『脇田 in WONDERLAND』~第2話~ ドライヤー(作:シシガシラ 浜中 英昌)

シシガシラ・浜中英昌さんによる連載『脇田 in WONDERLAND』。この話、どこからどこまでが現実で、どこからどこまでが虚構?

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ワイシャツの首元

ある日の楽屋でのこと。
大宮ラクーンよしもと劇場で、なにやら騒がしい声。

「脇田さん、なにしてんすか?」「俺もビックリだよ〜」
その日、大宮ラクーンよしもと劇場で出番があり、楽屋にいたらこんな声が聞こえた。

なにかと思って見てみると、脇田さんの衣装のワイシャツの首元が真っ茶色になっていた。理由を聞くと、ガーメントバックという全芸人が持っているスーツを入れるバックのチャックが開いていて、そこからワイシャツが出ていて、家から大宮までずっと地面を引きずって歩いていたらしい……

おろかだよ……

『はじめてのおつかい』という番組で、買い物した子どもが商品が重すぎて地面を引きずってるのを観たことがある。43歳のおじさんがあれをやっていると思うと、胸が苦しくなる。脇田さんは「最悪だよ〜」と言いながらワイシャツの首元を水で濡らし、茶色くなってるところを擦り、ドライヤーで乾かしていた。どうにかバレないところまでもっていけて、漫才の出番を終えた。

ワイシャツの腕

が、その後……

大宮の楽屋で次の漫才出番まで休憩していると、今度はこんな声が聞こえた。

「脇田さん、なにしてんすか?」「俺もビックリだよ〜」
数時間前に聞いたのと、まったく同じやり取り。

「今度はなんだ」と思い見てみると、脇田さんのワイシャツの腕の部分が茶色く染まっていた。さっきは首元で次は腕。理由はこうらしい。「コーヒーを飲もうとして缶を振ったら中身が出た」と。

ん?どういう意味?

どうやら自分で缶を開けて飲んだ一口目を忘れて、缶が開いてるのに勢いよく振ってしまったらしい。

おろかだよ……

脇田さんは「最悪だよ〜」と言いながらワイシャツの腕を水で濡らし、茶色くなってるところを擦り、ドライヤーで乾かしていた。どうにかバレないとこまでもっていけて、漫才の出番を終えた。

すべての出番を終え、大宮から電車に乗りひとりで家に帰ってるときに、「やっぱり脇田さん変な人だなぁ〜、おもしろいなぁ〜、なんで1日であんなことが起きるんだろうなぁ〜」と思っていた。そのときだった!!

1日であんなことが起きた?……1日であんなことを起こした?

「起きた」だったら笑い話で終わるが……「起こした」だったら意図があるかもしれない……

探ってみた。今まで出たワードを簡単に言うと、

大宮、漫才、ワイシャツ、茶色、ガーメントケース、コーヒー、ドライヤー……ドライヤー……

ドライヤー。

マジかよ。最初の「ワイシャツの首元が茶色事件」は100歩譲って仕方ないとして、そのときに使ったドライヤーが懐かしくて楽しくて、「もう一度使いたい」と思ったから?20年ぶりのドライヤー。だから、コーヒーはわざと?ドライヤーを使いたいから?

俺は電車を飛び降り、急いで大宮に戻った。ほかの芸人と楽屋で談笑してる脇田さんを見つけ、思い切って言った!

「20年振りのドライヤー、どうでしたか?」
「…………!!」

脇田さんは急いでカバンを背負い、顔を真っ赤にしながら楽屋を飛び出した。

やはり図星だったか。

「待て!!」
「来るな!!」

大宮の街を必死に走って逃げる脇田さん。夢中で追いかける俺。

必ず捕まえて、すべて吐かせてやる。

「ハァハァハァ」
「ハァハァハァ」

あと少し!あと少し!

「今だ!!なに?バタン……」

あと少しで捕まえれるところで、迎えに来ていた脇田さんの仲間の車に乗り込まれてしまった。

車の中から笑みを浮かべる脇田さん。車の外で膝をつき絶望する俺。

……車は行ってしまった……
くそっ!!

車に乗り、仲間と一通り盛り上がった後、外を観ながらボーッとしていた脇田さんが結露している窓に絵を描き始めた。

自分の似顔絵を。

仲間の運転手が脇田さんを家まで送り届け、その後自分の家の駐車場に車を停め、車内の掃除をしていると、ふと窓ガラスに描いてある似顔絵に気付いた。

その似顔絵は、髪の毛がフサフサで風にあおられなびいていたが、涙を流していた。

作者プロフィール

シシガシラ・浜中英昌

吉本興業 所属

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