フランシス・ガヌーとオタク媚びコンテンツから考える可否【ヤーレンズ出井隼之介「可否伝」2杯目】

ヤーレンズ・出井隼之介さんが物事の良し悪しを綴る連載『可否伝』。出井さんセレクトの「今月のコーヒー」情報とともに、心が揺れた“良し悪し”を語ります。

11月の可否

朝倉未来は一晩でテキーラ70杯飲むらしい。

どうも、ヤーレンズ出井です。

ところで、テキーラというお酒は、勝手に罰ゲームなどに使われイメージを下げられている可哀想なお酒だと思う。

失礼な話だ。逆にもしメキシコで日本酒が罰ゲーム扱いされていたらちょっと嫌だ。

その他のバッドイメージグッズとしては、勝手に凶器に使われてイメージが下がっているバール(工具)が挙げられる。人命救助などにも相当役立つはずなのに、映画などを中心に凶器で使われてるばかりにイメージが悪い。

挙げ句の果てには「バールのような物で殴られ……」と、バールではない棒状の物のこともバールの仲間のような言われ方をしてしまう始末。バールのイメージ回復は次の世代に託されている。


さて、連載開始から2ヶ月連続で格闘技の話題が出てきて申し訳ないが、今月はフランシス・ガヌーという格闘家の話をせずにはいられない。格闘技の話がNGの方は、“人々の興味は細分化している”という文まで読み飛ばして欲しい。

“ザ・プレデター(捕食者)”と恐れられるこの屈強なカメルーン人は、1986年に貧しい村に生まれた。

ほとんど学校にも通えず9歳から肉体労働に従事し、身長193センチの逞しい青年となったガヌーは、ボクシングでの成功を夢見てフランスへの亡命を決意。

偽造パスポートや賄賂を駆使して国境を通り、サハラ砂漠を超え、最後は自作のゴムボートで海を渡って亡命に成功。27歳という異例の遅さで格闘家デビューを果たす。

ボクシングよりも総合格闘技に適性を見出され、世界最高の総合格闘技団体UFCのヘビー級チャンピオンになる。

という映画でもなかなかお目にかかれないようなストーリーを持つ彼が、なんと先日37歳にして夢だったボクシングのヘビー級タイトルマッチまで漕ぎつけたのだ。相手は無敗の王者タイソン・フューリー。ガヌーは、ボクシングではデビュー戦となるため、

「ガヌーに勝ち目なし」

「何ラウンドでフューリーが倒すか」

という絶対的不利な下馬票。しかし、結果は大方の予想を裏切り、王者に肉薄。ダウンも奪っての僅差の判定負け。

と、まあこんな試合があったのだが、ご覧になっただろうか?僕の周りは誰も見ていない。こんなに凄いことが起きているのに!!でも、仕方ない。

“人々の興味は細分化している”

かく言う自分も、今季のドラマなどはひとつも見ていないし、ヒットチャートにもうとい。ポップカルチャーと呼ばれる中ですら知らないジャンルがたくさんある。世の中にはおもろいものが多過ぎるのだ。

そんな中『お笑い』を選んでくれて、このコラムを読んでくれて本当にありがとう。

さて、Netflixなどで話題のアニメは頑張って観ようと思うのだが『すごく萌え系のキャラクター』や、『ストーリーと関係なく出てくるエロい描写』、『なんかよく分からないコメディシーン』などが出るとめちゃくちゃ引いてしまう。

「う、うわぁ、、なんか、、オタクが喜びそうなやつだぁ、、!!」

となる。「そんなんいらんからストーリー進めてくれ!」と思う。「これが楽しめないあなたは門外漢だよ」言われてる気がしてしまう。

こういった現象は自分の活動にも言えて、例えばライブのトークコーナーでその場にいない芸人の話をしてしまったり、仲間や常連のお客様にはお馴染みのくだりを注釈なしで話してしまったりしてしまうことがある。

今日初めてお笑いライブに来た人のことを毎回意識しないと、ただでさえ狭いジャンルの間口をより狭めてしまうと反省する。

もちろんそのライブの性質にもよるし、頻繁にライブに来てくれるお客様を喜ばせるのも大事。

常に広い視野でその場を見ておかないと、お笑いライブ……ひいては自分達自身がどんどんオタク向けのコンテンツになってしまう。

それのなにが良くないかと言うと、簡単なのだ。あるジャンルに精通している、いわゆるオタクを刺激するのは、その道のエキスパートともなれば案外簡単なのだ。やる側も元はオタクだった場合も多いので尚更だ。

簡単だから、楽だからと環境に甘えていては、伸びるものも伸びない。芸人にとってなによりも大事なネタにまでその怠惰な姿勢が現れてしまったら、それはいよいよジャンル全体の衰退に繋がりかねない。初めて見た人が笑うか?自分の親世代がこれで笑うか?これが全てでは無いが、この視点も決して失ってはいけない。

ヒップホップには、大衆ウケを狙った活動を行う人のことを『セルアウト』と呼びバカにする風潮がある。

お笑い界でも例えばリズムネタなどで安易に世に出た芸人が、セルアウトに近いニュアンスでいじられる。

しかしここまで人の好みが細分化し、オタクがカジュアル化した昨今では、オタクを湧かせにかかることも一種のセルアウトだと僕は思う。

あまりに分かりやすいことだけをやっていてもダメだし、自らオタクを喜ばす為だけのスケールの小さなコンテンツに成り下がってしまってもいけない。

大衆にも、オタクにも、誰にも媚びるな。全てはバランス。これは自戒を込めて。

少し真面目な話になってしまった。うんこ。


~11月の可否~

可→ フランシス・ガヌー

否→オタクに媚びたコンテンツ

今月のコーヒー【RED POISON COFFEE ROASTERS】

RED POISON COFFEE ROASTERS(座間市)
Colombia Eden Anaerobic Peach

座間にある、名店ロースター。

選べる豆の種類、お店の雰囲気、全部完璧……!シンプルな浸漬式で提供されるコーヒーは絶品……

PROFILE

ヤーレンズ・出井隼之介

ケイダッシュステージ所属

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文:ヤーレンズ・出井隼之介
構成:堀越 愛
写真&サムネイル:ヘンミモリ