2020年は『真空ジェシカのラジオ父ちゃん』のレギュラー化や『M-1グランプリ』などで注目を集めた人力舎所属の若手芸人・真空ジェシカ。インタビュー前編では大学時代のお話や賞レースとの向き合い方をお聞きしました。(前・後編の前編/後編へ)
コンビ結成前の印象、コンビ結成後の気付き
—お二人は大学3年生の頃に真空ジェシカを結成されたそうですね。コンビ結成前の大学1、2年の頃はお互いのネタに対してどんな印象を持っていましたか?
ガク: とがってる印象はそのときはなかったです。めちゃくちゃストレートな「設定×設定」の掛け合わせ漫才をしていて。「真摯にネタに取り組む男」ですね。他のサークルの人とかと馴れ合いもせず、とにかくネタ職人みたいな感じでしたね。
—川北さんはガクさんについてどんな印象を持っていましたか?
川北茂澄(以下、川北): そのときは相方がすごい髪を伸ばしていて、バッハみたいな髪型をしていて。
ガク: パーマとかかけてて。
川北: すごい世界観のあるやつだなと思ってたんですけど。でも今はまことさんみたいな髪型なんで……。
ガク: シャ乱Qのね。
川北: 世界観は全然なくなってしまったんですけど。
ガク: まことさんも巻き込むなよ。「まことさんみたいに世界観がない人」っていう感じになっちゃうから。
川北: でも、昔からリズムネタは愛してやまないんで。音楽家っていうところは変わっていないのかなって思いますね。
ガク: いや、僕、音楽家としての世界観でやったことないから。
川北: バッハであり、まことであり(笑)。
—お互いの人柄にはどんな印象がありましたか?
ガク: 大学生のときはプライベートで遊んだりとか、そういう付き合いはしてないですね。連絡をとるとしても「こういう大喜利の投稿サイトがあるからやろうぜ」みたいな。飲みに行ったりとかもなく。
川北: ないですね、たしかに。
—川北さんはガクさんの人柄にどんな印象がありましたか?
川北: 大学のときはすごい面白いやつだったんですよ。
ガク: 「大学のときは」って。過去形にしないで。
川北: すごい面白かったんですけど、それもマヂカルラブリーさんのパクリをしてただけだったっていう…。
ガク: そんなことないよ。
川北: そのときから人柄にはあまりいいものは出てなかったです(笑)。
ガク: (笑)。そこは別に人柄じゃないから。憧れが芸風に出ちゃっただけで。
川北: 俺が気付いてなかっただけで。
ガク: そうね。ネタを見て一発目でサツマカワRPGには「マヂカルラブリー好きでしょ」って言われたけど。
川北: 言われたらしいけど。俺は普通に面白いと思っちゃってて。
ガク: (笑)。
—コンビを結成してみて、それまで持っていたお互いの印象は変わりましたか?
川北: えー、なんですかねぇ……。でも、もうちょっと面白いやつなのかなと思ってて……。
ガク: いや、結果「面白くなかった」で終わってんじゃん。
川北: そうですね。
ガク: いや、面白いやつだよ。
川北: 僕が過大評価しすぎてたせいなんですけど。
ガク: そんなことないよ。
川北: 彼は悪くないんですけど。世界観がある髪型をしてたので、僕が勝手にそう思っちゃってて。
ガク: なんだ?僕は今、誰に怒ればいいんだ?
川北: 面白いかなと思ってたんですけど。思ったより意思がなかったですね。
ガク: 意思はないよ。しょうがない。
—ガクさんは川北さんに持っていた印象は変わりましたか?
ガク: 思ったよりこだわりの強い「ややこし男」ではありましたね。コンビを組んですぐ、漫才をやったときに「はいどうもー」とか「もういいよ」を言いたくないって言われて。最初は「固定概念を持たずに自分の自由にやりたい」、「人のやっていることを真似したくない」みたいなかっこいい感じで考えてたんですけど、特技があるのにそれでテレビからオファーが来ても出たくないとか、足を引っ張っている部分が徐々に見えてきて。憧れる部分もある反面、めちゃめちゃ苦労する生き方をしてしまっているなって感じますね。組んだ当初は気づいてなかったですけど。
大学時代、『R-1ぐらんぷり』とYCCでの経験
—川北さんはフリップネタで卒業論文を書いたそうですが、どのような内容でしたか?
川北: 完全に「フリップネタ」を出しましたね。ファイル形式で提出しなきゃいけなかったんで当時ピンでやっていたネタを写真で撮って、Wordにそのまま貼り付けて、下の方に「これはデシリットルの弟子ですね」とか書いて。そういうのをいっぱいやって提出しましたね。
ガク: ただただネタだけを提出したの?研究っぽくしたとかではなく?
川北: そうですね。フリップネタを出しましたね。あ、でもタイトルは一応「研究」ってつけたけど。
ガク: (笑)。
川北: タイトルではじかれちゃうから。一応見てほしいんで。
ガク: タイトルさえ通れば(笑)。
川北: そのときちょうど『R-1』準決勝前で、「『R-1』と卒論、どっちが大事だ?」と思ったらどう考えても『R-1』だったんで(笑)。じゃあネタを見てもらおうと思って提出しましたね。
—ガクさんは大学2年生のときにYCC※に通っていたそうですが、なぜNSC※ではなくYCCに通ったのでしょうか?
※YCC:よしもとクリエイティブカレッジ。ライブの裏方を養成する吉本の学校。
※NSC:吉本総合芸能学院。お笑い芸人を育成するための養成所。
ガク: そもそも川北に誘われるまでは芸人になろうとは思ってなかったんです。大学生のときに就職のことを考えたら、お笑いサークルに入ってたこともあってお笑いの仕事ができたらいいなと思って。それでなんとなく通いました。でも周りは結構ガチで仕事をやりたい人ばっかりで。その中で僕は何の覚悟もなく行ってしまったんで、何も学ぶことなく……。生徒たちで作ったライブが卒業制作的な感じであるんですけど、袖で道具出しをしながら圧倒的に演者の方が楽しそうだなと思って。だから得たものは「演者楽しそう」っていうことだけでしたね。
人力舎にスカウトされていなかったら「Everybody」になっていた?
—お二人はスカウトで人力舎に入り、今に至るまで芸人として活動をされていますが、もしスカウトをされていなかったら大学卒業後、どんな進路を選んでいたと思いますか?
ガク: 芸人やるならNSCに通ってたと思います。
川北: そうですね。僕もNSC入ろうと思ってて。NSCに入ってたら芸歴が1年遅れてるので……。たぶんNSCでかわなみchoy?(NSC東京18期生)とかとしのぎを削って。
ガク: Everybodyのね。
川北: Everybodyになってたかもしれない。
ガク: なってねーよ、絶対(笑)。でも養成所デビューしたかったんでしょ?
川北: そうですね。だから全然嘘でもないですね。
ガク: 本当に、明るくなろうと思ってたってこと?
川北: 明るくなろうというか……。なんて言うんですかね。「明るくなろう」とは全然違うってことだけ伝えておきたいんですけど(笑)。
—殻を破る、みたいな感じですか?
川北: ちょっと言い方難しいんですけど。「明るくなろう」とは違うっていうところだけは覚えてほしいですね。
ガク: 知りたいな。どうなりたかったのか。
—ガクさんも大学を卒業したら養成所に入ってそのまま芸人になるというイメージでしたか?
ガク: そうですね。養成所は友だちがたくさんできそうで楽しそうじゃないですか。そういうのをやりたいなっていうのはありましたね。
友だちに早く売れてほしい
—同世代で意識している芸人さんはいますか?
川北: それはかわなみchoy?以外で、ですか?
—以外で(笑)。
ガク: 意識したことないだろ。かわなみchoy?。
川北: かわなみchoy?以外だったらタクトOK!!になりますね。
ガク: Everybodyじゃねーか(笑)。いや、我々TikTok界隈で戦ったことないから。意識したことないのよ、Everybodyを。
川北: でも人柄が全然見えないですもんね。どうなんだろうっていうのが気になりますね。
ガク: ああ、どういう人なんだろうって。
川北: 人柄が見えない人とかすごい興味あります。
ガク: あー、そう。意識してるのそれは?芸人としてではなく、ただ気になる人として……。
川北: 気になる人として……。
ガク: 求められてないから。そんな回答。
—ガクさんは気になっているというか、ライバルというか、意識している芸人さんは……
ガク: いや別に質問間違えてなかったですよ(笑)。オズワルドが同期で、M-1で2年連続で決勝に出ているのを見ていると「悔しい」じゃないですけど「頑張らなきゃな」とは思わされます。空気階段も同期で、めちゃめちゃ人気あるしテレビでもめっちゃ見るんで、焦っていないんですけど「同期が頑張っているからどうやら焦んなきゃいけないらしいぞ」っていう気持ちまでたどり着きました。
—川北さんはライバル視している芸人さんはいますか?
川北: 僕はいないですね。焦りとかが全くなくって……。なんなら友だちにさっさと先に売れておいてほしくて。一生に一回しかテレビに出られないってなったら「早く出たい」じゃなくて、友だちがいっぱいいた方がいいと思うんで。そういう番組の方が絶対楽しいし、面白いと思うんで。
ガク: じゃあ、番組の核を担うのは友だちにやってもらって……。
川北: だから早く売れてやりやすい環境を作っておいてほしい。ちょっともたもたしすぎていますね、周りが。
ガク: (笑)
川北: もうちょっと早くしてくれないと。
ガク: うん。まあ、同世代ですごい売れてるみたいな人はいないもんね。
川北: フックアップしてもらいたいもんな。そうしたら楽勝じゃん、番組が。
ガク: (笑)。先駆けたくはないんだ。
川北: 番組に呼ばれても「おもんない」って思われたら呼んでもらえなくなるかもしれないからね。
ガク: まぁ、そうかぁ。引き上げてほしい。
川北: そうそう。友だちに早く売れてほしいと思ってますね。
マネージャーへの絶対的な信頼感
—他の芸人さんと比べて、これなら負けないという自分たちの強みや特徴は何だと思いますか?
ガク: さっき川北が言っていた「焦りがない」は、弱いところでもあるかもしれないですけど、強みになりうる感じはしますね。焦っていない分のびのびやれているというか。
川北: ゆとり教育ど真ん中だったんで。ゆとりまくってるよな。
ガク: 逆に、熱い、ガツガツした感じを出せないんで……。他と差別化できる部分ではあるような気はしますね。
川北: あとはやっぱりマネージャーが強みでもありますよね。
ガク: どういう意味で?
川北: すごい自由にやらせてもらっていて。たぶん他の事務所だったら「そんなこと言わずに行け」みたいな仕事もあったりするんですけど、結構断らせてくれるんですよ。
ガク: いい仕事だとしても。
川北: あと謝るのがすごい上手なんで……。
ガク: 上手とかじゃない。上手になってしまった。まあね、いろいろ…。佐藤マネージャーはキングオブコメディさん担当してたりとか、アンジャッシュさん担当してたりとかでね(笑)。謝罪ができるようになってしまった。
川北: 絶対的な信頼感みたいなものがある。ゴリゴリの体育会出身なんで喧嘩も強いですし(笑)。
ガク: 体がっしりしてるし(笑)。いや違う。「最悪マネージャーに謝ってもらえばいいや」と思ってやってるの?
川北: いや。でもラッキーで。佐藤さんみたいな人がマネージャーをやっているっていうのが強みですね(笑)。
ガク: 自由にやらせてもらえるっていうのがあるからね。
川北: まあ、人力舎の社風なのかもしれないですけど。
絞るのが好きなのかもしれない
—2020年は『M-1グランプリ』に専念するために『ABCお笑いグランプリ』にはエントリーしなかったと聞きました。『M-1』に対する意識が変わったきっかけは何ですか?
川北: もともとは全部出てたもんな。『歌ネタ王』も出てたし、『キングオブコント』も出てたし。単純にネタ数が少ないっていうのもあるんですけど、大学受験で私立文系だったっていうのもあって絞るのが好きなのかもしれないですね。「一点突破かっこいいな」みたいなところがあって。今は『M-1』に絞ってるんですけど、この前(2020年)は2回戦がすごい評判が良かったんで2021年は『M-1』の2回戦に絞って1年間やっていきたいですね。
ガク: 絶対やめたほうがいいよ(笑)。
川北: そこから徐々に準々決勝、準決勝って活動の場を広げていけたらいいかなと思ってますんで。
ガク: いや狭いって(笑)。活動の場が。
川北: もっと絞りたいぐらいですね。
—『M-1』に一本化したということですね。ガクさんはそう聞いたときどう思ったんですか?
ガク: 僕はもう、それを聞いて「あ、そうなんだね」って言うことしかしてないですね。「ABC出ないよ」って言われて「あ、へぇ~」って(笑)。
川北: 一応許可を得てはいるんですけど。「お前が出たいって言うなら出るよ」って言うんですけど「別にどっちでもいい」っていう言葉が返ってきたんで「じゃ、いっか」って。
「引き出物」に勝った
—先ほど『M-1』の2回戦が好評だったというお話もありましたが、2020年は『真空ジェシカのラジオ父ちゃん』のレギュラー放送が始まり、『M-1』準々決勝敗退時にTwitterのトレンド入りを果たすなど、お笑いファンからの注目度がぐっと上がった1年だったように思います。
川北: はい。そうですね。
—注目されることは追い風にもプレッシャーにもなりうると思いますが、お二人はこの1年の自分を取り巻く環境の変化をどのように感じていますか?
川北: そんなに変わってないよな。
ガク: そうですね。
川北: 本当に『ラジオ父ちゃん』ぐらいですね。あとはこんな感じでインタビューしていただくことがちょろちょろあるくらいで、別にあんま変わってないんで。
—仕事の内容はそんなに変わっていない?
川北: 変わっていないですね。
ガク: あんまり変わっていない……(笑)。
川北: でも『M-1』に負けたときTwitterのトレンドに入ったのがすごく嬉しくってね。そのとき一瞬だけトレンドランキングで「引き出物」に勝ったんですよ。すごい嬉しかったですね。
ガク: 「引き出物」もトレンドに入るのは相当すごいよ。今更ピックアップされることないから。
川北: そう。引き出物は『M-1』負けてないからね。だから引き出物が『M-1』負けてたらと思うとゾッとしますね。
ガク: (笑)。なんで引き出物を一番ライバル視してんの?
川北: 引き出物は普通にやっていてトレンドに入っているからね。
ガク: もうバズりきってるもんね。引き出物なんて。
川北: トレンドに入ったのは嬉しかったですけど。でも特に何も変わっていないですね。
—ラジオへのメールの数が増えたとかもないですか?
川北: 小沢さん(スピードワゴン)が名前を出してくださったりとかで増えたんですけど(2020年2月29日放送『ゴッドタン』、「お笑いを存分に語れるBAR3」にて)。そこからはずっと横ばいなんで。もうちょっと小沢さんに頑張っていただきたいですね。
ガク: まず自分たちが頑張るんだよ。
—『真空ジェシカのギガラジオ』(Youtube)の再生数が増えているように見えるのですが。
ガク: へぇ~。
川北: あれは動画のタイトルをつけるようにしたら……。
ガク: その工夫が。注目度とかじゃなくて。
川北: だと思ってます。俺は。
—ガクさんは何か感じたことや嬉しかったことはありましたか?
ガク: Twitterのトレンドに入ったのは嬉しかったです。でも、なんでなのかがあんまりよくわかっていないんで。なんで去年だけ注目されたのかっていうのが。「不思議だなー」ぐらいに思ってます。あとは配信とかライブのチケットが売れるようになってくれたらラッキーぐらいの感じですね。
川北: でもそれはあれじゃない?やっぱ四千頭身と一緒の動画にしてもらえた※から。
※『M-1グランプリ2020』2回戦の動画は数組ずつまとめて公開され、真空ジェシカの2回戦のネタは四千頭身と同じ動画にまとめられていた。
ガク: あー。それはあるね。
川北: だから四千頭身のおかげでもありますね。
—四千頭身の漫才を見ようと思った人が真空ジェシカの漫才を見て「面白いじゃん」ってなったっていうことですかね。
川北: やっぱ、わけのわからんやつがちょっとだけ面白かったら「思ったより面白い」でみんな褒めてくれるんですよね。だからラッキーでしたね、それは。
【後編を読む】おじいちゃんおばあちゃんも手を叩いて笑うような漫才師になりたい
<真空ジェシカ|プロフィール>
2012年5月結成。プロダクション人力舎所属。
右:ガク(本名:川俣 岳/かわまた たける)
1990年12月3日生まれ。172cm/49kg。B型。神奈川県出身。趣味・特技は妖怪の知識。青山学院大学卒業。
左:川北 茂澄(かわきた しげと)
1989年5月23日生まれ。B型。172cm/55kg。埼玉県出身。趣味・特技は野球観戦(埼玉西武ライオンズ)・日本習字(八段)・剣道(三段)・ぷよぷよ(大分5位)。慶應義塾大学卒業。
★公式プロフィール:http://www.p-jinriki.com/talent/shinkujesica/
★真空ジェシカ公式YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCePaZ2UkSfEUarY2HNm52fw/featured
INFORMATION
PERFORMERS
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真空ジェシカ/ガク
-
真空ジェシカ/川北 茂澄