2025.01.03

【南翔太『御何様』インタビュー】人生に影響を与えた漫画7選「今は失われた数年間を取り戻すように漫画を読んでいる」

南翔太による連載『御何様』の継続決定を記念し、2025年1月18日～2月18日の1ヶ月間、豊島園にある漫画立ち読み店「トシママンガスタンド」に「南翔太の人生に影響を与えた漫画」を紹介する展示コーナーを設置する。

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『御何様』は、南による写真＆文章の連載。2024年6月にスタートし、本来は全6回の予定だったが、好評につき継続が決定した。「トシママンガスタンド」店主が本連載の読者だったことがきっかけで、継続記念に店舗とのコラボレーションが実現。グッズお渡しイベントを2日間開催するほか（チケットは売切／グッズはオンライン販売中）、期間中は店舗に「南翔太の人生に影響を与えた漫画」棚を設置する。なお、入場料300円を支払えば「トシママンガスタンド」の漫画は立ち読みし放題（1月18日／2月8日は貸し切り営業のため入場不可）。コラボ期間中に店舗を訪れ、南セレクトの漫画を読んでみては。

この記事では、南が選んだ7作を、読んだ時系列に沿って紹介する。

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南翔太の人生に影響を与えた漫画 7選
①『ダレン・シャン』（作者：新井隆広／原作：ダレン・シャン）
②『BECK』（作者：ハロルド作石）
③『おおきく振りかぶって』（作者：ひぐちアサ）
④『3月のライオン』（作者：羽海野チカ）
⑤『進撃の巨人』（作者：諫山創）
⑥『チェンソーマン』（作者：藤本タツキ）
⑦『チ。-地球の運動について』（作者：魚豊）

【読んだ時期：中学時代】『ダレン・シャン』（作者：新井隆広／原作：ダレン・シャン）

元々、小学生のときに小説版を読んでたんですよ。僕が初めて読んだ小説が『ダレン・シャン』でした。けっこう長い（小説版は全12巻／外伝を含めると全13巻）んですけど、4回くらい読み返しました。で、漫画が出たということで読んだのが中学生くらいやったと思います。

『ダレン・シャン』は初めて読んだ本ということもあって、新鮮に「すげえな」と思いながら読んでました。伏線回収というものを始めて目の当たりにしたのも『ダレン・シャン』です。「人ってこんなん考えんれんねや」と思いました。

主人公の師匠的ポジションで、クレプスリーってヤツがいるんですよ。その人が闇落ちしたライバルについて「ヤバいヤツは恐れるでもなく怒るでもなく、とにかく離れたほうが良い」みたいなことを言うんです。これがめっちゃ刺さったんですけど、実行できたことはないです。キモいヤツがいたら、普通にめっちゃ怒っちゃうので。そういうとき、冷静になると毎回クレプスリーのことを思い出します。

当時、ファンタジー作品では『ハリー・ポッター』シリーズがめっちゃ読まれてました。でも、ハリー・ポッターは読んだことないです。ダレン・シャンで逆張りしてました。たぶん、ダレン・シャンのほうがおもろいと思うんですよね。豊島園（イベント開催場所である「トシママンガスタンド」の所在地）にはハリー・ポッターの施設がありますよね。ダレン・シャンにすることは無理ですか？ダレン・シャンやったら、もっと来るんすけどね。

『ダレン・シャン』は、僕が本にハマったきっかけでもあります。小学生でも読めるし、「おすすめは？」と聞かれたらこれですね。

【読んだ時期：中学時代】『BECK』（作者：ハロルド作石）

実家の近所にブックオフがあって、中学生のころ死ぬほど立ち読みしてました。なんとなく、誰に勧められるでもなく読んでハマったのが、『BECK』です。ハマって、ベタにギター買いました。結局、1回も鳴らしたことはないんですけどね。漫画読んでなにかを買うみたいなこと、人生でこの1回しかないです。それくらい喰らいました。

『BECK』には「南竜介」ってキャラが出てくるんですけど、僕の弟が「南リュウタ」なんでちょっと近いもんを感じてます。しかも、南竜介はずっと居候みたいなことしてる人なんすよ。思い返すと、僕はずっと居候してるし、南竜介の人生をなぞってる感じもある。あとになってから、余計『BECK』を好きになった理由がわかるというか……フラフラしてる感じが似てます。あと、単純にヒロインが可愛いです。

ギャグっぽい要素もあっておもろいです。この作者が、『ゴリラーマン』とか『ストッパー毒島』とかギャグっぽい漫画も描いてるんすよ。それに比べたら『BECK』はギャグは少ないんですけど、要素はあっておもろいです。

『BECK』を参考に、コントをつくったこともあります。音楽の漫画って、音聞こえないのに表現するじゃないですか。そこから発想して、歌うシーンで口パクで歌って、片方が「なんていう声だ！」みたいなことをやりました。自分が歌上手かったらそのまま歌ったんですけど、上手くないので。「歌上手いネタどうしよう」と思ったとき、「『BECK』みたいな感じでやろう」と思いました。そして、ヒロインが可愛いです。

【読んだ時期：中学時代】『おおきく振りかぶって』（作者：ひぐちアサ）

これも、ブックオフで立ち読みした漫画です。野球やってたんで野球漫画好きなんすけど、『おおきく振りかぶって』はけっこう細かい。『タッチ』も野球漫画ですけど、どっちかと言うと青春寄りなんですよ。でも、これはめっちゃ野球。描写がめっちゃ細かくて、取材の量えぐいんやろなと思います。野球やってた人のほうが、分かる漫画やと思いますね。

で、漫画のなかで全然時間が経たない。何巻も出ててめっちゃ成長してるのに、ずっと1年生なんです。心配にもなるっすね、1年生の間でこんだけ成長して、2年・3年大丈夫か？って。

あと、野球のことをめっちゃ細かく描いてるわりに、女子も好きそう。狙って描いてるのかわからないですけど、“推しカプ”とかできそう。俺はベタですけど、“三橋・阿部ペア”が推しカプです。バッテリー組んでる二人で、自信のないピッチャーをキャッチャーが「もっと自信もてよ」みたいに励ましてエースにしていくんですよ。

主人公無双系じゃないのも良かったです。中学時代、主人公はおじいちゃんが学園の経営者ってことで、コネでピッチャーをやってたんですよ。で、打たれまくって「お前のせいで負けまくりだ」といじめられてたんです。高校では野球辞めるつもりやったけど、見学に行ったら無理やりやらされて。主人公が天才ではなく、めっちゃめちゃ努力する。僕が中学で野球辞めたのもあって、「めっちゃ努力してんな」と思って読んでました。たぶん、辞める前に読んでたら辞めてないです。

【読んだ時期：高校時代】『3月のライオン』（作者：羽海野チカ）

兄貴がけっこう漫画を読む人で、高校生くらいのときに家にあったんで読みました。マジで友だちがおらへん、将棋しかないみたいな人が人間っぽくなっていくストーリーなんですけど、ちょっと共感するというか……人のあたたかさに触れて人間らしくなっていくみたいなのが、普通に良かったですね。将棋知らないんですけど、この漫画は知らんくても面白いです。

作中に出てくる、メシが美味そうです。ほんまはメシが描きたかったんかなって思うくらい、美味そう。主人公はカップ麺ばっか食ってるんですけど、たまに遊びに行く家の人が飯をつくってくれるんですよ。僕も、一瞬ですけどひとり暮らししてたことがあります。あの時期にこういうことされたら、泣いちゃうだろうなって思いました。

あと、主人公がちょっとお兄ちゃんに似てます。コミュ障で勉強しかしてなくて友達おらへんスタンスで。お兄ちゃん、こういうの読んで埋め合わせしてんやろなと思ったら、ちょっと切なかったです。お兄ちゃんにもこういう出会いがあったら良かったなと思いました。

【読んだ時期：2年前】『進撃の巨人』（作者：諫山創）

読んだのは2年前くらいですかね。連載開始された最初のほうから、『進撃の巨人』はけっこう話題になってたじゃないですか。僕も1巻だけ読んで「めっちゃおもろいな」と思ったんですけど、完結するまで読みたくないタイプなんで、頑張って我慢して完結後に読みました。全漫画のなかで、『ドラゴンボール』か『進撃の巨人』が1番好きかもしんないです。じゃあ、なんで今回のラインナップに『ドラゴンボール』無いんやって話ですけど。

『進撃の巨人』には、「全部入ってる」と思います。政治、宗教もあれば、グロい要素もあるし、「恋愛だけ無い」と思いきや出てくるし。

ネタもそうですけど、伏線のところってちょっとだけおもんなかったりするじゃないですか。でも、『進撃の巨人』は「伏線なわけないやろ！」ってぐらいおもろいところも全部伏線になってる。そして、敵は敵のまま終わるイメージがあるけど、敵やと思ってたヤツにも正義がある。こっちが圧倒的な善かと思いきや、めっちゃ悪い見え方もあったり、でもどっちもめっちゃ良いヤツだったり……おもろかったですね。あと、ヒロインが可愛いです。

アニメも全部観ました。アニメもめちゃくちゃおもろかったです。『進撃の巨人』はマジで読んだほうが良いっすね。おもろすぎます。

【読んだ時期：1年前】『チェンソーマン』（作者：藤本タツキ）

元々藤本タツキさんの漫画がめっちゃ好きで、最初は『ファイアパンチ』から入り『ルックバック』とかも読みました。『チェンソーマン』はストーリーも全部好きなんすけど、コマ割りが漫画っぽくないというか、映画みたいやなと思います。

作者が「漫画好きなんやろうな」と思います。いろんなもん読んできてるんやろな、と。あと、知識の量もすごい。映画や音楽から引っ張ってきている要素も多いし。考察を生みまくるところも、映画みたいだなと思います。あと、ギャグが寒くない。『進撃の巨人』もそうなんですけど、『チェンソーマン』は作中に出てくるギャグが寒くないです。

「藤本タツキを好きな漫画家が多そう」とも思います。「その発想なかった」みたいな、漫画として新しいことをしてる感じがある。普通の人が読む以上に、漫画家が読んだらもっと気付くことがあるんじゃないかと思います。

【読んだ時期：半年前】『チ。-地球の運動について』（作者：魚豊）

単純に、設定が好きです。話が進むにつれ主人公が変わっていくんですけど、それも良いですね。

時代設定がけっこう昔なんですけど、使われてる言葉はめっちゃ若いんです。現代的な言葉でしゃべってくれるので、めっちゃ身近というか、すげえ入ってきやすい。あと出てくる人みんな情けなくて、イキってないのも良いです。処刑されるときも「みんなのためなら命投げ打つぜ」じゃなく「死ななあかん、きちぃ、どうするよこれ」みたいな感じ。リアルです。

これは、泊まってるどこかの家にあって読みました。起きて「漫画あるな。『チ。』って聞いたことあるな」と思って、読んだらめっちゃおもろかった。たぶん『アメトーーク！』で見たのかな。あと、サカナクションが歌ってるアニメの主題歌もめちゃくちゃ良いです。

アフタートーク

———振り返ってみて、特に自分の人生に影響を与えた漫画はどれですか？

『ダレン・シャン』かもしんないっすね。読んでなかったら本好きになってないと思うんで。一発目に読んだ小説の『ダレン・シャン』がめっちゃおもろかったから漫画も読んで、「漫画って読みやすい」と思ってほかのを読んだんで。だから最初に読むのにめっちゃオススメです。『ダレン・シャン』は今読んでもおもろいっすね。ナイチンゲールダンスのなかるてぃんも『ダレン・シャン』好きなんすよ。実は、『ダレン・シャン』きっかけで仲良くなりました。

———教えてもらった漫画は、中学～高校時代またはここ数年で読んだもののどちらかでしたね。けっこう間があいてますけど、漫画をあまり読まない時代もあったんですか？

その間の期間は、普通に忙しいというか、ずっとネタやってました。忙しくてエンタメが入ってこんくなっちゃって、全然漫画読んでなかったです。

———忙しいと本読めなくなりますもんね。

読めないっすね、文字が入ってこないんで。子ども時代は自分で探して読んだ漫画で、大人になってからのは明らかに有名な漫画。今は、失った期間を取り戻すために読んでるみたいなところがあります。ここ数年は、失われた数年間を取り戻してる感がエグいっすね。全力で取り戻そうという気概を感じます。『鋼の錬金術師』とかも、取り戻し期に読みました。めっちゃおもろかったです。

———取り戻し期は、まだ続きそうですか？

もうちょい取り戻します。『ONE PIECE』が完結してないので、あえて読まず残しとく漫画もあります。

構成・写真：堀越愛
場所提供：トシママンガスタンド