新・GAGに向かう第一歩。3人の演出家と“コント”に向き合う「GAG企画室『×魅力人』」直前インタビュー

2023年12月14日(木)、ユーロライブにて「GAG企画室『×魅力人』」が開催される。

フライヤーデザイン:しらたき

これは、演劇団体「桃尻犬」の野田慈伸、「贅沢貧乏」の山田由梨、「劇団アンパサンド」の安藤奎がGAGのコントを新たに演出するライブ。今年8月に始動した「福井俊太郎(GAG)プロジェクト」が企画・制作をするもので、3名の演出家に加え、映像は『ハイパーハードボイルドグルメリポート』で知られる元テレビ東京の上出遼平、公演ビジュアルはしらたきが担当。公演では、様々な「魅力人」の才能がGAGと掛け合わさった化学反応を見ることができる。

※福井による「コントの幅を広げる」ためのプロジェクト。詳細はコチラから

本番を直前に控えた12月10日(日)、稽古を終えたGAGにインタビューを決行。3名の演出家に「コントを演出してもらう」という新たなイベントを通じ、なにを感じているのか、そしてなにを実現しようとしているのか話を聞いた。

「おじさんコントトリオ」としての第一歩

———「GAG企画室『×魅力人』」は、「福井俊太郎(GAG)プロジェクト」が発端になった取り組みだそうですね。

福井俊太郎(以下、福井): そうですね。「GAGの演技をレベルアップさせたい」と思っていて、それをBOSS(チーフマネージャー)に相談したんです。そうしたら「気になる演出家の方にお声がけして、GAGのコントを演出してもらうイベントにしてみるのはどうですか?」と提案いただいて。

———GAGさんは、大阪時代からずっと劇団「突撃金魚」のサリngROCKさんに演技指導をしていただいているそうですね。レベルアップのためにほかの方の視点も入れよう、ということでしょうか?

SJ: サリngさんは大阪の方なので、僕らが東京所属になってからなかなか密にご一緒することができなくなってしまったんですよ。

福井: 今後も、今までと同様サリngさんにはお世話になる予定です。ただ、2024年はひろゆきが40歳になってGAGが全員40代に突入するので、あらためて“おじさんコントトリオ”として新しく踏み出したいなと思っていて。

———コント師が演劇の方に演技指導してもらうことって、よくあることなんでしょうか?

福井: 僕らのほかには聞いたことないですね。でも僕らはサリngさんに10年以上稽古をつけていただいているので、ご一緒することにはまったく違和感がありません。

「劇団アンパサンド」安藤奎による稽古の様子

———そもそも、なぜGAGさんは演劇の方に演技指導をしていただいているのでしょうか?

福井: 演技が得意ではないからですね。大阪に、知る人ぞ知る名物監督・トクナガさんという方がいるんですよ。GAGはその方によくしていただいていて、とある打ち上げの席で「絶対に演出家を付けたほうが良い」と言われたんです。

SJ: マッコリの樽、2つくらいあけて言ってたよね(笑)。

福井: かなりパワフルでエネルギッシュな方で、マッコリの樽をあけながらそう言ってくださって(笑)。僕らも最初はピンと来ていなかったんですけど、飲み会が終わってもずっとその言葉が頭にあったんです。で、「大阪 演劇」みたいなワードで調べていろんな劇団のHPを見て、突撃金魚さんを知ったんですよ。DVDを取り寄せてアフタートークを見たら、サリングさんがめちゃくちゃ良い人そうで(笑)。それで、お願いするようになりました。

———SJさんとひろゆきさんは、「GAGのコントを新しく演出してもらう」という企画を聞いたときどう思いましたか?

SJ: サリngさんに大阪でやっていただいていたようなことを東京でもやりたいと思っていたので、話を聞いたときは「ありがとうございます!」という感じでした。ただ、正直不安はありましたね。福井、BOSS、両國さん(マネージャー)、秦君(GAG制作)は演出家の方と打ち合わせをしてるんですけど、僕らは会ったことの無い状態で決まっていたので。どういう人なのか分からないままいろいろ進んでいったので、不安はありました。ただ、「ありがとうございます!」のほうが大きかったですね。

ひろゆき: 僕がこのイベントのことを知ったのは、情報解禁の少し手前くらいなんです。だからお客さんとほぼ同じタイミングで知りました(笑)。知らないところですごく大きなプロジェクトが動いていた感覚です。

白熱の打ち合わせ日、ひろゆきは……

———今は、本番に向けて何度も稽古を重ねていると思います。初稽古後は、どんな感想を持ちましたか?

ひろゆき: 刺激と速度がすごかったですね。今まで僕は「福井君が考えた台詞を一言一句覚えて、サリngさんが付けた動きを舞台上に再現する」という流れでずっとコントに取り組んでいたんですよ。でも今回は、3人の演出家の皆さんに“自主性”を求められる場面もあって。「演技をしていると、台詞ってそのときによって細かく変わると思うんですけど……」みたいなことを言われて、「ピンチだな」と思いましたね。

提供:福井俊太郎(GAG)プロジェクト

福井: 僕もひろゆきさんのプレーを見て、そう感じました。19年間「言われたことを完全にコピーする」ことを頑張ってきた男の軌跡を3人はご存じないので、「ある程度言ったらできるだろう」という感じで演出を付けられるんです。でもひろゆきさんは「これはどんなふうに動いたらいいですか?」「ここにいるとそこに行けないんですけど」とか、全部を聞くんですよ。正直、「そこまで聞くの!?」とイラっとしている方もいると思います(笑)。

SJ: ひろゆきさんの良いところでもあるんですけど、本当にロボなので「やってみてください」と言われないとスタートしないんです。今日も全然動かないので、「そろそろ行けよ」と思ってました(笑)。演出家の方にも「この人は本当にロボットなんだ」とバレたかもしれません。

福井: バレたほうが良いとも思います。こっちから「ひろゆきさんは全部指導してください」と言うのも違いますし(笑)。

ひろゆき: ある演出家の方には、初回稽古ですぐに見抜かれました。ふたりのいないところに呼ばれて、「今までは“決められた台詞を言う”ことをされてきたと思うんです。先ほどの稽古でも“自分の言葉”を言うことをすごく躊躇されてましたけど、そこは遠慮せず言ってください」と言われました。「稽古でやってダメだったら削れば良いので、躊躇せずに」と。ただ、今日も「ここは僕から動くべきだ」と思ったタイミングがあったんですけど、それをして良くない方向に行ったらいけないので「指示を待とう」という結果に……。

福井: ボタンさえ押してもらえれば動けるんですけどね。

ひろゆき: 自主性が大事やっていうことは分かったんですけど、あまりにもそうし過ぎるのも良くないという……僕は今、その段階にいます。

———SJさんは、初回稽古はいかがでしたか?

SJ: 僕は、初回に「今後GAGとしてやっていくにあたって、僕にはこういうことが必要なのでそこを厚めに稽古つけてください」と直接お伝えしました。例えば、GAGで普段“ガーン!”と出ていくのは福井なんですけど、そういう力を僕も付けたい。でも僕にはキレるとか「うわ~!」とか言うことが似合わないので、僕なりに“ガーン!”とできるやり方を見つけていきたいんです。今回のイベントを通して「ヒントになるものを見つけたいと思っている」とお伝えしたら、皆さん優しいので「こういうのはどうですか」とか言ってくれるんですよ。早めに腹を割ってお伝えして良かったですね。

———福井さんはいかがでしょうか?Artistspokenのお話を聞くと、稽古前の打ち合わせからものすごい情報量だったようですが……

※ネットラジオ『お耳から良い夜を』(毎週金曜日21時配信/有料)

福井: 稽古がはじまってからは、スッと進んでいると思います。ひとつのゴールに向かって走る感じになりますし、3人ともすごく勘の良い方々なので稽古がはじまればスムーズです。ただ最初の打ち合わせをやったときは、かなり身体に堪えましたね(笑)。パワフルな方々ですし、お互いの考え方や僕らが今までやってきたことをすり合わせる時間はめちゃくちゃ疲れました。BOSSも、山田さんとの打ち合わせで急に熱くなって泣き出して……「GAGに少しでも長くお笑いを続けてもらいたくて」と言ってるんですけど、いやいや解散するんじゃないのにと(笑)。山田さんも初めて会ったチーフマネージャーが涙を流してるんで、「その熱い想いは受け取りました!」みたいな。なんだかパラレルワールドみたいでしたね。「現実か?ここは」みたいな。この企画を進めている中で、1番カロリーを消費したのは打ち合わせの日でした。

SJ: その後日、福井が僕らに集合をかけたんですよ。そこで「お前ら、そんな覚悟でいけると思うなよ」という話がありました。まわりの本気度を見て、「ひろゆき、SJ、この『魅力人』は甘く見たらダメだぞ、気合い入れろよ」と。

福井: 僕はその話をしたことを覚えてないんですけど……(笑)。でも「甘く見ていたらやられる」とは本当に思いました。

ひろゆき: 僕は福井君が顔合わせをしている日、靴を買いに行ってたんですよ。で、そんな白熱した打ち合わせをしてるなんて知らず、BOSSに「この靴どう思いますか?」と相談の連絡を入れてて。いつもめっちゃ返信早いのに、その日だけ既読スルーやった。

SJ: 靴をBOSSに聞くってなんや(笑)。

福井: 打ち合わせより異常な話や。

細かい変化がちりばめられたコントに

———本番を楽しみにされているお客様に向けて、メッセージをお願いします。

福井: 今回のイベントは、多分皆さんが想像しているようなものではないと思います。でも、絶対に良いものです。今までと空気が違いすぎるので、その心持ちだけ準備してきていただけたらありがたいですね。ただ僕らの想いは絶対に伝わると思うので、安心してください。面白いものは見れると思います。

SJ: 僕は、満足してくれるお客さんが多いと思います。僕らの元々のネタを知ってくれている人が多いと思うので、「ここがこう変わったんだ」とかめっちゃ面白いと思う。ただ1回じゃ分からないくらいそういう部分があるので、「おいおい、ついていけん」となるかも。1回見ただけじゃ、本当に分かんないと思う。

福井: そうですね。1回では理解できないかもしれない。

SJ: 最初に見るときは「ここが変わってる」という面白さがあると思うんですけど、分かりやすい変化以外にも本当に細かいこだわりがちりばめられてます。例えば、こっちで僕がやってることも元のコントと変わってるし、あっちで福井君がやってることも変わってる、みたいな。だから『ウォーリーをさがせ!』的な感覚で見ていただきたいですね。

福井: アフタートークで振り返りをするので、それを踏まえてもう1度見ていただくのも良いかもしれません。

ひろゆき: 僕らがGAGでコントをやっていくうえで、新たな一歩目のイベントになると思います。僕個人としては、今までの僕を知ってくれている人には「鉄のボディーだったロボットがアルミくらいの柔らかさになった瞬間」を見てほしいですね。新たにやっていくぞ、という決意をもって挑みます!

文, 編集, 撮影:堀越 愛

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