『夜中に送ってごめん』は、放送作家・長崎 周成さんによる連載。

アイディアを思いついたら夜中でも人に送りつけてしまう長崎さんの衝動を反映し、“仕事では言っちゃいけないこと”や“企画案”など、いろんな側面から「放送作家の日常」を綴ります。
夜中に思ったこと① 「放送作家になりたい現象」の減少
こんばんは、放送作家の長崎周成です。
今夜もわざわざ夜中に考えなくて良いことを考えてしまいます。
特に最近は、自分の職業の未来ってどうなるのかと勝手に心配しています。というのも、「放送作家になりたいです」の人口減っている気がするんです。(僕の周りにいないだけかもだけど)
自分が憧れて、なった職業。後継者がいない町工場のように、なり手がいない伝統職になっちゃったら少し悲しいです。
元々放送作家は、会社員/公務員や街で見かけるお店・職業とは違い、本当にたまたま存在を耳にしないと知り得ない職業だと思う。
少なくとも20年前は今より、もっと知る機会がなかった。僕も、たまたま中学1年生の時に100円ショップでラジオを見つけて買って、たまたま夜中一時につけてみたらくりぃむしちゅーのオールナイトニッポンがやっていて、たまたま芸人の隣にいる存在として放送作家を知った。これは31番道路をチャリ漕いでたら、偶然スイクンに出会ったくらいの確率だと思う。(ポケモン金銀はガチで名作)
それくらい、職業選択をする学生時代までに知るには、偶然が重なりやっと辿りつける職業だったはず。
今はというと、お笑いブームによってYouTubeで芸人さんの裏方として「作家」の存在を知っている人は多いかもしれない。だけど“なりたい”という人はどれくらい、いるのだろうか。
半年に一回くらいYCA(よしもとクリエイティブアカデミー)という、吉本の裏方の学校の特別講師をしているのですが「一番何をしたいですか?」と聞くと「芸人さんのYouTubeをやりたい」という人が半数を超えていたことがありました。
もっというと、肩書き・放送作家になりたいというか、とにかく芸人さんのYouTubeの裏方になりたい、と言っていました。
いや「放送作家になりたい!」って言ってくれよ。やってみたら地道で大変な仕事だけど、良い肩書きだと思ってます、こちらは。
色々な考え方をする人がいると思うけど、
僕は「放送作家を名乗り、活躍する人の数が増えて欲しい派」です。
つべこべ言うの禁止。前に進みましょう。
と言いつつ作家の数が増える方法は一向に思いつかないのです。
なので、まずは減少した(はず)の理由を「業界全体の理由」と「僕個人的な理由」に切り分けて考えていきたいと思います。
一つ目の「業界全体の理由」は「テレビ業界の不況流布」だと思います。なにかと話題になるテレビ業界の問題。(別にどの業界もあると思うけど)
“テレビ離れ→芸能人の不祥事→広告主が剥がれて制作費の削減”みたいな情報がここ数年、世に流布されていて(事実かどうかはさておき)、不況イメージが先行し過ぎている。あと業界内の人も見ている側も、こういう噂話が好きすぎる。
事実、テレビの制作費は削減されており、ひと番組に入る作家の枠は僕が作家になりたての頃よりも減っているとは思います。枠が減ったので、地上波の番組を担当する機会自体もしかしたら狭き門になっているのかも。
だけど、世の中のイメージほど停滞した空気は無いし、やっぱり面白いテレビはあるし。調べればある程度の情報が出てくる現代だからこそ、悟るスピード早過ぎない?と思います。何より、結局テレビの仕事が一番地肩がつきます。(特に若手のうちは)面白いを追求するプロしかいない環境なので。“テレビしか仕事をしない”はこれから厳しいかもしれないけど、“テレビの仕事もする”はバラエティや面白いものを作りたい人間を目指す上で必修なのではと思います。
二つ目の「個人的な理由」は「表舞台の敬遠」です。
裏方なんだから、表舞台に立たなくて当然って話なのかもしれませんが、でも確実に作家を志すきっかけになるのは表舞台に立っている人がいるからなんですよね。大いなる矛盾ですが。
そういう意味で放送作家の知名度を押し上げた秋元康さんや、鈴木おさむさんの功績はとてつもないと思います。
僕はというと、こうやってコラムを書いたり取材を受けるのはまだ大丈夫なのですが、自身がメディアに露出する恥ずかしさと度胸の無さったらないです。
「お笑い第七世代」ブームだった3年くらい前。ある地上波番組で、第七世代と仕事をしている作家=「第七世代作家」として出演して欲しいというオファーを頂いたことがあります。第七世代作家の新しい働き方、放送作家ってどんな仕事?とかを大物MCの方とトークする、という企画だったと思います。
出演すれば華々しい注目をされたのかもしれませんが、なぜか全身から拒否反応が出てしまいお断りしてしまいました。
今までいくつか番組に作家という立場で呼んで頂き出演したこともあるのですが、第七世代作家というラベリングされた状態で出演するのが耐えられなかったです。(普段さんざんタレントさんのキャッチコピーを考えたりしているくせに)
どうかこの豆粒のような心臓を許してほしいです。
以前、ダウ90000の蓮見くんに「あたらしいテレビ」というNHKの番組に出演してもらった際に「スターって恥ずかしいですよね」と言っていた。
収録しながら首がもげるほど頷いてしまった。そうそう、だからスターは凄いんだよな〜ってなった。
裏方のスターになる覚悟がある人がいれば変わるのかもしれない。
「“覚悟”とは!!暗闇の荒野に!!進むべき道を切り開くことだッ」って
絶対絶命の状況でジョルノジョバーナも言ってたし(ジョジョの奇妙な冒険 第5部9巻)
蓮見くんもジョルノジョバーナも覚悟がある。
夜中に思ったこと② 顔を隠せばアリ?
1が長くなったし、さらにぐだぐだと書くのですが、
最近高い志やビジョンを問われる質問がめっきり苦手になってきました。
「今何に熱くなってますか?」とか「次何が当たると思う?」とか。
本当に思ってるこというとエグ味が出そうだし、
カッコ良いこと言わなきゃいけないのは、それはそれで恥ずかしいし。
最終的に「もう!頑張って仕事してるだけだから、あんまなんも考えてないって!」と匙を投げ出してポメラニアンの赤ちゃんの動画を見たくなります。
そんな高頻度で聞かれるわけでも無いし、
表舞台に立つ覚悟はどこいったんだって感じですが、
現状本音でいうとそんな感じで。
ただ、聞く側の気持ちはめちゃくちゃわかります。
僕は前述した通り、「あたらしいテレビ」という「新春テレビ放談」の血を継ぐお正月番組を担当していました。
番組は“コンテンツのいまとこれからを語り合う”がコンセプトになっており、高い志やビジョンを出演者の皆様に問いまくっていました。
第一線で活躍されている方々は、どのお話もめちゃくちゃ面白く、作りながら考え方を整理できる番組でした。
だけど立場を気にせず作り手として思う生々しい本音を聞けるなら、
それはそれで面白いのかもと思ったりします。
覆面をして、ボイスチェンジャーで声も変えちゃって。 覆面の中の人は視聴者は一切明かされないけど、喋っているのは本当に著名人やクリエイター。
とにかく香ばしい本音や思いが飛び交う。
そんな「覆面テレビ放談」があっても良いのでは。
自分みたいな、表舞台に明確に立つことはできないけど
“放送作家”として伝えたいことがある人も出られるかも。
今月の企画案
覆面テレビ放談
PROFILE

長崎 周成
1991年生まれの放送作家。芸人、テレビ制作会社勤務を経て現職。地上波テレビ番組の企画構成を担当しつつ、2018年に「フワちゃんTV」/「フワちゃんFLIX」をフワちゃんとともに開設。2019年に20代放送作家を中心とした企画会社「チャビー」を設立。お笑い・バラエティ企画を中心に、CMや映像コンテンツを横断して企画。
・Instagram:shuuuuuusei0630
・X:shuuuuuusei
★過去の担当番組はコチラから
文:長崎周成
編集:堀越愛
サムネイルデザイン:TSURUMI32