2024.08.23

騒がしい電脳世界を見て考える、なにかを盲信することの可否。【ヤーレンズ出井隼之介「可否伝」11杯目】

ヤーレンズ・出井隼之介さんが物事の良し悪しを綴る連載『可否伝』。出井さんセレクトの「今月のコーヒー」情報とともに、心が揺れた“良し悪し”を語ります。

8月の可否

南原さんの嫌いな食べ物はカニ。どうも、ヤーレンズ出井です。

しばらくの間、僕の位置から見えるネットの海は凪のように静かだったのだが、ほんの数日で不祥事関連の荒波が来て騒がしくなった。

しかしまあ、この‟ネットが騒がしい”という事象も考えもので、何かとんでもない…まるで世の中全体が大騒ぎして、家庭の食卓から近所の喫茶店、町の将棋クラブや寄り合いまでその話題で持ちきりかのように錯覚してしまうが、現実世界ではそうでもなかったりする。

電脳世界で起きている事は所詮、電脳世界で起きている事だ。実際に起きたニュースや情報も流れてくるから境界が曖昧になっているが、基本的には分けて考えた方が良い。ネットに書いてある事ですら、その人が実際に言ったわけではない。

SNS社会に生きる我々は、大なり小なりフィルターバブルの中にいる。我々の目に飛び込んでくる情報は、膨大なネットの海からAIが「こいつこれ興味ありそうだな」と抽出したものだ。

現に今私のタイムラインは、BoPに関する情報に溢れている。BoPとは「ベスト・オブ・パナマ」の略で、パナマで行われるゲイシャ種というコーヒー豆の品種のコンテストの事である。先日BoP豆のオークションがあったので、その話題がひっきりなしに流れてくる。

それと、水着の美女。先日TLに流れてきたグラビアアイドルの水着の画像を‟誤って”タップしてしまったため、それからというものTLに水着の美女が次々と現れる様になってしまい、ほとほと迷惑している。やめてくれよ！まったく！！

そのように（どのように？）世の中のあらゆる情報が目に入っているかに見えて、所詮自分に都合の良い、興味のある情報に囲まれているのがSNSだ。現に世の中はBoPや水着美女の話で持ちきりな訳ではないじゃないか。

そのことを肝に銘じながらSNSと付き合おう。こんな小せえ四角の為に思いつめるのも考えもの。知らねえって。

SNSがまるで悪いかの様な書きぶりになってしまったが、こいつを使っていると今まで知ることのなかった意見をよく目にするので良いところもある。

自ら『有益な情報』と銘打ってある情報に本当に有益なものは少ないが、例えば自分はゴリゴリのホモソーシャルであるお笑い界に属しているので、そうではない意見や情報が入ってくるのは貴重だったりするし、結婚する前から世の女性の旦那への愚痴とかをチェックしてみたりもしていた。豊かな自然、美味しいレシピ、意外な生活の知恵、本当に有益な情報も沢山ある。

しかし存在を確認して驚いたのは、盲信的に何かを信じ込んでしまう人の存在だ。推し、支持者、陰謀論、果てはどう見ても怪しげなスピリチュアル…なんで人はそうも盲信的になるのか。ずっと疑問だ。

ずっと何のオタクにもならずに生きてきた。強いて言うならば曲名から取ってコンビ名にするくらいサザンオールスターズが好きだが、もし桑田佳祐さんが悪い事をしたら幻滅すると思う。「いや！桑田さんは悪くない！！」とか言い張ったりはしない。

なんで「好き」だからって「全肯定」しようとするのか？さっぱり分からない。こういう所は良いんだけど、こういう所はダメだなぁってちゃんと言えないのだろうか。

例えばある政治家を支持していたとしても「こういう点は良いから支持する。しかし、この点は問題だと思う」なんていうバランスの取れた意見は全然見えてこない。

僕は『信者』という言葉をネガティブな意味合いで使いたくないが、そう揶揄されても仕方ないよと思う。ダメな時はダメって言うのが愛。

だからもし僕が不祥事を起こしたり、良くない発言なんかがあれば叱責してほしい。

生きていくと、大概の事は白黒はっきりしないグレーな所に真実や落とし所があるように感じる。もし「100%これが正しい」と思う事があれば、それは恐らく正しくないのだ。

～8月の可否～

可→ SNSと適正な距離で付き合う事

否→ 何でも妄信的になってしまう人