2024.06.01

『脇田 in WONDERLAND』～第4話～スーパーヒーロー脇ボーイ（作：シシガシラ浜中英昌）

シシガシラ・浜中英昌さんによる連載『脇田 in WONDERLAND』。この話、どこからどこまでが現実で、どこからどこまでが虚構？

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事件のはじまり

イオンモール幕張新都心のすぐそばに幕張豊砂駅ができたことで、もう二度とあの事件は起きないだろう。

それは、幕張豊砂駅ができる遥か昔の事件……

その日は、幕張のイオンモールにあるよしもとの劇場の出番だった。当時幕張の劇場に行くには、海浜幕張駅からバスに乗るか、幕張本郷駅からバスに乗るか。帰りもどっちか。

脇田さんはその日の帰り、いつもなら海浜幕張までバスなのだが、カナメストーンがいたので幕張本郷までバスで行った……これが事件のはじまりだったことを彼らは知る由もなかった。

パンパンの財布

皆さんはバスによく乗るだろうか？乗る人ならわかると思うが、普段乗らない人には少々難しい問題がある。それは

先払い
後払い

である。

もちろんICカードで行けることは知っている。ただそのバスは、現金のほうが少し安いのである。
だから現金で払う。よって、先払いか後払いかであたふたするのである。

脇田さんの乗ったそのバスは後払いであった。
時間通りに来てくれるバス、乗り込む脇田さん達。
無事目的地の幕張本郷駅に着いた。降りる人が多く、バスの中ではみんな立ち上がって支払う順番待ちをしている。

そのときだった。

「あれ？あ、あれ～？」

甲高い声のハゲ男性がテンパっている。

脇田さん「すみません、入れるところ間違えちゃって、お釣りって……」
運転手さん「お釣り出ないですよ！」
脇田さん「え～？」
運転手さん「ちょっと待っててください」

状況を説明しよう。

バスで後払いをするとき、運転手さんの横に小さいベルトコンベアみたいなのがあって、その中に運賃の小銭を入れるのだが、小銭を入れる前に両替機で両替をしてから入れないといけない！
しかし脇田さんはそれを知らずに、220円の運賃なのに手に持っていた500円玉を両替せずにそのままベルトコンベアに入れてしまったのである。

端っこに追いやられる脇田さん。
後ろに並んでいた人達に抜かれていき、先に降りて待っているカナメストーン。一旦全員が出た後、改めて脇田さんが言う。

「お釣りって……」

すると運転手さんがなにやら小さい紙を取り出し、数え始めた。
困惑する脇田さん。
次の瞬間運転手さんが脇田さんに言った。

「お釣りの280円ですが、現金は渡せないのでこれで！」

なんと、、、

そこのバスでしか使えない

10円券28枚、、、、、、

面白すぎるだろ！！
おい、財布パンパンじゃねーかよ！！そりゃそーか、紙が28枚入ってるんだもんな！！

「いっつもこうだよ～」と言って、悲しい顔をしながら脇田さんがバスを降りようとしたそのときだった！

「扉を閉めろ！！おい、ハゲこっち来い！！運転手、俺の言うことを聞け！！バスジャックだ！！！！」

おいおい、マジかよ！！
犯人は脇田さんの背後から首を絞め、銃口を脇田さんの頭に向けている。

「おい、運転手。成田空港まで行け！！行け！！」
「は、はい」

バスが走り出す。
犯人はきっと、なにか悪いことをして海外に逃げるつもりなのだろう。

バスの中はものすごい緊張感と恐怖感と圧迫感で、窓ガラスが曇るぐらいの暑さであった。

ずっと首を締められていた脇田さんだったが、まさかの千載一遇のチャンスがいきなりやってくるのである。
なんとあまりの暑さで汗をかき、頭がビチョビチョになり、犯人の腕からツルンと頭が下に抜けたのである！
脇田さんはここぞとばかりに持っていた財布で犯人の顔を殴った。明らかに犯人に効いている。
なぜなら財布はパンパンだからだ！
ありがとう10円券28枚！！

脇田さんはもう1発パンパンの財布で殴った。

もう犯人はフラフラ。

犯人も必死に銃口を脇田さんに向けて撃とうとしたが、なんと銃口から脇田さんの汗が弾に伝わり、濡れて弾がしけて出なかったのである。

奇跡だ！！

ここで脇田さんはさっきの28枚のバス券を取り出し、紙を丸めて犯人の口に突っ込んだ。犯人は口の水分を紙に取られ呼吸が苦しくなり気絶した。

運転手さんは急いでバスを止め、脇田さんと二人で犯人を縛りつけて警察へ向かった。

運転手さんが脇田さんに「ありがとうございます！」と言うと脇田さんは言った。

「すいません、バス券の使い方間違えちゃいましたね」

スーパーヒーロー脇ボーイ爆誕。

彼は何事もなかったかのように、幕張本郷駅から帰って行ったとさ。