ヒガシ逢ウサカ最後の舞台、鳴りやまない拍手 今井が涙のラストメッセージ

よしもと漫才劇場(大阪)で月に一度行われている「久馬歩責任編集 月刊コント」。10月号は4日に開催された。この舞台に当初、ヒガシ逢ウサカの出演予定はなかったが、コンビ解散の発表を聞きつけた久馬の計らいによって、急遽出演が決定。ファンの前では最後のライブとなった。

このライブレポートには、月刊コントをいろいろな人に知ってもらって、劇場に足を運んでもらいたいという気持ちが込められている。しかし今回はそれ以上に、この日このライブがあったということをWEBという媒体を通して残しておきたいという想いが強い。そのため詳細に書いてしまった部分もあり、芸人さんには申し訳なく思う。ただ、それだけ忘れたくないと思わせる、心に残るライブであった。

圧巻の構成、全編100分超えのオールコント

月刊コントとは、出演コンビが各々自分たちのコントを披露し、それらを久馬脚本の巻末コントで紡いで、全体が一つの物語となるように構成されたコントライブである。

出演者はザ・プラン9、ジュリエッタ、関西コント保安協会(セルライトスパ・ロングコートダディ・ニッポンの社長)、マイスイートメモリーズ、滝音、空気階段、リアル、おばたのお兄さん、福本愛菜、茜チーフ。そして、ヒガシ逢ウサカが名を連ねた。

オープニングコントは、ヤナギブソンと茜チーフによる、恒例の出演者紹介コント。ドライブデートでの会話の中に出演者の名前が語呂合わせの形で織り交ぜられていた。

2人が立ち寄った先で、ザ・プラン9(お~い!久馬、浅越ゴエ、ヤナギブソン)に茜チーフを加えたコント『コンビニ』が始まると、テンポのいいやり取りに会場は大いに盛り上がった。この月刊コント全体のプロローグとなるような話も散りばめつつ、しっかりと笑いも取っていた。

舞台転換後、リアル(横江オネスト、西垣大樹)に福本愛菜を加えたコント『惚れ薬』が始まり、西垣が見せる絶妙な反応に客席からは笑いが起こった。続く滝音(さすけ、秋定遼太郎)は、『バンドの出待ち』でワードセンスが光るネタを披露し、笑いを誘った。そして、マイスイートメモリーズ(トランスフォーム福田、花谷豊)は、『レストラン』のコント。クセの強い迷惑客とそれに振り回される店員の姿に会場は爆笑であった。

喚気休憩前最後のコンビは、ジュリエッタ(井尻貫太郎、藤本聖)。デリヘルを頼んだ男が、偶然家を訪ねてきたOLをお店の人と勘違いしてしまうコント『チェンジ』を披露。2人のやり取りが実に面白く、藤本のOL役も様になっていて、個人的にはもう一度見たいネタである。

ヒガシ逢ウサカ最後のコント、鳴りやまなかった拍手

喚気休憩後、舞台に現れたのは関西コント保安協会セルライトスパ(肥後裕之、大須賀健剛)、ロングコートダディ(堂前透、兎)、ニッポンの社長( 辻、ケツ ) )。6人でユニットコント『お好み焼き屋』を披露。ケツ(彼女役)と兎(彼氏役)のカップルがこだわりの強いお好み焼き屋に来てしまい、自分たちの行動が裏目に出てしまうコントである。カップル役の2人の素直なリアクションが面白く、会場は笑いに包まれた。

続く、空気階段(水川かたまり、鈴木もぐら)は、15年前に死んでしまった彼女の幽霊と、約束の日に約束の場所で出会うドラマチックなコント『花火』。会場は、2人の作る空気感の中で、笑いに包まれた不思議な空間となっていた。

各々のコントをする最後のコンビとして登場したのは、ヒガシ逢ウサカ(今井将人、高見雄登)。彼らが最後の舞台に選んだのは、コント『親父』だった。

これは、喧嘩っ早いが喧嘩の弱い親父と、両親の喧嘩を止めようとする息子を描いたネタである。親父役の今井が舞台の外まで殴り掛かりに行っては吹っ飛ばされて戻ってくる姿が面白く、オチが決まった後、会場には大きな笑いとともに、大きな拍手が沸き起こった。鳴りやまないその拍手には、2人への労いと応援の気持ちが込められていた。

今、私が振り返って思うのは、この『親父』というネタには、長年、コンビとして共にお笑いの世界で戦ってきた2人の、特別な想いが込められていたのかもしれないということである。途中、喧嘩で勝てそうになり、親父も息子も嬉々とする場面がある。そして最後はやっぱり倒されてしまうのだが、このシーンには、偶然かもしれないが、特別な意味が生まれていた。

笑いと涙の最高潮、今井は泣きケツは歌う

ここからは、各コントの登場人物が集結して一つの物語としてまとまっていく。月刊コントの醍醐味とも言えるパートで、伏線回収も多く、気付きによる笑いが気持ちいいのもポイントだ。

舞台は関西コント保安協会コントで登場したお好み焼き屋に戻り、コント保安協会の面々に加え、おばたのお兄さんも登場。キャラクターの人間関係が明かされ、“15年前”という気になるワードも交えられつつ物語が進展していく。花谷が来店し、オチには花谷が持ってきた防犯ブザーが使われたが、意図せず鳴りやんでしまうハプニングが起こり、会場は大爆笑だった。今度はジュリエッタのコントで登場した男の家が舞台となり、様々な人が訪れてきては、そこでのやり取りで会場を沸かせた。

関西コント保安協会のカップル、滝音、福田に続き現れたのは、夫婦喧嘩で吹っ飛ばされてきた今井と、その息子の高見。今井の「何で離婚なんだよ!」という言葉をきっかけに始まる、ヒガシ逢ウサカの熱いラストメッセージは、会場にいる全員の心を打った。

「ずっと息子とは一緒にいたかったんですけど」「まあしょうがないですよ、これも運命ですから」「僕ら親子は別々の道を歩んでいくということで」と、役を通して自分たちの解散について想いを語る今井。お世話になったお返しと言って、ポカスカジャン(大久保ノブオ)のモノマネを披露する高見。その後、もう一度面と向かって今井に感謝を伝え、モノマネを見せると、今井は笑い飯・哲夫のモノマネで「ありがとうな」と返した。終始絶妙な緩急で行われるやり取りに、会場は笑いで包まれた。

その後、突然役から降りて素の状態で話し始めた今井は、徐々に言葉を詰まらせ、泣きながら本音を吐露し始めた。「売れたかった」「辞めようかとも思ったけど、周りの芸人が優しすぎて」「こんなに愛されてると思ってなかった」と、言葉をこぼしていく今井に、舞台上の芸人も涙を堪えているようだった。「これからも頑張ります」とヒガシ逢ウサカの2人が客席に向かって頭を下げると、拍手が沸き起こった。

会場全体がしんみりとした雰囲気の中、役のままのケツが、「別れって、辛いよね」と切り出すと、空気は一変して爆笑が起こった。私も視聴しながら今井にもらい泣きしていたのだが、ケツの一声に吹き出してしまった。

そのままケツは自作の曲「私うまく笑えなくて」を弾き語った。女装のまま、不自然なカツラを頭に乗せたままギターをかき鳴らす姿は滑稽ともいえる風貌だったが、だんだんその面白さよりも感動が上回り、見る者を今まで経験したことのない感情にした。

この曲は持ち歌として前からあった曲だが、今回2番の歌詞をヒガシ逢ウサカver.に変更し、「今いてる場所から高みを目指し歩いてく」のように、今井・高見が入った歌詞になっていた。歌い終わりには、「みんなしんどいこととか辛いこととかあると思うけど、みんながちょっとでも笑顔になれるように、笑顔になれますように、また、またこの場所で会いましょう!」という、ケツの魂の叫びが会場に響き渡った。

シーンが変わり、舞台は再びお好み焼き屋に。肥後、堂前、福本、リアル、花谷が集まる中、リアルのコントで出てきた惚れ薬をきっかけに物語が急展開を遂げていく。ラストシーンは空気階段のコントの舞台である花火の見える思い出の場所だ。

“15年前の約束”を軸にそれぞれのコント同士が次々と繋がっていき、ザ・プラン9、茜チーフ、おばたのお兄さん、空気階段、大須賀らの関係や、集まった意味が明かされ、物語はフィナーレへ。歌と欲望に満ちた豪快な終わり方なのだが、ここにも仕掛けがふんだんに施されていた。キングオブコントのニッポンの社長、空気階段のネタが取り入れられていたのだ。ラジオの懸賞品の10m携帯ストラップが出てきたり、ハルトの自作曲を歌ったり、ミノタウロスが出てきたりと、観客をどこまでも楽しませてくれ、本人たちも楽しそうにコントをやり切っていた。

歌で大盛り上がりの中、笑いと拍手に包まれ、舞台は幕を閉じた。久馬とヒガシ逢ウサカが最後の挨拶をした後、公演はすべて終了した。

もうすでにヒガシ逢ウサカは解散し、2人はそれぞれ今井らいぱちと高見雄登として別々の道を歩んでいる。2人の活躍を祈って、このライブレポートを締めさせていただく。

ライター:藤田うな

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