〈GEININ DATABASE file.10 まぐろ兄弟〉営業マンから芸人に転身。人力舎所属の漫才師が届ける「ラブ」

ワラパー編集部が「次のスター」として注目するお笑い芸人たちに話を聞く連載『GEININ DATABASE』。これまで、芸歴・年齢・事務所関係なく、編集部が「話を聞きたい」と感じた芸人たちにインタビューをしてきました。

記念すべき第10回のゲストは、プロダクション人力舎(以下、人力舎)所属、芸歴6年目の漫才師・まぐろ兄弟。大手理美容・化粧品メーカー営業職の同僚同士でコンビを結成したという、異色の経歴を持っている二人です。『M-1グランプリ2024』では準々決勝に進出し、翌年には『ぐるナイ年越しおもしろ荘!今年も誰か売れて頂戴スペシャル2025』(日本テレビ)への出演も果たすなど、今まさに勢いづいている漫才師として知られています。

そんな彼らに、社会人からお笑いの道へ歩み始めたきっかけや、これからのこと、初開催の単独ライブ『大丈夫、俺が付いてるから』に向けた意気込みなど、二人のことについてたっぷりとお話を伺いました。

大手企業の営業マンから芸人の道へ

———まずは、自己紹介をお願いします。

ぶつえん: まぐろ兄弟のぶつえんです。

アライちゃん: おまたせ。まぐろ兄弟のアライちゃんです。みんなおはよう。好きだよ。俺もだよ。

———お二人とも、社会人経験があるとお伺いしています。なぜそこから芸人の道へ進むことになったのでしょうか?

ぶつえん: ずっと芸人にはなりたかったんです。でも、一歩踏み出せなくて。自分があまりにも賢くなさすぎたら、芸人の道に躊躇なく進めていたかもしれないんですけど、結構普通だったんですよ。ある程度の高校に行って、ある程度の大学に行って、ある程度の会社に務めて。で、その会社の同期にアライちゃんがいて「芸人にならないか」と誘いました。

アライちゃん: 人生のプランに「芸人」って一切なかったんで、ぶつえんに誘われてなかったら芸人にはなっていませんでしたね。多分、ぶつえんよりも僕のほうがお笑いは好きっぽいんですよ。だから正直、芸人になる厳しさを知っていたというか。大変そうだな、とはわかっていたんで、僕ひとりでお笑いの道に進むことは絶対なかったです。

———それでも、会社員からお笑いの道に進む決断をしたのはすごいですね。

アライちゃん: ぶつえんが先に会社を辞めて……。

ぶつえん: 本当は同じ日に会社を辞める約束だったんですけど、裏切られました。

アライちゃん: 俺マジで怖くなって。一旦そこで揉めてます。怖かったのが正直なところですね。

———具体的に、どのような部分に不安を覚えていたのでしょうか?

アライちゃん: ぶつえんが本気がどうか、覚悟があるかどうかですね。もしかしたら「ノリなのかな?」って。

ぶつえん: いや、仕事辞めてるけどなぁ……。ノリで仕事辞めないけど、俺。

アライちゃん: 僕が思ってたのは、ぶつえんは芸人がやりたいんじゃなくて、当時の仕事がしんどかっただけなんじゃないのかなって。どっちなんだろう、っていうのはありましたね。

ぶつえん: 前の仕事はめっちゃ楽しかったよ。しんどかったらある程度続けてたかもしれないけど。

———しんどかったら仕事を続けていた……?

ぶつえん: 仕事がめっちゃ楽しくて、これが社会人のピークなんだなって思っちゃったんですよ。社会人2年目とかで。これがピークだと、ここから下がってくばっかりだなって。だから、ずっとなりたかった芸人になろうかなと。

アライちゃん: 結局、2019年の3月にぶつえんが会社を辞めて、僕が4月に辞めました。

———仕事を辞めて、すぐに養成所へ入られたんですか?

アライちゃん: そうですね。1ヶ月前くらいかな。

ぶつえん: 僕は当時大阪の社員寮に住んでたんで、会社を辞めて家がなくなっちゃったんですよ。だから、当時アライちゃんが住んでいた埼玉県に荷物をまとめて行って、しばらくアライちゃんの家に住まわせてもらってました。そこからアライちゃんも会社を辞めて、養成所に行く前に住む家を探して。お金がないから、最初の1年は一緒に住んでましたね。

———数多くある事務所の中で、なぜ人力舎を選ばれたのでしょうか?

ぶつえん: 事務所に入るためにはオーディションを受けないといけないんですけど、その日程がちょうど合ったのが人力舎だったんですよ。どうしてもここが良い、という訳ではなかった。

———では、本当にたまたまだったんですね。

ぶつえん: この事務所にはこの芸人さんがいるとか、一応調べてはいました。でも、詳しいことは全然わかんないまま人力舎に入っちゃったんですよね。絶対に漫才をしたくて入所したら「コントの人力舎」だった、って感じです。

恋愛好きなアライちゃんを活かすネタを

———漫才のネタ作りについて、なにかコンセプトはありますか?

ぶつえん: アライちゃんのキャラクターを全面に押し出すことにしています。アライちゃんは、ボケたことがないんですよ。本心がズレてるというか。そこを活かしています。

———そのスタイルが確立したのはいつ頃ですか?

ぶつえん: 4年目までは、アライちゃんじゃなくても良いようなネタを書いていたんですよ。関係ないボケを書いて、アライちゃんに「ボケさせてる」って感じで。でも去年辺りからは、普段のアライちゃんの行動とか言動をネタにしはじめました。ネタのつくり方は、自分のなかで固まってきているのかなと思います。

———まぐろ兄弟のネタは「恋愛」がひとつ大きなテーマとなっているように思えます。その理由を教えてください

ぶつえん: アライちゃんが、恋愛好きなんですよ。自分の恋愛も人の恋愛も好き、恋愛を語ること自体が好きだから、それをテーマにするとアライちゃんの言葉にすごい体重が乗るんですよね。

アライちゃん: 恋愛体質なわけではないんですよ。恋愛自体が好きって感じ。恋愛の話を聞くとその人の人生が見えるのが良いんですよね。子どものころから、修学旅行の恋バナは俺からはじめていた気がします。自分が爆発的にモテるってわけでないんですけど、まわりがどんな恋をしているのか聞きたいし、俺の話も聞いてほしい。それしかやってないんじゃないかな。

ぶつえん: アライちゃんの人生?

アライちゃん: 中学のころから、ずっと。

———そんなアライちゃんの性格を活かしたネタを作っているんですね。

ぶつえん: でも、東京03の飯塚さんに「恋愛ネタはめっちゃ良いけど、恋愛以外でもこのレベルのネタができたら良いな」って言われたんですよ。そうしたら1個ランクが上がるよって。それ聞いて恋愛以外のネタも書いてみたんですけど、やっぱりアライちゃんの言葉に体重が乗らなくて。これから、恋愛テーマ以外でも良いネタを作れるようになれたらなと思っています。

———憧れの芸人や、目標としている人はいますか?

ぶつえん: オードリーの若林さんですね。圧倒的なキャラクターを持つ人のブレーンというか。

アライちゃん: 僕はアルコ&ピースの平子さんです。それこそ、平子さんもあんまりボケないんですよ。ネタでも、平子さんのまんまで面白い設定をつくっていて。バラエティでもコントでも、文字にしたときにめっちゃボケてるわけじゃないのに、キャラクターであれだけ持っていけるっていうのはすごいなと思います。

———では、芸歴や年齢の近い芸人の中で、ライバルだと感じている人はいますか?

アライちゃん: まぁ、家族チャーハンですかね。

ぶつえん: たしかに、同期だし。

アライちゃん: 一気にバチンっていったイメージがあって。こんなに近場で「手が届かなくなりそうだぞ」って感じた人、今までいなかったから。ツッコミの江頭に関しては、養成所時代によしもと対人力舎の対抗戦で戦った仲なんですよ。もともと知り合いっていうのもあって、意識はしますね。

まぐろ兄弟を“浴びせる”単独ライブに

———9月には初の単独ライブも控えているとのことで、そのお話もお伺いできればと思います。ライブのコンセプトを教えてください。

ぶつえん: まぐろ兄弟のことを知らない人でも笑えるよう、オープンな感じのネタを披露しようかなと。なにも考えずに笑えるというか、なんか腹抱えて笑っちゃう、みたいなネタをつくりたいですね。

アライちゃん: せっかく90分いただいて、僕ら二人でやれる機会ですから。お笑いもそうなんですけど、僕は歌が大好きなんで。お笑い以外でもまぐろ兄弟の魅力を詰め込んじゃおうと思ってます。今回の単独で、まぐろ兄弟を全面に浴びさせようっていう。「俺らこういう感じだけど大丈夫そう?」って示す感じですね。センターマイクの前でずっと漫才するのも良いんだけど……

ぶつえん: それが良いでしょ、それがカッコいいんだから。

アライちゃん: 普通に単独ライブがはじまるよりかはね。たとえば「どこから出てくるんだろう?」とか。そういうところも全部やっていきたい。

ぶつえん: ライブっていうより、“ショー”って感じだね。

アライちゃん: そうだね。お笑いライブというよりかは、“パレード”。

ぶつえん: ショーが気に食わなかったみたいですね。

———今回すでに、VIP席は売り切れていましたね。

ぶつえん: これは本当、自分らとしてもびっくりなんですけど。値段をかなり上げて、ちょっと変わった特典をつけたVIP席を設けてみたんですよ。お客さんが来ても来なくても面白いなと思って。そしたら思ったより抽選応募があって、すぐに埋まりました。

※まぐろ兄弟を近くで観ることのできるVIP席を8000円で販売。すでに完売している。(特典:➀壁ドンor普通チェキ 1枚【サイン入り】、➁アライちゃんor佛円 直筆ラブレター、➂オンライン密会参加特典、④アライちゃんfeat.ぶつえんラブソング)

———VIP席の特典も、まぐろ兄弟らしい「ラブ」なものが多いですね。直筆サインではなく「直筆ラブレター」だったり。

ぶつえん: ラブレターなんて僕、書いたことないんですけど。

アライちゃん: ないんだ。俺ありますよ。止まんないときあるでしょ。

ぶつえん: 中高生のころとか?メールじゃなくて?

アライちゃん: いや、大学だな。

ぶつえん: 大学でラブレター?逆に良いかも。

———VIP席を発案したのはどちらだったのでしょう?

ぶつえん: VIP席を作っちゃおうぜ、って言い出したのは僕です。内容は、アライちゃんが結構考えてくれました。

———ラブソングもありますし。やっぱりアライちゃんは歌を歌いたいんですね。

ぶつえん: 本当に、アライちゃんのやりたいことが詰め込まれていますね。

アライちゃん: 今回のライブタイトル『大丈夫、俺が付いてるから』に合わせて、何曲か作ってます。あ、今も降ってきました。

———それでは、今回の単独ライブに向けた意気込みをお願いします。

ぶつえん: 普段は漫才をやっているんですが、今回はコントにも挑戦したいなって。賞レースに持って行くようなものではなく、単独でしかできないようなコントをイメージしています。なので、普段は漫才よりコントのほうが好き、という人でも楽しめるはずです。

アライちゃん: 「単独ライブ楽しかったな」だけでは、お客さまを帰らせたくないんですよ。お笑いライブの枠に収まりたくない。漫才5本やってコント2本やって、最後にトークしてお疲れ様でした。それは普通の単独ライブですよね。そうじゃなくて、「まぐろ兄弟、とんでもねぇことやるな」「こいつら、やるじゃん」って思わせたい。印象に残りたい、っていうのを一番重要視しています。

ぶつえん: 良い意味でも悪い意味でも、ってことですね。

人力舎漫才師の系譜を繋ぐ存在になりたい

———今後、どういったお仕事をしてみたいですか?

ぶつえん: 僕は、MCをやってみたいです。難しいとは思うんですけど、一歩一歩というか、挑戦というか。三四郎の小宮さんとか、今まではいじられキャラだったのに、いつの間にかMCのイメージが僕の中で付いていて。すごいなって、僕もそうなれたらと思っています。

アライちゃん: 僕はまず、恋愛リアリティーショー。あとはミュージックステーション。

ぶつえん: うーん……。

アライちゃん: やっぱり、狩野英孝さん見てて「良いな」って。この前ミュージックステーションに狩野さんが出てたとき、めっちゃみんなに愛されてんなって思ったんです。どこの場においても、みんなに好かれている人はすごいですよね。ドッキリとか、バラエティにもたくさん出たいんですよ。出たいんですけど、やっぱり茶の間に愛されるような人にはなりたいですね。

———アライちゃんはすでに、恋愛リアリティーショーには出られていますよね。

アライちゃん: ええ。3つ。

———芸能人のコメンテーター枠ではなく、出演側に立ちたいんですか?

アライちゃん: やっぱり、現場に立ったことのある人間にしか、コメントの重みって出ないじゃないですか。

ぶつえん: いつかコメンテーター側には行きたいんだ。

アライちゃん: そうっすね。バイトとかだと、管理職に対して「俺らの仕事なんて知らねぇのにさ、あんな言ってくるなよ」って思うことあるじゃないですか。俺、あれ一番なりたくないから。だから現場を経験して「俺はこの気持わかるよ」っていう、重みのあるコメントをしたいんです。

ぶつえん: 恋愛リアリティーショーって、アライちゃんの天職だと思いますよ。さすが今まで、人の恋にいろいろ言ってきたやつだなって。アライちゃんの恋愛に対するコメントって、見てて嫌じゃないけどあんまり聞いたことのない意見なんですよ。逆を言うだけなら簡単なんですけど、そういうことでもなくて。良い意見言うときがあるんで、そこは良さだと思いますね。

———ぶつえんさんは、お笑い以外でなにかやってみたいお仕事はありますか?

ぶつえん: 本、書いてみたいです。

アライちゃん: む、無理すんなよ。本書いてみたい?聞いたことねえよ。

ぶつえん: お前がMステとか言っちゃうから。なんでも良いってなると、俺だって文字書いてみたいよ。文字を綴りたい。

アライちゃん: それは知らなかった。

ぶつえん: これは夢の果ての話ですね。M-1も頑張って、MCも頑張って、テレビも頑張って、その果て。

アライちゃん: 果てに本、なんだ。

ぶつえん: 絶対に書きたいというよりかは、憧れがあるって感じですかね。文学的な目で見られたい。なに考えてるかわからない、って思われたい。なに考えてるかわかりやすいってよく言われるので、やりたいこととできることは違うけれども。

アライちゃん: 平場とかでも、ぶつえんはズバズバ刺すほうというよりかは、慌てて受け取るタイプなんですよ。まぐろ兄弟って平場だと、ウケの取り方が似てるんです。「どうしよう」ってテンパってるときに、みんなが手を差し伸べてくれる感じ。だからそんな、知的に見られたいなんて思ってるとは知らなかった。

———アライちゃんにも、なにか究極の目標はありますか?

アライちゃん: 果てに本綴りたい、を超えることはできないですね。でもひとつ挙げるなら、アンタッチャブルさん、真空ジェシカさんの次にまぐろ兄弟が並びたいですね。人力舎って、漫才でバチッと飛び抜けている芸人がなかなかいなくて。「こんなキャラなのに人力舎なの?」「でも真空ジェシカのあとに続いたのはまぐろ兄弟だったよね」って言わせたいし、僕らならできると思うんです。

———人力舎の漫才師としての目標ですね。

アライちゃん: 人力舎の漫才師を、次に繋げたいんですよね。真空ジェシカさんは、4年連続でM-1決勝出場っていう偉業を成し遂げてるんですけど、その後に続く芸人がいないんです。準々決勝まではいるんですけど、準決勝になるともう真空ジェシカさんしか残っていない。だからその中で、準決勝に行って決勝まで行くとなると、相当すごいですよね。

———人力舎の漫才師の系譜を繋ぐ存在になりたいと。

アライちゃん: 真空ジェシカさんのあとまぐろ兄弟が来るの、面白いと思うんですよ。あんだけキャラの濃いアンタッチャブルさん、センスの塊の真空ジェシカさん。その次に誰が来るんだと思ったら、「またキャラ濃いやつ来たな」って。漫才においては「センスの人力舎」よりも「人の人力舎」って言わせたいです。

———では直近の目標といえば、やはりM-1ですよね。

アライちゃん: やっぱり準決勝。2回戦で落ちるとかはありえない。楽しめば2回戦は通ると思うし。去年のM-1も、楽しんだら勝ったって感じだったんで。で、準々決勝勝とうとしたらめっちゃスベった。だから、本番当日は楽しんだほうが良い。

芸人前夜のまぐろ兄弟へ

———芸人になる前夜の自分にひとこと伝えられるとしたら、なにを言いますか?

ぶつえん: 「正解じゃん」って言います。めっちゃ正解って思います。人生、芸人の道に進んだほうが絶対に楽しいし、あのまま社会人を続けているよりもいろんな経験ができているし、豊かです。社会人のころは、ただ日々をこなしている感じでしたけど、今はいつも一生懸命だし、その先に自分の夢があって、それが全然叶わなくもないところまで来てる。正解じゃんって。

アライちゃん: 僕は「Go my way」です。自分を信じろよって言います。

PROFILE

まぐろ兄弟(プロダクション人力舎)

左:アライちゃん
右:ぶつえん

★公式YouTubeチャンネル:まぐろ兄弟
★stand.fm:バイリンガル・メイ 
★アライちゃんの恋愛相談TikTok:恋愛ソムリエ★アライちゃん 

文, 撮影:中込 有紀

編集:堀越 愛