様々なバックグラウンドを持つ人物に、フリーのディレクター・三谷三四郎氏がインタビューするYouTubeチャンネル『街録ch』。取材した人数は800人以上、さらにチャンネル登録者数100万人超のビッグコンテンツである。
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2023年5月24日(水)、豊洲PITにて『街録ch』のリアルイベント『笑える絶望2』が開催された。告知されていたメイン出演者は、東野幸治・平成ノブシコブシ吉村崇・大森靖子の三名。また『街録ch』過去出演者から、個性豊かな面々が雛壇での観覧ゲストに名前を連ねた。約1,300席の客席を埋めるべく、手売りをしたり、無差別でDMを送ったり……三谷自らが足を動かし、チケットを販売していたことは『街録』ファンであれば皆知っているのではないだろうか。登録者数100万人超、かつ豪華出演者でありながらチケット販売が一筋縄ではいかなかった理由は、「イベント内容をほとんど告知できなかったから」かもしれない。
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実は、三谷は本イベントに大きな仕掛けを施していた。それは、出演者にすら「なにが起きるのか一切言わない」こと。出演者に伝えられていたのは、「これまで取材した人々のVTRを再編集し、ツッコミを入れてもらう」ことだけ。ゆえに、告知もできない。三谷以外の全員が「これからなにが行われるんだろう?」と思いながら、イベント『笑える絶望2』が始まった。
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※見逃し視聴は6月24日(土)23:59まで/販売は同日12時まで
三谷D、宙吊りで歌い上げる
18時50分、舞台上に登場したのは“宙吊りになった三谷ディレクター”だった。この演出に「40万円かかっている」という驚きの事実をサクッと暴露。前説だけは写真撮影OKということで、客席にいる千数百人がスマホを構える。大勢の人々がアイドルのように宙を舞う三谷を撮影するシュールな光景が、本イベントのスタートだった。
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シュールさを感じると同時に「このイベント、面白そうだぞ」というワクワク感も募る。なぜなら、宙吊りの三谷に客席全員が注目し、会場全体の集中力がグッと高まった感覚があったからだ。ここにいる全員が、これから起きることに期待している。宙吊りの三谷が『前説ADvance』(大森靖子)を歌い上げるのを見つめながら、そんなことを考えていた。
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脈絡一切なし!怒涛の演出
前説が終わると、東野幸治・平成ノブシコブシ吉村崇・大森靖子が登場。ここで三谷から東野に与えられた役割は、なんと「ちょこっとMC」。数々の有名番組でMCを勤め上げ、最近だと芸歴16年目以上のお笑い賞レース『THE SECOND』での立ち居振る舞いが記憶に新しい。そんな東野に対し「ちょこっとMC」と告げる三谷に対し、吉村は激高。それを「ええねん!」と軽くいなす東野。この無遠慮で怖いもの知らずのスタンスこそ、アングラな世界すらエンタメ化してしまう『街録ch』成功の裏側にあるポイントなのかもしれない。
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「ちょこっとMC」とされながらも、東野は本イベントの全編を通し名MCっぷりを発揮していた。ハプニングは優しくカバーし、笑えるように方向転換。東野を味方につけたことは、もしかしたら三谷最大の功績……なのかもしれない。
『笑える絶望2』は、6月24日(土)までアーカイブ配信を視聴することができる。これから映像を観る人もたくさんいるだろうから、なるべくネタバレは避けたい。ということで、イベント内で起きた特筆すべき出来事の、キーワードだけ紹介する。
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※見逃し視聴は6月24日(土)23:59まで/販売は同日12時まで
・チャンス大城がセクシー女優に扮し『東京BOY』熱唱
・女性に股間を踏まれたい「踏まれ屋」が登場。人生で初めて、人のケツを蹴る
・TKO、再起のコント
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・亀甲しばりされたTKO木下、尿のようなものを運ぶ
・人が変わったアンジャッシュ渡部、セグウェイに乗って登場
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・TKO木本、後藤祐樹に蹴られる
・臭豆腐に漬け込んだ靴下の匂いを嗅ぐ
……など
本イベントでなにが起きたのか、ひとことで語ることはできない。それほど、ひとつひとつに脈絡がない。ただ、とにかく面白い。クレイジーな企画が続く中、途中で気付くのは「どの演出にも意味はないのでは」ということ。複雑で重厚なコンテンツに見慣れると、どうしても「この演出の裏にはなにが?」と隠された意図を勘ぐってしまう。しかし『笑える絶望2』で起きたことはすべて、演出を手掛けた三谷の“思い付き”がそのまま反映されているように思う。飾らない、意味もない、でも勢いのある演出。これはある意味、出演者の人生を深掘りし、加工せず世に放つ『街録ch』らしい試みだ。
大森靖子、大迫力の熱唱
終盤には、死刑囚を親に持つ二人のVTRが流された。かつて40万再生(2023年5月時点)を記録した映像の、未公開版だ。
ここで語られたのは、絶対にこの二人からでなければ出てこない言葉。厳しい現実に直面し、絶望し、それでも各々のやり方で乗り越えてきた二人だからこその言葉である。あまりにも自分が置かれている状況と異なるため、共感することはできない。だけど腑に落ちるし、納得せざるを得ない。二人の語る言葉の重みに押しつぶされそうになりながら、だけどその端々に滲む希望を感じながら、『笑える絶望2』はエンディングへ向かう。
VTRが終わると、『街録ch』主題歌を歌う大森靖子が登場。
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『死神』、『Rude』(主題歌)の2曲を歌った。
会場では、迫力ある生歌そのものに胸を打たれた。帰宅して歌詞を見直し、あらためて衝撃を受けた。『死神』がここで歌われるということ。それは、三谷がたったひとつだけ仕込んだ、意味のある演出だったのかもしれない。つまり、二人への、そして抗えない運命に立ち向かうすべての人へのメッセージである。
普遍の延長線上にあるクレイジー
用意されていたすべてが終わり、出演者が再集結してエンディングへ。熱狂のまま、イベントは幕を閉じた。
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本イベントには、『街録ch』の過去出演者が雛壇ゲストとして参加している。女性専用セラピスト、局部以外全身タトゥーの男、パパ活で生計を立てる女性……など、一見すると「この人達、表に出てもいい人なの?」と思ってしまうバックグラウンドを持つ人々だ。よく話を聞いてみれば一人ひとりに理由があり、信念があり、共感できなかったとしても納得できる物語がある。
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それぞれの物語を知れば、全然怖くない。クレイジーではあるかもしれないけど、出演者たちは普遍の延長線上に存在している。彼らは区別されることなく舞台に上がり、パフォーマンスをし、観客たちはシンプルに“面白いから”笑っている。多くの人は、思っているより懐が深いし、理解力があるのかもしれない。嫌になることばかりの世の中だけど、そんなに捨てたもんじゃないかもしれない。
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ディレクター三谷自身には、そんなに深い意図はなかったのかもしれない。けれど勝手に希望を抱きながら、帰路についた。
文:堀越 愛、写真:『街録ch』提供