この夏、1番面白い学生芸人が決まる!『大学芸会2021』レポート

『国民的大学生芸人グランプリ〜大学芸会〜』(以下、『大学芸会』)は、数ある学生芸人のイベントで最も規模の大きい大会だ。漫才・コント・ピン芸人が入り混じる大会で、例年夏季に開催されている。学生芸人の多くが並々ならぬ想いで挑む本大会だが、2020年はコロナの影響で中止を余儀なくされた。さらに、続けて冬の『NOROSHI』(全国一面白いお笑いサークルを決める団体戦)も中止に。2020年度は、多くの学生芸人が力のぶつけどころを失い、悔し涙すら流せない空白の1年になってしまった。

2021年8月31日(火)。なかのZERO小ホール(東京都中野区)にて、1年越しの『大学芸会2021』の決勝が開催された。コロナ感染者数が増え続ける中、緊急事態宣言下での開催。『大学芸会』は、大学生が自分たちの手で運営し、最初から最後までを作り上げる大会だ。開催の判断も自分たちでせねばならない。大人だって、今はなにが正しいのか分からない。「やる」と決めてからも、迷い、悩み、不安な日々だっただろう。コロナ対策を徹底し、演者・運営ともに、予選から決勝まで全員で駆け抜けた。

336組分のエントリー枠は、一瞬で埋まったという。コロナ禍で活動を制限されながらも、たくさんの学生芸人が決勝の舞台を目指し、闘志を燃やした。ここでは、大成功を収めた決勝の様子をレポートしたい。

『大学芸会2021』パンフレット

本大会のキャッチコピーは、『取り戻す、この一撃で。』。このコピーを見たとき、コロナ禍でいろんなものを奪われた大学生たちの「叫び」みたいだと思った。授業はオンラインになり、友人とも会えず、学生芸人としての活動もままならない。ぶつける先の無い怒り、やりきれなさ、消えゆく青春の日々。通り過ぎた彼らの時間は、取り戻せない。だけど、取り戻すのだ。“舞台に立つ、ほんの数分”で。……込められた真意は分からない。けれどそんな執念めいたものを勝手に感じながら、会場に向かった。

336組の頂点は誰だ!?決勝スタート

オープニングMCは、さすらいラビー。彼らも学生芸人出身で、2013年『大学芸会』で決勝の舞台を経験している。本大会は学年問わずエントリーできるが、今年は3~4年生しか決勝に残っていない。さすらいラビーによると「コロナで1~2年ほど人前でネタをできていないため、自力の差が出ているのでは」ということ。

なかのZERO小ホール。感染対策のため、客席は半分以下に。約200席の客席は1分で完売したそう
決勝は「1st stage」「Final stage」の2部制。審査員による採点と観客投票の合計得点で競う

審査員は、構成作家・飯塚大悟さん、K-PRO代表・児島気奈さん、POISON GIRL BAND・吉田大吾さんの3名。1~2年生にとっては、初めての『大学芸会』。4年生にとっては、最後の『大学芸会』である。さすらいラビーが会場のボルテージを高め、336組の頂点を決める決勝が始まった。

★『大学芸会2021』オープニング動画はコチラから

過去最高の面白さ!? 18組が戦う「1st stage」

「1st stage」は、予選を勝ち抜いた18組による戦い。途中退席した場合は投票権を失い、全組観た者だけが票を入れることができる。

青御膳
フランジェリコ
坊屋
えだまめ
炎天下
鳥山明・暗
リバイアサン
現代仏具
琥珀
ベグBOG
メル
びんかんマチムスメ
海老車
好奇心
うなぎ.com
352
サウサンプトン
クラリネ

さすらいラビー・中田さんは、全組ウケているのを見て「過去最高かもしれない」と言う。審査員・飯塚さんは「自分のキャラクターに合ったネタ」をしている学生芸人が多いと評価。さらに、児島さんによると「全組面白かった。全員楽しそうにネタをやっていて、どれだけ熱を持ってこの大会に取り組んでいるのか伝わってきた」ということ。

この時点で、個人的にも“かなりレベルの高いお笑いライブ”を観た後のような満足感があった。観客は「1st stage」で面白いと思った3組に投票できるのだが、正直かなり悩んでしまった。

「Final stage」進出者決定!

集計作業は、運営である実行委員会メンバーの手で行われる。結果を待つ間は、MC・さすらいラビーが気になった芸人を呼び出してトーク。

青御膳・石島「今日イチで良いパフォーマンスができました」

学生芸人の特徴のひとつに「コンビを掛け持ちできる」というものがある。一人の学生芸人が複数コンビに所属し、漫才・コント・ピンで様々なネタができるのだ。『大学芸会』決勝も、5人の学生芸人が複数コンビで出場している

※「鳥山明・暗」「びんかんマチムスメ」の蒲、「リバイアサン」「海老車」の佐伯、「リバイアサン」「現代仏具」の久保寺、「⻘御膳」「サウサンプトン」の岡竹、「海老車」「琥珀」の大根

「海老車」中村は、コンビを掛け持ちしている相方のネタを観て「ゲボ吐きそう」だったと話す
ピンで出場した「坊屋」。この日母親が観に来ていたそう

実行委員会による集計が終わり、ついに決勝進出者が発表された。決勝に進んだのは下記3組。

1位:「リバイアサン」521点
2位:「海老車」441点
3位:「好奇心」372点

MCのさすらいラビーと「Final stage」進出者

圧巻の「Final stage」

最終決戦は、「好奇心」「海老車」「リバイアサン」の順番でネタが披露された。

好奇心
海老車
リバイアサン

さすが336組中のトップ3組。貫禄すら漂う完成度の高いネタが披露され、特に「リバイアサン」に関しては拍手笑いの連続でセリフが聞こえないレベル。

ゲストの「まんじゅう大帝国」「トンツカタン」「真空ジェシカ」のネタが終わり、ついに結果発表。

優勝は…………

優勝は、「リバイアサン」。
2位に大きく点差を付け、文句なしの優勝となった。

優勝が発表された瞬間の「リバイアサン」(左:佐伯瞭、右:久保寺竜誠)

「リバイアサン」には、賞状とトロフィーが贈呈された。昨年度『大学芸会』『NOROSHI』が中止になり、ライブもできず、本大会は彼らにとって“やっと”の機会。ここで優勝することをずっと目標にしてきたという佐伯さんは、「これまで以上に、みんなやる気で熱気があったと思う。みんなの想いが強い中で優勝できたのは、本当に嬉しい」と話した。また、「1年生の夏の『芸会(大学芸会)』で(リバイアサンを)組んだので、思い入れがある」という久保寺さん。「本当にここまでやってきて良かった」とコメントした。

また、審査員特別賞は「メル」が受賞した。

左から「メル」、「リバイアサン」、「海老車」、「好奇心」

審査員コメント(一部抜粋)

■K-PRO代表・児島気奈さん
本当に、全編通して面白かったです。この大会にかける熱を感じて、審査する方としてもすごく真剣に審査させていただきました。優勝した「リバイアサン」は、多分この会場にいる全員が一生忘れられないような漫才をしたんじゃないかなと。帰り道に、皆さん口ずさんでしまうんじゃないかなと思うくらい、良いネタを見せていただきました。本当におめでとうございます。

■構成作家・飯塚大悟さん
皆さん面白くて、楽しませていただきました。これから芸人の道に進まない方でも、めちゃめちゃウケた経験とめちゃめちゃスベッた経験は一生思い出すと思いますし、別のジャンルに行っても絶対に活かせると思います。この経験をずっと大切にしてほしいなと思いました。

優勝者プチインタビュー

リバイアサン(左:佐伯瞭、右:久保寺竜誠)

――率直に、優勝した今の想いを教えてください。

佐伯: このコンビは4年間コツコツ頑張って来たので、最後に結果が出たのが本当に嬉しいです。

久保寺: 2年生のとき、自分たちがやっていくことになる「リズム」みたいなものが見つかったんです。途中寄り道して違うことをやった時期もあったんですけど、コロナ禍でも同じことをやり続けて、その結果が出たので嬉しかったです。

※「リバイアサン」は決勝で、独特の“リズムネタ”2本を披露した

佐伯: ずっと考え続けてきた形だったので、それがハマったのは嬉しかったです。この形を信じ続けてきて良かったです。このネタを諦めてた時期もあったんで……。

――二人は4年生なので、このコンビで活動できるのもあと僅かですね。残りの学生芸人期間の目標はありますか?

佐伯: 『NOROSHI』優勝。団体戦で優勝したいです。自分は(2019年)『学生R-1』で優勝させていただいたので、(『NOROSHI』で優勝できたら)三冠になるんです。多分誰もやってないことなので。

佐伯は「玉彦のサンバ」として2019年『学生R-1』優勝

久保寺: 自分も(三冠の)可能性が残ってるんで、今年の『学生R-1』頑張って……

佐伯: 「二人で三冠達成」が目標です。

久保寺: そしたら、もう思い残すことは無いです!

おわりに

決勝終了から3日後、「大学芸会実行委員会」代表・大門美咲子さん、副代表・堀内江美さんの話を聞いた(取材はオンラインで実施)。

2020年度、大会の中止を判断した際のことを聞くと、大門さんは「(開催を)中止にします、と言ったときの先輩の表情は忘れられない」と顔を歪めた。運営として準備してきたものが無くなる寂しさ、悲しさ。昨年度、夏・冬どちらも「どうやったら大会ができるか」を考えてなんとか開催しようとしたが、駄目だった。それが本当に悔しいと大門さんは言う。そして、「演者さんが大きな会場で、あれだけのお客さんの前でネタをする機会はなかなか無い。大会をきっかけに進路が変わる人もいるし、その機会を与えてあげられないのも本当に申し訳なかった」と振り返る。

「学生芸人」……大学のサークル活動のひとつ、と言ってしまえば、それまでだ。だけど舞台に立っている間、彼らはどう見たって「芸人」なのだ。プロもアマも関係なく、自分たちの「面白い」を本気で披露する。大会に懸ける想いはまっすぐで、まぎれもなく真剣で本気。その場所を作るか、それとも無くすか……その判断もすべて、学生が行う。どちらを選ぶにせよ、重い決断だ。

無事『大学芸会2021』が終わり、今どう思うか問うと、堀内さんは「ホッとしています」と言う。「(『大学芸会』の開催は)人の流れを生み出すものなので、本当にやっても良いのか迷いはありました。でも大学お笑いの今後に有意義な大会になったんじゃないかと、勝手に思ってます」。

大門さんは、舞台に立った演者の「楽しかった」「ウケた」という感想、会場を後にする観客の「面白かった」という声を聞き、「やって良かった」と思えたという。

子どもと大人のはざま、絶妙な時代を「学生芸人」の活動に注いだ彼らは、ごく一部がプロの世界へ、多くは舞台を降りて就職する。今回の『大学芸会』決勝出場者の多くも、就職を予定しているらしい。無責任に「こんなに面白いんだから続ければ良いのに」と思ってしまいがちだけれど、どちらの決断も覚悟がいること。この“今しか見られない輝き”も、「学生芸人」の魅力なのかもしれない。

今後、秋に『学生R-1』、冬には『NOROSHI』が開催される予定だ。最新情報は、公式Twitterで確認を。残りの大会が無事開催されることを、いち学生芸人ファンとして願おうと思う。

・学生R-1:@gakuseir1
・NOROSHI:@noroshi_xxxth
・大学芸会:@daigakugeikai

協力:大学芸会実行委員会
取材(文・写真):堀越 愛

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