中で、ハノーバーさんの立ち位置はどんな感じですか?

井口: エースです。

良元: 僕の中では「なんでも屋さん」というか……良いように使ってもらえるようになったらいいですね。例えば、MC誰にしよう、ハノーバー。ライブのトップバッター誰にしよう、ハノーバー。誰かコントしてほしい、ハノーバー……みたいな。ほんまに都合よく使ってもらえるように、と思ってます。別に僕らは、エースとかじゃなくていい。絶対的に、風穴さん(風穴あけるズ)とかにぼいわさん(にぼしいわし)とかおるんで。今で言うたら、トルクレンチガールズもすごい。その陰におって、「なんでもすんで~」って。

井口: エースなりたい。

良元: じゃあ、頑張ってぇ~! エースなりたいんやったら! 

———WEST ANTSとして、これからやっていきたいことはありますか?

井口: 僕はワンパターンなんで、新しいこととか企画力とかないんで、投げっぱなしにしちゃって、全部やってもらってるんで。僕は土竜ですね。ネタ書かん分、歌詞書くんで(笑)。

良元: 歌詞は書けるんですよ。こいつ、芸人の才能だけ無かったんですよ(笑)。ネタ書く才能は無いけど、落語とかできるんですよ。噺家さんと仲良くて、「やってみろ」みたいな。お前、なんも勉強してないのにそのぐらいできんのか、ぐらい。漫才とコント書く才能だけ、無いんですよ……(笑)。

僕はWEST ANTSとして、いろんなとこ遠征行きたいですね、東京以外でも。シンバルモンキーが香川県出身で、すみかわ(ブルーウェーブ)は石垣島出身で。そういう地方の公演も2組はしたいみたいなん言ってるんで、東京以外にも行って、集客できるようになったら良いなと。

———どんな目的で遠征に行きたいんでしょうか?

良元: 「いろんなとこで試す」ためですね。僕ら、福井県の賞レースに出たことあるんですけど、お客さんに笑う文化が無いみたいなんですよ。僕ら以外にも吉本の上の人とかも出とったんですけど、全員スベッてるんです。テレビに出て人を笑かすって、多分そういう人も笑かさんとダメってことだと思うんで。大阪みたいに「お笑い」の文化がないとこにも行ってみたいです。あとはWEST ANTSの知名度を上げたい。

関西の全賞レースの決勝に行きたい

———お二人は、ライバル視している芸人さんはいますか?

良元: ほんまにめっちゃ狭い世界なんですけど、ブルーウェーブ、ボニーボニーには負けられへんなと思ってます。ちっちゃい(前の)事務所のときから、ボニーさんとは大親友みたいな感じなんですよ。めちゃくちゃ仲ええからこそ負けられへんという思いはありますね。他にもおると思うけど、絶対に負けたくないと思うのはこの2組ですね。

井口: 僕は、ネタ書いてない芸人全員ライバルやと思ってます。ネタ書かへんヤツの中では一番面白くあると思ってます。

———ハノーバーさんとして、これからやりたいことはありますか?

良元: 関西の賞レースで、全部の決勝にいきたいです。

井口: 僕は、100%プレイヤーとしてかっこいいを体現できるようになりたいし、100%プレイヤーとして、言われたことを形にしたい。WEST ANTSの活動とかでいっぱい舞台に出させてもらえてるうちに、面白いものを作りたいなっていうのは思ってます。

良元: にしては、かっこつけたいから「ネタ僕が書いてます」みたいなこと言ったりするよな。

井口: 俺、ちやほやされるのめっちゃ好きなんすよ。承認欲求の塊やから。僕は毎日エゴサしてるし、毎日どっかで「井口さん」って言われてたいんですよ。だから、なんか良い方法ないですか(笑)。最悪、僕は別にお笑いじゃなくてもいいんですよ。映画とか出れないですかね?

良元: 脱線するんですけど、松竹って映画のオーディションとかあるんですよ。で、演技を過剰にし過ぎて、監督さんに「ちょっと君の演技ぬるぬるしてる」って(笑)。

———最後に、この記事を読んでくださる方にメッセージをお願いします。

良元: 大阪松竹、WEST ANTSで、今んとこは東京進出とか考えてなくて、ずっと大阪でやっていくつもりです。今まで観たことない人、最近観に来てない人おったら、こいつらWEST ANTSでこんな変わったぞって思ってほしいですね。

井口: 赤福みたいな存在になりたいですね。関西のお土産、絶対赤福って分かるじゃないですか。でも、そんな毎日食べない。食べたいなって思ったときにもらったりする。

良元: 質問内容わかってる? 「読んでくださる方に一言」で赤福来たら意味わからん。

井口: だから、赤福でーすって。

良元: え、こいつのパート使えるとこあります?

井口: 僕のセリフ全部カッコで大丈夫です(笑)。

【前編を読む】「売れている人が身近にいるってありがたい」東京芸人との交流で気付いたこと

文:なかにし、写真:藤田うな
編集:堀越 愛


<ハノーバー|プロフィール>
松竹芸能、ユニット『WEST ANTS』に所属

左:井口バツ丸
右:良元カルビ

★公式プロフィール:https://www.shochikugeino.co.jp/talents/%E3%83%8F%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC/

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