東京進出を決めた“今”のにぼしいわしに注目せよ!【にぼしいわし単独ライブ『グーチョキパーにおいて』レポート】

2022年7月2日(日)、大阪・道頓堀にあるZAZA HOUSEにて『にぼしいわし第4回単独ライブ「グーチョキパーにおいて」~登!大阪~』が開催された。

にぼしいわしは、大阪で活動するフリーの女性コンビである。『M-1グランプリ』は2019年から4年連続で準々決勝進出。『女芸人No.1決定戦THE W』では、過去3回決勝に進出している。2023年6月までは楽屋AメンバーのTOP3として劇場に立ち、自らも積極的にライブ主催を行うなど、大阪のインディーズ界を牽引する存在であった。そんなにぼしいわしが、この単独ライブで秋から東京進出することを発表した。

にぼしいわし単独ライブは、2020年に行われた第1回『ぱらぴりこ』から第2回『利きロマンス』、第3回『超!ネックル危機一髪』と毎年行われており、今回が4回目となる。毎回異なるテーマをもとに構成されており、今回のテーマは「登る」。

ネタだけでなくフライヤー、映像、音楽、グッズなど全て自分たちで制作しており、にぼしいわしワールドを余すことなく堪能できるのが彼女たちの単独ライブの醍醐味である。

単独フライヤー『グーチョキパーにおいて』

蟹の缶詰は大阪・道頓堀を代表する「かに道楽」の蟹を表しているのだろうか?にぼしいわしが上る階段の先には、さらに大きく高い階段が続いている。

入口には、にぼし作、フライヤーのジオラマ模型が展示されていた。
にぼしいわしの二人は「グリコ」をしながら階段を登っている。花の近くには「出口ハコチラ」と書かれた看板があり、階段とは別方向を指しているのが気になる。階段や原っぱの質感など、様々なこだわりが見える作品となっている。

グッズ一覧

★アーカイブ配信購入はコチラから(2023年7月21日(金) 12:00 から視聴可能)
※視聴期限: 2023年8月4日(金) 23:59 まで

単独スタート ※一部ネタバレ有り

にぼしいわしの人生を凝縮したような単独ライブだった。

本ライブでは、どのネタも登場するキャラクターたちが各々苦悩を持っている。出会う人に励まされながら、次第に前を向いていくものが多かった。これは、「にぼしいわし」を投影したものでもあるのだろう。最大の自己表現の場として、最高の単独ライブがつくり上げられていた。

漫才「グーチョキパーにおいて」

単独ライブ1ネタ目はせり上がりでの登場。ライブのタイトルでもある「グーチョキパーにおいて」というネタを披露した。

小学生の休み時間のように、舞台上でグリコをはじめる二人。独自のテンポ感をまとってコミカルに動くにぼしと、それに威勢よくツッコむいわしが面白く、ライブ序盤からお客さんの心をしっかりと掴んでいた。愉快ながらも考えさせられるキラーワードが続々と飛んでくる至極のネタである。

「登る」というテーマにもあるように、多くのネタで階段が使用された。階段の様々な使い方に着目して観るのも面白い。

オープニングVのワンシーン
オープニングVのワンシーン

作詞作曲いわしの音楽に合わせたMV風の映像で、にぼしいわしが階段を登る姿や、得意な裁縫、料理中の姿を見ることができる。本単独のテーマに合った、人生の葛藤に寄り添うような歌詞も注目ポイントのひとつである。

コント「適材適所」
コント「逆」
コント「わかってる」

コント内のキャラクターが別のコントで別のキャラクターと出会い、影響し合っていく。単独全体がひとつのコントとして繋がっていて、その全てが面白いのだからすごい。どのネタも個性的で愛おしいキャラクターたちが登場し、それぞれが信念を持って生きている。決して日常的なコントではないのだが、本当にこの世界のどこかにいてくれたらうれしい、そんな彼ら彼女らの人生のワンシーンを覗いているような感覚で楽しめる。

にぼし作の幕間V

クセになるにぼしワールド全開。架空CMの数々は必見である。地方CMのようなチープさと耳に残る音楽は、夜寝る前に思い出してしまうこと間違いなし。

コント「アキラとエリー」

第2回単独から毎回続編の形で披露されているコント「アキラとエリー」。毎回ド派手な演出で魅せており、今回はジュディ・オングのようにドレスを広げてみせた。アキラとエリーは前回の単独で婚約しており、今回は出産編。個性的で華々しい二人は、気品溢れる佇まいで日々を暮らしている。単独ライブでは、そんな二人の節目節目の物語を描いている。彼女たちには清らかな世界でありのまま、心穏やかにすごしてほしいと願いたくなる、そんなコントである。

コント「せやからそういう客おらんかったんか」

はじめから最後までいわしのひとりコントのような形で進んでいくのだが、最後のにぼしがこのコントのキーであり、ネタのタイトル回収にもなっている。いわしの心の叫びが一番ストレートに、包み隠さず表れているのはこのネタだろう。

幕間「チア」

階段を組み立てるスタッフたちを客席からチアダンスで応援するにぼしいわし。全編撮影OKであったため、このときの貴重なにぼしいわしの姿を写真に収めるお客さんも多かった。

漫才「登る」

最後は階段をメインで使った漫才「登る」。にぼしいわしの脳内、昔と今、そして未来への決意が視覚的に形になったようなネタだ。ネタを介して心の内をさらけ出すにぼしいわしのカッコよさに見惚れてしまった。

エンディングトーク

「今回初めて単独に来た」というお客さんが意外にも多かったことに驚きつつ、いわしは「自作の歌からはじまり、知らないキャラが当たり前のように出てくる」という本ライブについて振り返った。

大阪公演ではライブの最後に「東京進出」の発表があり、驚きと祝福が混じった、様々な声が上がった。いわしは東京進出を決めるまでの葛藤やその希望と苦しさを、集まったお客さんに直接伝えた。それをまっすぐ受け止めるお客さんたちの姿もまた、印象的であった。

「あー!泣きそう」といういわしに対して、ナチュラルに「泣きそう!?なんで?」と問うにぼし。二人の絶妙な緩急で会場は笑いに包まれ、にぼしいわしの素敵なコンビバランスが垣間見えた。9月末までは大阪で活動し、東京進出後も月1でユニットライブをしに大阪に帰ってくるなど、大阪での今後の予定について語った。

発表後、「しんみりしないように」とみんなで歌うことを提案するいわし。にぼしセレクトでスピッツの『空も飛べるはず』をいわしが弾き語ると、にぼしやお客さんも手拍子でひとつになった。

あたたかい空気に包まれながら「きっと今は自由に空も飛べるはず」という歌詞が胸に響いた。

単独ライブの醍醐味は、一組の芸人を最初から最後まで楽しめること。寄席と違い、お客さんは100%、その芸人を見に来たお客さんである。そのため、芸人はより自分たちが「面白い」と思うネタを見せることができる。

ただ、にぼしいわしの単独ライブはそれだけでは終わらない。お笑いライブのひとつでありながら、他のどのコンテンツでも感じることのできない満足感を与えてくれ、「良いものを見た」と思わせてくれる。今を生き、ときに悩みながら挑戦するすべての人に自信を持っておすすめしたいライブだ。

終演後インタビュー

ライブ終演後、にぼしいわしにインタビューを行い、今回の単独ライブと東京進出への思いを存分に語ってもらった。

———単独ライブお疲れ様でした!東京進出おめでとうございます。個人的にはやっぱり寂しいし、悲しいです。

いわし: ありがとうございます。「大阪でやってるから」って応援してくれてるお客さんが大阪には結構いると思うので、そこは「マジで申し訳ない」っていう気持ちが一番にあります。だから「悲しい」って言ってくれてるのはありがたいですけど、申し訳なさもあって……難しいですね。

にぼし: 完全に売れてたらね、大阪にいても良かったけど。やっぱり東京に行って「パワーアップしたい」っていう気持ちもすごくありますね。
 
———単独ライブ大阪公演が終わりましたが、いかがでしたか?

いわし: 4回目なので、想定外のミスとかトラブルみたいなのが無くなってきて。「あ、これは数打ってるってことやな」ってめちゃくちゃ思いました。あと、スタッフさんも大体毎年同じ方に入っていただいてるんで、うちらのやりたいことをわかってくれていて。打ち合わせも1回しかしてないのに、あれだけやってくださって「ほんまにありがたいな」って思いました。

にぼし: 間違えてしまったところもあるんですが、前回の単独よりは少なくなったのかなと思います。

———回数を重ねて、人もライブも成長しているんですね。では、配信で見てほしいポイントはありますか?

いわし: 全部のネタが繋がってるので、「特にこのネタを」というよりは全体を通して見てほしいですね。一応「このネタだけ」って見ても楽しめるようになってます。あえて挙げるなら、一番はやっぱり「アキラとエリー」。初めて“大道具ぶらして”もらったので。

にぼし: 幕間のタイトル映像をつくったんですけど、こだわったので細かいところまで見てもらえたらありがたいです。映像内のグーチョキパーが出てくるところで、グーは「にぼしいわし」、チョキは「アキラとエリー」、パーは「柳田と甘エビ」という3組の登場人物を、それぞれ出したんです。その後も全部その登場人物に関する絵が続いてるんですよ、タイトル画像も全部。その繋がりにもメッセージを込めているので、そこも良かったら注目してください。

———今回、単独ライブタイトルが『グーチョキパーにおいて』、そしてフライヤーやネタなどに、テーマの「登る」が使われていました。このタイトルやテーマについて、詳しくお聞かせください。

いわし: いつも単独のタイトルは結構適当につくっちゃうんですけど、今年は単独をやると決めたときには東京に行くことが決まってたので……。

※過去の単独ライブのタイトル※
第1回 『ぱらぴりこ』
第2回 『利きロマンス』
第3回 『超!ネックル危機一髪』

いわし: 2個前の『利きロマンス』は「選択」を大事にしてて、「自分がこっちだって思った方向を正解にしていけば良いじゃん」という感じの単独ライブでした。次の『超!ネックル危機一髪』は「ネックル」に「まわる/振り返る」という意味があるので、「ま、いろいろ考えているけど、その場にいて良いじゃん」。で、今回はちょっと「パワーアップしよう」みたいなところがあったので「登る」をテーマにしました。「どんな感じで登ってるかな?」って想像したときに「グー・チョキ・パーで、グリコしながら登ってる」というイメージが出てきたんで、そんな感じでつくれれば良いなと思ってこのタイトルになりました。

にぼし: 「登る」で連想するものといえば、グリコの遊び。負け続けたりするときもあれば、勝ち続けたりするときもある。そういう要素を、オープニングVでも表してます。最初から最後まで通して、我々の「これから東京で頑張ります」っていう決意がこもった単独になってます。

———今回のオープニングVの歌や映像は、テーマの変遷を知るとより決意の解像度を高くして見ることができそうです。東京進出を発表した今回、第3回までとの心境の変化はありましたか?

いわし: ありました。やっぱり東京行くことに決めたときが一番大きかったです。今まで大阪にこだわり続けてたので、かなり大きな決断でした。どこの場所であっても売れるやつは売れると思うし、どの事務所でもフリーであっても、賞レースで勝てば売れると思います。それは昔も今も変わらず思ってます。そこにこだわり続けてたんですけど、うちらの力だけだとやっぱり、大阪から売れるのがちょっと難しいのかもって思いはじめた時期があって……。幸いうちらは東京に友達がいっぱいるので、東京に行ったとしても「ライブがゼロ」っていう状況は、チョンボとかしない限り多分ないだろうと思ったり、東京の芸人さんにいっぱい誘ってもらったりとかしたのもあって、めちゃくちゃ悩みに悩んだ結果「我々自体が売れるということを一番に考えられる状況をつくることが大切かな」と思ったんですよ。「じゃあ今、それをするためにはどうしたら良いんだろう?」「東京に行くことかも」……っていうのが、心境の変化ですね。今まではそうやって考えることもなく、「どこでやってても一緒やろ」「どこからでもやらなあかんやろ」って思ってたので。その心境の変化はすごく今回、大きかったなと思います。

———会場でご覧になった方、配信でこれから見られる方にメッセージをお願いします。

いわし: 単独ライブは基本的にいつも自分たちの脳内にあることを好き勝手やって、賞レースだったり見え方とかあんまり関係してません。基本的にお客さんに笑ってもらったり、なにか感じてもらったりとか、こちらの葛藤を一緒に共感してもらったりとかっていうのを一番に思っています。無の状態で1回見てもらえたら。 もちろん笑いどころもあるんですけど「笑うぞ!」と構えず、無の状態で。朝イチ起きたての状態で見てもらえたらと思います。

にぼし: 私が唯一やっている幕間Vも良かったら楽しんでください。

いわし: 唯一じゃないでしょ(笑)。


にぼしいわしはこれからも登っていく。大阪の地を登ってきた彼女たちは、場所を変えてさらに登っていく。彼女たちは、フリー(自由)だ。

場所に縛られることなく、どんな土地でも自分たちの信じた「面白い」に向かって歩んでいってほしい。

★アーカイブ配信購入はコチラから(2023年7月21日(金) 12:00 から視聴可能)
※視聴期限: 2023年8月4日(金) 23:59 まで

文:藤田うな

撮影:モリクラアオイ

編集:堀越愛

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