【『街録ch』ディレクター三谷三四郎10000字インタビュー】「社会を変えたい、なんて大義名分はこのチャンネルにはないんです」

本日5月24日(水)、豊洲PITにて街録chライブ『笑える絶望2』が開催される。フリーのディレクター・三谷三四郎が運営するYouTubeチャンネル『街録ch』のリアルイベントだ。運営者本人である三谷氏の他に、チャンネルの立役者である東野幸治や平成ノブシコブシ・吉村崇、主題歌を歌う大森靖子らが出演する。

『街録ch』は、様々なバックグラウンドを持つ人物に、三谷氏がひたすらインタビューをするチャンネル。芸人、一般人を問わず、個人の赤裸々な人生経験を覗き見できるいわば体験型の動画は、話題が話題を呼び現在のチャンネル登録者数は100万人を超える。世論に影響を与えうる大きな存在だ。元自衛官・五ノ井里奈さんの件では事態を動かすひとつの後押しとなったことは記憶に新しい。

後ろだてのないフリーのディレクターが、その身軽さを武器に獲得した『街録ch』というメディアについて、そしてそんな巨大なメディアをたったひとりで運営していく中で、三谷氏がたどり着いたある結論について、話を聞いた。

東野幸治と吉村崇でなければならなかった理由

ーーーまもなく開催される『笑える絶望2』。目を引くタイトルですが、一体なにが行われるライブなのでしょうか。

三谷: 『街録ch』のVTRを東野幸治、吉村崇がツッコミまくってめちゃくちゃ笑えるショーにしてくれた後に、大森靖子がチャンネルの主題歌を本気で歌うライブですね。……すごくスラスラ言えました。今までで一番上手に説明できたかもしれません(笑)。そういうライブです。

ーーー芸人のおふたりに観ていただくVTRとはどんな内容なのでしょう。

三谷: 1000本近い『街録ch』過去作の中から、東野さんと吉村さんがイジったら面白そうな人を厳選して再編集しています。ツッコミやすいようにナレーションやテロップを入れ直しておふたりにぶつけてみよう、という感じですね。でもイベントのメインはむしろその後かもしれません。内容までは言えないんですけど、VTRがひと段落した後に『街録ch』に関連のある人が舞台に来てくれて……それが3部作の大ボリュームになっています。このパートについては、東野さんや吉村さんにもなにが起こるかまったく伝えてないんですよ。

ーーーご本人にもですか?

三谷: お客さんと同じタイミングでリアクションしてほしいので完全シークレットなんです。ライブが18時50分にはじまるんですけど東野さんたちにも「18時半入りで大丈夫です」と伝えてます(笑)。「打ち合わせはないので、起こったことに反応してください」と。

ーーー信頼されていますね。

三谷: もともと東野さんがMCをされていた『その他の人に会ってみた』(TBS)という番組で、僕がディレクターをしていたのが出会いのきっかけなんです。吉村さんはその番組の準レギュラーでした。自分が作ったVTRにおふたりがツッコミを入れてくれると、映像が3倍、4倍、5倍と面白くなるんですよ。あの体験をもう一度味わいたいと思って、去年からライブをはじめました。

ーーーなるほど。三谷さんにとって最強の布陣というわけですね。

三谷: 東野さんも吉村さんもいろんな現場で試されまくってきた方々じゃないですか。ホームじゃないバラエティの戦地でガンガン笑い取らなきゃいけない、というのを何十年もやってきたおふたりだからバラエティ力がとんでもないんです。なにも聞かされてなくても、即興で美しい合気道ができる……と僕は思っていますし、お客さんに一番見てもらいたいのもそういった部分かもしれません。

ーーー生で見ると、より凄みが伝わりそうです。

三谷: 去年のライブは大森靖子さんが歌われることもあって音楽周りのスタッフさんが多かったんですけど、皆さん口を揃えて「吉村さんがあれだけテレビに出続けている理由がわかった」と驚かれていたんです。吉村さんから出てくる“ちょうどいいタイミングのちょうどいい一言”みたいなものの凄みが、生だとビシビシ伝わるんでしょうね。僕なんかが知ってもらいたいなんて思うのはおこがましいんですけど、お笑い畑じゃない人にそう言ってもらえたのが嬉しかった。

ライブのきっかけをくれたのも、あの人だった

ーーー今回は2度目の開催になりますが、ライブそのものをやってみようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

三谷: 『街録ch』の登録者数が1万人になるぐらいのころに、東野さんにDMをさせていただいたんです。「昔、番組でお世話になったディレクターの三谷です。実は今こういうことやってるんですけど、よかったら話を聞いてくれませんか」と。東野さんは「なんでも協力するで」と言ってくれたんですけど、お話をさせていただく中で「『街録ch』の鑑賞会をやろうや」って提案をしてくれたんです。「俺らがツッコミやるからさ」って。

ーーー動画出演より前にライブのお話が出ていたんですね。

三谷: そうなんです。そのときは、せっかく稼働してくれるんだったらまずは普通にチャンネルに出てほしいなということで、動画の出演をお願いしたんですけど(笑)。

三谷: 動画が出て1年ぐらい経ったころに、東野さんがご自分のラジオで「『街録ch』で鑑賞会やりましょうとか言ってたけど、なんも話けえへんなあ。もう相手してくれへんのかなあ」ってボソっと言ってくれたんです。僕は常にエゴサーチしてるんで(笑)、ラジオを聴いてすぐにDMをさせてもらいました。「ラジオで聴いちゃったんですけど、やってくれるんですか?」ってお伺いを立てたら「全然やるよ」と。1回目はそんな感じです。

ーーー実際にライブをやってみていかがでしたか?

三谷: 東野さんとやっていた番組は収録現場に客入れをしていたんです。自分のVでお客さんが笑っている様子がダイレクトに伝わってくるんですね。一方でYouTubeは「面白かったです」とか「感動しました」っていうコメントはいただけるんですけど、画面の前の視聴者が本当に笑ってるのかどうかわからないじゃないですか。……目の前でウケるのってやっぱり嬉しいんですよ。ライブではあの生の体験をもう一度味わえたというのが感動的でした。一回目は草月ホールが満員になったので、今回はキャパを増やしてやろうかと思って……今集客に苦戦しています(笑)。

ーーーSNSなどで積極的に販売活動されているのをよくお見かけします。

三谷: 手売りしてみたり、TwitterでDMを送ってみたり、スペースに上がってもらったり……やれることはなんでもやっています。「5月24日空いてますか?」「空いてます」「お住まいはどちらですか?」「都内です」「え、来れますか?」「チケットはどこで買えるんですか?」「じゃあ、今DMで買えるリンク送りますね」というように(笑)。コツコツ売ってるって感じですね。

『笑える絶望2』メインビジュアル

芸人のすごい話術

ーーー『街録ch』は本当に様々な方たちがご出演されるチャンネルだと思うんですが、インタビューをするにあたって一般の方と芸人さんでは違いはあるものでしょうか?

三谷: 芸人さんは目の前で起きてることを自分なりに編集して伝える能力がとてつもなく高いですね。どこを切り取ってどう伝えるかという技術が半端じゃない。当たり前ですけど一般の方を取材すると、話が逸れたり説明が長すぎたりとかがザラにあるんですよ。そういうのはこっちで削ぐんですけど、 芸人さんの話は編集しなくても話が程よい尺で美しい構成になってる……のでこっちとしてはめちゃくちゃ楽です(笑)。

三谷: この前もアンジャッシュの渡部さんを取材したんですけど、2時間話を聞いたらその2時間がまるまる動画で流せたんです。話の密度とレベルがめちゃくちゃ高かった。動画を上げるとアンチコメントも多くついちゃうのかな、なんて思っていたんですけどそれは想像の半分以下ぐらいで、そのかわりに「ずっと飽きずに聴けた」というような、しゃべりのうまさに感動したリアクションが多かったんです。

三谷: 芸人さんでもいろんなタイプがいますよね。テレビに出まくってる方は話をコンパクトにまとめるのがうまいですし、ラジオをやってる芸人さんはしゃべるターンを与えれば永久にしゃべっていられて軽快に面白い。伝えることを生業にしている人たちなので技術が段違いだと感じます。取材をする側としてはその中から気になること聞けばいいので、インタビューが会話のやりとりみたいになって良いテンポになっているのかもしれないですね。

登録者数が100万人になるまで

ーーーチャンネル全体についてのご質問です。現在『街録ch』は登録者数100万人を超えるチャンネルとなっていますが、どのような流れを経てこのようなビッグチャンネルになったのでしょうか。

三谷: 今でこそいろんな著名人の方が出てくれていますが、最初は街中の方の話を聞くチャンネルだったんですよ。東野さんが初めての有名人でしたけど、そのときで登録者数が1万人ぐらいでした。

ーーー東野さんのご出演でチャンネル登録者数も大きく増えましたか?

三谷: 東野さんの出演直後に登録者数が爆発的に伸びるということはなくて。でもその代わりに出演オファーがかなり通りやすくなったんですよね。「東野幸治さんが出てるってことはチャンネルとしてちゃんとしてるじゃん」ってみんなが思ってくれるようになった。それまで返事がなかった人からも、東野さんの動画が出た直後にリアクションがあったり(笑)。それまではオファーをしても返事をしてもらえるのなんて数パーセントでしたから。

ーーー意外です。もっと反応してもらっているのかと思っていました。

三谷: 東野さんのおかげで30パーセントぐらいにまで増えたんです。その差は大きい。そのあと、ひろゆきさんがYouTubeの生配信で「下手な自己啓発本を読むぐらいだったら武井壮の『街録ch』を観たほうがよっぽど生きてくためになる」というようなこと言ってくれたんですよ。それを聴いたひろゆきファンが観に来てくれるようになって。ひろゆきさん効果で10万人ぐらい伸びました。

三谷: そこからは林真須美さんの長男の方や上祐史浩さんといった日本を震撼させた事件に関わったことがある人……林さんの場合は関わったというより加害者家族なんですが、そういう方たちの動画が話題になったときにブワっと登録者数が増えて。

ーーー振り返ると幅広くインパクトのある形が出演されてますね。

三谷: 芸人さんでいうとバッドボーイズの佐田さんに出ていただいた時期が一番登録者数の伸びがすごかったです。2年前の3月ぐらいに初めて出ていただいたですけど、当時は出す動画出す動画100万再生は当たり前の状態で。1日で登録者数が8000人ぐらい増えるとんでもない時期でしたね。そんなこんなで2021年に50万人ぐらいになって、100万人まではガーシーさんとか、自衛隊の五ノ井里奈さん、エイベックスの松浦さんに出ていただいて。出ていただいた全員のおかげではあるんですけど、そういう方たちのビッグウェーブが登録者数は伸びにつながったと思います。

取材をしまくった先で見つけた、ある結論

ーーー他のインタビュー記事で『街録チャンネル』には「人を殺してなければ出演可能」とおっしゃっているのを拝見しました。当時に比べてチャンネルの影響力も大きくなっていると思いますが、出演者の選出基準は今も変わっていませんか?

三谷: そうですね……こんなことを言ったらアレですけど、人を殺した経験ある方の応募がまだないのでなんとも言えないですけど……。最近、自分の息子の父親が死刑囚になったという女性から応募が来て、今度取材することになりました。彼女はシングルマザーなのでもう別れているけど、息子の父親は人を殺している。いつもは取材のための打ち合わせしないんですけど、今回は事前に少し話を聞いたんですよ。

三谷: その人はキャバクラで働いてて、付き合った人がヤクザだったらしいです。ヤクザの間で内輪揉めが起きて、リンチの末人が死んでしまった。彼女はヤクザに恐怖で支配されていたから死体遺棄の幇助をして、捕まっちゃったんですよ。リンチなんて誰が最後にとどめを刺したとかわからないじゃないですか。だから捜査が長引くんですよね。そんななか、取材をした方は、死体を埋める人を紹介をしただけだから刑が軽くて、自分だけ1年半ぐらいで刑務所から出てきちゃう。するとマスコミの被害が一気にこの人に集中したんです。それが辛くて薬物に逃げて、その後も何回も捕まっちゃったらしいと。そういう話をさせてくれってことだったんです。

ーーー壮絶な話ですね。芸人さんだけでなくそうしたさまざまな出自の方達を取材をされる中で、三谷さん自身になにか変化はありますか?

三谷: 『街録ch』の動画で世の中が変わってほしいとかは思ったことないんですけど、少なくとも自分の考え方は変わりました。このチャンネルに出てくる話ってかなりレアだけど、身の回りでまったく起こり得ない話かと言われると、それはどうなんだろうって考えちゃうんですよ。“キャバクラで働く”くらいなら、誰にでも起きるじゃないですか。そういう事例をこのチャンネルで何百通りと聞かされてるんで、出ていただいた人には悪いんですが反面教師にして自分の子育てに置き換えている部分はあると思います。放任すぎてもダメだし、かといって自分の考え方を押し付けすぎてもダメなんだなーー箱入り娘すぎて、援交デリヘルの元締めをやってた人もいるくらいなのでーーもちろん暴力を振るうのだっていけないし。あれをやったらこうなるかも、ああなるかもって考えるうちに、今は「何事も程よいのが一番大事なんだな」みたいな……すっごいつまんないですけどそんな結論に落ち着いています。

社会のためになってない動画ばかりなんで

ーーー『街録ch』の動画で世の中が変わってほしいと思ったことはない、と言われましたが、五ノ井里奈さんの動画は世の中への問題提起になったのではないでしょうか。

三谷: 最初は、どうせあの動画も世の中から無視されると思ってたんです。YouTubeの動画でしゃべったところで、『実話ナックルズ』ぐらいがちょっと食いついて終わりかなって。五ノ井さん自身、セクハラを受けましたって訴え続けたのに自衛隊からずっと無視されていたわけじゃないですか。でも蓋を開けたら動画をアップしてすぐにお堅い週刊誌が飛びついて、のちに地上波が全局報道するようになった。動画が出た3か月後には、自衛隊のトップの方々が五ノ井さんに記者の前で謝罪することになりました。

ーーー『街録ch』がひとりの人生を救った記憶に残る出来事でした。

三谷: 『街録ch』が社会正義のチャンネルだと言われることがあるですけど、それはそれでありがたいんですよ。でも僕は社会を変えてやろうと思って動画を上げているわけじゃないんです。あの件は五ノ井さんが戦い続けた結果で、だからチャンネルのおかげとも思ってない。何度も言っちゃってますけど、そうした大義名分がこのチャンネルにあるわけではないんです。そんなことを言い出したら、社会のためになってない動画がこのチャンネルにはいっぱいありますから。

ーーーたしかに、動画のジャンルが多いことも『街録ch』のひとつの特徴ですよね。

三谷: 不倫していた上司に寝取られ癖があって、AV女優になるかソープで働くか迫られた結果、断れなくてAV女優になったOLの方を取材したんですよ。後に彼女は40歳ぐらいまでSM嬢をやっていたらしいんですが「SM嬢って女王様だからそんなに体力を使わないんですよね。健康的に長く続けられる風俗なんです」なんて言っていて、こんな話って社会正義でもなんでもないじゃないですか(笑)。

三谷: でも僕は、こういうわけのわかんないことをしちゃった人の話を笑いながらツッコんだりしていたい。自分が面白いと思ってるからやめたくないんですよね。単純に、色々な人の聞いたこともないような人生を覗き見できるのが楽しくてやってるんですよ。ちょっと怖くてドキドキするノンフィクション映画を観させてもらってるぐらいの感覚なんです。

ーーーあくまでもチャンネルの役割は話を聞くということだけ。

三谷: もちろんヘビーな話も受け止めますよ。助けてくれと言われれば手を貸しますし邪魔もしない。ここでしゃべりたいと応募をしてくれるってことは、助けてくださいって言われているようなものじゃないですか。それに対しては、僕なんかでよければ応援はします。このチャンネルは僕個人でやっていて、気を遣わなくちゃいけないスポンサーもいないですしね。でも逆に言うと僕の態度はそれくらいでしかない。そもそも、社会正義を一番に置き出すと絶対につまんなくなると思うんですよね。企業とか組織のパワハラ、セクハラだけを聞くチャンネルなんて、面白くなさそうじゃないですか。面白いからやってる、『街録ch』ではそれが第一なんです。

文, 編集:福田駿

撮影:堀越愛

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